130話 いい物件には穴がある
リリーナの案内で、拠点とする家を見に行くことに。
よくある一軒家。
ノドカの希望とは反してしまうものの、集合住宅。
それと、貴族が住むような大豪邸。
色々な家を見て回る。
「ふむ……家探しというのは、なかなか難しいな」
それなりの数を見たのだけど、なかなか希望に合致するところがない。
多少は妥協をするべきなのかもしれないが……
安い買い物ではないので、簡単に決めることは難しい。
これだ! という物件に巡り合うことができず、ひとまず昼休憩に。
四人で飲食店に入る。
「ふぅ……少し疲れちゃいましたね」
「すまない。色々と付き合わせてしまい……」
「いえいえ、気にしないでください。ギルドの仕事でもありますし、私個人として、ガイさん達が拠点を持ちたいのなら、いっぱい協力したいと思いますから」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かる」
「えへへ。その……私としては、ギルドというだけではなくて、個人的にもガイさんと……」
「ねえねえ、師匠! ここのお肉、すごく美味しそうよ!」
「みんなでシェアして食べてみたいのでありますよ!」
アルティナとノドカが、ものすごい勢いで言う。
そんなに肉が好きだっただろうか……?
「……まったく、危ないったらありゃしない」
「……抜け駆けはさせないのでありますよ」
「……むぅ。やはり、お二人は手強いですね」
なんの話だろうか……?
――――――――――
食事を終えた後、再び家を見て回るのだけど、やはり難しい。
希望通りの物件が見つからず、そのまま全て見終わってしまう。
「申しわけありません、ご希望に沿える物件をご紹介することができず……」
「いや、謝ることじゃない。むしろ、色々と手間をかけさせてしまい、こちらが申しわけない」
「ふふ、ガイさんは優しいんですね。そういうところが……」
「あれ、なにかしら?」
ふと、アルティナが不思議そうに言う。
なんだろう? と、彼女の視線を追いかけると、ボロボロの家が見えた。
いや。
家……なのだろうか?
居住空間とは別に、なにかしら広い部屋が作られている。
それは、どこか見覚えがあるような……
「ああ、道場か」
道場を兼ね備えた家らしい。
かつて、ここで人々が剣や槍などを学んでいたのだろうか?
ただ今は人気はなく、当然、建物もボロボロ。
今すぐに壊れる、というほどではないものの、相当なダメージを受けていることがわかる。
もしもここを使うとしたら、けっこう苦労することになるだろう。
「ふむ?」
ふと出てきた考え。
それは、なかなか良いアイディアなのではないだろうか?
「リリーナ、そこの物件はギルドの管轄なのか?」
「え? あ、あそこですか? えっと……あ、はい。一応、そうですね」
「なるほど」
「ただ、見ての通りボロボロなので……所有していても仕方ないので、近々、商業ギルドに売却する予定ですね。たぶん、売却後は建物などは解体されて、新しくなにかが建てられるかと」
「あそこを買いたいのだが、いくらだろうか?」
「「「えっ!?」」」
アルティナ、ノドカ、リリーナの三人が同時に驚きの声をあげた。
気持ちはわかる。
ボロボロの家を買いたいなんて言い出したら、えぇ……という気持ちになるだろう。
「見た目はボロボロだけど、けっこういい家だ。ほら、芯はしっかりとしてる」
コンコンと柱を叩いてみると、しっかりとした反動が返ってきた。
シロアリなどに中がやられていない証拠だ。
それに、雨風にさらされていたはずなのに、一部しか腐っていない。
きちんと防腐処理がされていたのだろう。
長年、人の手が入っていないためボロボロではあるが……
手を加えれば、きちんと人が住めるところになるだろう。
「ねぇ、師匠……本気? あたし、幽霊屋敷みたいなところに住むのは、ちょっと……」
「色々と改装しないといけないけどな。でも、それさえクリアーすれば、いい家になると思うぞ? それに、道場もついている。これなら、雨の日も雪の日も中で稽古し放題だ」
「それは……確かに、ちょっと魅力的かも」
「ガイ師匠は、道場を開くつもりでありますか?」
「いや、まさか。まだまだ未熟者の俺が、道場なんて開けるわけがない」
「師匠が未熟者だとしたら……」
「拙者達はいったい……」
なぜか二人が落ち込んでいた。
「まあ、改装のために色々としないといけないから、無理強いするつもりはないけど……どうだろう?」
「「……」」
アルティナとノドカは顔を見合わせた。
そして、苦笑。
「ま、いいんじゃない? 師匠が気に入っているなら、あたしは文句を言うつもりはないわ」
「それに、母屋もなかなか趣がありそうで、拙者も好きかもしれませぬ」
「そっか、ありがとう」
二人は賛成してくれた。
ならば後は……
「……と、いうわけで、この家を購入したい」
「えっと……はい、わかりました。みなさんがそう言うのならば、ギルドとしては止めることはいたしません。まずは、簡易契約書にサインをお願いします」
「了解」
差し出された書類にサインをした。
「はい、確認しました。これで、こちらの物件の購入優先権はガイさんにあります。後日、正式な契約書を交わさせていただきますね」
「ああ、よろしく」
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