123話 守られるだけではなくて
魔族の動きが変わる。
今までは、直線的な動きが多い。
それ故に、先を読むことは簡単で対処が可能だった。
しかし、今は違う。
直線的な動きが減り、変則的なものに切り替わる。
フェイントも織り交ぜてくるようになって、先が読みづらくなる。
「まさか、学習しているのか……!?」
魔族の攻撃は、だんだんと苛烈に。
そして、複雑なものになっていく。
まずい。
魔族は驚異的な身体能力を持つため、相手にすることは難しい。
それでも、なんとか戦闘を継続できていたのは、行動が単純だったからだ。
しかし、そのアドバンテージがなくなれば……
「ぐぅ……!?」
さらに魔族の速度が増した。
姿を見失わないようにするので精一杯だ。
そこから繰り出される攻撃は、嵐のよう。
ありとあらゆる角度から。
風を超えるほどの速度で。
岩を粉々に砕くかのように。
苛烈な攻撃が放たれる。
どうにかこうにか捌いているものの、ずっとは無理だ。
事実、剣を握る手が痺れ始めていた。
魔族の馬鹿力にさらされてきた結果だ。
「これ以上……好き勝手させるものか!」
気合を入れ直して、剣を強く握る。
ここで負けるわけにはいかない。
そんなことになれば、魔族は次の獲物を求めて街をさまよう。
大惨事だ。
そんな事態を避けるために、俺は全力で……
「オォォォオッ!!!」
「しま……!?」
気負いすぎていたせいかもしれない。
魔族の咆哮。
同時に突撃。
その動きは風を超えて、音に迫るほど。
視えていたのだけど、予測していなかったため、体が反応してくれない。
魔族の拳が無防備が俺の顔に……
「それ以上は……」
「させないでありますよ!」
ギィンッ!
ガラスをまとめて数十枚叩き割ったかのような、甲高い音。
とある二人の剣が魔族の拳を防いで、同時に反撃の一撃を繰り出した。
痛烈なカウンター。
魔族は吹き飛び、地面を転がる。
「大丈夫、師匠!?」
「やはり、拙者達も戦うのでありますよ!」
「アルティナ、ノドカ!?」
どうして、二人がこんなところに……!?
「なん……」
「なんで戻ってきたんだ、とかいうつまらないお説教を聞くつもりはないわよ」
「なっ……」
「ってか、一度、師匠の言う通りにしたあたし達もバカだけど……」
「とはいえ、ガイ師匠も大概なのでありますよ!」
「こんな化け物を相手に、たった一人で立ち向かおうとするなんて」
「頼りないかもしれないかもですが、それでも、自分達を頼ってほしいのであります」
「しかし、相手は魔族で……」
守ることが難しい。
下手をしたら死んでしまうかもしれない。
だからこそ、アルティナとノドカだけは、なんとしても逃がそうとして……
「師匠」
「ガイ師匠」
二人は、まっすぐにこちらを見る。
「あたし達は、守られているだけの子供じゃないわ。師匠の弟子なのよ」
「こういう時は、戦う覚悟をしっかりと決めているのでありますよ。それに……」
「あたし達だって、師匠のことを守りたいわ」
「ガイ師匠が拙者達のことを想ってくれているように、拙者達も、ガイ師匠のことを想い、守りたいと思うのです」
「……っ……」
頭を殴られたかのようなショックを受けた。
そう……か。
そう、だよな。
俺の剣は、誰かを守るためにある。
そのために力を振るうことに迷いはない。
この身が傷つくことも気にしない。
ただ……
それは、アルティナとノドカも同じだ。
二人は俺の弟子ではあるが、それ以前に、一人の剣士だ。
ならば、その想いは同じ。
剣に込めた心も同じ。
アルティナとノドカは、とても大事な弟子だけど……
でも、考えすぎていたせいで、さらに大事なことを見落としていたみたいだ。
「……アルティナ、ノドカ」
俺は、アイスコフィンを握り直した。
「一緒に戦おう」
「ええ!」
「はい!」
 




