121話 守るために
「し、師匠……」
「拙者達は……」
「行け!」
「「……っ……」」
強く言う。
二人は迷うような吐息をこぼして。
それから、この場を離れていく。
それでいい。
三人で戦う方が確実だけど、しかし、負けた場合は魔族の出現を知らせることができない。
これだけの圧倒的な気配だ。
誰かが異変に気づいているだろう。
でも、魔族とはさすがに思わないはず。
その辺りの情報をなによりも早く正確にしておかないと、手遅れになりかねない。
「……」
魔族は動かない。
この場から離脱するアルティナとノドカに気づいているはずだけど、追いかけることも狙い撃つこともしない。
なにを考えているのだろう?
もしかしたら、復活は不完全なのか?
思考が失われていて、ただ、そこにあるだけなのか。
……なんて、それは楽観的な期待でしかない。
「っ!?」
刹那。
わずかな意識の間を縫うようにして、魔族が動いた。
その動きを見切ることはできず。
一瞬で距離を詰められてしまう。
「……」
やはり無言のまま、魔族は腕を振るう。
それは刃のごとく。
それは魔物の牙のごとく。
俺は、反射的にアイスコフィンで魔族の攻撃を受け止めた。
「ぐっ……こ、これは!?」
重い。
まるで、巨人が使う槌を受け止めたかのようだ。
両足に力を入れて。
ありったけの力で剣を支えなければ、そのまま吹き飛ばされてしまいそうだ。
「おおおおおぉっ!!!」
気合を迸らせて、魔族の腕を弾いた。
カウンターの一撃を放つ。
横から上に。
円を描くようにしつつ剣を走らせる。
狙うは一点……首だ。
魔族の生態は詳しくないものの、首を落とされて生きていられる生物はいないはず。
すぐに勝負を決める。
強い意思と共に剣を振るい、全力の刃を魔族の首に叩き込んだ。
その結果は……
ギィンッ!
「なっ……!?」
鈍い感触。
それと、鋼と鋼をぶつけたかのような甲高い音。
確かに直撃したはずなのに、魔族は傷ついていない。
そうなることが当たり前のように、刃が通らない。
「オォオオオオオオッ!!!」
初めて魔族が声をあげた。
獣のように吠えると、今度はこちらの番というかのように反撃に移る。
「がっ……!?」
魔物の拳が胸を打つ。
大岩がぶつかってきたかのような衝撃。
着弾と同時に後ろに跳んで、衝撃を逃して、ダメージは最低限に押さえたものの……
それでも大きく吹き飛ばされてしまう。
近くの壁に背中からぶつかり、肺の空気が吐き出されてしまう。
壁も蜘蛛の巣状にヒビが入り、ガラガラと崩れていく。
「なんて力だ……しかも速い」
今の攻撃……視えなかった。
気がつけば衝撃が走っていて……
なにが起きたか、まるで理解できていない。
なんていう身体能力だ。
それと、防御力も凄まじい。
様子見の一撃ではあったものの、それでも、アイスコフィンの一撃を受けて無傷とは、さすがに予想外すぎる。
「これは……少しまずいかもしれないな」




