12話 トラブルは突然に
「あっ、ガイさん!」
街に戻り、冒険者ギルドへ。
リリーナが笑顔で迎えてくれた。
「よかった、無事に戻ってきてくれて。依頼の方はどうですか?」
「これ、採取した薬草」
「はい、確認させていただきますね。少しお待ちください」
リリーナは薬草を奥に運び、自分はカウンターに戻る。
たぶん、専門の鑑定人がいるのだろう。
「5分くらいで終わるので、少しお待ちくださいね」
「了解」
「ところで……依頼の方はどうでしたか? 怪我とかはしていないみたいですけど、なにも問題がなかったのか、少し気になってしまいまして」
「トラブルはあったが……」
ケルベロスと戦うことになりました。
剣聖が弟子になりました。
……どう説明すればいい?
情報量が多すぎる。
というか、こんな話、信じてもらえるわけがない。
「師匠ー!」
困っていると、トラブルの一つが笑顔で手を振りつつやってきた。
メンテナンスに出していた剣を取りに、一時、別行動を取っていたのだ。
「おかえり。それがアルティナの相棒?」
「ええ。聖剣って呼ばれている、伝説級の剣よ」
「へえ、すごいな。そんなものを扱えるなんて、さすがアルティナだ」
「ありがと。でも、今のあたしには猫に小判というか、己の未熟を痛いくらい思い知ったばかりだから……だから、師匠に色々なことを教わって、この子にふさわしい技術を身に着けてみせるわ」
「うん、いい意気だ。まあ、俺に教えられることがあるか、それはわからないけど」
「謙遜しないでよ」
「本気なんだけどな。そうだ、美味しい酒のつまみの作り方なら教えられるぞ?」
「そんなもんいらないわ」
「じゃあ、美味しいエールの注ぎ方」
「なんでさっきから、剣に欠片も関係ない知識ばかりなのよ。っていうか、師匠、おっさんっぽいわね」
「そりゃまあ、おっさんだからなあ」
なんて話をしていたら、
「えっと……」
リリーナがひたすらに困惑していた。
それもそうだ。
剣聖に対して初心者が気安く接していたら、誰だって戸惑う。
「ガイさん、アルティナさんとお知り合いだったんですか……?」
「知り合いというか、さっき知り合ったというか……」
「師匠は、あたしの師匠なのよ」
「え」
「あたし、師匠に剣の弟子入りをしたの」
「えええええぇ!? 剣聖のアルティナさんが、冒険者になったばかりのガイさんに弟子入りした!?」
うん。
これだ、これ。
リリーナの反応が当たり前だよな。
でも、アルティナは特に不思議に思っていないらしく、きょとんとしていた。
「そんなに驚くことかしら?」
「あ、当たり前じゃないですか! 驚きますよ!? ど、どうしてそんなことに……?」
「師匠の剣の腕はすさまじい。だから、あたしが弟子になる。当然の帰結ね」
アルティナはドヤ顔で語る。
俺の剣の腕は、大したことないんだけどな。
ただ長く続けているだけだ。
「むむっ。確かに、ガイさんは将来有望な冒険者……その魅力に惹かれ、弟子入りしたとしても不思議ではありませんね」
「え、そこで納得してしまうのか?」
「もちろんです!」
笑顔を見せるリリーナに、アルティナも笑顔になる。
「あんた、わかっているじゃない。あたしだけが師匠の良いところを知っていればいい、って思っていたけど、やっぱり、仲間がいると嬉しいわね」
「ありがとうございます。私も、ガイさんについて語れる方がいて、嬉しいです」
「あたし達、けっこう良い友達になれるかも?」
「ですね!」
妙なところで意気投合する二人だった。
というか、あまり大きな声で会話しないでほしい。
注目の的だ。
あちらこちらから視線を感じる。
その大半は、俺に対する懐疑の目。
剣聖を弟子にした?
剣聖より強い?
ウソだろう?
そんな感じのもので、居心地が悪い。
俺自身、なんでこんなことになっているのかよくわからないから、反論できないんだよな。
「あ、そうそう。言い忘れたけど、さっき、ケルベロスと遭遇したわ」
「えぇ!? け、ケルベロスが出現したんですか!?」
「大丈夫、師匠が倒したから」
「ガイさんがケルベロスを!?」
「あの素敵な剣技、見せてあげたかったわ~♪ なにせ、ケルベロスを一刀両断だもの」
「一刀両断!? 鋼鉄よりも硬いといわれているのに!?」
「師匠なら、鋼鉄どころか大地も一撃よ!」
「人間ですか、それ!?」
「うーん、人間じゃないかも」
「なるほど」
納得しないでくれ。
「そんなわけで、はい、素材」
「……た、確かに、本物ですね。鑑定するまでもありません」
アルティナは、収納ボックスからケルベロスの素材を取り出して、カウンターの上に並べた。
それを見て、リリーナは激しく驚いている。
ちなみに、収納ボックスというのは、アイテムを異空間に収納できるという魔導具だ。
とても高いため、一流の冒険者以外は持っていないことが多い。
「これを……ガイさんが?」
「そ♪」
「なんというか……これは、想像以上ですね。ガイさんなら、とても素敵な冒険者になれると思っていましたが、まさか、ここまでなんて」
「えっと……俺が倒せたのは、アルティナがあらかじめ体力を削ってくれておいたおかげなんだ。あと、運が良かったからさ」
「「ケルベロスは運で倒せる相手じゃない」」
この二人、仲が良い?
「……おい、聞いたか? 剣聖が弟子入りだってよ」
「……あの冴えないおっさんだろ? おっさんに弟子入りして、なんのメリットがあるっていうんだ?」
「……でも、ケルベロスを倒したらしいぜ? 普通に考えてウソだろうけど、でも、剣聖も証言しているからな」
「……剣聖の弱味を握り、脅しているとか? だとしたら、全部、辻褄が合うぞ」
勝手に話があらぬ方向に膨らんでいき、懐疑的な視線が鋭いものに変わる。
まいったな。
ウソは吐いていないし、もちろん、アルティナを脅しているなんてことはない。
ただ、剣聖が弟子入りした、ケルベロスを倒した、なんて話を信じることも難しいわけで……
というか、俺もなにかの間違いだろうと思っているわけで……
どう説明したらいい?
「ちょっと、あんた達!」
視線に気づいた様子で、アルティナが周囲を睨み返した。
もしかして、俺についてのフォローをしてくれるのだろうか?
「さっきから、ぶしつけな視線と失礼な憶測ばかりで、さすがに不愉快なんだけど」
「いや、だって……」
「なあ……?」
「そんなに疑わしいのなら、自分の目と体で確かめてみればいいわ! あなた達なんて、誰一人、師匠に敵わないんだから」
「なんだと!?」
「文句のある人は、師匠と戦ってみなさい! というわけで……さあ、師匠、出番よ! あのわからずやの頑固者、偏見まみれの愚か者達をこらしめてやってあげて!」
いやいやいや、待て。
なぜ、そんな話になる?
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