111話 地に膝をついて
「おらおらっ、さっきまでの威勢はどこにいったんだよ!?」
「くっ、ガキが……!」
ゼクスはさらにギアを引き上げて、組織のボスに猛攻をしかけていく。
上下左右。
ありとあらゆる角度から剣を叩きつけていく。
組織のボスはかろうじて防いでいるものの、その防御が突破されるのも時間の問題だろう。
……と、ノドカが言う。
「どう見ても、勝負はついているように思えるのでありますが……」
「ノドカは気づいていないのか?」
「なにをでしょう?」
「相手の方が手数が圧倒的に少ない。防御に専念して、なにもできていないように見える。ただ……言い換えるなら、ゼクスは、その防御を未だに突破できていない、ということだ」
「あっ」
亀のように守り。
そして、タイミングを見て、一気に反撃に移るつもりなのだろう。
見た目に反して、組織のボスはとても堅実な戦いをするようだ。
「……あと、三十手くらいで反撃に出るだろうな」
「え? 相手の行動は今の説明で理解できましたが、どうして、三十手で反撃に出ると……?」
「反撃のために、少しずつ少しずつ構えを変えている。ほら、最初の頃と比べると、重心が別のところに移動しているだろう?」
「……まったくわからぬのでありますが」
「よく見てほしい。見ればわかるはずだ」
「いやいやいや、そのようなことは無理でありますよ。戦闘で激しく動いている相手の構えを見切るなんて、第三者だとしてもとても難関で……たとえるなら空飛ぶ鳥の翼のはばたきを一つ一つ確認するようなものでありますよ」
「そういう訓練はしたことあるな」
「やったことあるのですか!?」
剣士は動体視力も大切だ。
そこをしっかりと鍛えるために、毎日、野生動物や野鳥などを観察させられたことがある。
「時に、1日中、ずっと外を見ていたことがあるな」
「おぉ……す、すさまじいでありますな! そのようなことを成し遂げてしまうなんて、さすが、ガイ師匠でありますよ!」
「っと、話が逸れた。そろそろまずいな」
ゼクスと組織のボスの戦いに視線を戻すと、二人に異変が起きていた。
最初は勢いのよかったゼクスだけど、今は肩で息をしていた。
疲労が蓄積されている様子で、体幹がブレてきている。
対する組織のボスは平然としたものだ。
笑みさえ浮かべている。
「おいおい、どうしたんだ? 疲れてそうだなぁ」
「はっ……これくらい、なんでもねえよ。今から、お前を叩きのめしてやるさ」
「勢いがいいねぇ、ますます部下に欲しい。だが……」
組織のボスが大きく前に踏み出した。
俺も、前に出た。
「やっぱり、てめぇはここで死ね!!」
「……ぐっ……」
猛然とした勢いでゼクスに大剣が迫る。
しかし、彼はそれに反応できていない。
蓄積された疲労。
そして、完全に動きを見切られていて……
タイミングも完璧。
避けることはできないだろう。
だから……
ギィンッ!
俺が代わりに前に出て、大剣を受け止めた。
「あ、あれぇ!? い、今まで隣にガイ師匠がいたはずなのに……い、いつの間に?」
ノドカが驚いて、
「あんた……」
ゼクスも驚いていた。
「てめぇ……なんだ? 邪魔する気か?」
「当たり前だろう」
大剣を払い、組織のボスとの距離を取る。
彼に刃を向けつつ移動して、ゼクスを背中にかばう。
「大丈夫か?」
「余計なことしやがって……俺様は、これくらいで……」
「いいから休んでいろ。これ以上は無理だ」
「……くっ……」
組織のボスに敵わない。
自覚はしていたらしく、ゼクスはとても悔しそうな顔になった。
でも、それでいい。
自分の力量を正確に把握することは必要だ。
自分を知ることで、さらに強くなることができるのだから。
それができない者は、一定以上に上がることはできない……おじいちゃんは、常々、そう語っていた。
慢心するな。
そして、己を冷静に分析せよ……と。
「次は、俺が相手をしよう」
次の更新は1月6日となります。
詳細は活動報告にて。




