11話 アルティナ視点
私の名前は、アルティナ・ハウレーン。
十八歳。
Aランクの冒険者であり、そして、剣聖だ。
自慢話になるけど、私は天才だと思う。
駆け出しの頃も含めて、依頼達成率は100パーセント。
一度も依頼に失敗したことがない。
ある時は、多額の賞金をかけられている盗賊団を一人で壊滅させた。
ある時は、100人以上の襲撃者を一人で退けて、見事に護衛対象を守りきった。
ある時は、深淵に続くと言われているダンジョンに潜り、伝説級のアイテムを持ち帰った。
数々の記録を打ち立ててきた。
冒険者の偉業を塗り替えてきた。
しかも、それらを十八歳という若さで成し遂げた。
天才って自負してもいいでしょう?
……なんて。
とんでもない自惚れ。
というか、バカ。
うん。
あたしはバカだった。
ちょっと強いだけで。
ちょっと運が良いだけで。
剣聖なんて称号をもらい、調子に乗っていた。
あたしが最強と自惚れて、どんな依頼も達成できて、乗り越えられない困難はないと思っていた。
だから、ケルベロスを相手にした。
災厄と呼ばれている魔物だとしても、あたしなら倒すことができる……って。
結果、惨敗だ。
まともにダメージを与えることができず、思い切り負けた。
師匠がいなかったら確実に死んでいた。
あの日は、相棒の聖剣をメンテに出していたから、十全の力を発揮できなかった。
それでも、ケルベロスなんて問題ないと思っていて……いや。
そもそも、この考え自体が間違っているか。
剣を言い訳にする時点で驕りが見えている。
痛いくらいに調子に乗っているのがよくわかる。
そんなあたしの目を覚まさせてくれたのは、師匠だ。
ガイ・グルヴェイグ。
四十歳。
冒険者になったばかりの初心者。
……なんて本人は言っていたけど、あれ、絶対にウソだと思う。
初心者がケルベロスを相手に戦うことなんてできない。
ううん。
あれは、戦いにすらなっていない。
大人が子供を相手に遊ぶようなもの。
災厄と呼ばれている魔物を、師匠は、これ以上ないほどに圧倒していた。
まるで相手になっていない。
一方的な戦いだ。
そんな真似、誰ができるというのか?
あのケルベロスを圧倒するなんて、どうすればいいのか?
街を一つ消し飛ばすような災厄なのに。
できるわけがない。
普通は、成すすべなく喰らわれてしまうだけ。
でも、師匠はケルベロスを圧倒して。
そして、傷一つなく。
疲労の欠片を見せることもなく、叩き潰してみせた。
師匠だけに……剣を極めた者だけに許された特権なのだろう。
師匠の剣は美しい。
力強さだけじゃなくて、一つ一つの軌道が芸術のようで、演舞を見ているかのようだ。
それでいて、どこまでも実戦的。
無駄は一つもない。
全ての動きに意味が込められていて……
速く強く鋭く、超常的と言ってもいいほどの力が込められている。
まさに神業だ。
あんな風に剣を扱える人、見たことがない。
まさに剣を己の体の一部としていた。
いや、それだけじゃない。
師匠は、剣に己の心も通わせている。
まさに心剣一体。
師匠の剣を見ていると、泣いてしまいそうになる。
それほどまで心が震えて、揺さぶられて……
虜になってしまう。
そんな師匠が初心者なわけがない。
たぶん、身分を隠している。
本当は『剣神』の称号を授かっている、超大物なのでは? なんて疑っている。
でも、真偽はわりとどうでもいい。
あたしは、師匠に剣を教わりたい。
あの綺麗な剣を。
あの力強い剣を。
あの優しい剣を。
近くでずっと見ていたい。
教わり、あたしも扱えるようになりたい。
それだけ。
他のことはどうでもいい。
師匠の剣だけがあればいい。
そんなことを考えるほどに、あたしは、師匠の剣に惚れ込んでいた。
「まあ……ほんとのこと言うと、剣だけじゃないんだけど」
人に話すと笑われがちだけど、あたしは、ちょっと乙女趣味なところがある。
剣聖なんて言われても、でも、基本は女性なのだ。
物語に出てくるような白馬の王子様に憧れるところがあっても仕方ないじゃない?
その王子様は、師匠だ。
あたしがピンチの時に、颯爽と現れて助けてくれた。
その姿は力強く、そして、とても優しい。
助けてくれるだけじゃなくて、あたしの驕りを正してくれた。
そして、一緒に剣の道を歩もうと誘ってくれた。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。
気を抜くとニヤニヤ笑顔になってしまいそう。
それだけじゃなくて、胸がドキドキしてしまう。
師匠は、あたしの倍以上の歳らしいけど、別に年の差は気にしない。
やっぱり、中身が大事よね。
そして、師匠はバッチリ。
優しくて、かっこよくて、強くて……
外見も、実はものすごくタイプだ。
たまに見惚れていたのは内緒。
「あたし……けっこう、やばいかも……」
師匠、師匠、師匠……
ずっと一緒にいたいな。
そして、できればいつか、本当の意味で一緒に……えへへ♪
「……よし、がんばろう!」
なにはともあれ、師匠の弟子になることができた。
そのことを喜ぶだけじゃなくて、気を引き締めないといけない。
弟子のあたしが無様なところを見せたら、師匠が悪く見られてしまう。
それは嫌だ。
だから、しっかりとしたところを見せないといけない。
弟子になれたことを喜ぶだけじゃなくて、それ以上のことを考えて。
より高みを目指していく。
師匠と一緒に。
「んー……楽しみになってきた!!!」
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