107話 期待のルーキー
ゼクス・レイ。
15歳。
男。
最近、エストランテにやってきて冒険者登録をしたルーキーだ。
まだ15歳なのだけど、その腕は抜群。
どこかの誰かを連想させるかのように、依頼達成率は100パーセント。
一度のミスもない。
かといって、増長することはない。
威張るようなこともしない。
やや礼儀に欠けていて、調子に乗りやすいところがあるものの……
強い正義感を持ち、まっすぐな心を持つため、好印象を抱く者は多い。
故に、ギルドの期待のルーキーと呼ばれているそうだ。
「……っていうのが、あの子の情報ね」
食堂で昼食を食べつつ、アルティナからそんな話を聞いた。
彼女なりに気になるところがあったらしく、彼について独自に調べていたらしい。
「15歳で、それだけのことができるのか……すごいな」
同じ15歳の頃、俺は、山で獲物を狩ることに必死になっていた。
魔物なんて相手にしていない。
「俺には、とてもじゃないが真似できないな」
「いや……師匠は師匠で、おかしいんだけど」
「どこがだ?」
「だって師匠、動物を狩っていたっていうけど、それ、数百年を生きる伝説級の獲物を相手にしていたんでしょ? それ、下手したら、Aランク……ううん、Sランクの魔物に匹敵する実力を持っているのよ?」
「まさか。俺が相手にしていたのは、ただの動物だよ。日々の糧を得るために、狩っていただけだ」
「……ちなみに、どんな動物?」
「どこにでもいるような、鹿とか熊だよ」
「大きさは?」
「そうだな……確か、5メートルとか、大きいもので10メートルくらいだったかな?」
「ああもう……師匠の中の常識が非常識なことに、いつ気づいてくれるのかしら? 唐変木」
酷い言われようだった。
「はぐはぐはぐはぐっ!」
一方、ノドカは一心不乱にごはんを食べていた。
ここの新メニューが気に入ったらしく、俺達の言葉は聞こえていないらしい。
とても嬉しそうに、瞳を輝かせて、とろけるような笑みを浮かべている。
「まあ……話を戻すけど、そのゼクスって子も突入メンバーに選ばれたじゃない?」
「そうだな」
「なーんか、嫌な予感がするのよね」
「彼が突入メンバーに参加することに反対なのか? 彼はやや強気ではあるものの、しかし、協調性がないわけではないのだろう? うまくやってくれると思うが」
「うん、そこは同感なんだけど、なんていうか……んー。うまく言えないけど、なんかやらかしそう」
剣聖の勘だろうか?
それとも、アルティナという女性の勘だろうか?
「ふむ」
勘という曖昧な話ではあるものの、しかし、それはとても大事なことだ。
時に、勘は技術よりも優先されることがある。
長年積み重ねられてきた経験が、言葉にできないものを感じ取る……それが勘というものだ。
無視していいものではない。
気をつけておくことにしよう。
――――――――――
数日後。
ギルドマスターからの連絡が届いた。
組織のアジトを特定。
作戦を組み立てた、という内容だった。
ウロボロスのアジトは、なんと街中に。
なんてことのない家がアジトとして利用されていて、犯罪の温床になっていたとか。
厄介なのはそれだけではない。
アジトは一つではなくて、複数、存在するという。
多少の規模の差はあれど、敵にとっての価値はどれも等しい。
というのも、なかなか頭が切れる相手らしく……
一つしかアジトを用意していなかったら、そこを潰されたら終わり。
しかし、複数を用意しておけば、一つが潰されたとしても他が残るため、まだ活動を続けることができる。
そのような理由から、複数のアジトが存在するらしい。
一つを潰しても意味がない。
故に、同時に全てを潰さなくてはいけない。
ただ、セリスやギルドマスターのおかげで、敵のアジトは全て特定することができた。
その数は五つ。
今日、その全てを同時に叩く。
 




