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103話 剣聖の憂鬱

「はぁ……」


 街を散歩しつつ、アルティナはため息をこぼした。


 ここにガイやノドカがいれば、何事かと心配しただろうが……

 あいにく一人。

 彼女を気にかける人はいない。


 ただ、それはアルティナにとって都合がいい。

 今は一人でのんびりしたい気分だ。


「師匠ってば、あたしのこと、どう思っているのかしら?」


 ガイのところに弟子入りして、それなりの時間が経つ。


 一緒に鍛錬に励んで。

 時に、肩を並べて戦う。


 それなりに濃密な時間を過ごしてきたと思う。


 しかし……


 ガイのアルティナに対する態度は、まったく変わらない。

 いや。

 日に日に、師匠というよりは親のような立場になり、眼差しもなにやら温かい。


 大事にしてくれていることはわかる。

 ただ、どうせなら甘く想ってほしい。


「あたしは、師匠のこと……こんなに想っているのに」


 最初の印象は、規格外、かつ常識ゼロのとんでも剣士。

 次に抱いた感想は、とても優しく、強い心を持つ人。

 そして今は……


「そりゃ、弟子だし? 年の差もあるし? いきなり良い関係になれるなんて思っていないけど……もうちょっと、こう、あるじゃない? 進展とか」


 ガイは、自分のことをどう見ているのだろうか?


 大事にしてくれていることは間違いない。

 しかし、それは弟子というカテゴリー。

 女として見ていない気がしてならない。


「うーん……もうちょっと、大胆になった方がいいかしら?」




――――――――――




「ねえ、師匠」


 夜。

 アルティナは、ガイの部屋を訪ねた。


「うん? どうしたんだ?」

「……」


 ガイの普通の反応に、アルティナは拍子抜けしてしまう。


 今のアルティナは、寝間着姿だ。

 しかも、ボタンを一つ、わざと外して胸の谷間を見せている。


 それなのに、この反応。

 赤くなって照れる、とまでは期待していなかったものの……

 目を逸らして気まずくなるとか、それくらいはあるだろうと思っていた。


 しかし、今のガイはまったくの平常だ。

 普段と変わりない。


 これではまるで、休日の夜、のんびり過ごす父と娘ではないか。


 違う。

 これじゃない。

 こんな反応は欲しくない。


 そう思ったアルティナは、さらに大胆な行動に出る。


「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」

「聞きたいこと?」

「剣の構えについて、ちょっと。構える時、体はこうするような感じ?」


 アルティナは、教えを請うフリをして、わざとガイに密着してみせた。


 ふふふ、どうだ?

 うら若き乙女の柔肌の感触。

 風呂上がりの爽やかな香り。


 そしてなによりも、自慢の胸の膨らみ。

 それを押し付ければ、さすがにガイも……


「アルティナ」

「え?」


 ガイはひどく真面目な顔になり、アルティナの肩をがしっと掴む。

 そして、顔を近づけてきた。


 え?

 え?

 え?


 もしかしてやりすぎた?

 挑発しすぎたせいで、ガイの獣を目覚めさせてしまった?


 ここまでやるつもりは。

 でも、これはこれで……


 ……なんて、一人でパニックに陥っていると。


「そんな格好では寒いだろう? これを着なさい」

「へ?」


 ガイに上着をかけられた。


 つまるところ……

 どこまでいっても、ガイは、アルティナのことを娘のようにしか見ていないということだ。


「……し、師匠の……」

「どうしたんだ?」

「ばかーーーーー!!!」

「な、なぜ怒る!? ま、待て、物を投げるな……あいた!?」


 ……剣聖の憂鬱は終わらない。


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