101話 許せることではない
「う、ぐぅ……天才の偉業を欠片も理解できぬ凡人が……!」
ゴゴールが唸り、睨みつけてきた。
その視線に力があれば、俺は殺されていただろう。
そう思うほどの怒りだ。
ただ……
「お前のような愚行を理解できるわけがないだろう」
怒りを覚えていたのは、俺も同じだ。
「なんの罪もない子供を利用して、傷つけて……!」
剣を握る手に力が入る。
レミア。
そして、ここに囚われていた人達。
皆のことを思うと、激しい怒りが湧いてくる。
心が荒れて、燃えて、このままゴゴールを斬り捨ててしまいたくなる。
「ふざけるなよ」
「ひっ……!?」
「自分の欲望を満たすために、このようなことを……!」
俺は剣士だ。
鬼になってはいけない。
そう思うのだけど……
でも、怒りが収まらない。
レミア達を傷つけた元凶が目の前にいると思うと、止まらない。
このような男は……
「やめよ」
「っ……!?」
そっと、プレシアの手が、剣を持つ俺の手に添えられた。
慌てて視線を移すと、プレシアが優しく微笑んでいる。
「誰かのために本気で怒ることができる……それは、お主の美徳なのだろう。しかし、そこから先に進んではいかん。同じところに堕ちてしまうぞ?」
「それは……」
「この男は法で裁く……それでよいな?」
「……はい。ありがとうございます」
プレシアの言葉は、まるで魔法のようだ。
あれほど荒れていた心が鎮まり、怒りも消えた。
危ない。
プレシアがいなければ、俺は、怒りに任せてゴゴールを斬っていたかもしれない。
それでは、ただの私刑だ。
法の意味がなくなってしまう。
「はぁ……」
「どうしたのじゃ、ため息などをついて?」
「いえ……俺は、まだまだ未熟だと思いまして」
このようなところ、アルティナとノドカには見せられないな。
落ち込んでいると、プレシアが微笑む。
「なに、気にすることはない。そう思えるのなら、なにも問題はないじゃろう。己を未熟と知ることができるのも、また才能じゃよ」
「……そうでしょうか?」
「うむ。妾もまた、今しがた、己の未熟さを思い知ったところじゃからな。つまり、妾は天才ということじゃ!」
彼女らしいセリフと締め方に、ついつい苦笑してしまう。
でも……そうだな。
その通りだ。
俺は、まだまだ未熟だ。
なればこそ、そのことをしっかりと自覚して、驕ることなく精進していこう。
「くっ……」
「動くな」
まだ悪あがきをしようとするゴゴールに、再び剣を突きつけた。
「おとなしく投降しろ。しない場合は、少々、痛い目に遭ってもらう」
「手足の一本二本は切り落としてよいぞ」
「耳でもいいかもしれないな。けっこう痛いらしい」
「ならば、爪を剥ぐのもよいかもしれぬ」
「ひ、ひぃっ……!?」
物騒な会話をすると、ゴゴールは途端に顔を青くして伏せた。
「わ、わかった! 投降する! するから、そのようなことは……!!!」
さんざん他人を傷つけておいて……
いざ自分が害されるかもしれないとなると、この様だ。
なんて身勝手なのだろう。
再び怒りが湧いてくるものの……
しかし、今度は自制することができた。
抵抗を続ける。
他者を害そうとする。
そのような状況なら、切り捨てることに迷いはない。
ただ、今は、決着はついている。
ならば、これ以上の戦いは不要だ。
剣士は斬るための存在にあらず。
守るためにあるものだ。
その教えを、俺自身が体現していかなければならない。
「それじゃあ、おとなしくしてもらおうぞ」
「くっ……」
こうして……
ゴゴールを捕らえて、一連の事件を無事に解決することができた。




