10話 師匠!
「あたしを弟子にして!!!」
アルティナは、とても大きな声で、強い決意と共にそう言い放ち……
「えぇ!?」
俺もまた、彼女に負けない声量で困惑の声を上げた。
俺に弟子入り志願?
剣聖のアルティナが?
「いやいやいや……おっさんをからかわないでくれ」
「冗談なんかじゃないわ、あたしは本気よ!」
「えぇ……」
確かに、アルティナは本気だ。
こんなウソや冗談をいうような子ではないだろう。
ただ……
どうして俺?
俺は、なんてことのない、ただのおっさんなのに。
「お願い、あたしを弟子にして!」
「ま、待ってくれ。アルティナは剣聖で、俺は、初心者冒険者だ。普通、立場が逆じゃないか?」
「でも、あなたは普通じゃないもの」
「俺は、『平凡』という言葉がとてもよく似合うと思っているのだが……」
「鏡を見たことある?」
「毎朝、髭を剃る時に」
「髭だけじゃなくて、己の非常識も剃りなさい」
ひどい言われようだ。
この子、一応、俺に弟子入りしたいんだよな……?
ここまで言うか、普通。
「でも、俺は、本当に大した人じゃないんだが……」
「この際、あなたの認識はどうでもいいの。あたしが、あなたをすごい剣士と思った。そう認めた。教わりたいと、心の底から思った。だから……」
アルティナが深く頭を下げた。
「どうか、あたしを弟子にしてくださいっ!!!」
まいった。
この子は本気だ。
本気の中の本気。
何度断ったとしても諦めないだろう。
ずっとずっとお願いしてくるだろう。
叶えるために、なんでもするだろう。
もっと強くなりたい。
もっと剣をうまく扱えるようになりたい。
俺も、一応ではあるものの剣士。
その気持ちはわかるつもりだ。
アルティナの覚悟に触れた俺は、少し考えて……ややあって苦笑する。
「……わかったよ」
「それじゃあ!」
「俺も、まだまだ修行の身で、なにを教えられるかわからないけど……それでもよければ、一緒に剣の道を歩んでいこう」
「ありがとう、師匠!」
アルティナは満面の笑みで抱きついてきた。
「っと……子供みたいだな」
「あっ……ご、ごめん。じゃなくて、すみません」
「いいさ、気にしていない。それと、かしこまった口調じゃなくていいよ。普段通りにしてほしい」
「でも……」
「一応、師匠ということだけど、俺としては、共に剣の道を歩む仲間と思っているから。だから、気を楽にしてくれたら嬉しい」
「師匠……ええ、わかったわ。なら、普段通りにさせてもらう」
「ああ、頼むよ」
握手を交わす。
細い手だ。
ただ、しっかりと鍛えられていることがわかる。
アルティナ・ハウレーン。
Aランクの冒険者で、おまけに剣聖。
こんなすごい子に、俺は、いったいなにを教えられるのだろう?
というか、俺が教わる側だと思うのだけど……
……いかんいかん。
色々と疑問は多いものの、でも、一度引き受けたことだ。
弱気になるのではなくて、なにをしてあげられるか、そこをしっかりと考えていこう。
それが責任というものだ。
「アルティナ。まず最初に言っておきたいんだが……」
「ええ、なにかしら?」
「共に剣を学ぶと決めたものの」
「あたしにとって、ガイは師匠よ。教わるつもりでいるわ」
「えっと……まあ、それはそれでいいか。で……その際、俺は色々なことを口にすると思う。例えば、剣を握る時は重心を意識するのが大事だ、とか。あ……メモしなくていいよ。今のは、あくまでも例えだから」
「そう?」
「俺は、俺なりに考えて正しいことを伝えようとすると思う。ただ、それをすぐに信じないでほしい。一度、疑い、考えてほしい」
「どういうこと?」
「剣の道は、人それぞれだろう? こうすればいい、なんていう絶対的な解答は存在しない。人の数だけ剣の道がある。だから、その考え方は合わないな、って思ったら受け入れる必要はないよ。納得できるところだけ聞いてほしい」
アルティナはきょとんと小首を傾げた。
「師匠って、変わっているわね。普通、俺の教えは絶対だー、ってなるわよ?」
「無理に型にハメるようなことはしたくないんだ。そんなことをしても伸びないと思うから」
って、偉そうなことを口にしてしまった。
ただ、アルティナの心には響いたらしく、目をキラキラとさせている。
「師匠って、すごいのね!」
「え、どうして?」
「普通は、自分の考え、技術が絶対的に正しいって思うわ。世の中の剣士なんて、みんなそう。自分こそが一番優れている、ってね。でも、師匠は違うわ。そういうレベルの話はしていない。さらに一段上に行っていて、自由に、柔軟な姿勢を見せている。それは、剣の姿勢にこだわる必要がない、そんなことをする必要がないほどの技があるから、っていうことよね!?」
ぜんぜん違う。
この子は、いったい、なにを聞いていたのだろう……?
「えっと……アルティナ? 俺が言いたいことは……」
「わかったわ! あたしも、師匠を見習って、いつも自由であれるように、技術を磨いて自信をつけていくわ!」
「あー……うん、がんばれ」
この子、けっこう直情的だ。
説得を諦めた俺は、曖昧な笑みを投げかけておいた。
「なにはともあれ……これからよろしくね、師匠!」
こうして、俺に剣聖の弟子ができるのだった。
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