1話 ガイ・グルヴェイグ
新作期間ということで、もう一つ書いてみました。
おっさんものにチャレンジです。
「邪魔なんだよっ、薄汚い売女の汚物が!」
「うあ!?」
ガツン! と、顎を蹴り上げられてしまう。
視界がぐるぐると回転して、地面を転がり、家の壁に激突してようやく止まる。
痛い。
体中が痛い。
涙がにじんでしまう。
それを見た異母兄は、楽しそうに……とても楽しそうに笑う。
「いい格好だな、ガイ。どこぞの女が母親かわからない売女の息子は、そうやって泥にまみれているのがお似合いだぜ」
「兄、さん……どうして、こんなことを……うぐっ」
「俺を兄と呼ぶんじゃねえ! 俺は、てめえみたいなたかることしか能のないゴミを家族と認めたことなんて、一度もねえからな!」
今後は顔を踏みつけられてしまう。
顔が地面に押しつけられてしまい、痛いだけじゃなくて、息ができなくて苦しい。
バタバタと悶えて、やめてくださいと懇願して……ようやく足をどけてくれた。
「いいか? てめえみたいなクズ、とっととこの家から追い出してやるからな。覚悟しておけよ? ぺっ」
最後に唾を吐きかけて、異母兄は立ち去る。
俺はなにもできず、地面に転がったままで……
悔しくて涙をにじませていた。
――――――――――
「あ……父さん……」
どうにかこうにか立ち上がり、自室へ戻る途中。
父親と遭遇した。
「……」
父親の視線がこちらに向いた。
その瞳にはなにも映していない。
なんの感情もない。
物を見るような目で俺を見て。
それ以上のことをすることはなくて、「汚れているぞ」と注意することすらなくて。
「……」
すぐに視線を外して、そのまま立ち去る。
その背中を見て、俺は、なにもできないのだった。
――――――――――
俺……ガイ・グルヴェイグは、いわゆる『不貞の子』だ。
母は屋敷で働くメイド。
貴族である父を誘惑して一夜を過ごして、結果、俺が生まれたという。
情けで俺達、母子は屋敷に残ることを許されたものの、待遇は悲惨なものだ。
ボロ部屋で暮らして、周囲の冷たい視線、酷い仕打ちに耐えるしかない。
異母兄のハイネは、俺のことが気に入らないらしく、顔を合わせる度に暴力を振るう。
父は、そもそも俺に興味がないらしく、どうでもいいと考えているようだ。
母は病で他界して、今は俺一人。
屋敷に残ることは許されているものの、それだけで、他はなにも許されていない。
生きる価値を認めてもらえない。
「こんな世界……嫌いだ」
――――――――――
八歳の時、病にかかった。
母と同じ病だ。
どうやら遺伝するものだったらしい。
体は重く、体の節々が痛む。
高熱が続いて、咳が止まらず、寝ることさえ難しい。
そんな俺を見て、父は久しぶりに……本当に久しぶりに口を開いた。
「ガイを父のところで療養させる」
父の父。
つまり、俺の祖父。
メイドの噂話で聞いたことがある。
父と祖父は犬猿の仲で、家族でありながら激しい権力闘争をしていたのだとか。
敗れた祖父はろくに人のいない辺境に追いやられた。
そんなところで療養をするということは……
俺は捨てられる、ということだ。
不貞の子。
情けで屋敷に置いているものの、面倒な病気を発症してしまった以上、厄介者でしかない。
だから、家から追放する。
ハイネにとって、俺は、弟ではなくて汚点。
父にとって、俺は、どうでもいい存在。
そうか。
俺は、誰にも必要とされていないのか。
ようやくそのことを理解して、ずっと我慢していたものが壊れて……涙が一粒、こぼれてしまうのだった。
【作者からのお願い】
「面白い」「長く続いてほしい」と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします
また、広告下の『☆』評価で応援していただけると嬉しいです(率直な評価で構いません)。
皆様の応援が作品を続けるための大きなモチベーションとなりますので、よろしくお願いします!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!