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第95話 そして、新しい朝が来る

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


天2は、終夜は……いつも通り。


 後期超機動型試作精霊殻“明星(あけぼし)”――改め、“呼朝(こちょう)”。


 俺の新しい愛機。

 仲間が用意してくれた逆転の一手が、俺に亜神級を倒させてくれた。


「黒木くん!」

「終夜様!」

「終夜!」


 駆け寄ってくる豪風とパイセンに呼朝の手を振り返し、俺はコックピットの中でため息を吐く。


 ピー、ピー!


『コントロールズーからの専用通信です』

「………」


 どうやら、休んでいる暇はもらえないらしい。

 俺は軽くストレッチして体をほぐしてから、通信を繋いだ。


「あーあー、こちらコントロールズー。ドッグ2、いいかい?」

「こちらドッグ2。問題ないぜ」

「……うん。そうみたいだね」

「?」

「あぁ、こっちの話。大きな敵性反応の消失を確認したよ。やり遂げたんだね?」

「そうだな。青の氷狼、撃破成功だ」

「おめでとう。人類で2番目の、そして生存しての討伐は人類初の偉業だよ」


 一応万が一の可能性を考えて、ヤタロウに代わってもらって調べたが問題なし。

 過剰火力でキッチリと消し飛ばせたことを確信する。


「新しい機体の調子はどうだい? ぶっつけ本番だったんだよね?」

「さっきまで、こんなのがあるってことすら知らなかったよ。マジで」

「実はね。ボクもなんだ。これ、いつも通りの事後承諾。酷くない?」

「だな。される側の気持ち、ちょっとわかったかもしれない。やめないけど」

「やめないんだ……」


 同じくしてやられた側の六牧指令と話しながら、改めて今の状況について思いを馳せる。

 今この瞬間、俺が生きてこの時を迎えられた、その……一番の理由について。



(俺が今日まであれやこれややっているあいだ、みんなもあれやこれややっていた……言葉にすると、こんなに簡単で単純なものなのに、な)


 正直、俺は天2のみんなを過小評価していた。

 というか、人類の全力ってのの限界を、知っているつもりでいた。


 ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って。

 どこまでも必死にあがいたその先にあるのが、原作HVVの世界だと思っていた。


(でも、違った)


 世界は、日ノ本は、天2は。

 もっと貪欲で、もっともっと強かだった。


(原作を超える性能の、俺も知らない精霊殻。それをこんなにもあっさり作り上げてみせるくらいに……)


 今まさに俺が乗っているこの機体の化け物スペックなんて、超わかりやすいだろ?

 それはもう思いっ切り、強烈なビンタを横っ面に叩き込まれた気分だ。


“人類舐めてんじゃねぇぞ”って。


 そして俺は、そんな――。


「――“人類(みんな)”に、助けられたんだな」


 なにか。

 憑き物が落ちたような気分だった。


 メインモニターに映る空にチラホラと見え始めた星々が。

 なんだかとても、頼もしく見えた。



「……で、浸ってるところ悪いんだけど、次のオーダーしていい?」

「あ」


 司令からの通信忘れてたわ。

 ポチッとな。


「申し訳ない」

「いいよ、激戦の後だもの。でももしも……もしもまだ、キミに余力があるなら、ちょっと頼みたいことがあるんだ」

「頼みたいこと?」

「うん。実は今、永崎(ながさき)五島(ごとう)で一進一退の状態になっててね。だから、味方を勢いづけたいのと、後々の戦局を有利にするために。キミにやって貰いたいことがあるんだ」

「それって……」


 勢いを取り戻すだけなら、亜神級を倒したことを連絡すれば十分だ。

 だってのに、さらに戦局を有利にするためにやることなんて……。



「……今のキミなら、()()()()()()()()()?」


 ………。



「どう?」


 どうもなにも。

 間違いなく無茶ぶりだ。


 ナチュラルに撤退戦から奪還戦になっている辺り、本当に意味が分からないオーダーだ。


「うーん。獲れなくはないと思う、が……」

「が?」

「………」

「黒木君?」


「……って、オーダー来てるんだけどどうすっかね? ()()()?」


 俺は、こっそり開放済にしていた、日常的に使ってるとあるチャンネルに向かって問いかけた。


 瞬間。


「ボク個人としては休んで欲しいが、今、戦うべきだというのはその通りだろう」

「そうですわね。永崎には無頼を10機送りましたが、それを操る皆様の士気がなければ揮うものも揮えないでしょう」

「お嬢様が永崎に出向くという手もありますが、それよりはむしろ……」

「はいはーい! 報告、上島にはもうでっかいのってそんなに出てこれないと思いまーす」

「そうだな。一通り回ってきたが、キューブ級のマーキングはもう、上島にはないだろう」

「駆ちゃんたちがしーっかりと、除去しましたよーっと。おかげで前線、大人しくなってるでしょ?」


 続々と表示されるミニモニターに、馴染みの顔が映って。


「亜神級による支援を失った今の天久佐地区の敵は、八津代平野に陣取っていたハーベストたちと同程度の危険度であると、贄は判断いたします」

「命ちゃんがそこを断言するんなら、私は、オーダーの変更を提案したいかも」


 続く姫様と清白さんの言葉に続いて、もう一つ。

 鳥居マークのモニターが表示される。



「そうね。パイロットたちの疲労については私が多少カバーできるから……」


 そこで新しい、青い差し色を入れた癒しフォームなパイセンが……進言する。


「……どうせ獲るんだったら、全部獲ってきなさいな」

「へ?」


 驚く六牧司令に、改めて俺は答えを返す。


「ってことで、司令」

「え、あ、うん」


 今の俺たちならこのくらいはできるっていう、確信とともに。



「天2独立機動小隊。これより……()()()()()()()の、奪還作戦を開始します」

「……ははっ!」



 運命なんてなかったこの世界で。

 これまで積み上げて、これからも積み上げていく俺たちみんなの現実で。



「っしゃあ! 天2行くぞーーーー!」

「「「おー!」」」



 まずひとつ。

 大金星を取りに行くべく、俺たち天2は小隊突撃を敢行するのだった。


   ・


   ・


   ・


「……エクセレンッ!!」


 全身を震わせて、白衣の男は己の昂ぶりに身を焦がす。


「歴史と似て非なる機体! 見たことがない機動! ありえざる逆転勝利! これだ! これこそ私の望む展開! 弄って崩して乱して壊した甲斐があった!」


 くねくねと身を揺らし、歓喜の声をあげながら。

 男の瞳の紋様は、よりギラギラした“赤”を増していく。


「最高の揺れ幅だ! であれば、この揺れ幅を最大限活かすのみ!!」


 言いながら、白衣の袖からスッと取り出す、霊子スマホ。

 おもむろにそれを操作して、彼はどこぞへ連絡を取る。



「……ああ、私だ。今日もいい子にしていたかい? ふふ、それならよかった」


 電話越しの誰かに、打って変わってどこまでも優しい声音で語りかけ。


「いよいよ、キミが役目を果たす時が来る。そう、誰よりも特別な……キミの出番だ」


 そして、白衣の男は―—。


「世界の敵を、キミがその手で倒すんだ」


 ――満面の笑みを浮かべて、その誰かへと告げた。


   ・


   ・


   ・


「ガ、ル……グルルゥ……」


 樋相島。

 戦場となった場所から離れた沿岸部を、それは歩いていた。


「ガホッグホッ……ゲェーッ」


 もはや妖精級ほどの生命力しか残していないそれは、しかし血反吐を吐きながらも確かに生き残っていた。


「………」


 青の氷狼。

 最後の最後で戦うことよりも逃げることを選び、己が力の9割9分を用いて氷像を作り、それを身代わりにすることで、巧妙に巧妙に逃げ延びて……見事死線を潜り抜けてみせた。


「グルルゥ……」


 息を潜める。

 ここを耐えしのぎ、海を渡り、力を蓄える。


 狩りはまだ、終わっていない。

 己に恥辱を与えたあの怨敵を、かならず血肉へと変えてみせる。


 そんな憎悪と怒りが、身の内を満たし、生きながらえさせていた。


 だが。


「……やっぱり、生き延びてたか」

「!?」


 それを、彼は見逃さなかった。



「ワザと見逃したのか、見落としているのか。どちらかはわからない……けど」


 ソレは、外套の内側に黒い契約鎧をまとった男だった。


「いずれにしても、お前をこのまま野放しにすることはできない」


 ソレは、どこまでも冷たい瞳で、眼前の敵を見つめていた。


「この世界に、お前の居場所はどこにもない」


 ソレは、間違いなく己の命を刈り取る者だと……青の氷狼に確信させた。



「アォ……」


 だが、そう思った時にはすべてが終わっていた。


「!?!?!?」


 青の氷狼は、真っ二つに断ち切られ、絶命した。



「……ありがとう」


 弱っていても亜神級。

 それも強靭な氷の毛皮を断ち切ったのは……男の背後に揺らめく、巨大な黒い大太刀の刃だった。


   ・


   ・


   ・


 2020年。2月下旬。


「……チェックよし、これで全部……だよな?」

「あぁ、それで最後だ。ここらにはもう敵はいない。天2が徹底的にやってくれたからな」

「ってことは……!」

「あぁ、あぁ!」


 マーキングされ破壊された、天久佐の壁の最終チェックが無事終わり。


「こちらヴァルチャー4! コントロールズー! 最終チェック終わりました!」

「こちらコントロールズー。ヴァルチャー4、お疲れ様」

「はい! はい!!」


 その連絡が、総司令へと届けられ。


 そして。


「こちらコントロールズーより作戦参加者各位へ。現時刻をもって――」

「「………」」

「――天久佐撤退戦、改め、天久佐奪還戦。本作戦の成功、完遂を……ここに宣言する!」

「「!!!」」


 壁崩壊から、3ヶ月。

 人類史に残る最速の奪還作戦の成功が、その歴史へと刻まれた。



「終わったんだな……」


 それを俺は、生きて見届けることに成功した。

 正史とされる小説版HVVに定められた死のリミットを、俺は無事、乗り越えた!


(黒木修弥……ここからは、フリーシナリオだ!)


 ここから先は、何が起こるかわからない。

 だけどもう、死ぬかもしれないなんて思う必要は、どこにもない。



「……うおおおおおお!!!」


 気づけば俺は、叫び声を上げていた。


「めぇばぁえぇーーーーーーーーーー!!!!」


 コックピットを開けて、青空に向かって全力で声を張っていた。


「めぇばぁえぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 魂が震えるまま、思う存分に叫び続ける。


「なんだあれ?」

「あぁ、あれか。あれが俺たち人類のトップエース様だよ」

「じゃあ、あれが……!」


 誰の目も憚らず。

 今この時は、ただ、あの子を想って。


「めぇばぁえぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」


 マイフェイバリットラブハート黒川めばえの名を、呼んでいた。

次回から、ちょっと長めのエピローグです。


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
[一言] >全身を震わせて、白衣の男は己の昂ぶりに身を焦がす。 >くねくねと身を揺らし、歓喜の声をあげながら。 >男の瞳の紋様は、よりギラギラした“赤”を増していく。  アイツ元ネタの岩田枠だったー…
[一言] シュウヤ達の勝利の裏で着々と陰謀が進行しているようですね。
[良い点] 遂にやりやがりましたね、終夜君 運命の殻を破るどころか盛大にぶち壊して ここからのフリーシナリオが楽しみ!! 流石にここまで来たら、もうそろそろ真のヒロイン(?)のシナリオに入る…よね? …
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