第94話 呼朝
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誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
勝ちます(ネタバレ)。
勝確だった。
「ひゅうっ!」
幾重にも束になって迫りくる青の氷狼が作った幻体たちの連携を、首の皮一枚の距離でかわして、かわして、かわしまくる。
「早い早い早い早い!」
コマンドが、入力した先から実行されていく。
精霊殻による処理速度、反応速度が、これまで乗っていた機体たちとは比べ物にならない。
「俺ならこの処理速度に対応できるっていってるわけだな? 上等!」
より細かな入力に対して発生する機体の連動。
それこそコンマ秒単位でキャンセルと再入力が間に合うような、そんなペースでの超駆動。
パッと見、人間のモーショントレースでもしてるかのような滑らかな動作が、この機体で再現できている。
(明らかに、ゲームや小説で見た“明星”のスペックじゃねぇなこれ!)
今ここにいる、俺を乗せている、コイツ。
コレは……間違いなく俺のために用意された、俺にしか扱えない、俺専用の精霊殻だ。
「さっき天常さんが名前変えてたな。お前にもいるか? 俺専用機だって名前!」
『名付けてあげましょう。この機体もそれを望んでいるようです』
「了解!」
雑談しながら迫るブレスをその場で跳躍、回避して。
姿勢制御のムーンサルトを決めつつ呼び出した大太刀を手に、ついでに一切り、幻体の背中に叩き込む。
「ギャゥワンッ!」
一閃。
サクッと通った一撃が、氷の毛皮を容易く切り裂く。
『機体の通常限界速度に対して70%で稼働中。まだ行けますよ』
「Oh……」
超過駆動なしでコレ。
圧倒的なスペックの暴力である。
ズンッ。
近くに立ってた電柱の上に、義経よろしく乗ってみせ。
「本体は、あそこか」
こちらを見上げる大将首を見下ろせば。
「そろそろ、この戦いを終わらせちまおう」
『はい』
即断即動!
迷うことなく飛び出して、デンジャーゾーンへ雪崩れ込む。
「行くぞ」
拳を構え、発射するのは精霊殻用に調整されたワイヤーロッド。
機動歩兵の高機動を補佐する兵装が、この機体にも装備されている。
と、同時に。
「滑るぞ! 脚部ローラー展開!」
着地に合わせてモード変更!
脚部パーツに装着されているローラーを地に卸せば、そのまま高速回転させて加速する。
「レディ、ゴー!」
ワイヤーによる引っ張りの力と、ローラーによる摩擦軽減と滑るような移動。
これまでにない爆速の移動力を発揮して。
「アオォッ!?」
「氷狼くん、あ~そび~ましょ~!?」
スピード自慢の尊厳破壊。
俺たちは相手の懐に楽々潜り込み、挨拶代わりの精霊拳を叩き込んだ。
※ ※ ※
後期超機動型試作精霊殻“明星”。
その特筆すべき能力は、非常にハイレベルな柔軟性と、機動力にある。
ワイヤーロッドとローラーによるより高次元な移動能力はもちろん、人体により近い形で編みこまれた疑似筋肉によって、ひねりやねじりといった動きにより柔軟に対応できるようになっている。
小説版HVVにおいて真白一人の愛機となるこの機体は、それらの性能を存分に引き出され、戦場を縦横無尽に駆け抜けては、数多の敵を屠り、最後にはラスボスをも打倒する。
それでも。
「今の俺たちの方が……強い!!」
「ガルゥゥッ!!」
青の氷狼の爪と、大太刀がぶつかる。
互いに振り抜いたところで、爪にはヒビが入り、俺の大太刀は砕けた。
強敵との打ち合いで発生した武器破壊。
小説版でもあった展開だ。
「姿勢制御、任せた!」
『了解』
だが、俺たちは。
「精霊纏い!」
『切る(右)。入力済みです』
それを超える!
「ぜぇい!!」
「グギャゥ!!」
即座に取り寄せた新品の大太刀を振り下ろし、叩っ切る!
物語を超えより高みに練り上げた技術でもって、強敵を打ち倒す!
「見えてんだよぉ!」
「ギャインッ!!」
背後に迫る幻体の顎を、返す刀で思いっきり打ち上げて。
「こいつは足癖が悪いん、だっ!」
ドゴォッ!
「グルォウッ!?!?」
追撃の精霊脚で、キッチリとトドメを差す!
『ダメージフィードバックコントロール! 無効処理成功。問題ありません』
「よーし!」
物語を超えた高機動。まさしく超機動。
即ちずっと……俺たちのターンだ!
・
・
・
ピー、ピー!
「こちらコントロールズー。ドッグ1、ドッグ3、現状の報告を」
「はわわわわ……」
「あぁ、なんて……」
「……あれ? おーい? 手果伸君、これ通信繋がってる?」
「えぇ!? 繋がってる繋がってる! 帆乃花ちゃーん? 贄ちゃーん? どったのー!?」
「「………」」
「あーあー、こちらドール。見惚れてて動かない二人の代わりに私が対応するわ」
「パイセ~ン!」
「こちらコントロールズー。ドール……見惚れてるって……今、どうなってる?」
「そうね。じゃあ、簡潔に説明するわ」
「ごくりっ」
「………」
「今、こっちは――」
「っしゃあおらぁーーーーーー!!」
「ギャオァァァ~~~~~ン!!」
「――うちの一番が、初めて乗る機体の性能を120%以上引き出して、亜神級相手に一人で無双してるわ」
「「………」」
「以上よ」
「「………」」
………。
「……ははぁん? それってつまり」
「えぇ、それってつまり」
「「いつも通り」」
「なんだね?」
「なのよ。だから……何も問題はないわ」
「にゃっふっふ。それは、パイセンたちにとっては……何よりだねぇ?」
「えぇ、本当に……本当に、振り回してくれるんだから」
・
・
・
「ヨシノ! 今どれくらい!?」
『機体の通常限界速度に対して92%で稼働中。もう少しかと』
「あいよ!」
ここまで動かしてまだ余力がある、か。
まだイケるのか、お前。
マジですごいな、お前。
「だったら……!」
『!』
見せてもらおうか!
お前の……全力!
「……ヨシノ! 限界突破駆動! できるか?」
『すでにインストール済みです』
「上等! システムオーバード、起動!」
『了解。リミットを3分に設定。ここまでなら、想定されるダメージフィードバックの無効処理、可能です……!』
「とんでもねぇなぁマジで!」
瞬間。
精霊殻から緑の燐光が吹き出した。
「!?」
たったそれだけの動きで、相手はこちらが切り札を切ることに気づき、距離を取る。
「グルゥゥッ!」
幻体たちを集めて守りを固め、低く身構え俺の次の動きに注力する。
あの口の形は、いつでも迎撃用のブレスを吐けるように準備してるな?
だが。
「ヨシノ!」
『出来ますよ』
勝つのは俺たちだ。
「んじゃ、決めるぜ」
『はい』
システムオーバード限定コマンド。
こういう強化形態を組むなら、当然こういう必殺技も組むよなぁ!?
「コマンド入力、S・O・N・B」
Sprit of Night Break.
その瞬間。
全身を、超過駆動の緑の燐光が包み込み――!
「――うおおおおおおおおお!!!!」
咆哮とともに、敵陣へと真っ向から突撃!
「アオオォォーーーーーーン!!」
「しゃらくせぇぇぇ!!」
青の氷狼が新たに補充した幻体含む6体で放つ、凍結の吐息。
だがそんな攻撃は全身から放つ燐光で無視オブ無視して、全速前進!
ローラー全開! 右拳を前に突き出す!
「ぶち飛べぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「アァォーーーーーーーーーー……ッッ!!」
必殺の体当たり。
全身全霊の突撃敢行!
この身すべてに纏う命の力で、ぶっ飛ばす!
『機体の通常限界速度に対して170%で稼働中。出しますか?』
「もちろん! 200だ!!」
一撃必殺!
青の氷狼が作った群れを、ひとつ残らずぶっ飛ばし。
姿勢制御。
残心。
ついでにポーズをひとつまみ。
『私達の……』
「……勝利だ!!」
システムオーバードが解除され、燐光が剥がれ、散っていく。
俺たちの駆け抜けたその道に、敵の姿は跡形もなく消えていた。
「……ふむ。名前思いついたな」
『伺います』
夜を終わらせる俺が乗る、明星だから――。
「――朝を呼ぶって書いて、呼朝ってのはどうだ?」
『こちょう……胡蝶ともかかって、夢現めいた洒落が利いていますね』
「え?」
『え?』
「そこまで考えてなかったわ」
『――……』
……ヨシノには呆れられたけど、反対はされなかった、ってことだよな?
なら。
「お前の名前、これからは呼朝って呼ばせてもらうからな。ヨロシクな、呼朝」
俺はコックピットの中を適当に撫でながら、これからの愛機に呼びかける。
(精霊殻を含む契約兵器は、ただの道具。力の器だ。でも……)
なんとなくだが、こいつは喜んでくれているような気がした。
SONB 射程:1 格闘 EN消費60 必要気力130・システムオーバード中限定
※残心ポーズはトドメ演出(パイロットと契約精霊のカットイン有)。倒せないとそのまま素通りしていく。
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