第93話 人類の希望、その名は――
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乗り換えイベント回。
それは、鳥のように軽やかに。
戦場へと舞い降りる。
「貴方のための、機体です!」
白銀の装甲。
黄金の双眼。
俺の目の前に降り立ったそれは。
「マジか」
まさに“希望の光”を具現化させたかのような存在。
「――後期超機動型試作精霊殻“明星”。どうぞ、お使いください」
「マジかぁーーーーー!!」
ゲーム版HVVにおける一人乗り最強機体。
それがゲーム開始前の時間軸であるこの世界で、今まさに、俺の目の前に跪いていた。
※ ※ ※
明星。
金星を指すこの言葉は、HVV世界においては同時にこんな意味もある。
“朝を呼ぶ星”
ハーベストの侵略という暗く長い20年を越え、新たに明るい未来を呼び込むのだという、精霊殻開発者たちと多くの日ノ本国民たちの願いと覚悟が、その言葉には込められている。
まさに、人類の希望たる存在が乗るべき機体なのである。
「グルァァァッ!!」
「!?」
現れた明確な脅威。
それは青の氷狼たちが俺へと向けていた敵意を、一瞬で明星へと移らせた。
「アオォォーーーン!」
凍結の吐息。
パイロットの乗っていない機体では、いかな明星といえどタダでは済まない。
だが。
その攻撃に対する力は、再び空から降ってきた。
「マルチロックミサイル! 発射!」
舞い降りるずんぐりむっくりな複座機。
ここ半年くらい非常にお世話になったあの、豪風が、降下しながらミサイルをばら撒く!
チュドドドドドッ!!
それらはしっかりと俺たちと敵とを判別し、青の氷狼たちだけを狙い撃ちした。
「アウオウオウオウオウッ!!」
遠吠えを妨害された幻体たちが、慌てて爆発から逃れ、攻撃を取りやめる。
そうする間に豪風は地上へと降り立ち、俺の2番機と同じように地に倒れていた1番機のそばへと即座に近づいて。
「清白様……!」
「うん!」
停止と同時に両機のコックピットが解放されて。
1番機を飛び出した清白さんが、姫様の温めていた豪風のメイン操縦席へと乗り換える。
メインパイロット、清白帆乃花。
サブパイロット、建岩命。
そんな新しい組み合わせで起動する豪風は。
「いっくよー!」
「はい」
流れるような動作で起き上がり、即座に青の氷狼たちへと挑みかかった。
その一連の淀みなさは、一日二日練習した程度じゃ到底できない、息の合った連携だった。
「おーーーーーっほっほっほ!!」
再び戦場に、お嬢様の高笑いが響き渡る。
いったいどこからするのかと思えば、それは中空にふわりと浮かぶ、ドローンから響いていた。
「聞こえますわね? 聞こえますわね!? 私の声が! 私の言葉が! 私こそは人類の希望! 天上の光! この度、正式に天常家の当主となりました、天常輝等羅ですわーー!!」
ぐわんぐわんと響く音。
ドローンをスピーカーにして唸りを上げる天常節。
未知の攻撃を警戒しているのか、それだけで青の氷狼たちを鈍らせてるのが実に天常さんだ。
「実は、今回の戦いに合わせ、天常家と建岩家、そして佐々家の御三家みんなの共同で、秘密裏に新しい精霊殻を複数ご用意いたしましたの! その一つが今、この私が乗っている新機体、後期合奏複座型精霊殻“響”……いいえ! 私の輝きを足して“響輝”と名付けたこの機体ですわぁぁ!!」
彼女の高らかな叫びと共に、スピーカーから音楽が聞こえてくる。
それは細川さんが得意としている弦楽の調べ。
合奏、複座。
その名が示す通り、ここにはいないどこかにある天常さんの機体に、彼女も乗っているのだろう。
「この機体の力があれば、遠く遠くのどこかまで、私と細川の合奏を響かせることができますわ! さぁ、お聞きなさい! 奮い立ちなさい! 貴方たちの頂きが歌いますわよ!!」
そして始まる、精霊たちを奮わせる歌。
目に見えない遠くまで、その力が確かに……及ぶ!
「新たに用意した後期量産型精霊殻“無頼”も、そろそろ永崎に届くころですわ! 本来ならば天久佐撤退戦に投入予定でしたが、そこはお許しあそばせ!」
彼女の言葉に続いてほんの少しだけ紛れ込む、歓声。
それはここではないどこかで戦う仲間たちの、再起の咆哮だった。
・
・
・
「……一体、何が起こってるんだ?」
あまりの出来事に、俺の足は止まっていた。
っていうか、マジでどういうこと?
俺の目の前にありえない最新機体があって、豪風に清白さんたちが乗って戦って。
そもそもこの戦いにパイセンたちが参戦してる時点でいろいろと俺の予定にないし、響? 無頼? ってそもそも何? そんなの俺の知識に――。
「――なに呆けてるのよ!」
「うおっ、パイセン!?」
「もたもたしてないで、早くあれに乗りなさい!」
「え、あっ」
パイセンに言われて改めて目の前の機体を見上げる。
俺の知りうる、HVV世界における最強機体。
小説版、正史のハベベでは真白一人の愛機となって、まさに無双の活躍をする。
「これに、俺が……」
「そうよ! 間に合わせたの!」
「えっ?」
間に合わせた……って。
「い・い・か・ら!」
「うおっ!?」
ちょ、ま。
パイセンの羽衣が俺の体に巻きついて……!!
「乗りなさーーーい!!」
「おうわーーーーーーーーーーーー!!」
次の瞬間。
俺の体は空へと舞い上がり……。
ドスンッ!!
「ってぇ……ハッ!?」
……気づけば俺は、明星のコックピットに座っていた。
まるで俺の到着を待っていたかのように、開いていたハッチが閉じ、内部マシンが起動していく。
アーケード版HVVの、アニメ版HVVの、コックピットと同じ景色がここにはあった。
「ん?」
そこに。
俺の記憶にはない紙切れが3枚、貼り付けてある。
「……ははっ」
書かれていた内容を流し読みした俺の口には、自然と笑みが浮かんでいた。
3枚の紙の送り主は、佐々君と天常さん、そして姫様。
それぞれ短い文だけで、らしい言葉で書かれていた。
『ギリギリまで調整したが、最後はお前が仕上げろ。こいつは、お前のためにボクたちみんなが用意した機体だ。この意味を少しは考えろ。愚か者めっ!』
『貴方程度の命一つで賄う平和に価値はございませんの。精々馬車馬のごとく働き生き延びなさいな。おーっほっほっほ!』
『終夜様がお亡くなりになる可能性があると聞いて、最大限その可能性を潰すべく行動させていただきました。お気に召していただけたら幸いです』
人の気も知らない、勝手な内容だった。
お互い様だった。
自分がやらかしてたってことを、よーく理解した。
天2のみんなは、当の昔に……俺の物語知識を超えていた。
「……やっぱすごいな。みんな、俺なんかよりよっぽど天才揃いだ」
機体の最終調整を手早く済ませていく。
パイロット登録が必要なこの機体に、俺自身のデータをインストールしていく。
「ヨシノ」
『はい。機体の新規格、完全に掌握しました。これは、今から動かすのが楽しみです』
呼べば応える相棒も、しっかり新しい機体へとのりかえ完了しているならば。
「……やるか」
本来ならヒーローのためにある機体のコンソールに、指を乗せる。
「ロック解除、プログラムドライブ。パイロットネーム音声入力……黒木終夜」
俺はヒーローなんかじゃない。
だが、この機体に乗るために必要な心意気なら……持ってるって自負がある!
「夜を終わらせる者。それが俺の……終夜を名乗る、その由来だ!」
起動する。
『精霊殻、起動コード確認』
「手動緊急モードで運用。エマージェンスコード入力! 霊子リンク! 疑似神経接続! 感応・同調・精霊契約、重層同期!」
『セーフティを最低限に設定。コントロールの90%をパイロットに――さぁ、共に舞いましょう……終夜』
「おうよ!」
俺というパイロットを得た明星に、魂という名の血が通う。
「ヨシノと、お前と、俺という三位一体で。行こうぜ、明星!」
気合一発。
俺は、精霊殻を立ち上がらせ――。
「――まずは動作確認っと」
直後。
「「「ギャインッ!!!」」」
豪風狙ってた幻体を3体ほど巻き込んで、駆け抜けがてら精霊拳を込めた手刀を叩き込み。
「えっ!? 黒木、くん……!? 今、どこから……?」
「……お待ちしておりました、終夜様」
「確認完了。二人とも、時間稼ぎありがとうな。あとは……俺たちだけで十分だ」
急制動も問題なく、豪風の前に陣取って。
「さっきはよくもやってくれたな? お返しはたっっっぷりしてやるから、どうか俺たちの輝かしい初陣の糧になってくれ。パチモンの亜神級くん?」
「グルルルゥ……!」
青の氷狼。
本体も、その幻体も、みんなまとめて真っ正面に相対した。
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