第91話 その瞬間はあまりにもあっさりと……
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決死戦。
上島。
天久佐撤退戦、最前線。
「おおおおおおお!」
「撃て撃て撃て撃てーーーーっっ!!」
迫りくる大量のハーベストたちに、陣形を組んだ精霊殻たちが応戦する。
亜神級の登場により強化された敵陣は勢いを増して、より激しく攻め立てる。
「堪えろ堪えろ! ここを突破されるワケにはいかねぇんだ!」
「応っ!!」
一瞬でも隙を見せれば、そこから悪魔の手が伸びてくる。
食い破られでもしてしまったら、その先にあるのは死の連鎖。
「くそっ、あの歌がねぇとやっぱりキツい……!」
「泣き言を言うな! 本来はないのが普通だ!」
さっきまで、戦場に響いていた歌声は、もうない。
亜神級の登場に伴い、かの御三家の次期当主たちは先んじて撤退した。
「あのお嬢様たちの撤退が成功するまで、絶対に時間を稼ぐぞ!!」
「あの人たちは隈本の未来だ! 俺たちが未来を繋ぐんだ!」
先刻まで心身ともに支柱となっていた者の撤退。
その事実を前にして、戦士たちの士気、未だ壮健。
その理由は戦場に。
「警戒! キマイラだ! ブレスが来るぞっ!!」
「グバォォォンッ!」
群れの中から飛び出した個体が、大口を開けて死の息を吐き出す。
自動安全モードの精霊殻では、咄嗟の判断でこれをかわすことはできない。
被害必至の一撃を、耐え抜くしかない。
「シュート!」
「グボォォォーーーー!?!?」
だがそれを、一発の銃弾が防いだ。
「今ので貸し何個目だっけ? なーんてね」
「鏑木の嬢ちゃん!」
戦士たちが歓喜する。
すでに何度も自分たちを守った、その魔弾の射手へ感謝して。
「高いお金を払って用意してるんだから! きっちり稼がせてもらうよ!」
「うおおおおお!! 俺たちには彼女が付いている!」
「ジャイアントキリング! イフリートハンター!」
「いぇーい! 称賛はタダだけど嬉しい~! もっとちょ~だ~い!」
通信越しに笑顔を振りまく彼女……鏑木翼が戦士たちを鼓舞する。その応援は、彼らが戦いを続けるのに十分な物と言えるだろう。
とはいえ、彼らの勇気を支えているのはもちろん、彼女の活躍だけではない。
「敵の勢いがまた減ってきてるな。ってことは!」
「間違いねぇ、あの若造たちがやってくれてるんだ!」
「おうお前ら! 俺たちはパイロットだ、イェーガーに戦果で負けるわけにはいかねぇぞ!!」
彼女を含めたある3人の活躍が、彼ら戦士を踏ん張らせていた。
「こちらバード1。新たにマーキングを3ヶ所、破壊成功。続けて上島内のマーキングを見つけ次第破壊する」
「こちらバード3、りょーかい。位置情報はタマちゃんが把握してるから、デカ物はこのままアタシに任せて!」
「こちらバード2。こっちもサークル1つとマーキング2つ潰したよ。キューブがないのは、やっぱ終夜ちゃんがぶっ潰して回ってたんだろうね。あの短時間でよくもまぁやってくれたって感じ」
天2独立機動小隊の三羽烏。
機動歩兵でありながら、そこらの精霊殻パイロットたちが束になっても敵わない戦果を平然と上げ続ける傑物たち。
激化し、密度を上げていく敵の攻勢を前にして、なお。
「ふんっ! ゴーレム程度が俺の筋肉に勝てるかよ!」
「お、本島から飛んでくるワイバーン見っけ! ボーナスゲット!」
「えーっと、タマちゃん情報から察するに、マーキングが多いのはあっちらへんっと」
主力である天2の精霊殻たちと、精霊楽士の支援がない状況下で、なお。
「はーい、こちらコントロールズー。鳥さんたちー。前線、まだまだ釣り出しと妨害ってできそうかい? OK、だったらこのまま維持し続けて。可能な限り、フェーズ1から2への移行を遅らせるよ」
「終夜ちゃんたちが亜神級とやりあってる今、ここを突破されて戦場が羽矢乃島までもつれちゃうと、樋相島が挟み撃ち食らっちゃうからねー。ファイトー!」
「「「りょーかい」」」
いつも通りを貫く彼らが。
亜神級と戦う決死戦を支える、もう一つの戦場を維持していた。
「……これでいいのかい?」
「いいのいいの。全力で勝ちに行くのなら、これでオッケーだよん。あとは、信じるしかないよね……帆乃花ちゃんたちが持ちこたえてくれるって」
天2独立機動小隊のメンバーに。
誰一人として今、戦っていない者はない。
※ ※ ※
「グルルルゥ……」
絶体絶命。
時が過ぎるほどに俺たちの置かれている状況は悪化し続けている。
「ガルルゥ……」
「ウゥゥ……」
青の氷狼と、呼び出された5体の幻体。
奴らは群れによる狩りの定石通りに、今は俺たちを囲うように展開していた。
本体が睨む中、5体の幻体が俺たちの周囲をグルグルしている。
「さぁて、どう切り抜けたものか……」
「巡ちゃん、能力は使えそう?」
「大丈夫。私だって鍛えたんだもの、気力はあるわ」
今は唯一生身のパイセンを囲う形で、俺と清白さんの精霊殻で背中を守り合っている。
魔法少女は機動歩兵と同じ分類だから、ダメージを機体が肩代わりとかはしてくれないのだ。
神の加護といっても、絶対じゃない。
「アオオォォーーーー!」
「はぁぁっ!!」
再び飛びかかってきた幻体たちを、パイセンの障壁が阻む。
傷だらけの身で展開したそれは敵の攻撃を受け止めるだけで容易くひび割れ、維持も難しくなるほど弱体化していた。
「くっ、うぅ……!」
「こんのぉー!!」
パイセンがどうにか堪えているあいだに、清白さんが装備し直した大盾を突き出して敵を追い払う。
パワー負けしないよう、その腕からは緑の燐光が迸った。
「ガウッ!」
「アウッ!」
それを見るや否や敵は距離を取り、またこちらの隙を窺い始める。
完全に持久戦上等の構えだった。
(……威力偵察の消耗で万全じゃない俺と、さっきでかいダメージをくらった二人。全員が手負いの状態で、そもそも敵の高機動に対応するために消耗を強いられるこの状況……ジリ貧だな)
いつまでもこの状況を維持するわけにもいかないし、かといってこの状況を一気に打破できるようなモノもない。
本島で幻体を相手取ったときと同じく、ジワジワと囲われ追い込まれていく。
これがこいつ、青の氷狼のやり口なのは間違いなさそうだ。
「どこまで行っても、あっちにとっちゃこれは狩り、なんだろうな」
「狩り?」
「あぁ、勝負なんかじゃない。殺し合いでもない。ただ向こうがこっちを狩るだけの、一方的な行為だ」
あくまで敵は本体ただ一人。
幻体の生成には気力を使うだろうから無駄とは言わないが、間違いなく割に合わない。
その証拠に本体の奴には未だ、疲労した様子がない。
幻体を消費するのは、相手にとっちゃ日常的な、ごく当たり前のことなんだろう。
「アオォォーーー!!」
「アオォォーーー!!」
っべ! ブレスだ!
「パイセン!」
「わかってる! はぁぁぁぁ!!」
四方八方から放たれる凍結のブレスを、パイセンの障壁が受け止める。
「ヨシノ!」
「サザンカちゃん!」
『『了解』』
それでも防ぎきれないモノを、超過駆動で展開する緑の燐光で吹き散らした。
「……くっ」
「はぁー……はぁー……!」
「チッ……確実に削ってきやがる」
ジワジワと、なぶり殺しにされている。
一方的な消耗を強いられ、死の気配がじわじわとその濃度を増していく。
(全員で生き延びる。その理想は今も変わらない。だが、縮こまって生きもがくだけじゃ、この状況は変えられない……!)
背水の陣。
狙うは一発逆転の手。
「パイセン。清白さん」
「なに?」
「どうすればいいの?」
「話が早くて助かる。狙いは――」
手短に作戦を伝え。
「――じゃ、よろしく!」
「無茶ね。でも、やるわよ」
「了解!」
俺たちは、一か八かの賭けに出た。
※ ※ ※
「行くわよ、はぁぁぁーー!!」
パイセンが、前後左右に障壁を展開する。
一時的に、俺たちと敵とに分断が生まれる。
「精霊纏い!」
そのタイミングで清白さんが、新たな装備を取り出した。
彼女の精霊殻の左手に握られる、煙幕手榴弾。
「障壁、解除!」
「せーのっ! ボンッ!」
パイセンが障壁解除すると同時に、清白さんが地面に向けて手榴弾を投げれば。
ボォッ!!
「アオオッ!?」
辺り一面、煙幕の中へと巻き込んだ。
「っしゃあ!」
ここで、跳ぶ。
前後左右どこでもなく。
真上へ。
「パイセン!」
「はぁぁぁぁ!!」
一定の高さまで飛び上がった俺の精霊殻の足が、パイセンが作り出した障壁を踏む。
それはほんの一瞬。
わずかでもタイミングがずれれば踏み砕く、そんな刹那の時間だけ。
『問題ありません』
その一瞬を、俺の相棒は逃がさない。
再びの踏み込み、そして続ける……前方跳躍!
「ほっ!」
ボフッ!
っと、煙幕から飛び出して、誰よりも高く戦場を見下ろせば。
今。
この戦場を支配しているのは俺だと、確信する。
「オラッ! 喰らえ!!」
SOFW。
空中でそのまま構えを取って。
「精霊……空拳!!」
腕に込めた精霊の力を、俺自身の意志でもって、ぶっ放す!
「ガルゥァッ!?」
狙いは当然、アホ面見せてる青の氷狼その本体!
お前が氷像じゃないのは、その顔の動きで把握済みだ!
「飛ぶ拳は、予想外だろ!」
打ち込んだ一撃は、確かに青の氷狼のド頭を叩き、奴をのけぞらせる。
「まだまだ、ここで終わりじゃねぇぞ! ヨシノ!」
『了解。限界突破駆動……起動!』
前のめりに飛び込んだのは、このためだ!
動きをさらに加速させ、俺たちは敵の間合いへ飛びかかる!
超至近距離戦!
「お前の幻体召喚も! 氷像生成も! 戦いながらじゃできねぇだろ!?」
ステップ、ステップ、スラッシュ、スラッシュ!
両手持ちモードで構えた大太刀を、バンバン振るって切りまくる!
徹底的に距離を詰め、追い縋り、逃がさない!
横っ飛びしても、後ずさっても、追いつく、迫る、叩っ切る!!
「ガルゥゥゥッ! アオォォーーーー!!」
「やらせるかよ!」
ブレスで牽制なんてのも、させてやらない。
俺とヨシノ、二人分のコマンド入力があれば、キャンセルしながら別の行動させるのもお手の物だ!
「うおおおおお!!」
追い込む、追い込む!
いっそこのまま押し切らせてくれ!
「ガルゥゥゥッ!!」
「ぜぇぇぇっ!!」
苦し紛れの噛みつきを、大太刀で受けて押し返す!
『システムオーバード、限界時間!』
「っだぁぁ!!」
最後に全部の力を使って、俺は青の氷狼を弾き飛ばした。
「アオゥッ!!」
奴が吹っ飛んだ、その場所には――。
「!?」
――黒の差し色、パイセンのデバフフォームで呼び出した鎖によって絡め取られた幻体たちがいて。
「やっちまえ! 清白さん!」
「わぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」
そんな、一塊になった群れに向かって放たれる――清白さんお得意の、バズーカ。
『精霊弾化、完了しています』
狙いをつけて、精霊の力を借りて強化されたその一撃は。
かの氷狼の装甲ですら、たやすくぶち抜くであろう必殺の一撃。
「いっけぇーーーーーーー!!」
「ギャアォォォーーーーーーーーン!!」
着弾。
炸裂。
「う、おおおおお!!!」
敵を全員まとめてぶっ飛ばす、大爆発。
「「ギャヒィィィーーーーーーーッッッ!!」」
爆炎の中、異世界の化け物オオカミたちの断末魔の咆哮が、幾重にも重なって響いた。
「やっ……た?」
そう呟いた、清白さんを。
「ガルァァァッ!!」
「きゃああ!!」
新たに出現した幻体が押し倒す。
「帆乃花! なぁっ!!」
とっさにガードフォームに代わり障壁を張ったパイセンを、凍結のブレスが押し流す。
そして。
「ガルゥァァァァァ!!!」
爆炎の中から飛び出した、青の氷狼の本体は。
「マジか……」
システムオーバードの無茶な適応によって動けなくなっていた俺の精霊殻の、その上に。
「グルルルル……!」
勝者は自分だと言わんばかりに、獰猛な笑みを浮かべて覆い被さっていた。
「終夜!」
「黒木くん!!」
『終夜! 脱出を……!』
声が重なる。
だがそれと同時に。
「ガァウッ!!」
青の氷狼の牙が、精霊殻の胸部装甲へと突き立てられる音を聞いた。
終夜「こいつを攻略する上で、絶対に食らっちゃいけない技がある。それは氷のブレスでもなく、スピードに任せた体当たりや爪の攻撃でもない……噛みつき攻撃だ」
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