第88話 合流・のりかえ・再出撃!
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天久佐撤退戦、仕切り直し!
天久佐撤退戦。
俺の運命を決める戦いの裏で、予想外の相手が動いていた。
(まさか、赤の一族の中にルール違反してまで介入するようなやべぇのがいるなんてな!)
両腕を失ったボロボロの精霊殻を走らせながら、俺は思い至った真実に戦慄した。
HVV世界の地獄を生み出した主犯である、赤の一族。
こいつらは創作物における黒幕枠……そして、イモータルだとか神だとかの、いわゆる人類に対する上位存在に分類される奴らだ。
赤の他に白、青……いろいろな色の名を冠するこいつらは、俺たちがいるこの世界の一段上の領域で、俺たちと同じような国を作って、政治や戦争をやっている。
己の支配領域の拡大を求めて異界にハーベストを送り込む赤の一族と、無法許さぬと時を操り原生種に干渉しながら対抗する白の一族。
今回そいつらが争う戦いの舞台に選ばれ、リアルタイムでしっちゃかめっちゃかにされているのが、まさにここ……HVV世界ってワケである。
人類&精霊とハーベストが戦うその裏では、こいつらがビシバシしのぎを削っているのだ。
(そんな彼らの争いには、ルールがある)
決着をラスボスとヒーローがつける、といったものから始まり、他にもいくつか。
たとえば赤の一族は、攻め込む際に己がどれほどの将(HVVにおいては亜神級)を用意したか他国に宣言する必要があったり、白の一族が他国の行動に干渉する際、最大で3回までしかその過去に介入できない、とかだ。
まぁ、この辺のルールの裏をかいてどうのってのはお約束じゃあるんだが……。
それでも。
HVV世界においてルール違反はなかったってのが、俺の記憶する歴史だ。
(それがあっさりとまぁ、破られちまったわけで)
事前申告の将の中身、明らかに入れ替えたか増やしたか。
それを実現するため、白の一族の専売である時間干渉を盗んだか奪ったか。
白と赤が手を組んだ説もないわけじゃない。あったとしたら個人間だろうが。
とかく現状この世界は、俺の知るHVV世界と違う、上位存在によるルール違反が発生している。
(やらかしてるのはおそらく赤の一族。そう思う理由は現状、白の一族側のメリットが見えないからだ)
もしかすると今、白の一族も事態に気づいてわちゃわちゃしてるかもしれない。
となるとこの先の未来、HVV世界はさらに混沌とし始める可能性がある。
だったら、だ。
「こんな序盤で、死んでなんていられねぇよなぁ!?」
“隠れ身”を解除!
今まさに飛び立とうとしていたドラゴンの背中に飛び込み――!
「邪魔ぁ!!」
『SOK……精霊脚、打ちます』
――濃い緑の燐光をまとった蹴りで踏みつけ!
「グルギャオォォォォーーーーーーーーン!!!」
その巨体を踏み台にして、大きく距離を稼ぎ、そして。
『フィードバック処理完了。レーダー前方に味方反応あり。最前線に戻ってきましたよ』
「っしゃあ!」
あれに見えるは設営陣地!
敵さんはまだ来てない。つまり、間に合った。
最善でギリギリなペース配分で戻った甲斐があったぜ。
ピー、ピー!
みんなからの通信だ。
幻体の情報やそれと戦ったデータは送ってあるし、大きな任務を終えた俺をさぞ労って――。
ヴンッ
「――このおバカさん! 威力偵察はまだしも亜神級に挑むなど、無茶が過ぎましてよ!?」
「黒木! 戻ったのならとっとと仮設ドッグに来い!」
「黒木くん酷いよっ! いきなりああいうことされると私たち付いていけないんだよ!?」
「おかえり~、終夜ちゃ~ん。報告した亜神級がここまで来るのにもう一時間もないからちゃっちゃか動いてね~」
………。
ヴンッ
「お帰り、黒木君。例の新型亜神級“青の氷狼”のデータ、取得させてもらったよ」
「司令」
「戦闘記録もチェックしたよ。……頑張ったねぇ」
「六牧司令~~~~!!」
か、神~~!!
たとえそれがビジネストークだとしても、今はただ、その気遣いに感謝しかねぇ!
「でも、指示した以上の無茶をしたからには、後で始末書だからね」
「ハイ」
神は死んだ。
『自業自得です』
そして俺は、みんなの元へと合流した。
※ ※ ※
「乗り換えろ、黒木」
開口一番。
栄養補給中の俺に向かって、佐々君はそう言った。
「その機体はもう限界以上に酷使されている。むしろまだ動けるのが奇跡みたいなものだ。よっぽど彼女が上手にダメージを分散してくれていたんだろう。感謝するんだぞ?」
外れた腕を付ければいい、というワケにもいかず。
長らく2番機を務めたこの機体は、お役御免と相成った。
「で、代わりの機体があるのか」
「あるとも。このボクを誰だと思っている!」
先行する佐々君に、もぐもぐサンドイッチを食べながら付いていく。
案内されたドッグには、2番機と同じ型の精霊殻が待っていた。
「他の小隊で予備機として置かれていたものを天常が買い上げたんだ。それをボクたち整備班が可能な限りキミ向けに調整してある」
「はぇー、すっげぇ」
「ふふん! そうだろうそうだろう。……どうせお前が無茶してやらかすのはわかっていたからな」
「うぐ……」
事実必要になってるから何も言えない。
「これからの戦いには絶対必要だろう? ぜひ活用してやってくれ」
「感謝する」
さすがに両腕なしの精霊殻で“海渡るオオカミ”……じゃないな“青の氷狼”を相手するのはムリゲーにもほどが……って!
「そうだ! 佐々く――」
「みなまで言うな、黒木」
「んぐっ」
声を上げようとした俺の口を、佐々君の人差し指がふさいだ。
「これからお前は、迫りくる亜神級に挑むんだろう?」
「む、ぐ」
「そして、戦いの前にお前がボクに言った言葉を、ボクはちゃんと覚えている」
「む……」
押しつけられていた指が離れて、佐々君の腰に添えられる。
俺より小柄な彼が、それでも揺るがぬ彼らしい視線を向けて、言葉を続ける。
「黒木。あのときの言葉を、ボクは絶対に忘れない。あの日感じた気持ちを、生涯にかけて忘れはしないと、ここに宣言する」
「………」
あの日。
佐々君に頼みごとをしたときに、俺が口にした言葉。
あの言葉はきっと、彼の心を深く傷つけてしまった。
(生涯忘れない、か。それくらいに恨まれてもまぁ、しょうがない)
自尊自立を重んじる肥後もっこすで、誰よりも深い友愛を持った彼を、俺は裏切ってしまったのだから。
その報いは、甘んじて受けよう。
「……わかった」
「だから!」
ドンッ
「!?」
その瞬間。
佐々君の突き出したこぶしが、俺の胸を軽く打っていた。
知らず細めていた目を見開くと、そこに――。
「ボクは、お前を信じる!」
いつもと変わらない、佐々君の真っ直ぐな瞳が俺を見つめていた。
「だから、お前もボクを信じろ!」
いつもと変わらない、雄弁さに満ちた意志ある薄青の瞳。
けれどもそれは、これまでの物とは少し違っていて。
前よりもどこか、雰囲気が大人っぽくなったような……そんな深みを伴っていた。
「あ、ああ……?」
だが、俺には。
そんな佐々君に告げられた言葉の意味が、ちょっとよくわからなかった。
(信じろって。佐々君は十分信じるに足る人物だし、信頼はこれまでも置き続けてたつもりなんだが……)
この上何を信じろっていうのか。
ちゃんと約束を守るとか、そういうやつか?
「よし。言質はとったぞ?」
俺が理解できないでいる間に、佐々君は満足げにこぶしを引いて頷いている。
いや、マジで意味が分からんのです。佐々君?
「黒木。必ず生き延びろ、いいな?」
「それは、もちろんだ」
「よし。その言葉だって、ボクは信じる。信じるから、お前との約束だって守るんだ」
あ、やっぱり約束とかそういうやつね。
OKOK。
だったら。
「こんな戦いで死んでたまるか。あの亜神級は……“青の氷狼”は俺がぶっ飛ばす」
「ふっ。本当にやり切ってしまいそうだが、無茶はするなよ?」
力強く答えてみせれば、佐々君がスッと、握りこぶしを持ち上げた。
何が望まれているのかなんて、すぐにわかった。
「天常さんたちを頼む」
「任せろ」
俺たちはこぶしをぶつけ合い、笑い合う。
「このボクに、すべて任せておけ」
「……ありがとう」
そんな仕草ひとつ。
たったそれだけのことで、俺の心は軽く、そして温かくなった。
今日まで向き合い続けて初めて、心の底から彼を、佐々君を友人だと思えた気がした。
「忘れるな。このボクこそがお前の……黒木終夜の唯一無二の、友なのだからなっ!」
そう言って、気持ちの良い笑顔とともに佐々君が駆け出す。
これから天常さん、細川さんを連れて戦場を離れ、隈本の未来を担うべく生き残るために。
(これでいい……)
見送ってから乗り込んだ、使い古しの精霊殻。
その動きは驚くほどすべらかで、2番機とほぼ変わらない機動力があるように思えた。
俺の唯一無二な整備士様は、今日も最高の仕事をしてくれていた。
「どんな感じだ? ヨシノ」
『悪くありません。機動力はほぼ据え置き、全体的な性能差は8%といったところでしょうか』
「十分だな」
おかげで戦える。
また、いつも通りの無茶ができる。
ヴンッ!
「終夜ちゃん! ピンチピンチ!!」
「ドッグ2へ緊急連絡、こちらコントロールズー。黒木君、もう乗ってるね? 今緊急連絡で、天久佐水軍が張った海上防衛ラインを例の亜神級が突破した。まもなく“青の氷狼”本体と、その幻体が上島に到着する! 迎撃に向かってもらうよ」
タイミングよく、指揮車から指示が飛ぶ。
「迎撃場所は上島・羽矢乃島、両島に近い樋相島! そこの港周りの足場を固めてあるから、思いっきり暴れてよし! それと……」
「大丈夫。わかってる」
続く言葉を遮って、俺はコマンド入力を開始する。
「ちゃーんと、撤退してくれよ?」
「……頼んだよ」
通話が切れる。
「よっし、いよいよ本番。ラストダンスだ」
フェーズが進む。
仲間たちは撤退し、天久佐の島々の切り離しに入る。
『時間稼ぎを頼まれましたが、勿論、それで終わるつもりはありませんよね?』
「当然! 戦い方は見えたんだ。マジでやってやろうぜ……ガチの亜神級ソロ討伐!」
別に、倒してしまっても構わんのだろう?
ってやつだ。
実際問題この作戦を完了させるには、アレを何とかしないと始まらない。
何とかしないと、推しの未来に希望がない。
(赤の一族の干渉がほぼほぼ予想できる今、その理外の輩に対応できる手は一つでも多い方がいい。俺がその助けに、絶対になる!)
最悪の未来。
赤の一族が直接的にマイラブリーテンダー黒川めばえをラスボスにしようとする可能性。
それが出てきた以上、俺の戦いはここで終われない!
「……絶対に、助けなきゃいけないんだ」
覚悟を決めろ。
いつだってこの魂は、あの子の未来のためにある!
『準備万端です』
「よし、行くぜ!」
出撃。
決戦の舞台へと跳ぶ。
「うおおおおおおーーーーーー!! めぇばぁえぇぇーーーーーーーー!!!」
俺の魂は、どこまでも熱く燃え滾っていた。
今、やれることからやっていく。
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