第87話 浮かび上がる真実
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答え合わせ。
精霊殻が両腕を失うほどの、激しい死闘の末。
俺たちは、亜神級“海渡るオオカミ”フェンリルを、倒した。
『どうかしましたか? 終夜?』
「………」
『??? 終夜? 何を見て? フェン、リル?』
「………」
俺の見ているモニターの中で、倒したフェンリルが逝こうとしていた。
それはサラサラと、体の端から砂になっていくかのように崩れ、溶け消えていく。
「……!?!?!?」
『終夜? 蓄積ダメージが重いのですか? 顔色が優れませんよ?』
それはまるで、初めからここには何もなかったかのように。
何一つ痕跡を残さず、その存在に意味などなかったとでも言うように。
いや、そういうことじゃない。
この消え方は……!
「……ウソだろ?」
『終夜? ……!? パイロットの恐慌状態を確認! コントロールを強制奪取! 私が動かします!』
頭の中が、真っ白になった。
マジのマジで、俺の思考は停止してしまった。
ありえないことが、信じられないことが、今、俺の目の前で起こった。
(……俺がこいつを見て、最初に感じた違和感の正体……コレ、かぁ!?)
いけんじゃねって、勝てるんじゃねって、思った。
プレッシャーを感じなかったのも、追跡が甘めだったのも。
1対1の状況を作らず、支配下に置いてるハーベストたちと連携取ってたのも。
何かしらの事情があって、弱体化してたんだと思った。
違った。
(……そもそもこいつは、あのフェンリルじゃなかった!)
こいつは天久佐の壁防衛戦でやり合った奴とは……違う。
そしてその正体について、俺の前世知識がもう答えを叩き出している!
だがしかし、その答えを受け止めることを、俺は未だにできてない。
だって、そうだろ?
(“幻体”……本体を一回り弱くした個体を生み出し、群れの仲間であるかのように扱う力。俺が今倒したのは、その一体に過ぎない)
倒したのは、力によって生み出された、紛い物の敵だった。
ギリギリの死闘を演じた先で、手に入れたのは偽りの勝利だった、と。
問題ない。
受け入れられないのは、そこじゃない。
『終夜! 終夜!』
「……受け入れられるか、こんなの!」
『落ち着いて、終夜!』
コマンド入力を再開しながら、俺は怒りのままに咆哮する!
「“海渡るオオカミ”は、幻体が使えない個体だろうが…………っっ!!」
“海渡るオオカミ”こと、フェンリル。
こいつは厳密に言うと、ハーベストという括りに収まらない。
その正体は、とある異世界に存在する“青の氷狼”という種族の1個体である。
“青の氷狼”は自らの力を分け与えた幻体を生み出し、疑似的な群れを作って狩りを行なう能力を持っているのだが、フェンリルはその種族の中にあって幻体を作り出す能力を持っていない個体だった。
だからこそ、フェンリルは……この世界へとやって来た。
(能力を持たない己の身が、どこまで異世界の強者に通じるか。あいつはそれを知るためにこの地へとやって来た……そういう背景を持った存在なんだ!)
だってのになんだ? 幻体いるんですけど?
幻体使う“海渡るオオカミ”とか、解釈違いにも程があるんですけどぉーーーー!?!?
(天久佐の壁で戦った奴は、間違いなくあの“海渡るオオカミ”だったはず。じゃあ、これは?)
俺がここで戦った、こいつは? 幻体作れるってことは間違いなく別個体だよな。
んでもあいつらの戦争協定的に、ここで新しい亜神級の投入ってできないはずだよな?
まさか、別の個体と入れ替えたとか、そういう感じか?
後出しジャンケンしたの? あっちじゃなくて、こっちが?!
カチリ。
「あ?」
重ねに重ねた推察が、とある仮説を打ち立てた。
「あ? あ?」
浮かんだ仮説は俺の中、ある種の確信めいた閃きと共に、口から零れ出る。
「……つまり、あれか? 赤の一族の中に、直接的に動いてる奴がいる?」
この世界の戦いの裏で、真の戦いを繰り広げている奴らの、片割れ。
ハーベストをけしかけて、世界を侵食し、世界丸ごと己らの資源にしようとしている奴ら。
「赤と白が組んで……? いや、白の真似して弄りやがったのか?!」
マイファイナリアリティラブエターナル黒川めばえをラスボスに選んだクソ連中!
「俺たちが想定以上に強くなったから……?」
勝手にこっちを侵略して、勝手に代理戦争させて。
その上劣勢になったからって、自分で決めたルールすら守らず、無法をしている?
「……ヒーローもラスボスも覚醒してねぇから、帳尻合わせでもしようってのか!?」
マ~~~~ジでクソだな! 現実って!!
(だが、そういうことなら……ひとつだけすっきりしたぜ)
今、この世界にとんでもねぇ奴が干渉している。
この状況も、下手すりゃもっと昔から、そいつは謀を重ねて世界をかき乱してやがる。
でも、でもだ!
この状況が誰かの謀だってんなら、それってつまり――。
「――定められた運命なんてものは、存在しないっ!!」
俺! 開・眼っ!
この戦いで俺が絶対に死ぬ。なんてことは、もう考えなくていい!
「ヨシノ! しばらく操縦任す、逃げててくれ! 俺は学校の霊子通信を復活させる!」
『!?』
しかしそうなってくると、状況は最悪だ。
俺の予想が当たっているとするなら、全部が全部、裏目っている!
「……あーあー! こちらドッグ2! コントロールズー! 応答願う!」
ヨシノが逃げてくれてるあいだに精霊殻から降りた俺は、学校に侵入して速攻で霊子通信を回復させ、連絡を取る。
ジ、ジジッ。
『……あ、あ、終夜ちゃん!?』
「タマちゃんか! そっちは今――」
『すぐ戻ってきて、終夜ちゃん! “海渡るオオカミ”が――』
繋がったことを喜ぶ間もなく。
俺の言葉を遮ってまで、タマちゃんが叫ぶ。
『――何匹にも増えて永崎の壁をぶっ壊してから、上天久佐に向かってる!!』
「~~~~~っっ! 畜生が!! マジもんのルール無用かよ!」
天を仰ぐ。
最悪の想定は、それを超えた最悪をもって俺に叩きつけられた。
「急いで戻るっきゃねぇ!」
俺は、全速力で逃げ回るヨシノの精霊殻になんとか合流し、そのまま走り出した。
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「は、ははは! 素晴らしい! 実に素晴らしい! ここまで! ここまで派手に天久佐撤退戦が盛り上がるとは! やはり私の予想は正しかった!」
戦場を物見台から俯瞰して観察していたその男は、両手を広げ、空に祈るように嗤っていた。
男の羽織っている白衣が、バタバタと風に吹かれてはためている。
「そうでなくては、こうでなくては! 時の民たる白の一族の秘術を奪ってまで、私がココに来た意味がない!」
感極まった様子でその身を打ち震わせ、男は今なお激しい戦いを繰り広げるいくつもの戦場を、すべて同時に鑑賞しては声を張り上げる。
中でも今は、天久佐本島から急いで帰還しようとしている、大破した精霊殻に注目して。
「黒木修弥、いや、黒木終夜。“悪夢”の器、人類の希望、緑の風。久遠の闇すら喰らい際限なく成長し続ける超人……キミのおかげで私のスケジュールは乱れに乱れ、そして想像以上に素晴らしいものになっている。圧倒的感謝だ!」
それを見つめる男の手のひら。
浮かぶ赤い結晶の中、本来の“海渡るオオカミ”が、必死に抵抗を続けていた。
「……ならばさぁ、見せてくれ! 史実においてはここで死を迎えるキミの! すべての運命を跳ね除けるド派手な大逆転劇を!! この私に! この再演の舞台で! より強く、より激しい、物語を見せてくれたまえ!」
今この瞬間。
白衣の男はこの世界に生きるあらゆるモノの中で、最も愉快げに嗤っていた。
その男が持つ黒い黒い瞳には、彼の真の所属を示す“赤い”六芒星が浮かんでいた。
水面に石を投げるのが、一人とは限らない。
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