第86話 死闘を超えて
いつも応援ありがとうございます。
感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
それは我々の、基本にして奥義。
超過駆動。
人と兵器と精霊とが、力を束ねる重層同期。
その状態で初めて使用が可能となる奥義のひとつが、超過駆動だ。
重ねた力で限界を超え、本来できない動きやダメージを実現する圧倒的な武力行使。
ゲーム版HVVだと、体力気力を代償に行なう、兵器のブースト能力だった。
だがしかし。
現実だと、もうちょっとそこに、応用が利いた。
超過駆動の原理は足し算。
人と契約兵器、そして契約精霊の、すべてを足して行われる秘技。
攻撃に力を足す。回避に力を足す。足していく。
ここで、一つの疑問が生まれた。
“じゃあ、力を使うときに発生する代償って、フィードバックってなに?”
なぜ精霊殻の超過駆動を行なうと、パイロットが体力気力を消費するのか。
なぜ精霊拳を適応外機体で放って発生した損傷を、パイロットが請け負えるのか。
それらがどうして、後期機体になると軽減、ないし無効にできるのか。
答えは簡単。
“重層同期中は、人、契約兵器、契約精霊の体力・気力も足されているから”
契約の名の元に繋がった、三つの命を共有しての、超常的なダメージの分配。
ゲーム時の仕様だったダメージ無効化は、例えば卓越した技術で軽減させたダメージを機体の損傷として処理していただとか、契約精霊が一定値まで請け負っていただとかが、真相だったのである。
故にヨシノの意思で調整ができたし、今もこうして負担を分け合えるのである。
三つの力を合わせて一つにする重層同期。
その状態で体力・気力を消費して超常的な力を発揮させる超過駆動。
その仕組みに気づいたとき。
俺は……あることを思いついたのだ。
「……そんだけ増えた体力気力があるのなら、それらをドカンと代償にすれば、限界を超えた限界でも動けるんじゃね?」
超必殺技的に、使えるんじゃね?
(それを実践した時の肌感覚は、八津代城址での戦いで身に着けた。あのときは無理矢理に引き出してしまって粗もそれなりにあったけど。今ならちゃんと、操れる!)
名づけて。
「……限界突破駆動! 超過駆動を超えた超過駆動だ!」
『専用のプログラムは、確かに組みましたが……っ!』
「だったらもう……ね?」
『よりにもよって、この非対応機で!?』
いつやるか。
今でしょ! 今やるすぐやる即開始!
『発動後、3分間だけ効果を発揮します。くれぐれも使用タイミングには細心の注意を!』
「了解! オーバード!」
ドゥッ!
『ハ?』
「うおおお! これがオーバード! みるみる俺の体力気力が削れていく!」
『おバカっ!』
あ、減るスピードが落ちた。
ヨシノがいくらか請け負ってくれたのか。
うむ、うむ。
「んじゃ、行くぞ!」
上がった出力分でまずは、包囲網を突破する!
そして――。
「――フェンリルのところまで突っ込んで、左精霊拳でぶっ飛ばす!」
『もう、好きにして下さい……!』
決めるぞ!
背水のクライマックスだ!
※ ※ ※
前に跳ぶ。
「オオオオオォォーーーー!?」
次の瞬間には、射程外からイフリートの懐近くまで潜り込んでいる。
「斬っ!」
通り抜けざまに足を断ち、そのまま前へと切り抜ける!
「GIYAOーー!!」
「GUOOOOOM!!」
包囲を突破させまいと、行く先に待ち構えていたゴーレムたちは。
「そこぉ!」
弾丸のような勢いで前転し、そのど真ん中を突き抜ける!
「うおおおお! 豪風より早ーい!」
『その分、コントロールが……!』
「それはそう!」
無理矢理出力200%出してるようなもんだからな。
勢いごり押しみたいな動きにもなるさ!
とはいえ。
「コマンド先行入力! 4ステップ後に右に跳ぶ。ヨシノ!」
『斬撃(左)入力済みです』
その状況で繊細な操作ができないなんて、言うつもりはないがな!
「オオオオオオ!?」
追いすがるように伸びてきていたイフリートの腕を跳躍と同時に回転切りで断ち切り、着地と同時に再び前方へ入力済みのダッシュ!
「多少食らうが突っ込むぞ!」
『ココは私が請け負いますっ!』
直後。
突進する精霊殻に浴びせられる、氷のブレス。
本来ならば凍結させられるそれは今、絶えず放たれている燐光が吹き散らす!
「アオオオオーーーーーーッ!!」
「入った! 接近戦の間合い!」
残り時間1分23秒!
最終決戦だ!
「ヨシノ!」
『合わせます!』
移動を途中でキャンセルして、精霊殻に踏み込みをさせる。
コンクリートをガッチリ踏みしめ、足の裏から腕の先まで、自然の力を正しく加算して。
「一手!」
放つ。
左に持った大太刀を用いた大振りの横薙ぎ。
「ッッ!」
対して相手は、身を低くしてからの飛び退り。
「逃がさん!」
再度入力済みの“歩く”コマンドで、大きく大きく一歩前へ。
『返し刃、打ちます!』
ヨシノが操作する大太刀が、空中のフェンリルへ追いすがる!
「グルァァァッ!」
その一撃を、相手は身を捩ることで無理矢理にかわす。
氷の毛並みが傾き始めの太陽の光を、キラリキラリと反射した。
その一瞬で、俺たちはさらに動く。
『回ります』
「合わせる!」
ヨシノ主体の“上体捻り”からの、俺主体の“パンチ”。
“歩く”実行中の精霊殻は、前進を止めないまま上体を捻り、結果としてぐるりとその身を回転させて、続く指示通りに拳をただ前へと放つ!
その手に、大太刀を持ったまま。
ガッ!
「ガウッ!?」
とうとう、俺たちの刃がフェンリルを捉えた。
だがその音は、何かを切るというよりは、何かを殴打したときに出るような音だった。
(……まぁ、通らないよな!)
そんなの始めから分かっている。
大事なのは、位置取りだ。
「グルァゥッ!!」
攻撃が自分を害せるものでないと分かった瞬間、フェンリルがその首を捻ってこちらを噛みに来た。
お互い攻撃の間合い。喰らえば必死のそれを回避するのは困難――でもない。
「精霊殻の操作ってな。特定の行動を組み合わせると……追加アクションが起こせるんだぜ?」
すべてのHVVプレイヤーがまず練習する、基本中の基本。
直接入力するよりも、きっと、追加アクションとして使うことの方が多いそれは――。
「――“すり足”。その挙動はちょっとだけ、足を動かし間合いを調整する」
ほんのわずか。
距離を取った。
それだけで勝敗が決した。
「!?!?」
ガチンッと。
一撃必殺の牙を躱し、するりと目的の場所へ辿り着く。
即ち、こちらの必殺の間合い。
亜神級フェンリルの、その真横。
『FOS! 発動待機中!』
「ぶちかますぞ! 俺の全力、持っていけぇぇぇーーーー!!」
すでに突き出た拳に、緑の燐光をまとわせて。
「精霊拳だっ!!」
隙だらけの横っ腹目掛け、最大最強の一撃を放つ。
「グゴァッ!?」
「オーバード全開! ぶっ飛べぇぁぁぁーーーーー!!」
緑の燐光が、爆ぜる。
打ち込んだこぶしが、フェンリルの皮を破って肉を貫く!
『終夜!』
「おうよ!」
直後。
こぶしを引く!
この技は、ここで終わりじゃねぇ!
「隠し追加コマンドF・O・B!! フィナーレ・オブ・バーン! 爆・砕!!」
「ギャ、ヒィーーーーーーーーンッッ!?!?」
ぶっ飛ばしたフェンリルを背後にポーズを取れば。
ボボボガーーーーーンッ!!
フェンリルに打ち込んだ俺の気が爆発!
緑の輝きを放つ勝利の花火が、絶対強者たる亜神級の体を完膚なきまでに吹き飛ばす!
『システムオーバード維持困難。効果を解除。超過ダメージ対応、左腕をパージします』
ボシュウウッ!
全身から煙のように一度、緑の燐光をぶちまけて。
最後に代償として左腕まで持っていかれて、超必殺技タイムは終了。
結果として、振り上げる腕は失っちまったが……。
「俺たちの……」
『勝利、です』
亜神級“海渡るオオカミ”フェンリル――討伐!
『――本当に、勝ってしまいました』
「どんなもんよ! あとは残ってる奴らを適当に蹴り倒して安全圏まで逃げればOKだ」
勝利の凱旋にはまだ早い。
雑魚とはいえ、ここには未だ多数のハーベストたちが集まってしまっている。
上手いこと逃げ延びて、また“隠れ身”でしっかりと安全を確保しないと――。
………。
……。
………………………あ?
ロボが激闘の果てにボロボロになっていくの好き。
応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!
ぜひぜひよろしくお願いします!!




