第85話 死闘
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激闘回。
死が迫る。
死が迫る。
一瞬でも気を抜いた動きをしてみろ。
俺の背後を常に追いかけてくるあの死神が、この首容易く掻っ切ってくるぞ。
「アォォォーーーーーン!!」
「そこぉっ!」
すべてを凍てつかせる氷のブレス。
その予備動作に合わせて超過駆動で無理矢理に足を止め、懐に飛び込む!
「穿て! 精霊拳!!」
腹に一撃!
クリーンヒット……は、しない!
腹を捩って横っ飛びして、強引に直撃を避けられた!
「グルアゥッ!」
「ちぃっ!」
即座に突っ込んでくる巨体をこちらも横っ飛びで回避する。
ほんのわずかに装甲を掠めて駆け抜けていった怪物は。
『胴部損傷! 精霊殻、運動性2%ダウンします』
「っだぁぁ!! マジか! 負荷は俺にかけてくれ!」
たったそれだけで、確実に俺たちの命を削り取っていく。
『適応外機体によるFOSの使用により、腕部過剰損傷。――これは私が』
「そっちもまだ俺でいい!」
『――ダメージフィードバック、パイロット60%』
「ぐ、ぅぅっ!」
おまけに機体にゃ常に過剰な負荷をかけ続けて、有効打になる精霊系の攻撃は乱発不可。
(いや、むしろこれでも数が打てる方なんだ)
超過駆動、そしてその応用で。
勝ちをもぎ取る術があるんだ……挑まない場面じゃあ、ない!
『終夜、来ます!』
「っしゃあ! 今度こそあの腹殴ってキャンって言わせてやる!」
死が迫る。
死が迫る。
だが、それでも。
「今日死ぬとしても、ただじゃぁ死なねぇ! っていうか! 死んでたまるかおるぁぁ!!」
最期まで抗ってやる!
※ ※ ※
亜神級“海渡るオオカミ”こと、フェンリル。
こいつを攻略する上で、絶対に食らっちゃいけない技がある。
それは氷のブレスでもなく、スピードに任せた体当たりや爪の攻撃でもない。
(……嚙みつき攻撃!)
フェンリルの嚙みつきには損傷ダメージに加え、機能不全を起こす凍結の効果がある。
損傷によってスペックダウンが起こる精霊殻において、損傷+凍結なんてのは一発貰うだけで致命傷になりうる。
(それも、表面を凍らせるだけのブレスとはワケが違う。損傷個所を直接凍結させるんだ。現実でそれ食らったら機能不全どころじゃねぇ、体の内側から全部凍らされちまう!)
だから。
「アォォーーーン!!」
「っぜぁぁ!!」
嚙みつきに合わせて大太刀を押しつける。
ガチリと閉じられた口が、挟んだ太刀を刃こぼれさせる。
もってあと2、3回ってところか。
どっかのタイミングで新しい太刀を取り寄せないとな。
ともあれ。
「この攻撃だけは全力警戒だ、ヨシノ!」
『了解!』
足を止めずに追撃を捌き、タイミングを計って反撃の精霊系攻撃を叩き込む!
(フェンリル相手にこの機体で勝つには、それしかない!)
間合いを取ったフェンリルの視界から身を隠すように、ビルの陰へと飛び込んで。
「邪魔だ!」
「GOAAAーー!?!?」
待ち伏せしてるのちらっと見えてたゴーレムに、先行入力済みの突撃銃の弾をお見舞いしては、次の状況に備えてコマンドを打ち込んでいく。
「この市街地戦、あれだけ身軽なら。次は当然……」
『……上です! 終夜!』
「グルァォーーーーーン!!」
精霊殻に影が落ちる。
押さえつけられでもしたらジ・エンド必至の一撃が来る……が!
「攻撃のチャンスはむしろ、今!」
『FOS! 入力済みです!』
「強制駆動! バックステップ!」
ダメージ覚悟の急制動で、突撃銃を捨てながら最小限の後ろ飛び! 狙いは位置調整!
続けてヨシノが用意してくれた精霊拳、右手を……!
「喰らいやがれぇーーーーー!!」
真上へと、放つ!!
ドゴォォォッ!!
「ゴルゥグァッ!」
クリーン、ヒット!!
フェンリルの左脇腹に、放ったこぶしがめり込んだ。
『適応外機体によるFOSの使用により、腕部過剰損傷。加えて荷重による追加ダメージ発生! ――ダメです終夜! ソレは許しません!』
「ぐっ!」
寸でのところで横に飛ぶ。
バギャッ!!
そのタイミングで振り抜ききった精霊殻の右腕が、二の腕から砕けて弾け飛んだ。
※ ※ ※
「グェァオウ!!」
痛みに対して反射的に飛び退るフェンリルから、一気に距離を取る。
直後、めちゃくちゃに吹き散らされる氷のブレスを避けて建物の陰に飛び込めば、その後ろでブレスに巻き込まれたゴブリンが何匹か、一瞬で氷漬けにされていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーーっ! 腕折れたじゃねぇか!」
『貴方にフィードバックさせたら、貴方の腕がああなってましたよ』
「そこは気合と根性で!」
『デキルワケナイデショウガ!!』
全速力で敵から逃げつつ、思考を回す。
(右腕はもうない。つまりここからは両足と左腕でなんとかしないといけない。マジで?)
性能がた落ちとかいうレベルじゃないぞこれは!
「グルルォォォーーーーン!!」
「早い早い早い!!」
背後から迫る大きな気配。恨みに満ちた咆哮。
ってかフェンリル復帰早すぎだろオイ!
クリーンヒット決めたじゃん!?
「くっそ! やっぱスペック不足はどうしようもねぇのか!」
『帰還ノ事を考エレバ、軽々と足は使えませんね』
「え?」
あっ、そうなる?
ってことは、フェンリル相手にガチの左腕オンリー?
「ガルルゥオオオーーーー!!」
「だぁぁぁ!!」
このタイミングで放たれる嚙みつきを、ギリギリ大太刀で防ぎ、いなす。
今来た道をそのまま戻る格好でダッシュしながら、俺はボロボロになった大太刀を捨てた。
『終夜。このペースでの移動は負荷が大き過ぎます』
「わかってる! だがここで踏ん張って移動しないと、イイのもらっちまうぞ!」
とにかく足を止めない。
移動用のコマンドは必ず仕込んでおく。
たとえそれが、地味に脚部へ負荷をかけ、そのダメージがそのまま俺に来ていても、だ。
「次のステップであの建物の陰に隠れる。精霊纏いで太刀を呼ぶから、そのあいだの移動は任せてもいいか?」
『お任せを』
左腕一本になったのはキツいが、今はとにかく対策を――。
『! 終夜!!』
「!?」
ヨシノが精霊殻に強制的に待ったを掛ける。
結果としてつんのめる様になった姿勢を、キャンセル再入力で持ち直した。
ジュバッ!
その目の前を、熱線が貫いていった。
「イフリート!」
いよいよ、精霊級までがこの戦場に顔を出すようになった。
妖精級相手なら束になろうが歯牙にもかけずに対応できたが、こいつらは違う。
それぞれに対策がいるし、意識を向けなきゃいけない一芸を持っている。
「この上フェンリルに加えて精霊級の相手をしろって? ハードモードどころじゃねぇな」
俺の背中に冷たい汗が流れる。
命を刈り取る死神の鎌は、確実に俺の首元へ、近づいてきていた。
『終夜……』
「おっし! 大太刀再装備完了! ドッグ2、戦闘継続!」
気遣うようなヨシノの呼びかけに、ことさら元気を振り絞って声を張る。
考えたくない最悪の結末なんてのの想像に、わざわざ使ってやるような時間はない。
生きるための思考を回せ!
(さぁ、考えることが増えたな)
デカブツが出てきたことで一番困ること。
それは、移動ルートの制限だ。
「次の路地を右に……いや、イフリートの熱線が来るか?」
『2ステップの待機の後に前方跳躍、間に合わせてください』
「おっしゃ!」
今のところはヨシノのサポートもあって何とかなっているが、恐らくそう遠くない内に――。
「――これ、詰められてるな」
『ですね』
案の定、相手さんらがこっちの逃げ道を狙って塞ぎ始めた。
じわじわと、動きを封じ込められているのを感じる。
手負いの獣である俺たちを、冷静に、確実に仕留めるための包囲網ができつつある。
「しかも、さっきからフェンリルはブレスで牽制してくるばっかりか」
亜神級は司令塔にもなる。
今まさに、あいつはそれを体現していた。
『距離感から察するに、先程の一撃が確実にダメージを与えたという事でしょう』
「そいつはいい情報だ。だが、そうなるといよいよあいつ、近づいてこなくね?」
まだ、勝ちの目はある。
最悪両腕を失うくらいでフェンリルが倒せるなら、他の奴らは脚でどうとでもできる。
(恐らくはあと、2発。クリティカルが出ればワンチャン一撃でいけるか?)
技能レベル的には問題ない。
フェンリルの側面か背後かを取ってクリーンヒットが打てれば、一発だ。
「あれの側面か背後を取る……か」
スクリーンのひとつに映る自分の体力・気力を確かめる。
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体力 :1577/4001〔OD?〕↓↓
気力 :1266/3734〔OD?〕↓↓
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気力が2割ライン切りそうなのが、ちょっと怖い、か?
だが。
「これ以上逃げ回っててもジリ貧、だよな?」
まごまごしててもどうにもならん。
最大火力の攻撃を、最大命中で打てる内に、使う!
「ヨシノ。限界突破駆動準備」
『なっ!?』
「ここ以外じゃ切れないし、ここで切らないと俺たちは……死ぬ!」
一か八か。
起死回生の一発を、ここで決める!
※敵のいい感じの攻撃を一発食らっただけで中破するようなロボに乗って戦っています。
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