第81話 天久佐撤退戦
いつも応援ありがとうございます。
感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
戦いが、始まる……!
上天久佐市が跨ぐ羽矢乃島と上島を繋ぐ天久佐パールラインは、2つの島を4つの橋を経由することで渡ることができる。
それぞれ2から5の数字を名に宛がわれたこの橋は、九洲本土と羽矢乃島を繋ぐ一の橋と合わせて『天久佐五橋』と呼ばれ、人や物の流通に大いに役立ってきた。
しかし。
「設置ヨシ!」
「設置ヨーシ!」
今、それらの橋には爆薬が仕掛けられ、いつでも壊せるように準備が施されている。
とはいえこれも、今回の作戦の、ほんの一部でしかない。
天久佐撤退戦。
島を切り捨て、少しでも敵の進軍と支配を遅らせるために行なう遅滞作戦。
最も新しい橋でも半世紀に至る歴史を持つ、そんな、人々の想いがこもった建造物でも容赦なく壊し、生き残りを目指す。
覚悟と諦観の一大作戦が、これから始まる。
・
・
・
「傾聴! 本作戦の内容を改めて説明する!」
二の橋の近くに構えた前線拠点で、本作戦の総司令官となった六牧司令が解説を始めた。
言い回しとかサクッと削って俺の理解した作戦内容は以下の通り。
天久佐撤退戦に参加する小隊の数は5小隊。
メインに俺たち天2を置いて、それをサポートする形で他の小隊が動くことになっている。
作戦は3つのフェーズに分かれていて。
第1フェーズはこちらから敵の支配領域に先制攻撃を仕掛け、暴れるだけ暴れて敵の勢いを削りつつ挑発する。
第2フェーズは橋を渡って退きつつ、適宜橋を落として足止めをする。
第3フェーズは羽矢乃島の至る所にある固定兵器を使って迎撃しながら、最後は島ごと爆破して一網打尽&陸路断絶。
という流れ。
「――以上が作戦内容だ。敵の矢面に立つ役割は基本的に精霊殻が行なう。機動歩兵のみんなには、固定兵器の使用や後方からの支援射撃などを任せたい」
「「了解!」」
解説を終えた六牧司令が、集まった隊長格それぞれの顔を見てから告げる。
「……多くの人々の故郷を消し飛ばす作戦だ。けれど、誰かがやらないといけない作戦だ。僕たちが見事、失敗なく、滞りなく、その役目を果たすぞ。いいね?」
「「了解!!」」
会議が終わる。
いよいよ始まる。
「黒木君」
「はい」
「頼んだよ」
「りょうか……あー。ハッ! 己の使命を、全うします!!」
「!? ……へっへっへ。いつかの真似かい? 余裕あるねぇ?」
いつかの昼行燈司令官殿仕草に、前とは違い警戒ではなく信頼を受けて。
「ま、やるだけやるって感じで」
「上等上等。いつも通り、いつも通りでね」
ほんの少しだけ緊張をほぐすやり取りを挟んでから、俺は精霊殻に向かった。
・
・
・
『精霊殻、起動コード確認。――貴方ノ自由ハ、私ガ保障シマス』
「ありがとう! 手動緊急モードで運用。エマージェンスコード入力! そんでもって霊子リンク! 疑似神経接続! 感応・同調・精霊契約、重層同期!」
『セーフティを最低限に設定。コントロールの90%をパイロットに。構イマセンネ?』
「問題なし! サポートよろしく!」
『結構。――私タチノ新タナル舞踏ヲ、此処ニ』
セットアップを終え、コントロールを受け取って。
「さぁてさて、ちょいとひと跳び、行ってみようか」
『了解。目標撃破数を60体に設定します。油断無ク、終夜』
気合一発。
俺は、精霊殻を立ち上がらせる。
「こちらドッグ2。コントロールズー、発進許可願う!」
「発進了解! 終夜ちゃんファイトー!」
「気合ですわよ気合!」
「ご武運を」
「ぐぇぇぇ、ちょ、マイク取らないで。こちらコントロールズー。行っておいで」
毎度毎度騒がしい、楽しい仲間に見送られ。
「……天2独立機動小隊。精霊殻2番機、ドッグ2。発進!!」
コマンドを入力!
超過駆動で高めた脚力を用いて一気に二の橋を飛び越え、緑の燐光を放ちながら戦場へ。
「いやっほーーーーぅ! 絶好調であーーーーる!」
二の橋、三の橋、四の橋、五の橋。
4つの橋を飛び越えて、天久佐上島へと辿り着く。
「いやっほー! レッツゴー黒木くーん!」
「サポートは任せてちょーだいなっと」
「頼んだぞ! ドッグ2!」
五の橋を越えた先にある、簡易拠点に陣取った仲間たちをさらに飛び越えて、最前線へ。
『敵支配領域に入ります』
「了解!」
視界がにわかに霧がかり、赤味を増したのを感じる。
これは、長く現世に打ち込まれたマーキングが作り出した赤い霧そのものだ。
今まさに、ハーベストたちがこの世界を染め抜こうとしている証だ。
『――終夜!』
「わかってる。お出ましだな!」
視認するよりも早くキャンセルしてのコマンド先行入力!
「ゴブぷぎゃっ!?」
「っと失礼~~~!!」
いの一番に飛び出したゴブリンを蹴っ飛ばし、そのまま前進!
「ピギィィ!」
「GOAーーーーー!!」
「グバォォォーーーーー!!」
とたん、わらわら出てくる敵、敵、敵!
「あ、マーキング見っけ。あそこ」
『撃ちます』
ヨシノに預けてる自動操作でプチっと杭を壊しつつ。
「さぁ、作戦スタートだ!」
運命の大作戦、その戦いの幕を自らの手で切って落とした。
そして。
ヴンッ!
「ちょ、ちょっと! 黒木くん!?」
「どうした、清白さん?」
「なんか、なんか先行しすぎてない!? それだと天常さんの歌も届かないよっ!?」
「ああ。それでいいんだよ」
「えっ!?」
「俺の任務は、敵陣の奥の奥まで突っ込み、マーキングやらぶっ壊しまくって敵の歩みを遅くすること。つまり……」
「つまり?」
「ちょっくら天久佐本島まで突っ込んで、威力偵察してくる!」
「は、ええええ~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?」
俺が俺自身に課したミッションも、スタートさせた。
これが後の世に語られる、義経八艘跳びならぬ精霊殻四橋跳び誕生秘話である。
応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!
ぜひぜひよろしくお願いします!!




