第76話 勝利者の咆哮
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現実。
「ギャー! 倒しても倒しても次が降ってくるよーーー!!」
「艦隊撤退! 撤退ーー! 海を凍らされたら逃げ場なくなるよーー!! 逃げてー!!」
「……さすがにこの状況を予想しろ、ってのは……無理があるぜ」
空にはクジラ。
海にはオオカミ。
どちらも敵の切り札で、敵側におけるエースオブエースとも言える亜神級。
これが現実だっていうのなら。
なかなかどうして、理不尽を強いられているなと思う。
「黒木くん!」
「大丈夫だ。もう入力は終わってる」
体を覆う氷の柱や降りた霜を、超過駆動の燐光で振り払う。
幸いなことに、お相手様はこちらの様子をじっくり観察するモードになっているようだった。
「ごめんね、黒木くん。私、対応できなくって……!」
「いや……アレを相手にするには、その精霊殻じゃ追っつかないからな」
「そうなんだ?」
「あぁ。こいつを相手にするなら、豪風級の機動力か超過駆動がほぼほぼ前提!」
亜神級“海渡るオオカミ”こと、フェンリル。
特筆すべきはそのスピードと、遠距離攻撃の氷のブレス。
遠近万能の多種多様な攻撃手段に、雑な攻撃を弾いてしまう氷の毛皮。
ぶっちゃけると、超強くなった氷属性のイフリート。
体高7m、体長15m。ユニットサイズは精霊殻クラス扱い。
間違いなく、俺が知るハベベ世界の最強格の敵だ。
強者を求めて現れる、という設定もあり、個人的には好きな相手である。
実際にぶつかるとなると、厄介極まりないヤベェ奴だが。
「清白さんの精霊殻は、まだ超過駆動に対応しきれない型番だ。こいつとガチンコするには脆すぎる!」
「うぇぇ!?」
豪風のスピードで、追いつけるかは五分五分くらい。
命中補正にマイナス食らうのは不可避だ。
(正直こいつ相手だと、清白さんより鏑木さんの狙撃のが欲しい……が!)
当の鏑木さんは“空泳ぐクジラ”相手の削りに入っている様子。
実際彼女の射撃は数少ない空飛ぶ敵への有効打になっているし、クジラへのダメージは無限沸きの勢いを削いでいる。
だから。
「ヨシノ、姫様。こいつの相手は、俺たちでやるしかない……!」
『デショウネ』
「はい」
実質の1対1……っていうか。
「清白さん!」
「わかった!」
ここはさすがの清白さん。
俺の意図をすぐに察してこの場から離脱する。
「黒木くん、命ちゃん! ヨシノさんも、気をつけて!」
『無茶スンジャネーゾ!』
清白さんの実力は信頼しているが、いかんせん機体が力不足だ。
っつーか、豪風が現時点で1機あるだけだいぶマシな状況である。
これならまだ、勝負になる。
「アオォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッ!!」
「様子見は終わったか? いいぜ、かかって来いよ!」
フェンリルの咆哮に、周辺の海が凍りつく。
精霊殻が乗っても平気なくらいの分厚い氷が、つまりは奴のフィールドで。
「ブレス、来ます」
『超過駆動、全身対応可能です』
「っしゃあ!」
再び吐き出す挨拶代わりの氷のブレスを“大跳躍”して飛び越えて。
「だっしゃあああ!!」
大上段に構えた大太刀を、フェンリルのド頭に叩き込んだ。
※ ※ ※
「ゥルォォオッ!」
「!?」
振り下ろした大太刀が空を切る。
前面のモニターからフェンリルの姿が掻き消えた。
「ヨシノ!」
『超過駆動、左腕! 耐衝撃備え!』
着地と同時。
俺が先行入力していた右方跳躍が実行されるよりわずかに早く、衝撃が来た。
「ぐおおおおっ!!」
「管制による姿勢制御、行います……!」
フェンリルの体当たり。
相手からしてみれば軽くひと当てした程度の一撃。
だがそれだけで、豪風は揺れた。
「っとに早いな!?」
「事前に伺っていたデータよりも、判断速度、実動速度、共に上方修正が必要ですね」
遅れて発動した跳躍が勢いを殺す形になり、結果としてダメージ自体はほぼほぼなかったが、こんな芸当を毎度毎度要求されるような戦いはやりたくない。
(機動力が、機動力が足りない……!)
強襲型の豪風は、防御もある程度意識した作りになっているため、直線的な突破力には優れても、機動力となると言うほどでもない。
スピード自慢相手に細かに動いて対応するってのには、向いてないんだ。
「コォォォ……!」
「ブレス、来ます!」
『超過駆動、脚部!』
「合わせ!」
ビュゥゥゥ……ッ!!
タイミングぴったりに合わせた跳躍で、ブレスを回避する。
下手に攻撃しようとしても対応されるから、大きく距離を取って間合いを開く。
「そら、お返しだ!」
とはいえ反撃しなければそのまま詰められて終わりだ。
俺は即座に突撃銃の弾丸を放ち、フェンリルを牽制する。
が。
「アォンッ!」
見てから回避余裕でした。
そう言わんばかりの跳躍と、氷の上への着地。
とてもじゃないが、正面切ってやり合おうなんて思えない。
「っと、いうわけでぇ……!」
『あれネ』
「アレですね」
「そうだ。よろしく頼む!」
豪風だからこそのやり方で、タマぁとらせてもらいます!
「広範囲制圧マルチロック、完了しました」
『超過駆動、兵装。ミサイルの打撃力強化開始』
高速演算による攻撃範囲の指定、装甲をぶち抜くための弾頭の強化。
「よし! 俺の体力気力、持っていけ!!」
『パイロットによるエネルギー供給確認、ミサイルの精霊弾化完了!』
それを、俺の余りあるエネルギーで成り立たせてぶっ放す、三位一体の合わせ技!!
「マルチロックミサイル、発射……!」
「っ!!」
自機狙い、フェイント、移動阻害を織り交ぜた70発のミサイルだ!
避けれるもんなら、避けてみやがれ!!
「アオォォォーーーーーーーーーーーンッッ!!」
ミサイルが炸裂する。
爆ぜて、弾けて、打ち据える。
「ォォォォーーーーーー!!」
大きく飛び退ることを許さない、範囲にばら撒くミサイル群。
ドンドンと逃げ場を奪い、封じ込め、雨あられと密度をもって圧倒する!
『着弾確認! 同時に――』
「終夜様……!」
「畳みかけるぞ! 精霊纏い!」
入力コマンド、MLMIに続けてMLMI!
このコマンドが示すのは……!
「二人とも、頼んだ!」
『肩部ミサイルポット、装備完了!』
「マルチロックミサイル、撃ちます……!」
禁断の、ミサイル連続攻撃!
「ぶっちぎれぇぇーーーーー!!」
ボシュシュッ!
「!?」
爆圧に押されている最中のフェンリルに、追撃のミサイル弾。
「ォォォォーーーーーーーーーーー!?!?」
豪雨となったミサイルが、その巨体を撃ち抜いた。
(やったか……!)
はずだった。
ドゥッ!
「なっ!?」
突如として吹き上がる水柱は、海水を跳ね上げたもの。
バシャァッ!
そしてその中から姿を現したのは、ずぶ濡れのフェンリルだった。
「まさか……海中に一度潜ったのか!?」
「アォォーーーーーン!!」
飛びかかり攻撃を後ろに跳んで回避しながら、メインモニターで目視確認する。
『フェンリル、ダメージ軽微』
「無傷ではないようですが……凌がれましたね」
「くっ! フィールドを上手く使うもんだな!?」
割といい手だと思ったんだが、通じなかったか!
「こちらもミサイルポッドをパージしたので動きやすくなりました」
『ソノ分、装甲ガ薄クナッテイマスヨ……!』
「了解!」
負け気味だった機動力がほんの少しだが補えた。
とはいえそれでも一進一退。
「ブレス、来ます」
「どっせぇぇぇい!!」
押し切られないが、押し切れない。
「さすがに精霊拳と精霊空拳は警戒されるか……! だったら、蹴りはどうだ! 精霊脚!」
「っ、足場の扱いは向こうが一枚上手のようです!」
イフリート相手なら必殺になるような攻撃も、相手との機動力差で決定打にはならない。
「グルルルルゥゥゥ……!」
「くっそ……!」
膠着状態。
互いに決め手を欠いたまま、時間だけがただ過ぎて。
かといって気を抜いたらその瞬間、俺たちの命なんて吹き飛ぶような状態で。
だから。
俺たちは、気づくのが遅れた。
ヴンッ。
「コントロールズーからドッグ3へ!! 緊急連絡!」
「!?」
突然の強制通信。
こちらからの返事を待たない一方的な通達。
「今すぐにそこから逃げろ! 天久佐の壁が、突破される!!」
「……は!?」
直後。
ドォォォォォンッッッッ!!!
「!?!?」
何かが崩壊する巨大な音と、強烈な突風を喰らう。
「ぐおおおっ!!」
「姿勢制御! ヨシノ様!」
『ヤッテイマス!』
転びそうになるのをどうにか機体操作して、踏ん張って。
衝撃を逃がしきり、そして噴き上がった砂埃が吹き散った、そのあとで。
俺たちは、見た。
「そんな……」
赤い霧がべったりと張りついて。
そこから現れた数多のハーベストたちによってマーキングが撃ち込まれ。
浸食され、ついには崩れた、天久佐の壁の無残な姿を。
「アオォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッ!!」
「っ!」
勝ち誇ったようなフェンリルの遠吠えが響く。
いや、あれは間違いなく、勝ち鬨の吠え声だった。
だから、気づいた。
(あいつの役割は……最初から俺たちの足止めだったんだ……!)
こいつは、俺たちが“ハーベストは赤い霧を消費して出現する”と知っていることを逆手に取った。
最初に赤い霧を使って出てきたように見せかけ、その実、残りの霧をすべて別の場所を攻めるのに使った。あるいは、こちらが艦隊を引かせたのを確かめてから、改めて、遠海から新しい赤い霧を呼び込んだ。
いずれにしても、俺たちにもう赤い霧はないと思わせて、海から意識を反らさせたんだ。
そして自分はそのまま俺たちの相手をして、ぶち抜ければよし、できなくてもよしの2段構えの策。
もしかしたら空泳ぐクジラが出現したこと自体も、計算の上かもしれない。
「……驚くほど巧妙で、効果的な一手だなぁ、おい!」
わかってる。
これは、負け惜しみだ。
もう、勝敗は決してしまった。
「終夜様……!」
『終夜!』
この状況から、戦局をひっくり返せるだけの手を、俺たちは持ち合わせていない。
空泳ぐクジラも、海渡るオオカミも、未だ健在。
溢れんばかりの侵略者たちが、空から、海から、天久佐の地へと上陸していく。
この状況で俺たちにできるのは……。
「……こちらドッグ3。撤退する」
ただ、逃げることだけだった。
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・
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この日。
亜神級2体による史上類を見ない大攻勢により、天久佐の壁は崩壊した。
日ノ本軍は都市部に避難していた天久佐市民を守りながら本島を脱出。
奇跡的にごく少数の重傷者を出すだけに留め、撤退に成功する。
一部市民から、黒い外套を着た男に助けられただとか、神の如き乙女を見ただとかとの報告があるくらい混沌としていた現場において、その成果はまさに、天の采配と言ってよいものであった。
殿を務めた天2独立機動小隊を始めとする、人類側が挙げた戦果は非常に高かった、が。
結果として天久佐本島は、敵ハーベストが支配する領域へと塗り替えられてしまった。
それは明確な。
天2独立機動小隊を伴った日ノ本軍の、初の敗戦だった。
これ以降。
天久佐本島を拠点としたハーベストたちによる侵攻に、常に脅かされることとなった天久佐防衛戦線は。
少しずつ少しずつ。
押し込まれ、天久佐の地を蹂躙されていくこととなる……。
運命の波紋は幾重にも重なって、響いて。
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