第74話 ソレハ、天ヨリ来ルもの
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助走を開始します。
天久佐の壁防衛戦。
最前線の最前線で大暴れする俺たちの戦いの影響か、赤い霧の侵攻は当初想定していたよりも緩やかだった。
「はいはーい、こちらバード2。こっちも本格的な戦いになってきたけど、今のところ問題なく対処できてるよー」
「こちらバード1。さすがは先輩たちだ、統制された動きで淀みがない! 筋肉の躍動を感じるぞ!」
仲間たちから届く報告も、どこか余裕がうかがえて実にいい。
直接ガチンコやってるのは俺と清白さんだけだから、ここまでやって人死にもゼロ。
緒戦は順調。
壁への被害は皆無と言っていい状態だった。
そして。
「うーん、そろそろかなぁ? 黒木くんはどう思う?」
「そうだな。俺もそろそろだと思う」
戦いながら、清白さんと共有する予測。
そんな俺たちの考えが正しいのだと示すように、それは起こった。
『敵ハーベストの現出速度低下。赤い霧の密集濃度上昇!』
「終夜様……!」
大量の雑魚プチプチタイムはここまで。
『警告。濃度の上がった赤い霧を消費して、幽世の門から大型のハーベストが現出します!』
「来るぞ。第二フェーズだ……!」
ここからは……中ボス祭りの開催だ!
※ ※ ※
「オオオオオォォォォーーーーーーーーーーーー!!!!」
もはやお馴染み、現世に顕現したイフリートの咆哮が天久佐の壁を震わせる。
小物ばかりじゃ出オチで潰されるってんで、相手が打ってくる次の一手が、コレだ。
「い、イフリートだ!」
「ついに出てきやがった!!」
そこはさすがのキルスコアTOP1。
その登場に熟練の戦士たちの中にも動揺が走る。
が。
「セット……」
うちのスナイパーがそれを逃すわけがない。
「シュートッ!」
ドゥンッ!!
「グボォォォーーーーーーーー!!!」
「は!?」
正確無比。
確一でぶち込まれたクリティカルな弾丸が、現出したイフリートの核をぶち抜いた。
「こ、これが……」
「天2の殺し屋……鏑木翼……かっ!?」
「ふぅっ! さ、じゃんじゃんおいでー! 火消しは一番効率良く稼げるからさっ♪」
機動歩兵。
それも狙撃手によるジャイアントキリング。
やれるとしてもゴーレムまでだろうと思われがちだが、鍛えりゃこのくらい余裕なのだ。
それこそワイバーンだってイケるし、ブレス吐かせなければドラゴンもやれる。
なんならゲーム版ハベベでめばえちゃん前線に出すときは、これが最適解まである。
クリティカルカットインの時の死んだ目が、超クールで最高なんだっ!
ガチ目にスナイパーすぎて堪らんっ!
「おうおう! こんな可愛いお嬢ちゃんに先越されてんじゃねぇ! 俺たちもやるぞ!」
「「おお!!」」
鏑木さんの派手な一撃は、仲間たちの士気を大いに盛り上げたようだった。
一気呵成に火力を集中!
飛び出してきたお供のゴーレムたちが、次々とハチの巣にされていく。
「多少は知恵が回っても、わたしたちはそれを上回るのよ!」
「ちっさいのがダメならでっかいのってのが短絡的すぎんだよっ!!」
勢いを増した人類側は、いよいよ士気がSオーバーだ!
そして。
「オオオオオオッ!!」
「グギャァァァーーー!!」
「イフリート! それにワイバーンも!? なら……!」
それでも対応できない奴は。
「セット……シューット!!」
「精霊纏いで次弾万端っ! ぶっ飛べ~~~~~!!」
天2のエースが対応する!
「グボォォォッ!?!?」
「ギャォォォンッ!!」
無敵の小隊に抜かりはない……!
「ほーんと、うちの火力連中は頭おかしいよねぇ~? あ、ワイヤーで飛ぶけど大丈夫? すぐに救護車まで連れてくからね~」
「あ、ありがとうございましゅ……! で、でも私が抜けたら」
「抜かりはない! 筋肉、フルバーストだぁぁぁ!!」
「す、すごい! これが機動歩兵の出す火力なのか!? これなら……!」
怪我人の迅速な救助と、混乱阻止。
「はーい、最新のMAPデータと赤い霧の濃度予測共有するよんっ。艦隊のみんな、有効活用してね~?」
「操舵ー! 最新データを参考に陣を再構築っ! 赤い霧を必要以上に広げさせるなー!」
「にっしっし。そうそう、そうやってドローンちゃんたちの活躍する場を広げてねっ。持ちつ持たれつ、ね?」
艦隊との緻密な連携。
「お姉さま! めぐぐはつぎになにをすれば!?」
「アナタは向こうで看護の手伝いを。あ、そこのアナタは少し休みなさい。頑張りすぎよ」
「はいお姉さま! めぐりはやすみます!」
「……そのお姉さまっていうの何とかならない?」
「「なりません! お姉さまは第5世代のお姉さまです!」」
「……そう」
偶像姉妹の統率。
「応急処置はこれでいいだろう! 次!」
「……あれが整備の天才、佐々千代麿か。彼にかかれば契約兵器の故障が瞬く間に修繕されていく」
「こらそこ! 話してる暇があるなら手を貸せ! 学生身分だろうが後方配備、役に立ってもらうぞ!」
「は、はいっ! 了解であります!!」
「No problem! しっかりサポートするから、気負わずにね?」
「は、はい~~!!」
武器や精霊殻の高速整備。
「まだまだ行きますわよ~~!!」
「はい、お嬢様」
「す、すごい。あの子たち、戦闘が始まって一度も休まず合奏し続けてる……」
「あれが天常家のお嬢様。人類の希望の光、天常輝等羅か」
「そこっ! 聞こえてましてよ!」
「!?」
「大変結構! もーっとお褒めになってくださいましっ! おーっほっほっほ!」
「さすがですお嬢様。あ、お水どうぞ」
「……ホントに、すごい」
そして、精霊たちを盛り立てる、終わらない合奏。
「皆様、十全にお力を発揮していらっしゃるようです」
『当然デス』
「だな」
誰も彼もが結果を出して、事ここにきても人類は優勢を維持している。
「ならあとは、俺たちも踏ん張らないとだ」
「はい。贄は終夜様と共にあります」
『私ノ舞踏ハ、貴方ト共ニ』
身構える。
「グルオォォォォーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!」
小物がダメ。イフリートでもダメ。
そうして出てくる、最大最強の敵ユニット。
「……むしろ、赤い霧いっぱい使って単体になってくれる分、こっちが有利なんだわよってな」
出てきたところで、喉笛をズドン。
「グルギャオァッ………!!」
ぶっ刺した大太刀を引き抜けば、それは為すすべなく倒れ伏し、消滅する。
「あ、あんなにあっさりとドラゴンを倒しやがった……」
「イケる……イケるわ! わたしたちは勝てる!」
「天2万歳! 日ノ本万歳! 俺たち人類を舐めるんじゃねぇ!!」
ワァァァァッ!!
戦意高揚。意気軒高。
仲間たちの盛り上がりも最高潮!
楽勝……とは言えないが。
状況は、勝敗の天秤は、間違いなく俺たち人類側へと傾いているのを感じていた。
「……………………え?」
ソレが、姿を現すまでは。
※ ※ ※
ソレは、突如として空に雲がかかったかのような暗がりを生んだ。
秋雨の時期も越えた11月の、特に今日は一日晴れ渡るはずだった空には似つかわしくない変化に、誰もが空に意識を向けた。
「――……」
ソレは何かの腹だった。
その腹は、広い広い真っ白な画用紙に、何本もの縦線を入れたような模様をしていた。
「――……」
ソレはいかなる神秘か、空を飛ぶ機関など持ち合わせぬ見目に背いて、空を泳いでる。
驚くべきはそのサイズ。
全長2kmにも及ぶその巨体は、町一つに影を落とし、その威容を示す。
「なん……だ、これは……?」
大きな大きなその腹の主は、魚のようで魚ではない。
胸ビレに尾ビレも持ってはいるが、それは鱗など持ち合わせてはいない。
そう、つまりは。
「……くじ、ら?」
その正体は、空泳ぐクジラである。
「空飛ぶ、クジラ?」
「は? え?」
戦いが止まる。
人類が動揺に手を止めるのと同時に、侵略者は畏敬にその侵攻を止めた。
それほどまでに圧倒的な存在感。
何の前触れもなく現れた怪異は、その一瞬で世界を塗り替えた。
そんな、正真正銘の化け物を目の当たりにして。
「……っべ」
俺は、霊子通信を繋げた。
「……コントールズーへ! こちらドッグ3! 即本部へ伝達頼む!」
「こちらコントロールズー。いったい」
「後方に兵を回せ!! アレの狙いは、天久佐本土だ! 退路が潰されるぞって!!」
「!?」
直後。
「ヴォオオオオオオオーーーーーー…………!!」
化け物クジラが鳴き声を上げ、その身を大きく震わせる。
「……急げ司令! アレが亜神級! “空泳ぐクジラ”ケートスだ!!」
「!? じゃあ、今のは……!」
「そうだ! あいつ、空からハーベストをばら撒いてくるぞ!!」
そう注意喚起した、時すでに遅し。
見上げた空にはいくつもの黒点……ハーベストたちの影が、現出し始めていた。
ケートス「来ちゃった☆」
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