第73話 天久佐の壁防衛戦、開幕!
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予習は大事。
「こちら第115機動小隊隊長、島津基弘! そこの武闘場に降りてるバカ二人! なにやってる! 持ち場に戻れ!!」
オープンな声に上を向けば、たっかいたっかい壁の上から1機の精霊殻が俺たちを見ていた。
どうやら俺たちのことを心配して、親切にも注意してくれているらしい。
「そこは今回の作戦じゃ使えねぇ。敵勢力の数が段違いなんだ。処理しきれねぇぞ!」
今、俺と清白さんの機体が立っているのは、小説版にも登場した『武闘場』と呼ばれている場所。
天久佐の壁の前面に何か所かある、半円形の人工陸地だ。
(ここは普段、壁のメンテナンスや小規模な敵襲来時の対応に使われる足場だが……こと今回に限っては、最前線も最前線。大量の敵を相手にしなきゃいけなくなる場所だ)
しかも立っているのは最南端の武闘場。
赤い霧が一番最初にやってきて、一番長く影響を受け続けることになる場所だ。
心配されるのも致し方なしって感じだな。
「終夜様」
「さて……」
あと数分もすれば全小隊に連絡がいくとは言え、その想いには応えるのが礼儀だろう。
第115機動小隊だったな? じゃあチャンネルはここ……っと。
ヴンッ。
「あーあー。もしもし」
「ああ? のんきに霊子通信飛ばしてくるくらいならとっとと上に……」
「こちら天2独立機動小隊所属、黒木終夜であります。先輩殿のご忠告、感謝の極みにございますが、心配ご無用」
「なっ!? 天2!? じゃあ……!」
「すぐに連絡がいくと思いますが、一言だけ……」
一呼吸、置く。
自分に言い聞かせる分も含めて気合を入れて、告げる。
「……バッチバチに暴れるつもりなんで、討ち漏らし出たら対処お願いします」
「!?!?」
「以上。通信終わります」
通信を切る。
「終夜様。贄たちの作戦行動が本部から他の小隊にも通達されたようです」
「……よしっ」
見ればモニターのメッセージ欄に、さっきの隊長からの了解スタンプが届いていた。
おっ、これ母さんの好きなアニメの奴じゃん。さては同世代だな?
「……清白さんの方も、準備万端って感じだな」
本日の精霊殻1番機。
いつものロケットランチャー2基持ちの大物狙いスタイルが、実に清白さんらしいフリーダムっぷりだ。
あっちにはヤタロウが付いてくれてるから、デカブツの位置も丸見えだろう。
『終夜』
「はい、はい」
『真面目ニ』
「はい」
ヨシノとの軽口もいつも通り。
ちゃんとリラックスできているのを確かめる。
ここから先の運命を占う大一番を前にこれなら、上々ってもんだろう。
(思えば遠くへ来たもんだ、ってな)
前世の記憶を取り戻してからそろそろ6年?
今日まで自分や仲間を鍛えて、とうとう運命変えられるんじゃねってところまできた。
(なにしろ史実じゃ、そもそもが壁への襲撃を事前察知するなんてのも、できてなかったしな)
これも才気煥発な天常さんの声かけと、掘り出し物だったタマちゃん&清白(母)と一緒に開発した、超小型ドローンを始めとする新兵器のおかげである。
豪風にくっついて姫様が来ちまったのは予想外だったが、概ね人類優勢に向かって有益なモノに繋がっていて、今まさに前世チート万歳ってな状況になっている。
(ここを越えて、天久佐撤退戦自体を起こさせなければ……俺は)
いよいよ彼女を探しに行くってのも、悪くないかもしれない。
俺のすべてを賭けてでも救いたい、最愛の推しを。
(黒川めばえ……)
彼女の運命を、変えたい。
ヒーローとヒロインに、未来のために、世界のために。
踏み台にされる彼女の運命を、変えたい。
『前方、目視距離に赤い霧を確認。モニターに表示します』
「終夜様、ご準備を」
「あぁ……」
戦いが始まる。
あの霧がこの武闘場へと辿り着けば、長い長い耐久戦の始まりだ。
『赤い霧、接近。5,4,3,2……到達!』
「終夜様。赤い霧を標にして、幽世の門からハーベストが現出します」
「っしゃあ! 来い!!」
初手。
飛び出してきたキマイラを、突撃銃の餌食にして。
「戦闘開始だ!」
俺は、己の運命に挑みかかった。
※ ※ ※
「ゴブギャアア!!」
「GYAOOOOOーーーー!!」
ゴブリンとゴーレムをまとめて大太刀で叩っ切り、一呼吸置くべく後ろへ跳ぶ。
「ふぅっ……!」
『左腕管制、自動照準で撃ちます』
動きの無駄を削るように入る、ヨシノのフォローにもめちゃくちゃ助けられている。
(今ので、少なくとも50は蹴散らしたか?)
戦いはまだ序盤も序盤。
赤い霧から出てくる小物、妖精級メインの編成を出るたび出るたび潰して捨てて。
「ぶっちゃけ大物メインで来てくれた方が楽なんだがな……!」
「贄も同意いたします」
時々悪態をつきながら、タイミングを計って再び突撃。
「黒木くん!」
「任せろ!」
頭上越え狙いのワイバーンにロケットをぶっ放した清白さんをカバーして、彼女の精霊殻にまとわりつこうとしていたフェアリー共を、横からタックルかましてひき潰す。
「こいつはおまけだ! 姫様!」
「マルチロック、全敵の7割捕捉済みです。……発射!」
ついでとばかりにぶっぱするミサイルは、その攻撃範囲をちょっとだけ、移動した分だけオーバーした敵を捕捉して、狙い撃つ。
「GUOAAAーーーー!!」
「ピギィィィッ!!」
「グギィァァァァッ!?」
捕捉できてない分のミサイルは霧の方にぶっぱするから、事故だって起こる!
出オチ失礼!
霧から出た瞬間に巻き込まれたキマイラ君に敬礼する。
(倒されたハーベストが消えるおかげで、移動に関しては問題なし)
そして。
「敵の出現パターンも把握できてるぞっ! っと!」
突撃銃で赤い霧の濃くなった所を狙い撃ち。
「ゴボッ!?」
あわれゴブリン君も現出したその瞬間にお陀仏となった。
(この赤い霧を使ってハーベストが呼び出されるって理屈を知ってるおかげで、まさかこんな対策が取れるとはな)
あくまで傾向。
絶対にそうというわけではない。
けれどそれをほんの少しでも意識するだけで、先手を取れる場面が一気に増えた。
「おおおお! やれる! やれるぞ!」
「ワタシたちだって人類の守護者なんだ!! やってやれぇぇ!!」
壁の上の他小隊の方々も、共有された情報を元に着実に戦果を挙げている。
(敵を出すだけ出させて、何もさせずに倒す……!)
攻撃は最大の防御の最たる例。
何もさせなければ、傷だってつけられない!
これなら……!
「そらそら! まだまだどれだけだって戦えるぞ! 掛かってこい!!」
俺たちにまず、負けはない!
聖銀剣勲章「うおおおお! いくらでももっていけぇっ!」
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