第72話 天久佐の壁
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さぁ、ひとつ。山場が迫っております。
天久佐本島南部、下茂田温泉郷。
赤い霧の影響が最も早く『天久佐の壁』に出ると思われるこの地に、俺たちは陣を敷く。
「これは、壮観だな……」
「だな」
本日は小隊全員出動也。
佐々君と二人、天久佐の壁に上がって見下ろす先には。
日ノ本の威信がこれでもかと込められた、圧巻の景色が作り上げられていた。
「俺たちを含む機動小隊が10小隊、海上には契約艦4隻に契約空母が2隻。日ノ本がここに持ってこれる最大戦力だ」
「永崎の守りを考えるとこれ以上は無理だろうからな。むしろ、よくぞこれだけの数を間に合わせたものだ」
本気の防衛作戦。
そう思わせるのに十分な、絶対死守の布陣。
「まさに決戦、だな」
しばらく前に社会科見学で訪れたこの壁を、今回は守るためにここにいる。
この国、日ノ本の、人類の未来を守るために。
「……決戦、か」
そして俺に限っては、死の未来を変えるために。
その先にある……推しの幸せな未来へと繋げるために!
※ ※ ※
「天2独立機動小隊の役割は、援軍です」
「援軍?」
温泉宿『ジャンガラマルコ夢海王富士まつ』の大広間を借りて用意された作戦会議室で、俺たち天2の面々は六牧司令からその役割を告げられた。
「この天久佐の壁戦線ともいうべき海を含んだ広大な戦場で、みんなには独自判断での援護行為をしてもらいたいってのが、本部からの要請だ」
「ふむぅ……そりゃまた大盤振る舞いだな」
ムキッ、と効果音を立てながら首を傾げる木口くんの言葉に、みんな頷く。
それだけ本部から下った要請は、驚きの内容だった。
「黒木くん黒木くん、それってつまり……」
服の裾を引っ張ってきた清白さんに頷きを返す。
「そうだな。各々好きにやってくれってことだ」
「だよね!」
この要請。
平たく言うと“お前ら個人個人がいろんなところで大暴れして結果を出せ”という話である。
無敵の天2独立機動小隊の扱い、ここに極まれりである。
「光栄にもあちらは、私たちを小隊としてではなく、個々人で結果が出せると買ってくださっているわけですわね」
「お前と細川については、間違いなく本陣での活動を期待されているだろうがな」
「お嬢様の歌の助けとなるよう、微力を尽くします」
「天常様と細川様の合奏であれば、この広い戦場においても問題なく精霊たちを鼓舞できるものと確信しております」
姫様の言葉に「当然ですわ!」と胸を張って高笑いしてる天常さんはそれでいいとして。
「なら、必要なのは俺たち戦士側の振り分けか」
「だねー。まぁ、こっちはいつも通り後ろの方でスナイプするだけだけど」
「お。さすがは天2の殺し屋。今回もジャイアントキリングしまくる予定?」
「そう言う天2の運び屋さんは、どうせ161の近くにべーったり予定なんでしょ?」
「なっ!? なにを言っているのかな……?」
「女子の情報網を舐めてもらっては困るのだよ、倉科さんとやり取りしてる乃木坂くぅん?」
「ごふぉっ!」
「公私混同はほどほどにするんだぞ、乃木坂ぁ! ちなみに俺は許されるならお世話になった恩師がいる225小隊の区画を中心に行くつもりだ!」
いや、なんかポンポン決まっていくな?
しかも私欲……。
「ふむんふむん。大丈夫だよ終夜ちゃん。今のところどこの配置と比べても被ってないし、それぞれが大暴れしても問題ないよん」
「そうか」
……天2の自主性、凄すぎない?
「誰だよこんな小隊作ったの。六牧司令だな」
「やめなさい終夜、その責任転嫁は司令が泣くわ」
パイセンからデュクシされつつ話を進める。
「あと決めなきゃならないのは、精霊殻の運用だな。お立ち台は当然天常さんたちのフォローをするとして……」
「私の1番機と、黒木くんと命ちゃんの3番機をどう運用するか、だね」
1機あれば余裕でその戦場をひっくり返せるとびっきりのエースオブエース。
いざ本当の意味で自由を与えられると、実はちょっと困る。
過剰戦力過ぎて。
「終夜様。いっそいずれかの契約艦に乗って切り込むというのは」
「あっ、命ちゃん! それ私も考えてたよ!」
「却下だ。俺たちはともかく、契約艦が絶対にもたないからな」
最悪海の中からでもアマビエの姐さんからフォロー貰えれば戻ってこれそうではある。
が、それはそれだ。
「あくまで天久佐の壁の防衛が目的だ。それに敵が向こうから来てくれる以上、迎え撃つ構えでいた方が楽ができる」
「そっかー」
「赤い霧はマーキングのように壊せばいいというものではありませんからね」
そう。
厄介なのは赤い霧だ。
「赤い霧、か……」
赤い霧。
公式設定資料集の知識によれば、分類上はマーキングの一種で、幽世の門から大量のハーベストを引き出す呼び水となるもの。他のマーキングとの違いはそれ自体に移動する性質があるのと、消耗品であること。
つまりハーベストを呼べば呼ぶほど消費され、最終的に自動で消えるのである。
(言うなれば、赤い霧はハーベストの長距離移動手段。そこから飛び出てきた奴らのことごとくをぶちのめし、新たなマーキングを置かせさえしなければ、あいつらの侵攻を止められる)
長い長い耐久戦になる。
だが、終わりがない戦いでは決してない。
守り抜けば、守り切れるんだ。
「……ふむ」
「終夜?」
「なら、こういうのはどうだろう?」
「「?」」
思いついた作戦を口に出す。
と言っても、これは作戦と呼べるようなものですらない、シンプルな戦法だが。
「それ、本気で言ってますの?」
「黒木、清白……建岩……」
「……アナタたち。相当無茶言ってるの、自覚ある?」
作戦を聞いた天2のご意見番の皆様の言葉がこちら。
だが。
「贄はできると判断いたします」
「私も賛成! 下手なことするよりそっちの方がいいよ!」
パイロット勢は乗り気だった。
「俺も、このメンバーならできると踏んだ。どうだろう、六牧司令。どうする?」
「ぐぇー、やっぱりここで僕に来るのぉ?」
主要メンバーの意見が分かれたとき、最後の審判は彼に任せることにしている。
なんだかんだ一番客観的で冷静なのは司令だって、そこは信頼しているから。
「うーん、うーーーん」
俺たちみんなの視線を浴びて、必死に必死に頭を捻ってくれる。
今この瞬間、最前線にあっても戦術についてだけじゃなく、政治についてすら考えてくれている。
「「………」」
見回せば、みんなが彼の言葉を待っていた。
「……確認するけど、できるんだよね?」
「できる」
「可能です」
「できると思う!」
「即答か……わかった」
どうやら踏ん切りがついたらしい。
六牧司令は前髪を掻き上げ、珍しく両目を晒しながら宣言する。
「ドッグ1とドッグ3に命じる。君たち二機で、天久佐の壁の最前線の最前線を、守り抜け!」
百乃介「司令の僕が言うのもなんだけど、自分たちから無茶振りするのやめない?」
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