第68話 大義と取引
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天2はいつも通りです? な回。
あれこれあーだこーだ考えながら、水をコップに注いで戻ると。
「「………」」
なんでか俺に、みんなの視線が集中していた。
「黒木」
「あ、ああ」
「八津代か?」
「!?」
佐々君の言葉に、思わず目を見開く。
「聞いたぞ。八津代を取り戻したい、と」
どうやら口に出してしまっていたらしい。
やらかした。
(さすがにこれは、天常さんも真っ青な突拍子のない話すぎるよな)
どうしたものかと、頭をガシガシ掻こうとした――その時だ。
「やはり八津代か。いつ向かう?」
「え?」
「私も同行いたしますわ」
「天常さん」
佐々君どころか、天常さんまで変なことを言い出した。
「現状、芦子北まで海岸線を奪い返せているのですから、内地を刈り取りにかかるのは間違いじゃないと思います」
「そう、ね。海は今、天久佐水軍が対応してくれているから。背後を気にする必要はないと思うわ」
「むしろ宇都側と芦子北側で挟み込めるよねっ。チャンスだよ!」
細川さん、パイセン、清白さんまで賛同してくる。
「……いいのか?」
「いいも何も、この地を奴らから守るのは、私たち隈本御三家にとっては使命ですわよ」
「そうだぞ。黒木。むしろ芦子北を取り戻した時点で八津代の完全奪還は見えていただろう」
「………」
……もう。
一体何度、思い知らされてきただろうか。
(これが……“大義”か)
人類の未来のため。
明日の希望のため。
みんなのために、尽力する。
(本当、ここのみんなはすごいな)
俺には持ち得ないモノを、彼らは持っている。
(さすがは黒木だ! すぐに八津代奪還に動こうとは。唯一無二たるこのボクも負けてられないな!)
(ほんっと、死に急ぎすぎですわ。彼はしっかり注視しませんと、気が抜けませんわね。貴方はこの私、天常輝等羅の華麗なる未来の一助となる民草なのですから!)
(……って、お嬢様は考えていらっしゃるのでしょうね。しっかりとサポートしなくては)
(はぁ~~~~! 黒木くんが強いところ、また特等席で見れる~~! 好き~! 私も頑張って黒木くんに認めてもらわないと! とりあえずハーベストハーベスター獲ればいいかなっ?)
(絶対また無茶するつもりでしょうけど、それならその上でアナタがちゃんと帰ってこれるよう、手を尽くすだけよ。それが、私の望むハッピーエンドなのだから)
無敵の天2と言われるゆえんは、間違いなく彼らの意識の高さがもたらしているに違いない。
俺みたいな我欲でしか生きてないような奴とは根っこからして違うんだよなぁ。
まぁ我欲が悪いとは思ってないが。
いつだって俺の心はプリティラブシンデレラ黒川めばえのためにある!
「そうと決まれば早速作戦立案書をでっちあげますわよ! A組委員長とB組委員長と1番機パイロットと3番機パイロットの共著ですわー!」
「「いぇーい!」」
会議という名のごり押しが決定した瞬間である。
「私はみんなに話を付けてくるわ。ごちそうさま」
パイセンが根回しに行くならまず間違いなく陳情は通るだろう。
「八津代奪還戦、か」
ここをガッツリ成功させれば、神子島戦線への支援ルートもより太くなる。
(いよいよ歴史改変しまくりの、人類大優勢ルートだな)
何ならこの勢いで人類が勝ちまくり。
天久佐撤退戦自体が起こらない世界になって欲しいものである。
いやマジでマジで。
※ ※ ※
「え? 調べて欲しいものがある?」
「はい」
天2独立機動小隊兵舎に新設された、情報処理室。
「ふっふっふ。わたしを頼るその判断や良し。でも、ただじゃーする気はないよん?」
「はい。贄には珠喜様に捧げる対価の用意がございます」
「にゃっふーい! 贄ちゃんってば話がわっかるー!」
二人きり。
人払いの結界すらも使って行われる、秘密の取り引き。
「……って、ぎゃあ! これ、建岩データベースへのアクセスキー?!」
「はい。そちらがあれば、珠喜様の活動の大きな助けになるかと。毎度毎度、建岩の目をかいくぐるのも骨でしょう?」
「いやいやいや! 確かにあると助かるけど! 助かるけどっ! ってかこっそりアクセスしてたの把握されてるーー?!」
「ご安心を。気づいているのは建岩ではなく贄だけです」
とんでもない対価をあっさりと差し出して、建岩の姫が動く。
「うへー。それで、贄ちゃんはいったい何について知りたいの?」
「……調べていただきたいのは、とある言葉についてです」
「言葉ぁ?」
「はい」
彼女の中で、どうしても確信が得られない、不思議な言葉。
世間で語られる意味でも、言葉通りに受け取っても、違いないと思えなかった言葉。
「で、それはなんてーの?」
「はい。その言葉は……“めばえ”。これについて、貴女の能力の許す限り、集められるだけの情報を集めていただきたいのです」
「……へぇ。それはなんだか、面白そうな感じじゃん?」
「お願いできますでしょうか?」
未来への希望の“芽生え”では、ない。
けれど耳に聞くあの“めばえ”には、なにか、深い深い意味がある。
(贄が知らず、世間も知らず。あの方だけが知っている“めばえ”が、きっと……)
それが、とても気になる。
あの人にもっともっと使われるために、知っておかねばならない気がする。
「OK。バッチリ調べておくから、しばらく時間を頂戴な」
「よろしくお願いします」
取り引きは成立した。
彼女なら、自分よりもより深いところまで調べ上げてくれるだろう。
(めばえ……)
頭に思い浮かべたその単語に。
なぜだか薄らぼんやりと、何かの影が見えた気がした。
タマちゃん「……と、とりあえず。建岩家HPのトップ画面、贄ちゃんのグラビアにしておこう」
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