第67話 だいたい3日に1度はこういうことが起こる
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第3部貴重な日常回。
無敵の天2独立機動小隊。
世間様にはそんな感じに俺たちのことを言う人が出てきたそうな。
確かに現状、連戦連勝。
倒した敵は千を越え、守った場所が2桁になったのはいつ頃だったか。
守れば固く、攻めれば強い。
小隊運用を始めてこちら。
俺たちは、史上類を見ない快進撃を繰り返していた。
そんな俺たち天2の日常。
軍学校時代に比べ、大きく変わったかというと……そうでもない。
「おーっほっほっほ! さぁ、お昼ですわよー!」
「「おー!」」
天2独立機動小隊基地。
プレハブ兵舎内……食堂兼調理場。
生憎の曇り空となった屋外を避け、いつメンが集まるその場所で。
「事前に言っておきましたが、本日は皆様お弁当の日! そ・こ・で! 今日は各々作ってきたお弁当を見せ合い、その頂点を決めますわ!! 題して、天2弁当王決定戦!」
今日も今日とて天常さんが。
毎度のごとくのトンチキイベント開催を、突如発表した。
※ ※ ※
秋がちょろっと顔を出してきた、9月末。
お嬢様のバクシン的発想で急遽開催されることとなった、弁当王決定戦!
「さぁ、挑戦者は名乗りを上げなさい!」
ノリは間違いなくトンチキそのものなんだが――。
「――フッ」
生憎と、天2においてそれは日常茶飯事である。
「お前は相変わらず突拍子もない提案をするが……このボクの家事スキルを舐めてもらっちゃ困るぞ、天常! 今日の弁当ももちろん珠玉の作だとも! 自炊できてこそ人を導けるのだと知るがいい! 佐々千代麿、出るぞ!」
「本日のお嬢様のお弁当は、私の手伝いなくご用意していらっしゃいます。お二人とも存分に腕を見せ合ってください。私の下で。……細川渚、エントリーです」
天常さんと日々競い合う仲である佐々君は当然として。
こういう場面で細川さんは外さない。
「お弁当を作ってきてって言われた時点で、こうなることは予想できてたわ……どうせ参加しないと輝等羅が泣きそうな顔になるんでしょう? 九條巡、参加よ」
「だねぇ。でもでも、これはチャンスだよ巡ちゃん! 競うってことは食べ比べるってことだから……! はいはい! 清白帆乃花、参戦します!」
パイセンや清白さんも、このノリにはもう慣れたもの。
そして。
「まぁ、俺もそうなるだろうと手を抜いてきてはいないわけだが……出るからには勝つぞ? 黒木終夜、もちろんエントリーだ!」
かく言う俺も、抜かりなく。
「上等ですわ~~! 皆様まとめて、この天常輝等羅が撫で斬りにして差し上げますわっ!」
なんだかんだと全員参加。
そうしてそれぞれ、作ってきた弁当を机に置き。
「いざ! 解放ですわ!!」
天常さんの号令に合わせ、各々一斉に蓋を開ける。
仁義なき手作り弁当バトルが、ここに開幕した!
・
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「うわわっ、この海老天すっごくふかふかプリップリ! すっごーい!」
「おーっほっほっほ! こちらの煮魚、味がしっかり染みていて大したものですわ!」
「九條様、本日のからし蓮根は甘めに……」
「結構よ」
「……左様ですか」
「黒木! そのサラダドレッシング、まさか自作か!?」
「我が家秘伝の味だな」
「なん……だと……!? も、ものは相談なんだが、このボクの卵焼きとそのシミシミのレタスを交換してはくれないか?」
「いいぞ」
「えっ! 黒木くん黒木くん! 私のから揚げあげるからそれちょうだい! ちょうだい!!」
「……私にも貰える? 照り焼きひと切れ出すわよ」
激しいおかずの奪い合い。
手に汗握る交渉。
舞い踊る箸と箸の演舞。
これこそが仁義なき――。
(――うん。ただのおかず交換会だなこれ!)
おかず交換会だなこれっ!!
「勝負はどこ行ったんだ勝負は」
「おーっほっほっほ。細かいことは言いっこなしですわよ。はい、黒木さんもこちらをどうぞ」
「ありがとう」
天常さんから頂いた海老天をありがたくモシャりつつ、みんなの弁当を眺める。
(天常さんはお重2つのいかにもな豪華弁当……と見せかけて1つは丸ごと海老天という好み爆発弁当。佐々君のは意外にも家庭的でバランスのいい愛妻……優等生弁当か。やはりというか、この中だと細川さんのセンスが抜きん出てるな。料理の腕というかレパートリーの差だ)
弁当箱のサイズから、その中身まで。
なんだかんだと多種多様なおかずが揃っている。
(清白さんの弁当はタンパク質中心って感じのアスリート飯に近い。意外と油に気を使ってそうだ。から揚げ美味い。そんで、面白いのはパイセンだな。最初からおかず交換を想定しての、小ぶりで数を揃えたおにぎりや、照り焼き、野菜も串に刺してあったり工夫してある)
まさにいずれも個性豊かといったラインナップ。
持ち寄った弁当の比べ合いは、いまや楽しい楽しい小宴会といった風情になっている。
「くっ、天常の海老天は……悔しいが一流だ」
「むぐぐ、この高菜ご飯の完璧なバランスは、さすがに私では再現できませんわね……!」
もはやただただみんな、好きなおかずを摘まむ会みたいになったところで。
「あれ? 黒木くん、どこ行くの?」
「水の補給だ」
俺は一人、席を立った。
※ ※ ※
天常印のウォーターサーバー(大阿蘇天然水)からコップに水を注ぎながら、考える。
(それにしても、物があるってのはいいもんだ)
この戦時下において。
上天久佐は前線にありながら、幸いにも物資不足とはほぼ無縁だった。
これは、九洲本土との物流が正しく機能しているということに他ならない。
(九洲南部がほぼ敵の支配域に堕ちて幾年月。八津代以北に敵を寄せ付けないまま戦い続けている先達には、本当に頭が上がらないな)
天常家の潤沢な支援が行き渡っているって点を踏まえても、彼ら守備隊の不断の努力が繋がって、今の上天久佐のインフラが維持されているってのは間違いない。
もちろん、彼らにとってもここが生きてることがイコール補給物資の円滑な供給に繋がるわけだから、持ちつ持たれつではあるんだが。
「……八津代、か」
小説版ハベベだと、物語開始時点での八津代平野は一進一退の激戦区。
そこに小隊となったヒーローたちが参戦し、戦局をひっくり返していくってのが序盤の展開だった。
(そこから天久佐奪還戦や、神子島防衛戦などの激戦を越えて成長し、ヒーローはこないだもらったハーベストハーベスターを授与されるんだったな)
ヒーロー、真白一人が本当にヒーローになるために歩む道。
俺は今、その道を前借りするように敵を狩り、彼に先んじて叙勲した。
その上で……。
「取り戻しとくか、八津代」
俺は俺の望む形で、未来を創っていくと決めた。
(戦いは、ぶっちゃけ九洲全土からハーベストを追い出したところで終わらない。究極的には、この場での陣取り合戦に意味なんてない)
重要なのはヒーローの覚醒と、ラスボスとの決着。
この長い長い戦いを終わらせるには、それが絶対に必要なのだと、俺は知っている。
だから。
(真白一人がハーベストハーベスターを獲るための戦場なんてごまんとある。むしろ、彼が安全にそれを手に入れられるよう、時間いっぱい状況を有利に整えておくことの方が肝要だろう)
準備不足で後手に回って、肝心要の俺の目的が果たせなくなるなんてのは、絶対に嫌だ。
(だったらもう、先手先手で行動しよう)
決めた。
取り戻そう、八津代。
「……あー、みん、な?」
そこでようやっと意識をみんなの方へと向けて、気づく。
「「………」」
なぜか、みんなして黙りこくって、俺のことを見ていた。
大阿蘇天然水:体力・気力回復(小)、次の訓練におけるステ上昇値×1.05
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