第66話 リザルト&勲章授与(n回目)
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シュウヤくんはいつも通り。世界もいつも通り。
「あー、今回の……いや、今回も、だねぇ。今回もその活躍により、君たちの功績を称え、勲章授与を開始する。……うん、おかしいよねぇ。なんで毎度毎度毎度毎度こんなにジャラジャラあるんだろうねぇ?」
「はっはっは、何を異なことを六牧。これは皆が青春を謳歌し魂を燃やした結果、辿り着いた成果だろう?」
「……はぁ~~。揚津見先輩、ほんっと、宿舎の頃とキャラ変わりすぎじゃないですかぁ」
「希望があるんだ。高揚もするさ。さぁ、お前たち、勲章を配るぞ! 並べ並べ!」
芦子北解放戦線の勝利から、2日後。
俺たちの元に、今回の戦いで獲得した戦果に合わせた勲章が届いた。
一戦で一定数の敵ハーベストを倒した者に贈られる“聖銀剣勲章”。
一戦で一定数のマーキングに対処した者に贈られる“探索者勲章”。
類まれなる指揮能力を発揮した者に贈られる“魔術師の杖勲章”。
大作戦への参加者に贈られる“聖従騎士勲章”。
etcetc。
該当する人数も、該当する種類も、破格も破格。
一騎当千の戦士たちと、彼らを支える整備士たちへと配られるそれは。
「僕、“魔術師の杖勲章”貰うのめちゃくちゃ抵抗あるんだけど……」
「お前がケツ持ちしてるから、あいつらが暴れられるんだ。遠慮せずもらっておけ!」
これまで誰一人として成し得なかった奇跡を数多く成し遂げた、その証だった。
「ぐぅぅぅ、今回も“探索者勲章”だけ……! あと1体。あと1体だったのに……!」
「へっへー。“救済の手勲章”までもらっちゃった。あとであの子にお礼の連絡しなきゃね。ついでにデートの約束も」
「ボーナスボーナスっ、臨時ボーナス~♪」
バカみたいな数の勲章を受け取るみんなの反応はさまざま。
もう何回と繰り返してきたこともあり、どこかゆるっとした空気が漂っている。
「ご覧ください。天2の皆さんは今日も笑顔です! おめでとうございまーす」
「「ありがとうございまーす!」」
毎度のように来ている取材陣にすら、緊張感よりほのぼの感が伝播してしまっていた。
それくらい、この光景は天2にとっていつも通りで。
つまりはこの先も、毎度毎度のことであった。
「黒木! 黒木修弥! 並びに建岩命、清白帆乃花!」
「はい」
「こちらに」
「はい!」
立派なお立ち台だった西野君を除いて、呼び出される俺たちパイロット。
そんな俺たちの前に、ドサッと置かれる“聖銀剣勲章”。
「清白は、2つ!」
「はい!」
「建岩と黒木は……6つずつだ。持ってけ」
ザワッ。
お。今回は6つ到達したか。
つまりは1戦で180体の討伐に成功したってわけだ。
(ミサイルぶっぱしたのは計4回。やっぱ3回目の70体巻き込めた奴がデカかったな)
あれは個人的にも会心のポジショニングだった。
ヤタロウの俯瞰視点サポートと、姫様の天才ナビゲートあっての結果だな。
「6倍だよ、やれるか聞いたのは僕だけど、本当にやっちゃうんだもの」
「豪風のスペックならこれくらいやるでしょ」
「あはははは! これほど参考にできない戦闘データもないからね!」
然り然り。
豪風のデータは今の精霊殻じゃなく、後々続く後期型の子らに引き継いで使う物だからな。
やっぱ六牧司令は有能だ。おかげでお仕事丸投げできる。
なんか顔がキュッてなってるけど、今この瞬間も気を抜かないなんてさすがだ。
「絶対碌な事考えてないでしょ……えー、コホン。それと、今日は君に、これを授与する」
「ん?」
六牧司令が、胸ポケットから平べったい小箱を一つ取り出した。
俺の前に差し出して、ゆっくり、やたらと恭しい態度で蓋を開ける。
「え、これは……」
「上天久佐を守ってくれたあの日。その戦果も今回で公式に加算されることになった。そしてそれらを加えた結果……おめでとう。君は世界で3番目の達成者だ」
そこにあったのは、1個の勲章だった。
それは小麦と、それを刈るのだろう鎌が折れている様を示す、一見すると妙ちきりんなデザインの勲章だった。
「え……」
「!」
隣に並んでいた清白さんと姫様が、ピリッと緊張し始めて。
「……なっ!?」
六牧司令の後方に立っている揚津見先生ですら、目を見開く。
「……受け取ってくれるね?」
「………」
そう直接問いかけられた俺ですら、反応するのに少しの時間を要した……それは。
(“刈り取るものを刈り取る者”……世界が認めた人外の証)
この世界の戦士に与えられる最高の栄誉、最大の武力を持つ者の証にして。
500に相当する侵略者を打ち滅ぼした、殲滅者の証。
そして――。
(――俺の知るHVV世界における、トゥルーエンドの開始条件……!)
我が最愛の推しにして永遠の単推しヒロイン黒川めばえを踏み台にする運命に関わることが許される、参加証。
「……!」
鼓動が、自然と早くなる。
見開いた眼差しが、それから外せなくなる。
汗をかき、ごくりと唾を呑んだ。
(これを手にした瞬間から、俺は、この世界の深淵に触れる権利を得る)
この勲章を手にすることで、俺は本当の意味で人外認定される。
ステータスならとっくに人外扱いされてもしょうがないくらいだったが、これはそういうものではない。
(これは……パスポートだ。この勲章を持っていると、人外の領域が俺を受け入れる)
それは神格との出会いだったり。
世界の根幹設定の開示だったり。
この勲章があるがゆえの様々な変化が、この先ハッキリとした形で俺に現れるだろう。
(そう、ここから先は人外魔境。真なる世界が顔を出し、俺へと…………ん?)
いや、ちょっと待て?
神格との出会い?
根幹設定の開示?
「………」
もう、出会ってるし知ってない?
っていうか、すでにバリバリ利用してるしむしろ俺の知識と擦り合わせできてイイ感じになるんじゃない?
ってかてか、まずこれ持ってないとモブポジの俺が推しのことをどうこうするって話にもならなくない?
(あれ?)
もしかして……これって俺には利点しかなくなくなくなくなくなくない?
「さすがに、この勲章を受け取るのには躊躇するんだね。君も」
「いや、問題ないな」
「え?」
ヒョイッ。
っと、勲章をもらって胸につける。
うむ。
別に何が変わったって感じはないが、パスポートなんだしそれもそうか。
「え、そんなあっさり……」
「黒木くん……」
「終夜様……」
まぁ、遅かれ早かれ、だったしな。
「こうなることは、初めから決まっていたんだ」
「「「!!!」」」
こんなに早い段階で手に入るとは思ってなかったけど、手に入れたなら利用しよう。
(未検証だったあのイベントやアイテム開発、いろいろ解放されてやれるようになってるかもしれないしな)
そう考えたら、なんかワクワクしてきたぞ!
「あれが、史上3人目のハーベストハーベスター……」
「ご覧ください。あの泰然自若とした余裕のある立ち姿を! あれが緑の風、若くして人類の希望、その最前線を行く英雄の姿です!」
そうと決まれば、こんな式典とっとと終わらせるに限るな。
未熟な俺には、まだまだやらなきゃいけないことが山積みなんだから。
「あの、黒木修弥君!」
「む……」
げぇーーーーっっ!!
語ろごたったいのお姉さんこと和田英子!
「史上3人目のハーベストハーベスター叙勲者として、何かお言葉をお願いします!」
「………」
くっそ。
面倒なのに捕まった!
やはり現実。
ゲームみたいにスキップもできなければ、予想外の出来事も起きまくりだ。
「言葉……」
「そうです! 感謝や感動、大事な人へのメッセージなどがあれば、ぜひお聞かせください!」
大事な人へのメッセージ、か。
なら、いい機会だ。
とっとと終わらすためにも一つ、ガツンと決めておくか!
「……マイクを」
「はい!」
差し出されたマイクを受け取り、俺はゆっくりと息を吸い、口を開いた。
「めぇばぁえぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「!?!?!?」
あらん限りの思いを込めて、叫ぶ。
「俺はこの勝利を! その先の戦いで得るだろう勝利も! すべての夢も、希望も、すべてをめばえに捧げるっっ!!」
見ているかはわからない。
見られたところで伝わるとも思わない。
だって俺と君は、この世界で言葉を交わすどころか出会ってもいないのだから。
「どれほど絶望の夜が阻もうと! 必ずに俺が晴らして、朝を連れてくる! 夜を終わらせる! それが俺! 黒木終夜だからだ!!」
だからこれは、俺の勝手な宣言みたいなものだ。
「俺にとって今日の出来事なんて通過点に過ぎない! すべては未来のために! めばえのために! この先を作り上げるために……俺は戦い続ける!! だから!」
叫ぶ。
「だから、見ていてくれ! 待っていてくれ! 明日はあると! 信じてくれ!! 必ず俺が……連れてくるから!!」
………。
………………。
「………」
沈黙が重い。
さすがに突然のことで周りを困惑させてしまったようだが、後悔はない。
(だってもう、この世界に絶対はないのだから)
ここは俺の大好きだったメディアミックス作品、ハーベストハーベスターとよく似た現実の世界。
俺の持ちうる知識がどれほど通じるかわからなくて、俺の推しを救うための絶対の道なんてのも存在するかわからない。
そんな世界で信じられるものなんて、二つしかない。
(俺自身の心と、推しを愛する心)
そんな俺の心が信じて、そんな俺を信じてくれる心ある仲間たちとともに。
俺は必ず、黒川めばえを“踏み台型ラスボス少女”の運命から救い出す!!
(そのために俺は、戦って……生き残ってみせる!)
そう遠くない未来にやってくる、決戦の時。
前世の物語において、ネームドモブである黒木修弥が死ぬ戦い。
(……上天久佐撤退戦!!)
それを乗り越え、会いに行く!
「以上だ」
「……あっ、ああっ! ちょ、まっ」
マイクを置き、足早にこの場から去る。
「行っちゃった……。あれが……あれが緑の風、黒木修弥君……」
「芽生え……って本当に叫ぶんだな」
「ああ。だがあんなにも、人類の未来を、希望の芽生えを謡う若者がいるなんて……!」
「もしかしたら、彼こそが……?」
決戦の時は近い。
(錬金技能をまず確認するか、ハベベ獲得でこれまで作れなかったアレが作れるかもしれない。そしたら次に情報技能のプログラミングで……いや、これはいっそタマちゃん任せで、となると試したくなるのは追加の超常技能系か。だったらまずはパイセンに相談して……いや待て、佐々君にアレをやったら整備の質がアレできないか? え、ヤバ。試さざるをえない!)
希望の未来へレディゴーするためにも、今は一時として無駄にしたくはなかった。
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翌日。
魅力にますます磨きのかかる母さんから、俺のことが大々的にニュースになったと聞いた。
が、まぁ3人目のハベベなんだしそうもなるかと、特別気にも留めなかった。
次の次くらいで姫様もハベベ取るだろうし、まだまだ量産する気満々だったから。
それより先にどうするか考えることの方が、今の俺にはよっぽど大事だった。
次章、ちょっとは日常もやります。
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