第59話 そして、俺たちは兵士になった。
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彼の判断、彼の希望。
「皆様、初めまして。既にご存じの皆様は、改めまして。贄は本日より、天2軍学校精霊殻3番機のパイロット候補生として、戦士養成Aクラスに編入いたします。建岩命と申します。隈本御三家がひとつ、建岩家に属する者として、皆様のお力となれるよう尽力する所存です。何卒よろしくお願い申し上げます」
そういって深々と頭を下げる、巫衣装の美少女。
彼女の完璧な所作からくる優雅さは、朝礼に並んだ誰しもを魅了した。
ただ一人、考え事をしていた俺を除いて。
(俺の判断は、正しかったのだろうか……?)
もう昨日のことになった、建岩の姫とのひと立ち合い。
姫様の語った理屈に納得し、俺は彼女が天2に残ることを許容した。
(今の姫様は間違いなく、建岩の意思に従って動いている状態だ。だが、そのステータスは俺の知ってる原作の姫様とは似ても似つかない、すでに完成された状態になっていた)
運動力・知力・魅力・感応力、それらすべてが1200オーバーのSSS。
体力・気力においては2000に迫る1500オーバーのEXだ。
(この能力値を天2で俺らが開催したスポーツテスト以降の短い期間で仕上げてきたってんだから、天才技能レベル3ってのはマジで化け物だよなぁ……)
天才技能。
ゲーム版HVVでは、他の技能レベルの代替として機能する技能だった。
この技能レベルが1あれば、俺が必死こいて培った技能のほとんどをレベル1で所持しているのと同義となる。
ランダムな技能伝授でこの技能を貰えりゃ時短になるからと、多くのプレイヤーが彼女と仲良くするってのが定石になるくらいのチート技能。
結果、自然とメインのトゥルールートに行きやすくなるってのが、製作スタッフの巧みさが光る仕組みだと思う。
小説版においても彼女の天才っぷりは遺憾なく発揮されており、技能の代替という枠を超えた活躍ぶりを見せている。
そんなぶっとびチート能力が、この世界の彼女にも備わっているのは間違いなさそうだった。
まぁつまり……。
(姫様が自分のためにその力を使い始めたら、マジで俺じゃ手が付けられねぇ!!)
そうなったら最後。
俺のニューワールドジェネシックゴッデスめばえちゃん救済計画なんて塵のように消し飛ばされてしまうのだ。
(すでにこの世界は原作HVVから大きくズレてしまってる。天2軍学校という枠ひとつ分ならまだしも、建岩の姫が来てしまってる現状はもう、言い訳しようがない)
しかもそれは、俺が撒いて俺が回収してしまったやらかしの結果だ。
だが、過ぎたことだ。どれだけ泣こうが喚こうが、取り返すことはもうできない。
考えなきゃいけないのはこれからの未来。
(建岩家が俺をヒーローだと思って、姫様を天2軍学校に入学させてきた。今、姫様は手元にいる。これをむしろチャンスだと思え)
そう、ピンチはチャンスって奴だ。
そして受け入れさえしてしまえば、存外悪くない状況なのではと思う。
(今の天2には隈本御三家が勢揃いしている。つまりこここそが力の集積地。この先の未来を創っていくベースポイントとして最良の場所になったともいえる)
姫様が自分のことを贄だと言っている内はまだ大丈夫。
彼女の建岩ムーブは真白一人級のストライクっぷりを決めない限り崩れないだろう。
ヒーロー疑いされている俺がその辺気をつけて動けば、まだいくらでも御せる……はず。
そう。
姫様の一人称を贄から私にしないために必要なこと、それは……!
(彼女を徹底的に道具扱いして使い倒す! コレだ!)
人扱いせず、世界を救うための道具として使う。
これは他の建岩家とその関係者たちがやってきたことと同じだ。
そうやって無垢な彼女の情緒を育てなければ、意思など生まれようもない。
悪鬼羅刹の如き結論だが、っていうかパイセンあたりが気づいたらめっちゃ怒りそうな奴だが、そうしなければ世界がヤバい。
せめて彼女を道具としては、その時が来るまでどこまでもどこまでも大切にしよう。
……イケる、イケるぞ!
こう考えれば彼女の高いスペックもめちゃくちゃ便利だ!
しかも最新鋭精霊殻の豪風だって持ってきてくれた!
(そうして人類優勢でなるべく状況を進めて、隈8小隊が結成される時間軸まで進めれば、きっとなんとかなる!)
なぜなら俺は、知っているから。
(真白一人は……本物のヒーローだから!)
小説版HVVにおいて、とある人物が彼を評してこう言った。
“彼は、真白一人は。たとえどんな世界であってもきっと、誰かを守るために立ち上がる”
たとえその身が傷を負い死が迫っていたとしても。
たとえその手に箸の1本しか武器を持っていなくとも。
“その背に守るべき何かがある限り、彼は諦めず立ち上がり、目の前の敵へと挑む”
それが、真白一人という人間。
そして、そんな彼だからこそ……世界は彼をヒーローにするのだ。
(それに最悪、マジで帰れって言ったら従ってくれるだろうしな。姫様は)
精霊契約とも繋がりが深い建岩家は、約定を守ることに関しては信頼できる。
しっかりと釘を刺せている以上、これ以上の変なことにはならない……はずだ。
「はい! 建岩さんに質問です!」
ともあれ今はまず、様子見しよう。
状況が激しく動きすぎてて、いろいろと掌握しきれていないのが現状だ。
まずはタマちゃんと連携してネットから――。
「黒木くんが建岩さんを姫様って呼んでて、大事な存在だから守ってやって欲しいって私にお願いしてきたんだけど、建岩さんに心当たりはありますか?!」
ザワッ。
不意に出た、清白さんからの質問。
それは、先日俺が言い含めた言葉を拾った問いかけで。
「………」
「………」
見れば清白さんと姫様が見つめ合っている。
あ、姫様がチラッとこっち見た……ってなんだその顔は、虚無か?
「……そうですか」
視線を戻した姫様は、しばし考えるしぐさを見せてから、うんと頷き口を開いた。
「贄は、建岩の名の元に、彼の方に仕え、世界の明日のために身も心も尽くす所存です。それが、ひいては世界を助ける最善手だと確信しております」
「!?!?!?」
「そう。今、贄のこの身は……すべて、終夜様のためにあります」
「な、な、なーーーーーっ!?」
ザワザワザワッ。
「これ、つまりどういうこと?」
「わからん。建岩の姫と黒木の奴が知り合いだった的な?」
「いやいや違うでしょ。宣戦布告でしょ!」
「なんの?」
「アレに決まってんじゃん! アレ! 女の戦い!」
にわかに騒ぎ出した天2のみんな。
しかし、俺は知っている。
(姫様のこういった突拍子もない言動は、彼女の世間知らずと建岩の意思で出力されてるんだ)
だから俺に尽くすってのは建岩の考えるヒーローに尽くすって意味でしかないし、そこに宣戦布告なんて喧嘩売ってる要素はない。
ただこの独特の物言いが酷い、不思議ちゃんなだけなんだ。
「くくくく黒木くん! つまり、これってどういう……!」
「大したことじゃない。精々俺の役に立ってもらう、そういうことだ」
「どういうことーーーー!?!?」
大切なのは、適切な距離感。
「えっと、えっと。つまり、建岩さんが尽くして、黒木くんはそれを受けているだけ……ってこと、なのかな?」
「その認識で間違いございません、清白様」
「あ、それでいいんだ? ……そっか、そっか! じゃあ! 負けないよ! 建岩さん……ううん、命ちゃん!」
「はい」
ザワワッ!
二人のやり取りに、周囲がいちいちざわついて騒がしい。
「これは私からの宣戦布告! だから、命ちゃんも私のことを帆乃花って呼んでいいからね!」
「了解しました。清白様」
「なんでぇー?!」
華がある子らのやり取りって、結構目立つんだな。
会話も噛み合ってるみたいだし、二人は意外と相性がいい感じなのかもな。
「くぅっ。ま、負けないよっ! 巡ちゃんだって負けないから!」
「ちょっ、どうして私を巻き込むのよ!?」
「はい。光栄に存じます。現人神様。いえ、精霊合神まじかるー」
「待ちなさい! ちょっと向こうで話をしましょう!」
やんややんやと、結局は。
いつもの天2のペースになっていく。
(もういっそ、明日になったらめばえちゃんがスッて天2にお出しされる流れとかにならねぇかなぁ!! マジで!!!)
なんて、叶わぬ夢を思いつつ。
こうして俺たちの日常に、新しい仲間が加わ――。
「――はい、ちゅうも~く!」
パンッ!
っと、誰かが大きく手を叩いた。
「……実は、僕からみんなに連絡しなきゃいけないことがあってねぇ」
音のした方へ目を向けると、そこには六牧司令が立っていた。
「……こほん」
彼は続けて咳をひとつ吐き。
静かに姿勢を正し、胸を張り。
「傾聴!!」
これまで聞いたこともないような鋭い声で、俺たちに呼びかけた。
「現時刻をもって、上天久佐第2軍学校の全生徒を卒業したものとみなし、明日からは正式な軍属として活動を開始する!!」
シャンと背筋を伸ばした司令が、その手に取り出し掲げるのは……一枚の紙。
それは日ノ本防衛大臣からの、実印が打たれた由緒正しき命令書。
俺たちみんなをまとめて卒業させる、卒業証書。
「予定より1週間早く、そして突然の卒業となったが、キミたちの実力はもはや一線級のどの小隊にも劣らないと上からのお墨付きだ。もう十分青春も楽しんだだろう? そんな実力者たちを遊ばせるわけにはいかないという判断だ」
「!?」
続く言葉に、聞き捨てならないフレーズがあった。
俺はまさかと思って、彼女の方を見た。
「………」
その人物は俺の視線に気がつくと。
にこっ。
それはそれは美しい所作で、無垢な微笑みを浮かべてみせる。
(……マジか)
愕然とした。
彼女が……建岩命がこの小隊にいることの意味を、今この瞬間否応なく思い知らされた。
(小隊結成時期の加速イベント……ここでも起きるのかぁーーーーー!!!)
原作ゲームじゃ大いに利用していた、戦場への早いエントリー。
いざ現実に目の当たりにして、ただただその衝撃のデカさに慄くしかない。
「軍属となっても拠点はここのまま。これからは学校ではなく基地として、この場所を使用する。この先ここでどう過ごすかはキミらに任せよう。ただ、これからは突然の出撃命令もあるということを、努々忘れないように。キミたちはもう、この国を守る兵士なのだから」
そして。
この日を境に、俺たちは生徒から兵士になったのである。
次回は建岩命の視点です。
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