第56話 彼女がここに来た理由
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六牧司令に直☆談☆判!
天2軍学校、司令室。
教室や保健室などがあるプレハブとは別に用意された、ワンルームのプレハブ小屋で。
「むりむりむりむりむ~~~~りぃ~~~~!!」
俺からの切なる陳情を、六牧司令は情け容赦なく切り捨てた。
「普通に考えて僕にそんな権限あると思うかい? 一介の中間管理職が、建岩最大のブラックボックスである建岩の姫様のご動向に対して意見できるとでも?」
「そこをなんとかっ! 俺と司令の仲だろう?」
「は~い、脅迫禁止。禁止ぃ~。どうあっても、少なくとも今すぐに彼女をこの小隊から追い出してくれなんてお願いは聞けませ~ん」
「そ、そんな……」
あまりに残酷な言葉に、俺は絶望に震えて悲しみの涙を――。
「――その程度の泣き真似がわからないほど無能じゃあないよ?」
「チッ」
楽しい茶番はここまでにしておく。
「……で、実際なんでまた彼女がこの時期にここに来たんだ?」
「それが教えてもらえる立場だったらもうちょっと話も楽なんだろうけどねぇ~」
執務机に寄りかかりつつ、大量の書類を捌く六牧司令に圧をかける。
そんな俺の態度を迷惑そうにしつつも振り払ったりはせず、彼は言葉を続けた。
「僕が知り得る範囲の情報からの推論になるけどいいかい?」
「頼んだ」
「……多分、だけど。彼らは最新の神話がここで成ることを望んでいるんだ」
「愛と勇気で敵を刈り守る者の?」
「うん。それだねぇ」
「バカな話だ」
建岩家、マジで致命的失敗してやがる。
ここにはヒーローなんて、いないってのに。
「神話の完成ったって、ヒーローもなしにヒロインだけで、どうしようっていうんだろうな」
「うん、うん?」
「ヒーローってのはいるだけでみんなの希望になるような、絶対的な象徴だ。それはただの人から生まれ出て、世界を救う覚悟を持って、迷わずみんなの矢面に立つような奴なんだ」
「うん……それで?」
「そんな奴がこの小隊にいるのか? いないよなって話だ」
「……これ、本気でそう思ってるんだろうなぁ」
強いてあげるなら天常さんだが、彼女はヒーローってよりは女帝って感じだよな。
実際問題彼女のヒーロー性は史実的には否定されているし、そもそも彼女については建岩家も間違いなくマークして判断してただろうから、ここで彼女が選ばれるって線はないはず。
「……マジで建岩家、どうかしてるとしか思えないな」
「そ~だねぇ」
なんか妙に疲れた感じに六牧司令がなってるが、これも仕方ないだろう。
日頃の激務マジでお疲れ様です。
「ともかく、だよ。黒木君」
「うい」
「建岩のお姫様はこの部隊に配属された。それが建岩家の総意なのは間違いない。そしておそらくだが、彼女は君に強く関心を持って接触してくるだろう」
「……どうして?」
「………………“精霊拳”」
「あ」
あ~~~~~!!
「少なくともアレは、建岩の秘奥のひとつだ。君がどういう経緯であのコマンドを知り、扱えたのかはわからないけど、それを知っている以上彼女は君に近づいてくる。だから、精々気をつけることだね」
「……わかった」
「まぁ、もう今更この小隊で何が起ころうとも、僕は御せるなんて思ってないけどさ」
せめて最後は丸く収まって欲しい。
そうため息とともに吐き出した六牧司令に礼を言い、俺は司令室をあとにした。
※ ※ ※
「そうか、精霊拳か。これは盲点だったな……」
炎天下の中えっちらおっちら歩きながら、俺は自分のやらかしを反省していた。
(精霊拳ってゲーム版と小説版で扱いが違うんだよなぁ。マジでこれは見落としだ)
精霊拳。
精霊と契約した資格ある者が放つことを許される特殊な武技。
ゲーム版HVVにおいては隠しコマンドのひとつで、精霊契約すれば使えるようになる、体力気力消費の必殺技。
小説版においては建岩の秘奥のひとつであり、ヒーローがヒロインから教わる技となる。
「してやられた……」
おかげで俺は、建岩の秘奥を謎に扱う謎のパイロット扱いされてしまってるってわけだ。
そのせいで建岩の姫がここに派遣され、俺に接触するよう命じられた、と。
「……そもそもあの特別演習自体が、建岩の策だったもんなぁ」
イフリートと戦わされた、春の緊急特別軍事演習。
あれは建岩家が持つハーベストの知識を使って用意された、戦いの舞台だった。
(最終的な人類救済のためならその過程の犠牲をいとわない、なりふり構ってられない状態からお出しされるぶっ飛んだ作戦は、原作も史実も問わずポンポンお出しされてるからなぁ)
めちゃくちゃやって来る相手だから、俺もめちゃくちゃし返した。
その結果、俺はいわゆる……“ヒーロー疑い”という存在になってしまったワケだ。
「マズいな。これは非常にマズい」
あまりにも酷い勘違いをされてしまっている。
このままではヒロインが本物のヒーローと出会えず、世界を救うことができなくなる。
「って言っても、変に俺の素性を明かしたところで、また捻じ曲がって伝わりそうだからなぁ」
理性的なパイセンと違って、相手はマジもんのオカルト集団だ。
そんな奴らに俺の転生について語ろうものなら、どんなぶっ飛んだ理屈をつけられて祭り上げられるかわかったもんじゃない。
そうなれば俺が、オールタイムマキシマムラバー黒川めばえちゃんのために生きることができなくなってしまう。
そんな事態はマ~ジ~でっ、御免被る!!
「……なーんて、言ってもな」
市街地に続く坂に入ったところで足を止め、空を見上げる。
真夏の空はどこまでも青く、濃く、じっとりと重い。
「……わかっちゃいるんだ。わかっちゃ、な」
ひとり呟く言葉は、他でもない自分自身に言い聞かせるように言ったモノ。
「呑み込まないといけない。これは、そういうものなんだ」
この世界はゲームじゃない。
そんな世界で俺が今日までやってきた行動は異端で、きっと、俺の想像を遥かに超えて派手に伝わっている。
ゲームじゃ敵を500倒すのも1000倒すのも同じだが、この世界では違うんだ。
(その結果、俺こそがヒーローって勘違いする奴が出てくるのも、それはしょうがないことなんだ)
それが現実。
それが俺の積み上げてきたモノの結果。
(いい加減認めよう。俺は……もうモブじゃあない)
知識を持って転生して。
鍛えて鍛えて鍛え上げて。
仲間を、人脈を繋いできた。
ちゃんとこの手に、力を手に入れた存在なんだ、と。
(……それでも)
俺は、知っている。
この世界を救うためには本物のヒーローと、それを支えるヒロインの力が必要なのだと。
こればっかりは、俺の力じゃどうすることもできない。
俺はヒーローじゃないし、ヒーローにはなれない。
このまま建岩家がガチで俺をヒーロー認定したならば、その瞬間。
人類の敗北が確定する。
(このままじゃまずい。なんとかその誤解を解いて、未来に繋げないといけないんだ)
自分が作ってしまった毒入りスープ。
それを嫌でも平らげて、その上で次善の手を考える。
最低でもそうしなければ、推しの幸せな未来どころか、人類そのものに明日がない。
そのくらい、今この状況は……危うい。
・
・
・
「ともかく、今はどうにか姫様を御して……できれば彼女の意思で、穏便に帰る選択をしてもらう他に道は」
「終夜様!」
「はい終夜ですよ」
呼ばれた方に振り向くと、ニコニコ笑顔の姫様が、ちょうど坂道を下って俺のあとを追いかけていらっしゃった。
「学校の敷地を出てどちらへ向かわれるのですか? その……お嫌でなければ、贄にお供をさせてください」
「……わかった」
ちょうどいい。
この状況を打破するためには、良くも悪くも姫様と向き合わないといけないからな。
そう、自分を納得させてから告げる。
「そこの浜辺に行こうと思ってたんだ。いいか?」
今にも逃げだしてしまいそうな、自分の足を叱咤して。
「はい。贄は貴方様とともに」
こうして。
俺たち二人は連れ立って、天2軍学校がある丘の下の浜辺へと、足を向けたのだった。
帆乃花「ぽへぇ……」(真っ白)
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