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第51話 九條巡の見た奇跡

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


今回は九條巡の視点です。

 備品。

 それが私という個人に与えられた役割だった。


 戦場で使い潰されるために作られた、人工偶像。

 戦士たちに同調し、鼓舞し、死地へと送り出すのが私の、私たちの役目だった。


 九條シリーズの第三世代、九條巡(くじょうめぐる)

 この名の通りいくつもの戦場を巡って、私は自分を擦り減らしていった。


 1年、2年……。

 無垢だった私も学習する。


 どうすれば戦士たちを効率よく奮い立たせ、どう振る舞えば彼らを前線へと誘えるのか。


 次々と機能を停止していく姉妹たちをよそに。

 私は一人倍多くの勇敢な戦士たちを殺し、生き延び続けた。


 それが役割で、それが仕事で。

 気づけば8年の歳月が過ぎ、私はお役御免になった。



「ここまで生き延びた貴重なサンプルを、みすみす天常なんぞにくれてやるのか!?」

「だがそうしなければ、あいつは金で報道を動かすぞ!」

「俗物め!」


 研究所(ラボ)に戻った私は、どういうわけだかまた日の目を見ることになった。

 人道的見地とかいうワケのわからないもののために、私は置物という役目を与えられたのだ。



「………」


 天2軍学校特別カウンセラー。

 とある新設の軍学校の狭いカウンセリング室に設置され、くだらない相談に応える日々。


 正直、この時の私は擦り切れすぎていて。


(なんで終わらせてくれなかったの……?)


 なんて、斜に構えていた。



(どうせ遠くない内に機能停止して、すべては無に還るっていうのに……)


 使い潰され済の壊れた備品に、いまさら何があるのか。


 そんな当たり前の事実。

 何がどうあっても覆されることなんて、ありはしないと思ってた。


 それなのに――。




『とりあえず、体力と気力をSに上げるまで一緒に訓練しよっか。パイセンっ』



 何一つとして始まらないはずの物語が、こんなにもあっさり始まるだなんて。



『……なんかあっても俺が全部ぶっ飛ばしてくるんで、お任せあれ!』



 そんなの、誰が想像できたっていうの?


   ・


   ・


   ・


 青春。

 それは死地へと向かう戦士たちが、いろいろな表情で口にした言葉だった。


 楽しげに、悲しげに、懐かしげに、忌々しげに。


 それぞれに思う心がそこにはあって、それぞれに積み重ねた何かもそこにあった。


『文化祭! 派手に大暴れしてさー!』

『俺が学生だった頃はなぁ、クラス対抗スポーツ大会がマジで面倒臭かったんだよ』

『テスト勉強を友達の家でやるんだが、全然捗らないのなんのって!』

『修学旅行、わいわいするの、好き……』


 誰も彼もが違った物を見て、聞いて。

 けれども全員、大切な何かをそこで手に入れている。



「青春……」

「そ、青春! キミも、戦いが落ち着いたらできるといいね!」


 無邪気な誰かが遺した言葉。

 その人は次の戦いで死んでしまったけれど。


 でも、その人の言葉は今も、私の中で生きている。


 それこそを思い出にして私は終わる……はずだったのに。



「九條、すまないが一緒に黒木を止めてくれないか?」

「うわーーー! また出たんだ! 妖怪囁き男が!」

「そうですか。九條様はからし蓮根、ダメでしたか。そうですか……」

「HEY、備品ちゃん! いいえ、巡パイセン! またアナタの見た精霊さんのお話聞かせてくださいな?」

「ひぁっ!? こ、これはちがうのパイセン! この画像はあくまで自分用でぇ、ネットにアップしたりなんかは……あ゛あ゛あ゛ーー!」

「それでねそれでね。黒木くんがね。それで黒木くんが、そして黒木くんが……」

「カラオケ3連! 参りますわ! 精霊にすら届く私の美声に、酔いしれなさいませっ!」


 気づけばこんなにもたくさんの青春が、私の記憶に刻まれていて。


「パイセン! 神社行こう!」

「パイセンパイセン! もっと鍛えておこうぜ!」

「パイセーン! ご要望のタピオカミルクティーでございます!」

「う゛お゛あ゛あ゛あ゛あ゛~~~~~~~~~~~!!!! パイセェ~~~~ン!!」

「パイセン!」

「パイセン……!!」


 こんな。

 くだらなくも楽しい日常が、あまりにも色濃く、私の中を埋め尽くしていた。



『存外シュウヤとの思い出が多めじゃな?』


「ひやぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?」



 意識が急速に覚醒する。


「!? ……? …………っ!?!?」

『ほっほっほ。あいや済まぬ。わらわこういうの超好きじゃったから、つい』


 気づけば真っ白い空間の中。

 田鶴原(たづはら)様と、二人きりになっていた。



      ※      ※      ※



「あの、田鶴原様」

『なんじゃ?』

「ここは一体……?」

『ふぅむ。そうじゃな。繋がったわらわとお主の心が作り出した異空間……と言ったところじゃな』


 異空間。

 思わずきょろきょろと辺りを見回す。


『大丈夫。心配せんでもシュウヤは外でのんびり待っておるよ』

「なっ!?」

『ゆるりと過ごせ。あやつはすべて承知でここにお主を連れてきたのじゃから』

「ぁ、う……」


 正直。

 何が何やらさっぱりわからなくて困惑する。


 アイツ。私が驚かされたり振り回されたりするの好きだと思ってる節があるのよね。

 確かに嫌いじゃないけれど、だからといって、こういう状況を楽しめるほど心の余裕はないのよ!?


『うむうむ。想い想われは素晴らしいな!』

「なっ、違……!」

『違わん違わん。互いに好ましく思っておらねば、このような奇跡は起こさんじゃろう』

「くっ、ぅ。奇跡……」


 ……そう、奇跡。

 これは間違いなく奇跡。


(伝承に語られる神格。そんな想像を絶する存在が、今。私の目の前にいる……)


 一目でわかる神の威容。

 触れずともわかる存在の圧。


『落ち着いたか? ならば本題に入ろう』


 奇跡の存在が、私に語り掛けてくる。



『九條巡。お主、わらわと契約せぬか?』

「え……?」

『精霊契約。わらわと結ばぬかと言っておる』

「え……?」


 突然のことにポカンとしてしまう。

 神格と私が、精霊契約する?


『常より儚きお主の生に、わらわから与えられる選択肢。それがわらわとの精霊契約じゃ』

「どういうこと、でしょうか?」

『あぁ、堅苦しい口を利かずともよい。シュウヤのようにタメ口で頼む。なに、難しい話ではない。その身に神格たるわらわの力を宿すことで、その身に定められた宿命を消し飛ばしてやろうというだけのことじゃ』


 それって、つまり……。


『わらわの力、即ち神の力を以って、その身を現人神(あらひとがみ)へと変えてやろう。さすればお主の命脈は長く太くなり、望めば幾百の時すら超えて生き永らえさせてやるのじゃ』

「!?!?」


 人の寿命……どころじゃなかった。


(この方と、神と契約すれば、私は……もっと)



『……さぁ、選べ。九條巡! わらわと契約するか、否か!』

「!?」


 差し伸べられた手は、ゾッとするくらい美しくて。

 けれどその手は、ビックリするくらいに私に対して無関心で。


『そうじゃ。あくまで選ぶのはお主じゃ』


 女神様はどこまでも優しく、よく見る誰かと同じような顔で、微笑んでいた。



「私。わたし、は……」


 与えられた時間を存分に使って、考える。


(多分これは、私の人生どころか……きっと、世界にすら影響が出るくらいの、選択だわ)


 この手を取れば私は九條シリーズの呪縛を解かれ、どころか人間という枠から完全に外れた存在に成り代わる。

 その結果、私は限界を超え、これから先の未来を手に入れることができる。


(彼が、終夜が私にくれた……選択の機会)


 ちらっと見ただけでもわかる、容易ではない準備の果ての、ワンチャンス。

 この機会を逃したら、恐らく私に……次はない。



(考えるべきはきっと、世界がどうのじゃなくて……私がどうしたいか、なのよね)


 終夜はいつか、この世界が自分の知る創作物とほぼ同じだと言っていた。


 ならばきっと、この奇跡の瞬間も、そしておそらくその先で、世界に与える影響も。

 彼はすべてを承知の上で、私をここに連れてきた。


(好きに選んでいいって、ことなのよね?)


 この手を取って生き永らえるのも。

 この手を拒んで死に絶えるのも。


 ただただ私の心ひとつで選んでいいのだと、彼はそう言っている。



「だったら……」


 胸の内を駆け抜ける想いをグッと、握りしめて。


『ほう? その顔、その決意。どうやら答えは決まったようじゃな?』


 私は真っ直ぐに田鶴原様を見上げて、告げる。



「……はい。私の、答えは――!」



 その答えを聞いて。



『よろしい! その望み、田鶴原(たづはら)若比咩神(わかひめのかみ)の名において、叶えてやろう!』



 女神様は、たいそう笑顔でお喜びになられた。


 次の瞬間。


「!?」


 真っ白かった空間にたくさんの緑の燐光が舞って。


「キレイ……――」


 それらがまるで、私の選択を祝福してくれているかのように感じながら……私の意識は溶け消えていった。




      ※      ※      ※



「ん……」


 目覚めると、辺りは再び緑の泉と鎮守の森になっていた。


「お、パイセン起動!」

「んん、しゅうや?」


 呼びかけに答えようとしたら、妙に疲れた口からつい甘ったるい声が出て。


「っ!?!?」

「ははっ、お疲れ様」


 慌てて口を塞いだ姿を、彼に見られて笑われた。



「~~~~っ!!」

「大丈夫大丈夫! 神様と同調して立ってられるだけでもすごいって!」


 神様と言われてハッとなり、周囲を見回す。

 けれど。


「……いない?」


 田鶴原様の姿は、もうどこにも見当たらなかった。



「……私、は」

「選択、ちゃんとしたみたいだな。パイセン?」


 せめてお礼くらいは伝えたかったのだけど、今は彼と話がしたくて。


「えぇ、ちゃんと選んだわ」

「見ればわかるよ」


 真っ直ぐにこっちを見てくる視線に応えたくて、私も彼を見上げる。



「その、えっと……終夜」

「ん?」


 勇気を振り絞る。


「私、私ね……」

「なんだ?」

「……感謝、してるのよ。アナタに」


 お腹に力を入れて、ようやくそれを吐き出せた。



「私、これからも生きるわ。だから田鶴原様と精霊契約を結んだの」

「うん」

「現人神っていうのになって、私はこれから、この姿で何年も生きるのよ」

「知ってる」

「それで、その、私。見守りたいの……この世界の行く末を。そして――」


 ずっと、胸の内に秘めていたもの。


「――知りたいの。私の……妹たちの未来を……!」


 もしもが、もしも叶うならと思っていたものを。



「だから、その……」


 その勢いのままに、伝えてしまう。


「私のことを、アナタに見守っていて欲しいの。私の行く未来を、これまでと同じように」


 タイムリミットがなくなったから。

 もう少しだけ、欲張りになってよくなったから。



「一緒に、これからも……アナタと青春しながら!」



 言い切った。


 彼は――。



「――もちろん。ばちくそハッピーエンドまで持っていこうぜ、パイセン!」



 いつも通りの眩しい笑顔で。

 誰よりも何よりも頼もしい微笑みで、応えてくれた。



「これからも頼りにさせてもらうぜ、パイセン!」

「私にできることは相変わらず多くはないと思うけど、私にできることならこれからは……頑張ってみるわ」


 そう。

 これからの私には未来がある。


 時間が使えるなら、鍛え直すことも、より大きな力を育むことだってできるはず。



(正直に言って、今の私は無敵かもしれないわ。だってこんなにも、身の内から力が溢れ出ているんだもの……!)


 もしかしたらこれこそが、田鶴原様から賜った力なのかもしれない。

 今なら私も、戦場に立って戦えるかもしれない。


 みんなを送り出すだけじゃなくて、私もみんなと一緒に……彼と一緒に……。



「マジで頼りにさせてもらうぜ。パイセン。それに、()()()()()()()

「……ん?」


 似合っている?


「こうしてリアルで見ると、マジ物の神々しさとか感じちゃうよな。さすがは現人神フォーム」

「フォーム?」

「ん?」

「ん?」


 ん?



「終夜。アナタ何を言って……」


 チカッ。チカッ。


「!? 月明かりが泉に反射して……」


 ………。


 …………………………。


「……え?」


 水面に映る、自分の姿を見る。



「な、な、な……」

「マジでよく似合ってるぜ。パイセン。“精霊合神(せいれいがっしん)”」

「なぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?!?」


 そこには。

 羽衣を纏った魔法少女然とした、自分の姿があった。

田鶴原様「衣装イメージは和風系……あれじゃ、どこぞの勇者の満〇形態みたいな奴じゃ」


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
 善き哉!
[一言] パイセン和風魔法少女になるwww それはそれとして「私の事を見守っていてほしい」なんて告白して「もちろん」なんてオッケー的な返事をもらっていますが実はシュウヤ的には友情エンド達成的な温度差よ…
[良い点] ヤバいな、寿命伸ばしてからもガンガン辱めていてくスタイル。
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