第50話 パイセンと行く、隈本神社巡り
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パイセンとデート回。
上天久佐市羽矢乃町、上八幡宮。
市内を通る動脈――天久佐パールラインを外れ、居住区画へと続く細道に入ると、すぐにその特徴的な大曲がりの長い参道に気づくだろう。
道なりに進みほどよく足腰を責め立てる階段を上れば、神仏習合時代を思わせる楼門と、よく管理された境内、そして小規模簡潔ながらも堂々たる本殿が俺たちを迎えてくれる。
軍神として知られる八幡神を祀るこの場所は、ハーベストとの長きに渡る戦いの日々の中、近隣住民の心の拠り所の一つとして機能する要の地。
同時に俺にとっては大事な大事な――2つの技能を育てる修行地だった。
「……ってことでパイセン。ここで同調技能と幻視技能を3にしよう」
夕暮れ。逢魔が時。
梅雨も明けた7月の半ば。
黄昏の空に暗く染まる境内に、俺とパイセンは二人でやってきている。
「ぜ、ぜっ……アナタが何度も私をここに誘ってた理由、もしかして、それ?」
「その通り。パイセンの寿命を限界突破させるための、前提条件だったからな!」
「…………はぁ~~~~っ」
辛い階段上りだけで出たとは思えない、長い長いパイセンのため息。
「ほん、とっ! アナタは……」
「?」
なんか知らんがめちゃくちゃ呆れられてしまったらしい。
が、今はそんなことより技能上げだ!
「さ、パイセン! ちゃっちゃか心の目を開いちまおう」
「……わかったわよ。ほんと、ほんと……はぁ」
事前に伝えておいたやり方で、パイセンが静かに祈りを捧げ始める。
ここで行なうのは軍神様との交信……ではなく、この地に集まる精霊たちを感じ取る訓練。
土地の力と同調し、まずはその身で、素肌で、それらを強く感じられるようになってもらう。
「大丈夫。パイセンはすでに同調も幻視もレベル2あるし、すぐマスターできるぜ!」
「はいはい、いいから黙ってなさい。集中するから」
しっしと手で払われて、身を引く。
俺は俺で意識を集中させ、周辺の精霊たちにパイセンを手伝うようにお願いし始める。
(一緒に訓練することで起こる、技能の伝授。この世界でもしっかり機能してくれよ?)
このHVV世界を現実として受け止めたからには、この先の未来に絶対はない。
俺の持つ前世の知識と違っていることや、間違いに気づくこともあるだろう。
だが、それらを活用し少しでも有利に動けるよう考えることは、やめない。
(攻略本のデータも、掲示板の公式Q&Aや数々の有志たちによる考察も。小説版も漫画版もアニメ版も映画版もスピンオフもアンソロジーも、歴史年表も公式キャラブックもキャラソンアルバムもご当地コラボグルメもグラビアも、覚えてる範囲なら二次創作のネタだって! 使えそうなモノなら何だって使ってやる!!)
これまでとやる事、考え方の基本はほとんど変わらない。
いつだって力は必要で、俺の持つこの知識も、等しくその力なのだから。
ただ前よりもほんの少しだけ、今が今しかないってことを、意識するだけだ。
(神様仏様精霊様。どうか俺に、パイセンに、力を貸してください)
決意を新たに、俺も気合を入れて祈りを捧げる。
と。
「……あ」
ポゥッ、と。
パイセンの体が淡い光に包まれる。
それは彼女の同調技能が極まり、レベル3へと至った証だった。
※ ※ ※
暗い暗い山道を、バイクをドルドル掻き鳴らして駆けていく。
深夜0時を過ぎたこの道は、前世だったら物流トラックがバカスカ走ってそうだと思ったが、戦時も戦時なHVV世界は静かなものだった。
「終夜っ。まだ着かないの?」
「もう着く! ってかバイク飽きたんならすぐにでも“ゲートドライブ”で跳ぶがー? この距離なら消費もそんなにないし」
「それはダメ」
同調・幻視技能を3まで上げたパイセンを連れての強行軍。
『運転技能あるなら乗せていきなさい』
という、青春大好きパイセンのご要望に応えての、二人乗りでの超長距離移動。
上天久佐からはるばる5時間、やってきたのは大阿蘇市。
建岩のお膝元にして、隈本最大のパワースポット『大阿蘇山』の外輪部である。
「ほいっ、到着」
「んっ」
もぎゅっと背中に抱き着いてたパイセンごとバイクを降りて、長旅の終着駅を見上げる。
「……え?」
隣に並んだパイセンも同じ物を見て、けれど意外そうに首を傾げた。
「ここなの?」
「ここだな」
彼女の視線の先にあったのは、上八幡宮よりも一回り以上小さいお社。
「てっきり、大阿蘇様の本宮にでも行くのかと思ってたんだけど……」
「今回用があるのはこっちだな。さ、行こうぜパイセン」
「えっ、あ、うん……」
困惑するパイセンの手を引き、鳥居をくぐり境内へ。
「パイセン。幻視技能全開でよろしく」
「わかったわ………え!?」
小さな鎮守の森に囲われた社の前。
現に在らぬモノを映す眼を見開いたとき、初めて見える景色。
「お久っ、田鶴原様!」
『うむ、久しぶりじゃな。シュウヤよ』
「は、え、えぇ!?」
そこにあるのは緑の燐光を放つ清浄の泉と、その水面に立つ羽衣輝く女神の威容だった。
「ちょ、ちょちょちょ終夜! 終夜!!」
「なんだよパイセン。御前だぞ?」
「御前!? 御前って! やっぱり彼女、精霊よりも位階が上の……!」
「そう、神格。神様」
「はぁぇぁ!?」
『ほっほっほ。なかなか愉快な輩じゃな』
慌てふためくパイセンを、よしよしなだめて落ち着かせる。
田鶴原様は神格の中でもかなりフランクで面白い物好きだから、さっそくパイセンを気に入ってくれた様子。
「田鶴原様。こちらが以前話したパイセンです」
『九條巡。なるほど確かに、自然ならざる理で生み出された存在のようじゃな』
「……!」
『安心せい。わらわはそなたを不浄とは見做さぬ。むしろ、新たな可能性として歓迎しよう』
「あ……は、はい……」
田鶴原様のご威光で、パイセンはカチンコチンだ。
俺もサプライズのつもりで特に説明せずに連れてきたから、こうなるのもやむなしである。
『……さてシュウヤよ。わらわの前にこの乙女を連れてきたということは、物は揃えてきたのじゃろうな?』
「もちろん! 3つとも用意万端だ」
「?」
“精霊纏い”でポポポイっとな。
俺はマーキング済みのアイテムを3つ、サクッと手元に呼び出した。
あ! そうそうこれね!
ゲーム版HVVだと刻印済みの装備を呼ぶ能力だったが、こうしてアイテムも取り出せるって独自研究の結果判明したのよ。
同じく“ゲートドライブ”も、至近の他者をより多くの消耗を代償に連れていけることもわかってさ!
(小説版だとそもそも使われてる描写がない物だったから、同じように仕様を超えた使い道がある能力は、他にもいろいろあるかもしれないな)
これらも含め現実ベースで考えて、今後もあれやこれやと試していこうと思う。
強くなるぜぇ、俺は、まだまだ!!
すべては我らの黒川・ビッグ・めばえちゃんのため!
『これ、妄想しておらんと早う見せんか』
「あ、はい」
いかんいかん。本題を見失うところだった。
俺は取り出したアイテムを両の手の平に乗せ、田鶴原様に差し出す。
『……うむ。アマビエの鱗、黒犬の首輪、月光石……すべて揃っておるな。天晴れじゃ!』
「終夜、今何をしているの? 今の、全部とんでもない奴じゃ……」
「これはな、パイセン。パイセンの限界突破のための捧げ物だ」
田鶴原様へ捧げる3つの供物。
現世に顕現している精霊の品、守護者に認められた証、そして……天の女神である田鶴原様の力を高める月光石。
この月光石が、今回ちょっと厄介だった。
(ゲーム版なら持ってる人から交換するだけでよかったんだが……今回は1から錬金技能で作り上げる必要があった。月光集めにリアルタイムで2ヵ月以上かかるから、マジで間に合うかギリギリだったぜ)
ちなみにこの月光石を持ってるのが誰あろうめばえちゃんである。
作中たった一つしか手に入らないこのアイテムを、多くのプレイヤーが無慈悲に奪ったのは言うまでもない。
許せん!! ごめんなさい俺もコーヒーと交換したことありまぁす!!!(2敗)
……こほん。ともあれ、世界観的に屈指の入手難度の高い品を3つ。
それも代償に失うことを条件にして、女神様から力を借りることができる今回のイベント!
これのために、今日までこっそりコツコツ集めてました!
長い長い苦労の果て、それが今宵、遂に現実になる!
『いずれも貴重な品々じゃ。それらを失っても構わんのじゃな?』
「もちろん! だから、九條巡に未来を選ぶ権利を下さい」
「なっ…それはどういう……!?」
パイセンの驚きをよそに、女神が微笑んだ。
『あいわかった。九條巡。田鶴原若比咩神の名において、そなたに未来を選択する権利を授ける』
「!?」
女神の視線に射抜かれて、パイセンが再びピシリと動きを止めた。
否、正確には今、この瞬間。
(パイセンと田鶴原様が……同調している!)
神と、パイセンが繋がった。
俺にできるのはここまで。
あとはただ、待つことしかできない。
「パイセン……」
正直、ここまで用意して、どういう結果になるのかわからない。
それでも、俺から示せる可能性はこれだけだった。
だから。
俺はただ、彼女が後悔のない選択をできるよう応援するのみ。
「……がんばれ、頑張れパイセン!」
俺は一人、青白い月の下で。
静かに見つめ合う二人をジッと、見守っていた。
次回はパイセン視点です。
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