第46話 青春金髪縦ロールの暴走とファミレス『ジョイマックス』での密談
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さぁ新章! どうぞお楽しみください。
「お嬢様が、明らかにおかしいんですっ!」
「そうだな。あ、ボクはミックスグリルに和食セットBで」
「うんうん。私は無難に……サバの味噌煮定食にドリンクバーかな? 黒木くんは?」
「メガ盛り特製ダレの牛焼肉定食。もちろんドリンクバー付きだ」
こぶしを震わす細川さんの訴えに、俺たちはまったくその通りだと同意し、頷く。
「……もはや私ではどうすることもできないのです。どうか、どうか皆様のお力をお貸しください! ネギトロ丼で!」
6月も終わりが見えてきている、ある雨の日。
細川さんに呼び出された俺と佐々君、清白さんは、島唯一のファミレスで相談を受けていた。
※ ※ ※
「青春! セイシュン! せ・い・しゅ・ん、ですわぁーー!!」
天常さんが、バグった。
それはもう盛大に。
「お、お嬢どうしちゃったの!?」
「待って待って、カケルちゃんついてけないよこれ」
「俺の筋肉が理解することを拒んで……いや、冗談を言ってる場合じゃないな。大丈夫か!?」
周囲の心配する声に対しても。
「なにも、何も問題はございませんわ! ただ、私気づきましたの」
「気づいたって、何に?」
「学生の身分たる私たちに、最も必要としているものは一体何なのか、と!」
「それって?」
「青春! ですわぁぁーーー!!」
「うおおおっ! 恐れるな我が胸筋!!」
ご覧のあり様だ。
「落ち着いてください、お嬢様!」
「これが落ち着いていられる状態でして、細川?! 青春は1秒たりとも無駄には出来ませんのよっ!?」
「意味がわかりません!」
件の旅行のあとからこっち、天常さんは完全なる青春モンスターと化してしまった。
『君たちの小隊が正式に編成・実戦投入される時期が9月に決まった。覚悟と遺書の用意をしておくように』
旅行から帰った俺たちに告げられた、正式な軍属となる日程の開示。
六牧司令が宣言し、候補生としてのタイムリミットが定められた。
それもあってなのか、なんなのか。
天常さんの行動は、明らかに暴走と呼んでいいモノへと変化したのである。
ここに、いくつか具体例を挙げよう。
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「カラオケに行きますわよー!」
「お嬢、そのアイドル衣装は?」
「趣味ですわ! みなさんの分もありましてよ!」
「「「!?」」」
「絶唱、熱唱、完璧で究極の大合唱ですわー!」
思い立ったが吉日と、大勢引き連れカラオケボックスに通い詰める。
「放課後の買い食いですわー!」
「わほっ。このいきなり団子、もっちもち! ほら、黒木くんも食べて食べて! はいっ、あー……」
「宗教上の理由でその施しは受けられない。自分で買って食べる」
「……んっ。もぐもぐ、んぐっ。むー! 次こそは!」
「お代わりですわー!」
早めに帰宅するときは誰かを誘って必ず寄り道する。
「プログラム、難しいですわっ!」
「キララっち~。そこはここと連動してるからさぁ、んでこっちのを使ってこうやって、こう」
「なっ!? もう一度! もう一度お願いいたしますわっ!」
「Show me please! 第7障壁、ハッキング成功したよ~!」
「オリーさんの情報技能が上がって……私も負けていられませんわー!」
これまで触れてこなかった技能の習得や、美術品などの創作活動にも挑戦する。
「んのぉーっほっほっほ! 青春、青春、青春ですわー!」
そんな感じで天常さんは、とにもかくにもめちゃめちゃバクシンバクシンで、日々を過ごしていた。
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「絶っっっっっ対! おかしいですっっっっ!!」
それは、天常さんの従者である細川さんにとって、耐え難い日々だったようで。
「明らかに生き急いでいる感じで、必死で、お嬢様らしくありませんっ!」
そう俺たちに訴える彼女は、今にも泣きそうなくらい悲しげな顔をしていた。
「然り、だな」
ドリンクバーで入れてきたオレンジジュースを飲み干して、佐々君が口を開く。
「社会科見学以降の天常は、明らかに様子がおかしい」
「ですよね!?」
「あいつはあれで計画的に事を進めるタイプだからな、思い付きだとしても、ここまで衝動的な行動ばかりを繰り返すのは異常事態だろう」
「さすが千代麿様! お嬢様のことをわかっていらっしゃいますね!」
「幼馴染でライバルだからな」
得意げに鼻を鳴らす佐々君を、やんややんやと細川さんが持て囃す。
実際、天常さんを知る者からすれば、今の彼女はバグり散らかしているようにしか見えない。
それは、この場の全員が共有している認識で。
そして、同じように共有している認識が、もう一つ。
「様子がおかしい人……もう一人いる、よね?」
ジンジャエールをストローで吸っていた清白さんの指摘に、佐々君と細川さんが頷く。
視線がこっちにきたから、俺も野菜ジュースにぶっ刺したストローから口を離し、答えを告げる。
「パイセンだな」
パイセンこと、九條巡。
九條シリーズ第3世代の数少ない稼働中の個体で、世間的には備品扱いの少女。
最近は天2軍学校の中だけとはいえ人間扱いされることも多くなり、他の生徒たちと交流したり青春したり上手いことやっている。
その、パイセンが。
「天常のやることに、全部付き合っている……異常だな」
「異常ですね」
「異常だね」
「異常だな」
全会一致。
明らかにおかしいことになっている。
(だってあのパイセンが、だぜ? クールで、普段けだるげにしてるあのパイセンが……何度俺が神社に行こうって提案しても断るパイセンが……)
どういうわけだか暴走する天常さんに付き合って、一緒に青春をやっている。
いやまぁ、パイセンが青春したがってたのは確かにそうなんだが、暴走レベルで付き合うって点がおかしい。
「最近のあの二人、一体何がどうなっている?」
「それが、聞いてもお嬢様はただ“今の私にできることを全力でしているだけ”だと」
「巡ちゃんも、“断る理由はないのだから付き合っているだけ”って……」
「むむむ。二人ともそれらしいことを言ってるようには聞こえるが、だな」
相談を続ける3人の顔は等しく心配そうで、不安げだ。
確かに、そうなった原因がわからない以上、彼女たちの不可解な行動に困惑もするだろう。
が。
(まぁ、ぶっちゃけパイセンの活動限界が近いからだよなコレ)
俺はその原因に心当たり大ありだった。
(老化や劣化ってのは、体力・気力の変化を見ればわかる。鍛えたステの上限は変わらなくても、いずれそれらの何割かまでしかMAX回復しなくなったり、回復量その物が低下したりと、現在値の方が徐々に減り、最終的に0になって死に至るってのが、この世界における衰弱死だ)
最近のパイセンは、上限に対して6割までしか回復できなくなっている。
先んじてステを上げまくったおかげでその下降はまだ緩やかだが、いずれは2割ラインを切って寝たきりになり、そう遠くない内に動かなくなるだろう。
パイセンが普段から言っている、耐用年数オーバーの影響ってのが出てきたんだ。
(天常さんはこの辺の話を、あの日の夜に聞いたんだろうな。パイセンを天2に呼んだのは天常さんって話だし、距離感はあったがいろいろと便宜を図ってたみたいだった)
タマちゃんが記録し損ねた二人の密会。
それ以降の二人の変化を俺目線で見れば、なんとなく察しもつくって奴だ。
(残り時間が少ないパイセンに、天常さんがどうにかこうにか思い出作りをしているってところかな?)
それもちょっと天常さんらしくないなと思えるが、それはそれ。
(多分、打つ手がないんだろう)
史実では一人、世界のために修羅のごとく身を粉にしていた姿から鑑みるに。
天常さんの力だけでは、パイセンを救う手立てを見つけきれなかったんだろう。
青春を駆け抜けている彼女は今、裏でどれだけあがき、血反吐を吐いているのか。
「二人のあいだで何かあったのは間違いない」
「ですがそれを、どうして従者である私に……いえ、仲間である私たちに教えてくださらないのでしょうか?」
「何か、聞かれると不都合があるみたいな?」
(まぁ、人の生死に関わること。だもんな)
素直に言うには憚られる。
お通夜ムードになって全軍の士気が無駄に下がるのも、変に気遣いあうようになるのも二人は望まないだろう。
近しい人に話さないのは、それこそ影響が計り知れないからに違いない。
親しい人の悲しむ姿なんて、誰もが見たいワケじゃねぇんだから。
好きな人には、いつだって幸せを感じてて欲しい。
I bless thy life.黒川めばえ。
(……と、なると。俺の口から言うのも憚られるな)
あーだこーだと熱のこもった議論を交わしている3人をよそに、俺は野菜ジュースを啜る。
あの二人が黙る理由がみんなのためだというのなら、その心意気は買うべきだ。
それに。
(俺は俺で、進めなきゃいけないことがあるからな)
俺にはやるべきことがある。
時間的にはギリギリになりそうだが、それでも未来へ繋がる可能性に備えておきたい。
だから、みんなにゃ悪いがこの状況、俺は退散――。
「と、いうことで。ボクは天常に勝負を仕掛けようと思う!」
――失礼。前言撤回事情が変わったぜひとも見届けよう。(早口)
シュウヤは、イベントの気配を、感じ取った!
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