第40話 変化する日常
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第7章、開幕です。
6月。
九洲の春はとうに終わりを告げ、時節は夏の始まりを伝える梅雨に入った。
頻発する長雨は侵略者たちのマーキングの力を弱めるらしく、争いも落ち着いて。
敵も味方も一息入れる。
そんな、停戦期とも呼べる時へと突入した。
「よし、それじゃあ柔軟運動開始!」
早朝。
いつもの公園。
佐々君の号令に応えて、二人一組になって俺たちはストレッチを始める。
ここ数日の晴れのおかげで、ビシャビシャだった芝生も今日はカサカサと乾いた音を鳴らす。
もう顔を見せている太陽と、日を追うごとにどんどん濃くなっていく緑の匂いが、夏の訪れを嫌でも感じさせた。
「ふっふっふ。どうだ黒木! このボクの成長したしなやかな肉体は! 見ろ! 地面にぺたーんだってできるぞ!」
「確かに、だいぶ体が柔らかくなりましたわね。でも腰が……浮いてますわよっ!」
「んぎぃっ、んぁぁぁ!!」
毎度おなじみ御三家ペアは、相変わらず競い合いながら互いに鍛え合っている。
「こ、のっ! 今度はこっちの番だ!」
「おーっほっほっほ! 私の柔軟にぬかりはありませんわっ!」
「だったらここを押されながらでもできるのか? 天常?」
「あっ! ちょ! そこはくすぐった、ひんっ!」
みっちりとした訓練の日々と、彼ら自身の研鑽もあって、気づけば二人の運動力は1000を越えて伸び盛りの時期を迎えていた。
体力・気力もぐんぐん伸びて、今なら2徹3徹くらいの無茶は余裕だろう。
「では、私たちも始めましょうか」
そして、この二人がいるなら当然ここにいるのが、細川さんだ。
だが、彼女の今日のお相手は俺じゃない。
「えぇ、よろしく頼むわ……んっ」
「大丈夫です。ゆっくり息を吐きながら、体を伸ばしましょう」
柔軟運動初心者ムーブを決めている、小さくても大きな背中。
誰あろう、我らがパイセンこと九條巡先輩である。
「ん、んっ、くっ、ふぅー」
「そうです、そうです。息を吐いて、ゆっくり、ゆっくり」
細川さんの指示を受け、拙いながらも頑張る姿。
そこだけ切り取れば、間違いなく愛嬌と希望を振りまく小隊のアイドルと言って相違ない。
「……んぐぐぐ、チッ」
「ひぇっ」
そう。
なんかたまに出る悪態とかから目を逸らせば、だ。
みんなのアイドル九條シリーズの変わり種。
個人的には、そこがパイセンらしくていいと思う。オンリーワンだ。
(それにしても、気づけばここに来る連中も増えたもんだなぁ……)
最初は一人で始めた朝活だった。
天2軍学校に入学してからは、佐々君が増え、天常さんたちが増え、そしてパイセンが来て。
(今じゃもう、6人か。もはや完全に部活かなんかの朝練だな)
そんなことを思いつつ、俺は背中にかかる圧に従い地面にペタンと倒れ伏す。
圧をかけてる人物は、そんな俺の動きに満足そうに「いいよー」なんて褒めながら。
「黒木くん黒木くん。まだ伸ばせそう?」
めっちゃ懐いてるデカワンコみたいに楽しげに、さらにグイグイ圧をかけてくるのだった。
「おおー、効く効く。まだまだイケるな」
「えへへ。それじゃあもっと押すねー」
ズシンッ、と。
俺の背中に推定お尻を乗っけてガチめに体重かけてるその人物は。
「はい、カウントするよ。いーち、にー、さーん……」
A組期待の新戦力。
精霊殻1番機パイロット予定の、清白帆乃花候補生。
「やりなさい、帆乃花。そいつは圧し潰すくらいでちょうどいいわ」
「ぐぬぬ。どうしてこのボクじゃなく彼女が黒木の隣にいるんだ……!」
「あら、私ではご不満でして? お望みでしたら、黒木さんと同じようにして差し上げますわ、よっ!」
「があああ!!」
「お嬢様、それ以上はいけません」
元保健ちゃんにして、秘密研究所“白の鳥籠”でエリート教育を受けた、スーパーガールである。
「えへへ。黒木くんとこうして触れ合えるなんて、なんだか夢みたい……」
そんな清白さんは、なぜか今。
みんなと同じジャージに加え、左手首に包帯を巻き、右目に眼帯、そして首には超過駆動の燐光を思わせる薄緑のスカーフを巻いた、結構な中二……えふんげふん。実にロックなニューバージョンで、俺たちの朝練に参加していた。
※ ※ ※
人脈に秀でた“教育の佐々”と、財力に秀でた“繁栄の天常”。
御三家の内これら二家の力には、すでに大いに助けられている。
それに加えて今回、純粋な武力に秀でた清白さんという存在を味方にできたことは、将来を見据える上で、めちゃくちゃ大成果であると言えるだろう。
来る天久佐撤退戦での死亡フラグを回避するため。
生き残る目はいくつだって準備しておく必要があるからだ。
そう。
すべてはマイエターナルギャラクティカラヴプリンセス黒川めばえとの、未来のために!
(……まぁ、だから。可能な限り友好的で、協力的な関係を結んでおきたいと思ってる)
佐々君の二の轍を踏まないよう、好感値を上げすぎない程度にセーブしながら。
かといってあまりにも塩って何やってもぴえんにされる冷えた関係にはならないように。
幸いみんな気持ちがいい奴ばっかりで、関わっていてとても楽しいのがありがたい。
俺にできる範囲でなら、彼らの利になるように協力するのに否やはない。
(そのためにも、適切な距離感を維持するのは間違いなく必要なことだ)
そう。
ある程度、ある程度の、友好的な関係。
そうしたほど良さってのを維持できるよう頑張ろうって話なんだけども……。
「……黒木くん黒木くん。黒木くんが好きなものってなに?」
「コーヒー(めばえちゃんの好み)と黒色(めばえちゃんの好み)と呪いの人形(めばえちゃんの好み)」
「へぇー。じゃあじゃあ黒木くん。ロングヘアとショートヘア、どっちが好き?」
「ロングヘア(めばえちゃんの髪型)」
「あ、そうなんだ。えへへ……それじゃそれじゃ、大人しい雰囲気な子と元気な雰囲気な子だと、どっちが好き?」
「大人しい雰囲気。だが必ずしも物静かである必要はない。コミュ症だろうが何かを伝えようとしてくれるなら、ちゃんと向き合う所存だ(めばえちゃんの性格)」
「なるほどー。それじゃあね、黒木くん……」
………。
「黒木くん黒木くん黒木くん!」
………………。
……なんか、このニューバージョンさん距離感近くね?
俺は訝しんだ。
なずなママ「帆乃花っ、彼の推しは闇系らしいわよ! これで完璧ね! 行ってらっしゃい!」
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