第37話 レアバトル! 精霊殻VS精霊殻!!
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楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
大盛り上がりの文化祭、奴が仕掛ける!
春の文化祭。
清白さんは、その日も保健室に引きこもり、部屋の主になろうとしていた。
だから。
『あいたー、あいたたたー。たすけてくれー』
『佐々くん?』
俺たちは、一計を案じた。
『あー、おなかがー、おなかがいたいー』
『……本当ですか?』
『えっ、あ、えーっと、このボクが、う、ううう嘘をつくトデモ?』
清白さんを連れ出すために、佐々君が一芝居。
『じー……』
『あ、あ、あー、おなかがー』
ひとしばい……。
『じじーー……』
『うっ……ボクは』
『細川』
『ハイお嬢様』
ドゴォッ!
『ごふぅっ!?』
『天常さん!? 細川さん!?』
『御覧なさい、千代麿がお腹を押さえていますわっ!』
『えぇっ!?』
『彼の容体は私たちが看ます。ですので清白さん。どうか、彼の代わりに精霊殻に乗り、私たちの企画を……演武を成功させてくださいましっ!』
『えぇーーーーっ!?!?』
驚き戸惑う清白さんを、あれよあれよと運び出し。
『ちょ、ちょっと待っ』
『帆乃花』
『巡ちゃん!?』
『………』
『……!?』
パイセンのフォローもあって、俺たちは無事(?)、彼女を精霊殻1番機に乗せることができた。
「クックック。乗ってくれてマジで感謝するぞ。清白さん」
「……今回だけ。なので」
だいぶん無茶なセッティング。
「気楽に気楽に。これは戦いなんかじゃない。ただのお遊びなんだから、な?」
「………」
だがそれも、俺が用意したサプライズプラン実行のための必要な布石だった。
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「さぁさぁ始まりました! 天2軍学校春の文化祭がお送りする一大イベント! 精霊殻による鬼退治伝説の再現! 実況はわたし、整備士養成Bクラス。手果伸珠喜! 解説は我らが代表、戦士養成Aクラス。六牧百乃介司令でお送りします!」
「はぁい。長い物には巻かれるタイプ、司令官の六牧でーす」
「今回精霊殻1番機に搭乗予定だった佐々千代麿整備士候補生は体調不良ということで、急遽、清白帆乃花保健衛生管理官候補生に代理をお願いしております! 保健ちゃんガンバレー!」
「いやー、彼女がパイロットできるだなんて、ゼンゼンシラナカッタナー」
ノリのいい実況と解説のおかげで、会場はいい感じに温まっている。
この分なら、お祭り大成功で小隊士気補正もガッポガッポ間違いなしだ。
俺も、手抜かりなく進めよう。
「グァーッハッハッハ!」
「!?」
「いかな鎧に乗った武士とはいえ、鬼たる我に勝てる者なし! 異を唱えるなら見事、我が角、手折ってみせよ!!」
「「わぁぁーーーー!!」」
観客向けになるべく派手な身振りをしつつ、頭に取り付けた一角を強調する。
ここが折られれば見事鬼退治成功、伝説は再現されるって寸法だ。
「ってことで、しばらくやり合った後、ここを折ってくれ。そしたら後は何とかする」
「……――」
「清白さん?」
「あっ……はっ! わ、わかりました……!」
「負けもあり。なんなら最初の一手でぶっ飛ばされてくれたっていいからな?」
個人通話で清白さんに演武のルールをサクッと説明。
あとはアドリブ、出たとこ勝負。
ちなみに俺が勝っても問題はない。
侍は何度も鬼に挑んだそうで、今回は負けの舞台をやったということになるだけだ。
無論、会場は冷えっ冷えになること請け合いだが。
「さぁてさて」
「……!」
得物はお互い徒手空拳。
グラウンドという決して広くはないスペースでの立ち回りを求められる。
「んでもだねぇ。実機を使った演武って、万が一壊れたらどうしようってねー」
「そこは大丈夫ですよ司令! 佐々君とおやっさんが一晩でやってくれました、なので!」
「さすがに無理でしょ……とは言えないのが怖いねぇ、僕は」
実況が言ってくれる通り、機体は多少壊れても問題なし。
つまりは……。
「さぁ、いざ参らん! 日ノ本の武士よ! 生半な動きでは、伝説になれぬと思え!」
「!?」
やれる範囲で最大限、派手に立ち回るべし!
「おおおおおお!!」
「きゃああああ!!」
ってなわけで。
俺は初手から、全速力でのワンパンをお見舞いした。
※ ※ ※
「これはどうだ!」
「……ッッ!」
「うお、今の手を避けるのかっ!?」
清白さんとのアドリブ合戦。
これが意外とテクニカルで面白かった。
(実力的には間違いなく俺の方が上。手加減してるとはいえ、もうちょっと有利に立ち回れてもいいはずなんだが……これは)
全速力の初撃はかわされた。
その後も、ギリギリで掠めるはずのパンチが外れる。
掴もうと伸ばした手が、たまたま滑って抜けられる。等々。
これこそまさに――。
「これはすごい! 鬼の猛攻を紙一重で武士がかわしていきます!」
「これは……なかなか。どうしてあの猛攻を凌げているのか、僕にはさっぱりです」
「まさに天運! まさにラッキー! 侍に大阿蘇様の加護ぞありです!」
――幸運技能の力だ。
幸運技能。
あらゆる行動判定の最終成功率に+の補正をかける、超チート技能。
これさえあれば、どんな行動においても、なんらかの成功する可能性を手にできる。
世界を救うヒーローだって持っている、まさに運命の女神に愛されし者の証。
奇跡を起こす力。
(レベル1で5%、2で10%、3で15%だから……20%? いや、もっとありそうだ)
清白さんのラッキーは、それなりの頻度で発動している。
幸運技能で足された分の成功率が、俺とのステ差を埋めているのは間違いない。
なら。
「これなら……グハハハ! 見事だ侍よ! 戦の質をあげようぞ!」
「えっ? きゃあーーー!!」
もうちょっと、本気出してもいいんじゃね?
「これはどうだ? こっちは? これは? これならばどうだ!」
「ひゃあ! きゃあ! わぁ!!」
こちらのラッシュに完璧なタイミングで回避を合わせる、清白さんの精霊殻。
ナチュラルに手動緊急モードとキャンセルを使ってる辺り、純粋なパイロット技能も高い。
「ハッハッハ! たぁのしぃなぁ!?」
「ああああーーーーーー!?!?」
それに加えてこの、ギリギリで足りないところを不思議パワーで補われる不思議。
実際に体験すると理不尽にすら感じられる違和感と興奮!
「掴むぞ」
「え? きゃあーーーーー!!」
楽しい!
「ああっと! 顔を掴まれた侍! ピンチに陥ったーーーー!!」
「ああああー!! 精霊殻の顔パーツには精密機械がいっぱいなんだぞーー!?」
「「わあぁぁーーーー!!」」
会場も大盛り上がりで善哉!
「クックック。どうした日ノ本の侍よ。この程度で終わりではないのだろう? もっと私を、楽しませてくれ!」
俺は相手の顔を掴んだ手を振るって、地面に叩きつける。
そのままグラウンドを走って、バキバキと相手の精霊殻を地面に擦りつけてやった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ーー!!」
六牧司令の叫び声が聞こえるが、当然無視!
「そらっ!」
「きゃあああーーー!!」
最後は放り投げ、観客席のすぐそばに落としてやる。
「「わぁぁぁ!?!?」」
落下と共に巻き起こる衝撃と砂埃で、これまでとは違う種類の悲鳴が上がる。
だが、そんなのは今の俺には関係ない。
俺が見ているのは、彼女だけだ。
「立てよ侍! お前はそんなところで終わるような器ではなかろう!」
「………」
返事は、ない。
だが。
俺は動かないままのそれを真っ直ぐ睨み、待ち続ける。
(ここが、勝負の分かれ目だ……!)
俺は信じて、その時が来るのを願った。
「……お」
ゆらりと、相手の精霊殻が立ち上がる。
そして次の瞬間。
ドゥッ!
それは、緑色の燐光を放ち始めた。
『警告。対象の士気向上とスペックの増大を確認。――オイアレ、重層同期ダゾ!?』
「……よし!」
『ヨシ!?』
よしに決まってる!
なんたって、仕込んだサプライズが成功したんだからな!
「……何を抑え込んでるのかは知らないが、我慢は毒だぜ。本当にな!」
清白さんの士気が異常に低かった、その理由。
俺からの誘いを鋼の意思で断りまくる、その原因。
今の彼女にそれは……ない!
「さぁ! お前はもう自由だぞ! 清白帆乃花ッッ!!」
彼女はずっと、我慢していた。
どうしようもない環境で、どうしようもない状況で、どうしようもない現実で。
がんじがらめの彼女は、動けなくなっていた。
(望んだとしても許されない。だから我慢して、押しこめて……諦めた)
その様子がまるで……言いたいことを言えずにいる、最愛の推しと重なって。
最初に誘ったあの日から。
ぶち壊したいと思ってたんだ!!
「これはー! 精霊殻の超過駆動! 1番機、これはただの本気じゃないぞ! ド級の本気、ド本気だー!!」
「おああああーーーー! 機体のダメージがぁぁぁぁーーーー!!」
だが今この瞬間。
清白さんは、ようやく自分を解放した。
(自分を抑えて、隠して、さぞ窮屈だっただろ? 安心しろよ。これからはきっと、楽しいぜ?)
高まってくるプレッシャーをヒシヒシと感じながら、自然と俺は笑みを浮かべていた。
(へっへっへ、心配することはない)
もう、その身を縛る枷なんて、何一つとしてないのだから!
「そうだ! 全力で楽しめ! 日ノ本の侍よ! お前の力を、すべて見せてみろ!」
「……邪悪な鬼め! 我が全身全霊の一撃を受けてみよ!!」
ついにやる気を出した清白さんから、派手な返事が飛んできた。
おそらく次が、演武の終わり、決着の一手になるだろう。
「さぁ、見せてやろうぜ。派手な大一番って奴をな!」
お互い見せ場だ、活躍したいよな。
先行入力。
運命の一手を仕込む。
ギュインッ!
「ああああーーーーッッ!!!」
「うおおおーーーーッッ!!!」
そして俺たちは動き出した。
次回は清白さん視点です。
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