第218話 最強の証明
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彼女たちが詰んだ理由。
「私、神子島入りですわーーーーーー!!」
「おめでとうございます、お嬢様!」
姫様ゲートで隈本から神子島に運ばれてきた響輝の上で、天常さんが高笑いしている。
揺れる金髪縦ロールに自分から当たりに行きつつ、細川さんがヨイショしていた。
「おいこら輝等羅! 時間がないんだ! お前も喉作っとけ!」
「HEY、チヨマロ様。多分あれで、喉を温めてるんじゃないかな?」
「本当か? 浮かれてるだけじゃないのか?」
「浮かれてるのは否定しないヨー」
その下で、あれやこれやと作業をしているのは佐々君とオリーだ。
彼らの周囲で建岩家のエリート整備士たちが、あっちこっちと慌ただしく作業を進めている。
すべてはこのすぐあとに始まる、世界を救う大作戦のために。
「あ、三本さん。そのチューブはあちらの3番に繋げてください」
「はい」
「大鳥十剣長! 手が空いたなら5班のフォローお願いします!」
「ヨカヨカ! 任せんね!」
天2所属外の整備士たちにも佐々君は認められているようで、タイムリミットが迫る中、それでも彼の指示は冷静に受け止められ、ハイペースで作業を進めていた。
現在時刻、23:04。
歴史の収束点まで…………あと、1時間弱。
「………」
意外なことに。
ここにきて俺は、何もすることがない、暇な時間を持て余していた。
(俺の役割は、儀式において実際に越界し六色世界を超えた世界へ殴り込みをかけること。そのための準備を今はみんなが進めてくれているから、今はただ、待つだけ)
儀式向けの特別な機体の調整は、佐々君たちがやってくれる。
精霊たちや神様たちの段取りは、巡パイセンが仲立ちをして進めてくれている。
俺はそれらが整ったあと、説明通りに儀式を遂行するのが役割になる。
「さて、どうしたものかな?」
下手に誰かに話しかけに行くこともできない。
俺は暇だが、今は一分一秒を無駄にできない窮状も窮状なのだ。
ぶっちゃけ、大人しく呼朝の中でジッとしておくのがベストなんだろうが……それはそれで退屈なワケで。
「んー……っと!」
だもんで、今は適当にストレッチなんかしながら、頑張るみんなを見守りつつその時を待っているのだ。
「だが暇だ」
「黒木終夜」
「はい黒木終夜です」
暇を口にした瞬間、背後から気配なく声をかけられた。
振り返るとそこに、全身真っ赤の超常的な美人さん、未来の建岩命こと虹姫様が立っていた。
「少々お時間よろしいでしょうか?」
彼女の腕の端末からは、いくつかの資料を広げたモニターが展開していた。
※ ※ ※
「残り時間が30分になったところで、もう一度結界を張ります。そうして時間を引き延ばしてから作業を完遂し、結界を解いてのち、超越界の儀を執り行います」
「了解」
モニターの資料を見つつ、虹姫様と段取りを確かめる。
時間と空間を切り分ける未来の結界を張れるのは彼女だけだから、必然的にその使用が、彼女の役割になる。
ギリギリまでその結界を使うため、彼女の消耗は必至で。
(越界を超えた越界……“超越界の儀”に、彼女は参加できない)
自らの世界の存続を賭けた大勝負に、直接の参加が叶わない。
だからこそ今この準備時間こそが、彼女にとっての正念場と言える。
「手順の確認は大事だな」
「はい。万全を期したく思います」
とはいえ、今のこのやり取り、実は20分くらい前にもやっている。
そこから察するに、彼女が今話しかけてきた目的は、それとは別にあると思われる。
「なにか話が?」
「……はい」
こちらから話題を振れば、少しの間をおき彼女は頷く。
それでも切り出しにくいのか、さらに数秒もじもじしてから、小さな吐息とともに口を開いた。
「黒木終夜。改めて、アナタに感謝を」
「感謝?」
「はい。アナタの選択がなければ、私はこの、最後の可能性に縋るチャンスすら得られませんでした」
真摯な赤い瞳が、俺を見つめている。
物語で幾度も見た、力強く覚悟ガンギマリの、メインヒロインらしいキラキラの瞳。
「そしてもしも、もしもこの作戦が成功し、世界を無事に分けられたなら……私は今一度、アナタに感謝の言葉を贈りたく思います」
「え?」
「もしもそれが成ったなら……それは」
俯き、祈るような仕草で言葉を紡いだ虹姫様……いや、正史世界の建岩命が。
「それは……私たちの後悔が一つ、晴れるということでもありますから」
顔を上げて、微笑んだ。
「!?」
ドキッとした。
世界が選んだメインヒロインが見せる、最上級の魅力的な笑顔がそこにあった。
「どうか……よろしくお願いします。この世界だけでなく、私たちの世界もまた、お救いください」
そこにあるのは読み取れきれない複雑な感情と、確かにわかる強い期待で。
「失敗してしまった情けない私に代わり、どうか、希望を繋いでください」
再び祈るような姿勢を取った彼女のそれは、美しいからこそ俺には不相応な態度にしか見えなくて……。
「……い、や。いやいやいや! 固い固い固い!」
「?」
「あー、こっちの姫様も姫様なんだなってちょっと思ったが、そういう態度はいらないですはい!」
うちの姫様もよくやるよねその顔! 縋るような、期待するような、人を動かす顔だ!
もともと神様に仕える系女子だからか、妙に崇拝っぽくなるの心臓に悪い!
「俺は俺にできることをやってきただけだし、これからもそれを曲げないで行こうってしてるだけなんで! そんな大げさにしないで貰えた方が嬉しいんで!」
「そう、ですか?」
「そうです、そうです!」
実際、俺は自分勝手な人間だという自負がある。
めばえちゃんのことは推したいから推してるし、二つの世界は救いたいと思ったから救おうとしている。
それはどちらも、俺が望んだからそうしようってだけの話だ。
「だいたい、一度は世界を救った虹姫様が失敗するって、どういう話なんだ? そんなわかりやすい失敗をするって、ありえなくないか?」
「それは……」
仮にも天才技能レベル3所持者で、上位世界に殴り込みに行けてる段階の姫様が、今更このやり直しの世界で失敗するってのがどだい変な話な気がする。
そのことを問い詰めてみれば、虹姫様も不可解を隠さない、困惑した顔で俯いた。
「私にも、未だによくわかっていないことなのですが……」
「うん。うん?」
天才が、把握できてないこと?
「本来ならば、私は。もっと早くからこの再演世界に干渉できるはずだったのです」
「もっと早く?」
「はい。私がこの世界に干渉し始めたのは、昨年の今頃。ですが本当なら、それよりももっと昔……2014年。今から6年前から、干渉を始める予定だったのです」
「2014年……」
2014年、6年前。
その頃っていったら、俺も……。
「はい。2014年、5月13日。精霊殻が実践投入され始めてから1ヶ月。白の一族・赤の一族双方の、最終決戦用の兵器が揃ったということで、審判を担当する白の一族が、六色世界の法に則り、三度目の歴史干渉によって来訪する日。けれど白の一族からすれば、想定よりも日ノ本人の用意できた精霊殻が低スペックであったがため、テコ入れのためにもう一人、後から密かに送り込んだ日」
「それって……」
公式設定資料集にもあった、ルールの裏をかいて、クスノキ女史が送り込まれた日か。
正確な日取り、初めて聞いたな。
「その日が、この世界が特異点となった日です」
そこが、始まりの日……なのか。
これまでの歴史が白く塗り潰され、新たな線を描き始めた日。
歴史の拡散点。
※ ※ ※
5月13日。
2014年の……5月、13日……。
「その日、ルピタの干渉によりハベベ世界が歪み始めたそのタイミングから、私もまた、正しき歴史のために動く予定でした。ですが実際にはその何年もあとの、もはや手遅れとなった世界に、私たちは降り立つことになったのです。これほど大きな失敗を最初にやらかして、なりふり構わず足掻きこそしましたが、もはや取り戻すことはできませんでした」
「そう、だったのか……」
初手で失敗した。
しかもそのワンミスで5年もロスをしたってんなら、そりゃもう絶望を超えた絶望でしかない。
俺だってそんなスタートだったら、ステータスと技能ゴリゴリに上げての初陣なんて出来なかったし、今みたいに事を進めるのは無理だったろう。
(そう、俺には今日まで6年の時間があった……から……)
…………ん?
……何かが、引っかかる、な?
「未だにどうして、介入日がズレたのかわかっていません。ただ、私の感じたモノとして、介入するまさにその途中、強大な力に弾かれたような、そんな感覚がありました」
「それって……」
「初めはルピタによるカウンターかと思ったのですが、それについては私たちは対策を打っておりました。ですが不思議なことに、その対策はそもそも発動していなかったのです。そこから考えられることとしては、私を弾いたそれは、ただ、その存在の大きさがゆえに私の入る余地を奪ったのではないか、と。今は推察しております」
「………」
ルピタが正史を辿ったハベベ世界の過去に干渉し、特異点へと変えた再演世界。
それに対抗するため準備を重ねて挑んだであろう、虹姫様の歴史介入。
そんな虹姫様を弾いた……巨大な存在。
『――お昼のニュースです。先月より一部戦闘区域で実戦投入された“精霊殻”ですが……』
俺の脳裏を。
前世を思い出し、最初の最初にこの世界をハベベ世界だって理解した言葉が、よぎる。
あれは、あの日は、確か……。
「5月、13日……」
「え?」
「2014年の、5月13日。日ノ本で本格的に精霊殻が実戦投入された4月13日から、ちょうど1ヵ月経った……日!」
4月13日はちゃんと覚えてる。
だってこれは、設定資料集に書かれていた情報だから。
でも、だが、だって。
ってことは……!
「黒木終夜?」
「……俺だ」
「?」
「そのでっかい何かって、多分、俺だ!」
あの日。
俺がこの世界で前世の記憶を取り戻したあの日こそが、特異点の始まりだったのなら。
「俺が、俺が前世の記憶を取り戻して、黒木終夜になったから! 虹姫様の介入が、失敗した……!!」
そうとしか、思えない。
理屈じゃなく、ただただ腑に落ちる、そんな確信があった。
「俺のせい、だったみたいだ。それ。俺が前世の記憶を取り戻したのも、その日だから……」
「……そう、だったのですか」
猛烈な不快感と、申し訳なさが心を満たす。
状況としては不可抗力としか言えないが、それでも俺は正史世界の、正しく生きて世界を紡いだ彼女たちの邪魔をしてしまったのだから。
本来ならばフェアにルピタと戦えたはずなのに、それを俺が、妨害した。
「……あ、えと」
謝らないといけない。
反射的にそう感じて口を開こうとしたら。
「なるほど、スッキリしました」
「え?」
それより先に、虹姫様が口を開いた。
彼女は俺を見つめていて、そしてその表情は……俺の予想を違えて晴れやかだった。
「ルピタがハベベ世界を特異点化させた結果、貴方が前世の記憶を取り戻し、そして私たちの介入が弾かれた。流れとしてはそういうことでしょう」
「え、と」
機先を奪われ口をパクつかせていたら。
虹姫様はこれまでにないくらい自信たっぷりな……ウチの姫様とよく似た……笑顔で。
「今、確信しました」
「!?」
「貴方は、間違いなく六色世界の外、そう、超越世界の存在です。このハベベ世界よりも、六色世界よりも大きな世界からの干渉者。であれば、そのあとに潜り込もうとした私たちが弾かれるのは、自明の理だからです。存在の格が違う」
「あ……」
天才の証明。
俺の知ってる建岩命が確信したとき、それは間違いなく真である。
例えそれがどれだけ暴論に聞こえようとも、理屈じゃなく、そういうモノ。
ある意味、この世界におけるもっとも理不尽で、もっとも絶対的な……勝ち確セリフ!
「マジか」
「マジです。貴方と私たちの体験により、六色世界より上位の世界が証明されました」
俺たちにとっての、天啓!
「……黒木終夜。私たちがそれぞれに紡いだこの世界は、分けられます!」
「~~~~~しゃあっ!!!」
思わず大声で叫んで、俺は注目を集めてしまう。
みんなが不思議そうに、あるいは不安そうに目を向けてくるのに対して、俺は――。
「みんなー! 俺! 作戦! 必ず成功させるからなーーーーーー!!」
――絶対の自信をもって、サムズアップしてみせるのだった。
スズラン「……よかった。あの日私たちの出した式は、間違っていなかったのね」
虹姫「苦労を、掛けましたね」
終夜「マジもんイレギュラーすぎてサーセンっしたぁ!!」
原稿、最後まで仕上がってます!
ぜひぜひ最後まで、よろしくお願いします!!




