第21話 報連相や意見交換は新発見の前フリ
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天2軍学校、プレハブ校舎屋上。
お天気、快晴。
全生徒ステ上げ強化週間が始まってから、5日。
俺と佐々君、天常さん、細川さんの4人は、報告会も兼ねて、一緒にランチタイムを過ごしていた。
「順調ですわね」
最初に口を開いたのは、天常さんだ。
天丼に乗ったエビ天をモシャモシャするのもそこそこに、得意げに胸を張る。
「素よりAクラスは戦士養成クラス。己の能力値がそのまま戦場での力に直結しますので、目標達成はそう難しくありませんでしたわ」
初日にサボった三羽烏はともかくとして、Aクラスは元々ステ強のクラスだ。
天常さんが目を光らせて訓練すれば、自ずと結果が付いてきた。
すでに目標達成してる生徒も複数人いて、まさしく順調そのものである。
「こっちは、ようやく土台ができたところか」
次に口を開くのは、佐々君。
高菜を混ぜ込んだおにぎりをモグモグしつつ、神妙な顔を浮かべる。
「最初の数日はストレッチを中心に体の筋肉を起こすところから始めたからな。急に走らせても続かないだろう? 伸びてくるのはここから、だな」
整備士養成Bクラスには、インテリ偏重だったり運動嫌いが相応にいた。
その辺の細かな問題を、佐々君は一つ一つ丁寧にクリアして、ここまで持ってきてくれた。
彼の言う通り、結果らしい結果が出てくるのはここからだろう。
「あーら、さすがは“教育の佐々”様。お優しく丁寧でいらっしゃいますのね?」
「運動を習慣化させることこそが大事だからな。目先の目標を達成するために、悪戯に追い詰めればいいというものではない」
「ふふふ、言ってくれやがりますわね!?」
「はっはっは、皮肉が通じて何よりだ!」
「……もぐもぐ」
仲良ししてる二人をよそに、従者の細川さんはからし蓮根をポリポリ。
鼻を抜ける刺激にブルルッと身震いしてから、ほぅっとため息を吐いて口を開く。
「いずれにしても、初日を除いてサボりが出ていないのが大きいですね」
「「そうそれ」」
彼女の言葉に、当然のように御三家二人の返事が重なった。
「なんでも、サボったり無断欠席しようとすると“囁き男”という怪異に襲われるとか」
「ふふっ。なんですのその都合のいい怪異は。いるわけないじゃありませんの」
「だが、その噂のおかげで皆が真面目に訓練してくれているのなら、捨て置いていいだろう」
「ですわね」
「一応お尋ねしますが、黒木さんは何かご存じでしょうか?」
「囁き男か。心当たりはないな」
ちょっと考えても、思い当たる節はない。
思い出したのはゲーム版HVVの七不思議イベントで、ピュアマイラバー黒川めばえちゃんと一緒に夜の学校を巡回すると、ひゃんっ、って可愛いレアボイスが聞けることくらいだ。
「そういえば黒木は、この期間中の見回りを担当してくれているんだったな」
「あぁ。もしもあぶれてたり、孤立してる奴がいたら声をかけて、一緒に訓練、指導をするつもりだった」
もっとも、そんな奴らは二、三日もしたらいなくなってしまったが。
御三家の威光と、目先の戦争という現実、それらを前にしたらそうもなるかと納得である。
さらに言うと個人的目標であるパイロット候補探しについては一通りチェック済み。
隠密とか諜報とか情報レベル4とか面白い技能持ちこそいたが、パイロット適性において佐々君を越える人物はいなかった。
適当な誰かをパイロット育成する方向に舵を切ろうか考え中である。西野君とか。
「みんな真面目で結構なことだ」
「何を言う。この企画を立ててボクたちを動かした黒木こそ、一番真面目だろう」
「そうですわ。本来なら司令と教導官が就任してからやるようなことを、学校行事という形で前倒しして実践しようだなんて、普通の学生には思いつきもしませんわよ」
「あー……」
そこはそれ。
効率重視って奴だ。
学校の授業で得られるステ上昇の固定値は、鍛え抜いた後にこそ価値が出る。
まずは伸ばせるだけ伸ばしてから、一緒に訓練や授業でさらに能力値を上げるのが、熟練HVVプレイヤーのセオリーだった。
「しかし怪異か。この学校、精霊がすでに居ついているのかもしれないな」
「となれば良くも悪くも、影響してきますわね。私、幻視技能は持っておりませんの」
大真面目に語り合う、佐々君と天常さん。
HVV世界における精霊とは、ハーベストと違いもともとこの世界の幽世に存在していた者たちのことを指す。
ゲームでも小説でも、様々なイベントに登場し、ステに補正をかけたり敵を一緒に倒してくれたりと大活躍してくれる。
俺が初めて精霊殻に乗った時に話をした“ヨシノ”も、精霊だ。
そもそも人類がハーベストと戦うために用いる契約兵器が、精霊との契約によって成立する不思議兵器なのである。
ついでに言うと最近校内に出没するへちゃむくれの黒ワンコ(雑種)がいて、それも精霊。
ゲーム版に登場する猫の精霊と違って、会話があんまり成り立たなくて残念だった。
一応学校を守るつもりでいるらしいから、ドッグフードを捧げておいた。
「これからは、カウンセリング室の使用者も増えるかもしれませんわね」
「だな」
え?
「そうか、あるのか。カウンセリング室」
「うむ、あるぞ」
ってことは、あの子もいるのか。
「黒木があそこを利用するくらいなら、このボクがいくらでも話を……」
「どんな些細なことでも! 気になったことがあればこの私! 天常輝等羅がまるっと解決してみせますわーっ!」
「くぉら天常! ボクと黒木の友情に口を挟むんじゃあない!!」
「おーっほっほっほ! 問題解決の即応性において、天常家が佐々家に負けるとでもお思いでしてー?!」
「なんだとー!?」
「なんですの!?」
弁当も食べ終え、話も一区切りついた。
どうせ午後の訓練もサボる奴はいないだろうし、ちょっと動いてみるのもいいな。
「黒木さん、何か気になることでも?」
「ん? ああ、ちょっとな」
本来ならAクラスに所属してるはずだから、てっきりいないんだと思ってた。
だが、いるというなら会わないわけにはいかないだろう。
「備品の整備を、しておこうと思ったんだ」
そう言って俺は、細川さんににっこりと笑いかける。
「ヒュッ……」
彼女はそれ以上、何も言ってはこなかった。
※ ※ ※
午後。
「うぅ、翼ちゃんもう限界……」
「ランニングはもういやだぁ……」
「くっ、動け、動いてくれ俺の筋肉ぅ……」
「あ、あの。天常さんは1時間後に迎えに来るそうなので、それまではゆっくり休んでくださいね」
「「「保健ちゃんの鬼ーーー!!!」」」
保健室から響く賑やかな声を聴きながら、俺はその隣の部屋のドアに手をかける。
“特別カウンセリングルーム”という看板を掲げるその部屋は、思った以上に狭かった。
人一人が向かい合い、座るくらいで精一杯の、まるで懺悔室かのようなその空間に。
「……何の用かしら?」
彼女は一人、静かに、お行儀よく座っていた。
(なるほど。彼女が天2軍学校の……備品ちゃんか)
「………」
黒髪ロングストレートの、お人形のように愛らしい、10歳くらいに見える女の子。
こちらをうっとうしげに見つめる視線は冷たくて、明らかな拒絶の意思が込められている。
それが彼女――九條巡とのファーストコンタクトだった。
日常回。
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