第196話 日ノ本最終決戦~天常に響く合奏~
いつも応援ありがとうございます。
応援、感想、いつもいつも元気をいただいています。
どうぞ最後までご声援頂けましたら嬉しいです!
日ノ本最終決戦シリーズ、始まります。
永崎市街。
遠く伊那佐山を望む異国情緒を含んだ市街に場違いに立つ巨大な柱。
その柱から噴き出す赤い霧が街を包み、数多の怪異を吐き出していく。
ゴブリン、ゴーレム、ユニコーン、イフリート……ドラゴン。
一見すればこの町らしいファンタジーにも見えるかもしれないが、現実には違う。
それらは明確に人々に牙を向け、害し、この地を奪うためにやってきた侵略者だ。
「一斉射! てぇーっ!」
「おおおおっ!!」
ゆえに彼らは、人類はその手に武器を持ち、それらと戦う。
2000年から2020年、今日に至るまで、彼らはそうしてこの地を守ってきた。
「永崎防衛隊! 全力だぁぁっ!!」
「「おおおー!!!」」
他の戦場で活躍してきた兵たちも受け入れて、日ノ本の守りの中枢を担った彼らの意気高く、放たれる雨あられの銃弾は確実に外敵を打ち破る。
この地はどこよりも今兵力が充実し、拠点防衛においては世界最高峰を名乗っても恥ずかしくない、まさに鉄壁の布陣が敷かれていた。
だが。
「くっ! 守るばかりでは解決せん! ジリ貧になる!」
「ですが決め手がこちらにはありません!」
本来、守護を生業とする彼らに、侵攻作戦は不得手だった。
敵を退けられても、敵を押し返せても、切り込み、もぐり込み、制圧するのは難しい。
柱がある限り敵は無限に湧くと、送られてきたデータにはある。
行かねばならぬがそのきっかけも、切り拓くための最初の一手も、ここにはない。
進軍経験のある神子島からの兵も、他の仲間たちと足並みを揃えるには今少し時間がかかり、手をこまねいているのが現実だった。
「隊長!」
「今はこらえろ! 他の地域には天2隊員が派遣されていると聞く! であれば、必ずや他の戦域が攻略され、いずれここへと援軍が来る!」
結果、専守防衛。
得意分野で戦い、リスクを負わない。
都市部の被害は覚悟の上で、最悪命の消費も覚悟の上で、堪えるしかない。
そう判断する他なく――。
「――っしゃあ! 黒木終夜! エントリィィィーーーーーーー!!!」
「!?」
それは、突如として天から舞い降りてきた。
「うおおおおおお! 来ぉぉぉい!! 呼朝ぉぉぉーーーーーーーー!!!」
オープンチャットで叫びながら、現れた小さな影は大きな影を呼び出し、即座に乗り込む。
「隊長! あれは!!」
「まさか、まさか……!!」
特に戦力の厚いここに援軍はない、と。建岩の姫が言っていた。
それなのに。
「来て、くれたのか! 緑の風!!」
日ノ本が誇る、最大最強の英雄が。
エースオブエースが!
「それじゃあ本日一発目ぇ!」
『限界突破駆動、起動します!』
それは、噂の通り緑の風となり、戦場へと突っ込んでくる。
当然のように、当たり前だというように、兵士たちの最前線へと着地して。
「あーあー、こちら天2の黒木終夜千剣長。道は拓く。付いてきてくれ!」
独立行動権を有する天2隊員からの申し出……否、みんなのヒーローからの呼びかけに。
「「了解!!」」
戦場に立つ兵たちは、誰もが己の限界を超え、彼に手を貸すことを決意した。
※ ※ ※
はい、ドーモ!
“推しの踏み台許さない”黒木終夜デース。
今回は九洲全土に配置されたクソギミックこと“柱”を攻略するべく、九洲全土を駆け抜ける全力疾走RTAを開始しておりまーす。
え、沖名波?
あそこにゃ柱は建てらんないし、よしんば建ったとしても守護者のシーサー様が作った結界とかHVV番外小説の主人公さんたちがなんとかもたせてくれるんで一切問題ございません。あそこは現代に残る神秘の地ゆえ。
はい。
そんで今回ですが、ぶっちゃけ俺が呼朝のエンジンぶん回して駆け巡ろうがやるまいが、人類が勝ちます。見ればわかります。
姫様からもらった最新情報を参照して、ヨシノと軽く議論した上で、戦闘としては勝ち確だと判断しております。
じゃあなぜ走るのか。その理由は二つあります。
ひとつは、人類の被害を減らすため。高速攻略は結果として全体の被害が減ります。
そしてもうひとつ、こっちが重要かつ説明がいる奴なんですが。
「白衣の男のメンツを潰す」
これを狙っての行動となります。
え?
あいつはメンツ潰されてもむしろ喜んでキャッキャするような愉快犯だって?
Exactly.
その通り、これをやってもあいつは喜びます。そこはもうしょうがない。
ですが、これをすることによってあいつは同時に、自分の立てた作戦が自分の演出が否定されたと感じるんです。
思い出してください。
あいつの狙いはこの戦いをより派手に、より激しくすること。
要はドラマティックに仕上げたい、と。
そういってるワケですねぇ。
そのためには何が必要か。
より多くの人の心に訴えかける何か。
戦争というジャンルにおいて、それは……犠牲です。
そう。
あいつの狙いはたくさんの犠牲。多くの命が戦火の中で散るシーンを作ろうと目論んでいる。
これまであいつが裏で手を引いたと思われる作戦には、必ずと言っていいほどより多くの被害が出るように仕組まれた形跡があった。
亜神級の畳みかけ然り、突然の九洲全土奇襲作戦然り。
あいつにとっての派手さ、激しさってのには、必ず多くの犠牲が出るよう勘定されていた。
……それを潰す。今回も潰す。
俺たち天2がこれまでずっとそうしてきたように。
(姫様がこの辺把握して動いてるかどうかはわからないけど、ありがたくもそう立ち回れる土台を用意してくれた)
俺の立ち回り次第で、各地で発生する人的被害は、ワンチャン“0”にできるかもしれない。
(だったら、やるっきゃないよなぁ?!)
白衣の男のメンツを潰し、目論見をくじく。
それに……この資料に書かれた情報が、本当に正しいなら。
(……神子島に、RRがいるのなら)
全部を踏破した先で、俺がそこへと向かったら。
白衣の男も、必ずそこに現れる。
そこにこそ、俺はこの長い長いあいつの無法に終止符を打つ勝機が、あると踏んでいる。
「……っと、いうワケでぇ」
後ろにぞろぞろ永崎防衛隊の皆様を連れて歩いてハイ到着!
「永崎防衛隊! 目標! 前方の柱! 一斉射ぁ!!」
「「うおおおおおっ!!」」
防衛隊の皆さんが、柱の攻略を開始したのを見届けて。
「隊長さん! 俺、次の場所に行きます」
「えっ!? ぶち壊すの手伝ってくれないんですか!?」
「大丈夫。俺がいなくても皆さんならできるんで……っていうか、すぐにわかります!」
「!?」
隊長さんと軽く連絡取り合って。
「ヨシノ!」
『拡張型“ゲートドライブ”。既に展開済みです』
俺たちは、次の戦場へと向かう。
「そんじゃ、あとは頑張ってください!」
「黒木千剣長!」
ゲートに飛び込むその瞬間、俺の耳に入ってきた隊長の声は。
「あとは、お任せを!」
「……ウスッ!」
一抹の心配も感じない、力強くダンディなボイスだった。
(実際、なんも心配してない)
姫様から渡された資料に書かれていた、とある内容。
もしこれが、本当なら。
(始まるのは、オーバーキルだ)
人類を舐めるなよ、ここに極まれりって奴だな。
※ ※ ※
隈本市内、隈本城。
そこに、普段は公園として、時にイベント会場として使われる広場がある。
隈本城二の丸公園。
いつか、終夜と白衣の男が邂逅を果たした地。
そこには今。
「おーーーーーっほっほっほ! よろしくてよぉーーーーーーー!!!」
彼女のための、特大ステージが用意されていた。
「まさか、こんなにも早く実践投入することになるとはね」
ステージ前、組み上げられたそれを感嘆と共に見上げるのは、清白なずな。
清白帆乃花の戸籍上の母親にして、現在は天2の各兵装を管理開発する部門の長を務めている。
「あら、私としましてはこれがギリ間に合った事実に感動と百億万の感謝をお伝えしたくってよ! 清白様!」
「ふふっ、それはどうも!」
中空にモニターを出し顔見せ通話する天常輝等羅に、なずなは笑顔を返す。
浮かべた人懐っこそうな表情は、血の繋がりこそなくっても、彼女の娘とよく似ていた。
「実際どう、やれそう?」
「愚問ですわ! やれなければ、私は今日で天常家の当主を辞します!」
「おいコラ勝手にやめるとか言い出すなバカ!」
通話に横入りするのは、同じく現場入りしている佐々家次期当主、天2の整備班長佐々千代麿。
モニターに表示される彼は、なにやら舞台袖でコードを繋いでいた。
「成功しようが失敗しようが、天常家はしばらくお前が引っ張らないと世界が回らなくなるんだからな!」
「あら、その時は貴方が天常家の業務を引き継いでくださればいいのではなくて?」
「誰がそんな面倒なことをするか! このボクは佐々家の当主だぞ!」
「まだそうではないでしょう? でしたら今からでも天常に」
「あははっ。相変わらず二人とも仲いいわねぇ」
やいのやいのと始まった痴話喧嘩に、なずなは心から笑う。
今、自分の娘が死地で戦っているにも拘らず、彼女の胸の内は晴れやかだった。
(ホント、軽々背負っちゃってまぁ。すごい子たちだよ……ウチの娘が一番だけど)
このチームが、天2が。
負けるイメージなどどこにもなかった。
「よし、準備完了だ!」
「All clear! いつでもイケるよ!」
千代麿側の用意が終わり、同席しているオリヴィアと共にGOサインを出す。
「細川!」
「用意はできております」
「天2基地のタマちゃん!」
『問題ないよん!』
「ならば……よし! でしてよっ!」
複座型精霊殻“響輝”のコクピットに座る輝等羅からの呼びかけに、すべてがGOを出す。
「準備万端。完璧ですわね!」
それは、ステージの上。
響輝はおびただしい量のコードによって周辺機材と繋がれていて。
まるで紅白歌手も真っ青の、ゴッテゴテのドレスを着せられたかのような、ある意味で輝等羅好みの厚みを持った姿になっていた。
「輝等羅!」
「!? ……なんですの? 千代麿?」
「……お前の舞台だ。存分にやれ」
「………」
最後にもう一度、幼馴染と特別なやり取りを交わしたら。
「……細川!」
「はいお嬢様。今のは録音済みです」
「でーはーなーくーて! 起動しますわよ!!」
「はいお嬢様」
ステージの幕開けを告げるスイッチが、いよいよもって叩かれる。
・
・
・
「え?」
「へっ?」
「ほぁっ!?」
「マジで!?」
それらの声は、九洲各地で同時多発的に沸き上がった。
天空に表示される巨大モニター。
そこに映し出されるのは、圧倒的ボリューム感の金髪縦ロールと扇情的なナイスボディを契約鎧越しに惜しげもなく晒す時代の歌姫の姿。
小さなステージを模した形へ改修されたコックピットに立つ、天常輝等羅の姿である。
「九洲全土、各地にて戦うすべての戦士たちよ! お聞きあそばせ! この映像は隈本市は隈本城内、二の丸公園から発信しておりますわ! もう日も落ちて、星空が見えてまいりましたわね?」
歌い上げるような彼女の語りは、アーティストたちのライブ前パフォーマンスその物で。
「夜戦技能はちゃんと取りまして? マニュアル佐々の技能項目にちゃーんと記載してありましたから、レベル1くらいは皆さま持っておりますわよね?」
つい先日の、神子島での戦いは映像として残っている。
ゆえに誰しもが、まさかと思いながらも期待する。
「持ってないなら潔く後方支援に従事なさい。ここより先、すべての戦場は天2が……いいえ、この天常輝等羅が支配いたしますわ!」
「……!」
輝等羅の宣言と共に始まった、細川渚の演奏に。
精霊たちを、戦士たちを鼓舞する“精霊楽士”たちの“合奏”に。
「ご安心なさい。ハッタリではなくこの音は……!」
輝等羅が歌う。高らかに。
「必ず……皆様の心に、届きましてよ!!」
渚が奏でる。しなやかに。
「渚!」
「お嬢様!」
二人の声が重なる。
「「精霊契約! 重層同期!」」
絶対の信頼で繋がった主従が。
人と半精霊がゆえにできる、新たなる無茶でもって。
「「完全合奏!」」
奇跡を起こす。
「手果伸ぉー!」
『プログラム! ドラーーーーイブ!!』
響輝と繋がった各地に展開するドローンたちへ力を届ける、大型外付け霊子回線拡張装置の外部起動ボタンを叩く千代麿と、それらを繋げるプログラムを奔らせた珠喜が、彼女たちの歌声を、確かに世界へ響かせる。
人と精霊、機械との三位一体。
終夜の無茶を基準とした、人類の新たなる可能性の表明。
「さぁ! 私の歌をお聞きなさい! 世界!!」
その瞬間。
響く歌声が九洲すべてをあまねく震わせ。
「おーーーーほっほっほっ!」
踊る彼女を讃えるように、黄金色の燐光が、派手に苛烈に舞い上がる!
「「うおおおおおおーーーーー!!」」
極まりきった一芸は、戦士たちを一人残らず、強く、硬く、そして素早い――。
「メドレーで行きますわよぉ!」
「「わあああああーーーーーーーーーーー!!!」」
――新たなる英雄へと、仕立て上げた。
一般戦士A「ウオオオ! すごい力が装備から伝わってくる!」
一般戦士B「黒木千剣長、完全合奏とは一体!?」
終夜「知らん、何それ……ヤバ……」
応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!
ぜひぜひよろしくお願いします!!