第184話 危機、到来!
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大変お待たせいたしました。
本日より更新再開です。
そしてこの物語も、いよいよ終盤戦突入です。
よろしくお願いします!
黒川めばえが外部と不正に繋がっていた。
その繋がりに、戦いを裏で手引きしている上位存在がいる可能性も浮上して、このボクとしても放っておくワケにはいかない状況だった。
「消えた……?」
「終夜、あなた……」
「細川! 二人の行き先はわかりまして!?」
「すぐに調べます、お嬢様!」
今、ボクたちの目の前にあるのは空白だ。
さっきまではそこに、二人の人間が存在していた。
「千代麿! 何をぼぅっとしていますの!? すぐに動きますわよ!」
「………」
「千代麿!」
黒木を追ってバタバタと部屋を出ていくメンバーをよそに、ボクは近くの床に落ちた見慣れぬ端末を見つける。
旧時代の携帯電話に似て非なるそれが、おそらくは連絡手段に使われていた物だろう。
黒川めばえと外との不正な繫がりを示す、重要な証拠だ。
間違いなく、彼女は日ノ本の未来を左右する、重要参考人だと考えられる。
だが。
「あいつ……!」
黒木は……このボク、佐々家次期当主佐々千代麿の最大最高唯一無二の親友であるあの男は。
こともあろうにその黒川めばえを連れて、いずこかへ転移してしまったのである。
「あいつは……またこのボクに何も言わずに、好き勝手な行動を始めたなっ!!」
なんの! 相談も! なしに!!
(まったくもって、まったくもって、けしからんっ!!)
ボクは今、とても怒っている!
ウウーーーーッッ!!
「「!?」」
……警報! このタイミングで!?
この場にいた全員の端末が光り、緊急の霊子回線が開かれる。
サウンドオンリーで繋がったそこから聞こえてきたのは、六牧司令の焦り声だった。
『緊急連絡! 緊急連絡! 九洲各主要都市に未知の……柱に似た人工建造物が出現! それらは幽世の門より現れた模様! 繰り返す! 九洲各地に……』
驚かされたのも束の間。
『え、なんだって!?』
回線の向こう。六牧司令の口から驚愕と、さらなる困惑の声が上がる。
『追加連絡! 現れた人工建造物から赤い霧が出現! 間違いない! こいつは最大級のマーキングだ! 敵が出てくる!』
そして。
『え、今度は何……はぁぁぁぁ!? 天久佐の壁方面から迫りくる“空泳ぐクジラ”を発見したぁぁ!? どうなってるんだよこれはぁぁぁーーー!!』
続々と届く絶望的な報告に、とうとう絶叫する司令の声を聞きながら。
「……明らかに、畳みかけに来ておりますわね」
「ああ、間違いないな」
逆にボクたちの思考は研ぎ澄まされて、冷静に。
「建岩が留守、そして黒木を欠いたタイミングで計ったようにこの窮地だ。敵は本気だぞ」
「どうなさいますの、千代麿?」
「……決まっている。今の天2にできる十全で、そのことごとくに対応するだけだ!」
黒木たちの捜索、日ノ本の防衛、亜神級への対処。
そのすべてに手を打つ。
(できるか? いや、やる! ボクたちはこれまで、ずっとそうしてきた!)
そう、このボクこそは天2が誇る整備班班長にして佐々家次期当主、佐々千代麿!
隈本が生んだ肥後もっこすにして、黒木終夜の唯一無二の親友だ!
「動くぞ天常!」
「言われなくともすでに動いておりますわ! っということでしてよ六牧司令?」
『この状況で黒木君も姫様もいないのバカじゃない!? っと、ああもう! わかってるよ! 司令室に来て! 作戦会議だ!』
ボクたちは行動を開始する。
(黒木。お前のことだ、銃に撃たれたくらいじゃ死なないだろう。ならば今この瞬間は、黒川のことをお前に託す)
きっと、あいつは未だボクたちの知らない何かを知っていて。
きっと、あいつはこれまでもずっと、そのために戦ってきていたのだろう。
それを今日の今までボクが知らずにいることは、はなはだ業腹だが。
「急ぐぞ輝等羅! 一分一秒の勝負だ!」
「当然でして……えっ!?」
ボクはボクで、ボクの為すべきことを為す!
(それはそれとして、落ち着いたらまた説教だ! 覚悟しておけよ、黒木!)
「ちょっと! ちょっと千代麿! 今、私のこと下の名前で呼びませんでした!? ねぇ! 千代麿!?」
親友であるこのボクを謀った分は、きっちり清算させてやるからな!
だからお前はお前で、やるべきことをしっかりとこなしてこい!
「千代麿~~~~!!」
信じてるからな!
※ ※ ※
神子島県沖、海上。
「……ハッ! γ-28275。どこかで愛し子たちの熱い友情と、ほのかなラブの気配が輝くのを察知しましたよっ!」
『ハイハイ。現実逃避の冗談なんか言ってないで、術式展開しますよ~』
「はひぃ……」
確かにそれっぽい気配を感じた気がしたのですが、それはそれ。
私は今、とある大いなる使命のために、小船に乗ってこんな海まで出ています。
『あちらさんの目的からしてすぐにどうこうなることはないと思いますけど、一応覚悟だけは決めといてくださいね。α-10218』
「はい……準備はできています」
大いなる使命。
それは、私たちではどうあがいても変えられない……絶対的な運命の力の、確認作業。
『それじゃ、サルベージしまーす』
「お願いします」
RR……別世界の建岩命さんの回収です。
(数日前、私たちのもとへと届いた救難術式。その使用者の放つ力のパターンは、間違いなく建岩命さんの物でした)
黒木終夜さんと出会って、彼の話を聞かせていただいて。
私とγ-28275は、とある仮説を立てました。
それすなわち。
“この世界が、過去に実行された歴史を繰り返している世界なのではないか”と。
(……まぁ。なぜかその仮説、命はすでに思い至ってたみたいなんですけどね!)
最近聞きましたけど、あの子ったら知力が2500を越えたそうですよ!
もう普通に私より賢いですね!
ステータス2000以上……ランクODは六色世界でも優秀者です!
本当にすごいです!
これならば、六色世界をも超越する力、OWに至る日もくるかもしれません!
『キャッチ。引き揚げますよー』
「! はい、お願いします」
あれこれ考えているうちに、γ-28275が目的の物の位置を掴んだみたいです。
少し待つと、複数のドローンを使って展開した結界の中に、真っ赤な石が包まれた状態で海上に浮かび上がってきました。
思わず、眉をひそめました。
「封印結晶……ですか」
幾億の魂たちへ犠牲を強いることで完成する、禁忌の錬金アイテム。
なるほど、これに囚われてしまっていたのなら、動きようもありませんね。
『中身は……あぁ、よかったー。生きてます生きてます』
「そうですか。であればすぐに解除します」
このような道具、見るのだって嫌ですから、早々に塵と化してもらいましょう。
「空間術式展開。現地環境適合処理、大阿蘇式を選択。解呪パターンを設定……解呪開始」
封印結晶にはすでに、中にいる建岩命さんからの干渉でしょう、綻びが生まれていました。
あとはただ、その綻びという空間を拡張し結晶全体に重ねてあげれば……ほら――。
ピキピキ、パキンッ。
「――開・封!」
パリーンッ!
ご覧の通りです!
「………」
封印から解放され、再びこの世界に姿を現した真っ赤な彼女を……抱きしめます。
「ぅ……」
「もう大丈夫ですよ。私です。貴女の知っている者とは違うかもしれませんが、新姫です」
「にい、ひめ……さま?」
「はい。命、よく頑張りましたね」
よかった。
意識こそ揺らいでいるけれど、傷らしい傷は自らの手で塞いでいたみたい。
大事がなさそうで安心しました。
「ぅ、ぁ……」
「……ふむ」
それにしてもこのサイズ感。やっぱりこの子は“未来”のあの子なのですね。
で、あれば……。
「命、命。貴女に聞かねばならないことがあります」
「……は、ぃ」
「この特異点の、この再演世界の歴史の収束点はいつですか?」
「……――」
返事を受け取る。
「そう、ですか……」
告げられた事実に“時空秩序の管理者”たる私の心が、一気に冷めていくのを感じました。
悲嘆が、諦観が、胸の中を満たしていきます。
「………」
見れば、神子島の桜花島と並ぶように。
高く高く、天を衝かんとするように伸びた赤の一族の最終兵器、柱が立っているのが見えました。
(あれが私たちの墓標代わり……とでも言うつもりですか? 愉快犯め)
すでに手遅れ、すでに歴史は変えられた。
そんな事実を突きつけられて、けれど私は……。
(……不思議ですね。心の底まで冷えているのに、どうしてだか今、絶望はしていないのです)
少なくともこの、胸に沸いた強い思いは。
許せはしないと憤る、この熱い想いは。
必ずきっと、晴れる時がくるのだと、信じられるのでした。
(……いえ、ともすれば。それ以上の何かすら、起こりそうな予感さえあるのです)
だから。
「命、命。ゆっくりと息を吸って、吐いて、心を安定させなさい」
「は、い……」
「それができたらこの封筒を開き、中を検めなさい」
「……?」
私も今は、できることを。
「大丈夫。きっとそこには、希望が書いてありますから」
愛すべきこの世界の子らと同じく、己が意思を持って。
為さねばならぬべきことに、挑み続けていくだけなのです。
・
・
・
ビービーッ!
「おっと、ハイ停止」
天2からの緊急連絡を着拒して、追加でもう何回か跳ぶ。
傷が開いたのかさっきから生命力がゴリゴリ零れ落ちてる気がするが、案外大丈夫なもんだ。
(そろそろ“隠れ身”の拡張展開で位置情報ごまかせるかな? そうしたらそのあともう2、3回跳んでっと……)
多分今、追跡飛ばしてきてるのは細川さんだろうから、このくらいで大丈夫。
明日にはタマちゃんに見つかるだろうから、タイムリミットはその辺だな。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
「だいじょうぶ、だーいじょうぶだって、めばえちゃん」
推しをお姫様抱っこするっていう栄誉を賜りながら、俺は追跡から逃れるべく、転移を繰り返す。
(追跡をごまかしつつひとまず落ち着ける場所……あそこでいいか)
目的地を決め、そこに至るまで再びかく乱行動。
都合10回近くの“ゲートドライブ”をキメてから、俺は目的地――ビトウ島の地底湖へと向かった。
輝等羅「このタイミングでわざわざ下の名で呼ぶことの意味とはー!? なんなんですのー!?!?」
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