第183話 終わりの始まり
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楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
本章エピローグ。
熱い。
腹……いや、もうちょっと左……脇腹の辺りがめちゃくちゃに熱い。
「う、ぶっ」
急な吐き気を催して、胃液と一緒にそれを吐く。
「ごぱっ……ぇぅっ」
血だ。
床を真っ赤に染めるほどのたくさんの血が、俺の口から吐き出された。
(これ、は……)
全身から汗が吹き出し、ぼやける意識の中で考える。
(俺、は……)
撃たれた。
(めばえ、ちゃん……)
最推しのヒロインに。
「ぁ、や……」
俯いてしまって持ち上げられない頭に、声が聞こえる。
小さくても俺が決して聞き逃すことのない声、めばえちゃんの声だ。
「ちが、わた……ぁ……」
大丈夫。
俺はわかってる。
コレは、ただのミスだ。
緊張の糸が限界まで張りつめてた状態でびっくりして、思わず引き金を引いてしまっただけ。
そこに殺意は込められてない。
でなきゃ、“No.9”が俺を仕留め損なうなんて、ありえないのだから。
だから俺には、それだけわかれば十分だった。
「めっ、めばえさん!? なんということを……っ?」
「黒川ぁ!! お前、お前ぇッッ!?」
「ぁ、ぁぁ……ち、ちが」
「違うってことはないだろう! 今、お前は――」
「ット~ップ」
俺の脇をすり抜けていこうとした佐々君を右手で止める。
左手で傷口を押さえ“手当て”で治療を試みながら、どうにかこうにか口を開く。
「黒木!?」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ……このくらいじゃやられねぇぜ」
「~~~っ! そういう話じゃないだろう!! 彼女からは聞かねばならないことが山ほど」
「だ~か~ら~、だいじょうぶだって、しんゆう?」
「!?!? また、お前は……!!」
今にもめばえちゃんにぶつかりに行こうとしてた佐々君が止まったのを手で感じて、俺はようやっと、くの字に折れてた体を持ち上げ、前を向く。
「ぁ、ぁ……」
へたれて、机に寄りかかって動けなくなってためばえちゃんと目が合った。
おそらく弾を撃った直後の手の形のままに、銃を力いっぱい握った姿で。
「だいじょうぶだいじょうぶ、めばえちゃん。おれはこのとおり、ペッ、いきてるから」
傷口から手を放し、溜まってた血を吐き、両手を持ち上げ歩み寄る。
『終夜! なにをやって……ぐっ』
『動いたら、ダメ……ぁっ!』
優しい契約精霊たちに動きを拘束される前に、意志の力で黙らせる。
あっちにできてこっちにできない道理はないと思ってたが、意外とやれるもんだった。
「ちが、ちがう……」
「だいじょうぶ、わかってる」
めばえちゃんのところまで辿り着く。
震える彼女の隣に並んで、このあいだと同じように、よしよしとその頭を撫でてやる。
「おれは、だいじょうぶ、だから……ほら、いきをすって、はいて……」
「………」
緊張しきっている彼女の体を、少しずつ少しずつ解してから、銃を持つ手に触れる。
そうしたら指を一本ずつ、ゆっくり、柔らかく、ほどいて、放してやる。
「ぁ、ぅぁ……」
「にほん、いっぽん……よーし、これでもう、こわいのはないな」
放れた銃をキャッチして、俺はそれを、だいぶ赤く染まってる制服の内側に収納する。
「あ~……な?」
目線を向ければ、怒っているのか悲しんでるのか呆れているか……な、佐々君と天常さん。
そしてその向こう、細川さんを先頭に、何人かの人影がこっちに向かってきている。
さすがの天2隊員たちというか、緊急事態の動きに迷いがない。
……時間的余裕は、なさそうだ。
「! おい黒木! お前何を考えてる!?」
「千代麿?」
あー、やっぱ気づくか。
さすがは親友。マジで俺のこと、よく見てくれてるんだな。
でもそこで動くより先に聞いちゃうところが、ワンテンポ遅いのよ。
ヴンッ。
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超常能力“ゲートドライブ(拡張)”を、使用します。
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ユニオンセルを活用しての、複数人転移。
対象はもちろん俺と……めばえちゃん。
「ぇ……?」
「逃げるぜ、めばえちゃん!」
全身に力を込めて、心に喝を叩き込み、めばえちゃんを抱き寄せる。
「待てっ、黒木!」
「黒木さん!?」
「終夜くん!」
「終夜!!」
雪崩れ込むように部屋の中へ突入してくる仲間たちに、めいいっぱいの獰猛な笑みを作って。
「悪いな! 俺、めばえちゃんの味方なんだ!!」
言い切って、倒れ込むようにゲートへ飛び込む。
「ぁ、ぁ?」
「へへっ、そら、行こうぜ!」
終始驚き顔のめばえちゃんには優しく満面の、いつも通りの笑顔を向けて。
ヴォンッ!
俺たちは二人、天2から脱走した。
※ ※ ※
大阿蘇市、新姫神社。
「お、お待ちください命様! 新姫様は今、出立の準備をなさっておいでで」
「いいえ、待ちません。私の用事もまた、急を要するのです」
「そんな……!」
もう何度目かとなる僕の言葉を無視しての侵入。
彼女のプライドはズタズタかもしれませんが、毎度のごとく話を通す時間が惜しいので、これからも涙を呑んでいただきたく思います。
「新姫様!」
「ぴゃあっ!? あ、命ですか」
ズパンッ! っと襖を開いた向こうで、新姫様が手提げ鞄に荷物を詰めておいででした。
「お出かけなさるのですね?」
「え、えぇ。少々、こちらで確かめなければならないことがありまして……」
「神子島ですね」
「ええ神子島に……って!? なんでバレているのですかっ!?」
さらっと口を滑らせたうえに、飛び退く勢いで驚かれる新姫様。
終夜様と出会われてからの彼女は、すっかりカリスマを捨てていらっしゃるようで、たいそう人間味が増しているように感じられます。
ある意味で、私よりも。
「問題ございません。本日は諸々確信した上でお伺いしております」
「も、諸々……ですか」
「はい。諸々です」
感情的になられた新姫様に対し、私は努めて機械的に、感情を出さないように話を進める。
今、私が行っているのは詰将棋を実際に進めるような工程。
決められた形をなぞり、正しく踏まえて事を進めていく必要があるのです。
「それは……」
「もちろん。私の知る範囲を私から話させていただきます」
私の予想では。
ここを一手間違うと……私自身の命がないと、判断しています。
「新姫様」
「は、はいっ」
「こちらを、ご覧ください」
そう言って、私は事前に用意しておいた封筒を新姫様へと差し出す。
それを受け取った新姫様が、一度だけ私の顔を覗き見上げてから、封筒の中を検める。
そこに込めたのは一枚のメッセージカード。
きっと、私の口から決して言葉にしてはならない文字列を記したモノ。
即ち。
自らの存在を揺るがすような、致命的な考察。
“RRは、私であって私ではない建岩命ですね?”
「……!!」
新姫様が、メッセージカードと私の顔を何度も何度も驚いた表情で見比べなさり。
「………」
グッと、意を決した表情をなさった時点で、私はそれが事実だと確信しました。
同時に私の中にある様々な疑問のいくつかが、カッチリとハマり確信へと至り……そして。
「……その、実は」
「新姫様。お願いしたき儀がございます」
「ふぇうっ!?」
次にするべき行動が、私の為すべき道が。
とうとう拓かれたのだと、感じました。
※ ※ ※
隈本市、金峯山。
上天久佐を中心に彼らが紡ぐ物語の、そのほとんどを見やれるその山頂で。
「……機熟!」
白衣の男は悦楽の極みに達していた。
「機熟! 機熟機熟機熟機熟機熟ぅぅ~~~~~~~~!!!」
腕を交差させて白衣を掴み、掻き抱くようにして身を震わせる。
「機は! 熟したっっっ!!!」
そこから手を広げ、天を仰ぐ。
彼の周囲に複数展開する超常のモニターには、計8つの異なる場所が映し出されていて。
「再演の物語はいよいよクライマックス! すでに過去紡がれたソレよりも彼らは前へと進み、この物語こそが新たな正史となることは明白! だが! しかしっ!!」
男が躍る。
モニターたちが動きに合わせて回転する。
「まだだ! まだ! 希望は! 物語は! 熱狂は! 混沌は! まだ先があるとそう言っている!!」
手を叩く。
それを合図に、モニターの一つ……海原を映したものに影が浮かぶ。
それは大きな大きな、クジラのシルエット。
「演出しよう! 応援しよう! より派手に! より混沌に!」
続けて他のモニターが映すその先々で、次々と影が伸び上がる。
それらは幽世の門を越え、辺りの空間と時間とを捻じ曲げて現出し、起立していく。
その正体は太く長く、赤くて黒い、邪悪なる一本の柱。
杭でもなく、輪でもなく、箱でもない……そのいずれをも凌駕する、最凶最悪にして最終最期の召喚機。
各地に現れたそれらは突如として赤い霧を撒き散らし、周囲を急速に赤の法理へ染めていく。
「さぁ、始めましょう」
モニターの向こう……九洲の主要な都市の、その中心。
九洲奪還の報を受け、ようやく長い戦いの日々から、日常の崩壊から逃れられたと安心しきった日ノ本民が営みを重ねる、平和の地に。
「ピギィィッ!」
「GAOOOOM!!」
「シャギャアアアアッ!」
「グルオォォォォーーーーンッ!!!」
その柱たちから……絶望を呼ぶ声がした。
「歴史の収束点まであと少し……さぁ、最後の最後まで派手に揺すってやりましょう!」
白衣の男――“赤の一族”ルピタ・オ・レオル・ユビ。
最悪の愉快犯が、今、最後の詰めの段階へと駒を進めた。
ハーベストハーベスター
第6部 サード・ジェネシス 完
これにて、第6部完結でございます。
次回からハーベストハーベスターは最終局面、クライマックスへ進みます。
黒木終夜と黒川めばえの、天2小隊のこの先。
二人の建岩命、歴史の収束点……物語の結末へ、いよいよ終わりが見えてきました。
彼の、彼らの紡いできた物語。
ハッピーエンドを目指してまいりますので、何卒よろしくお願いします。
感想、高評価いただけると更新にますます力が入ります。
本当に、たくさんの応援のおかげでここまで来れました。ありがとうございます!
最後の最後まで、駆け抜けていきます!
追記:初めての超長編小説の完結、及び終盤執筆、まだまだ不慣れなことが多く、またGW中にガッツリ風邪ひいて休んでしまったりなどがかさんだため、大変申し訳ありませんが、今しばらく……1ヶ月ほど続きはお待ちいただけたらと思います。前回同様情けない話ではございますが、前回もそうだったように必ず続きを書いて完結まで持って行きますので、それまでどうぞ、よろしくお願いします。