第180話 両手に花の捜査線
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モテ期、到来。
異界技術を使った高度な連絡手段の使用。
基地内で発生した見過ごせない緊急事態に、俺たちはいざ捜査を開始したのだが……。
「えへへぇ……♪」
「………」
今、俺の左右の腕は、それぞれ美少女に抱き締められている。
左はみんな大好きヒーローガール、清白帆乃花。
右もみんな大好き精霊合神まじかるーぷ、九條巡。
天2のスーパーニチアサタイムと名高い女の子たちが、ガッチリ俺に引っ付いていた。
(やわらかい、あたたかい、ふにふに、ぽかぽか……)
あとちょっと二人の髪からいい匂いがする。
緊急事態、緊急事態。
目下向かうべき目標とは別のアラートが、俺の頭の中で鳴り響いていた。
※ ※ ※
(……普通に考えりゃこれは、両手に花なんだろうな)
いずれもSSSランクの魅力を誇る、超絶美少女である。
それぞれ天2の隊服を、片や動きやすくアレンジし、片やキッチリ規範通りに着こなして。ヒーローガールな快活さも、幼気さに妖艶さを足したギャップも、どちらも上手に引き出していて、ひとたびしっかり見つめたら、そのまま視線が固定されそうなくらいにキマってる。
それがどうしてこうなったのかと言えば、以下の通りだ。
『あ、終夜君終夜君、私も付いてくねー!』
ぎゅっ。
『終夜? ……なるほど。私も同行するわ』
ぎゅっ。
「………」
それはあまりにも自然に、あまりにも当然に、あれよあれよで実行された。
まるで美味しい餌に釣られて遠慮なく食いつく動物たちのような、どストレートなアタックだった。
「それで、目星はついてるの?」
「結界と干渉するって話なら、もしかすると基地の端側の方に何かあるかもしれないわ」
俺に抱き着いたまま、帆乃花と巡パイセンは調査を開始するつもりのようで。
その顔は真剣その物だが、互いに引く気はないとばかりに、抱き着く腕の力が増した。
「………」
俺はそんな二人に何も言えないまま、流されるまま連れ歩かされる。
っていうか、ここまでストレートに好意を表明されるのマジで慣れてなくて、どうしたらいいのか分からない。
そして思うにこれは、俺がめばえちゃんに告白するまで続くのだろう。
(……とっとと事態を解決して、胸を張って告白しよう!)
タイミングとしては悪くないはず。
上位存在の脅威を排除して、その上で想いを伝えるってのは、良い流れのはずだ。
「終夜君終夜君。まずはあっち、正門の方に行こう!」
「いいえ、終夜。私はドッグ裏の辺りが怪しいと感じるわ。そっちからにしましょう」
「む……」
「ん……」
意見が食い違って、二人の視線が俺へと向いて。
「「……どっち!」」
めっちゃ仲良くないと合わないタイミングで異口同音に発された言葉に、俺は――。
「――あっち!」
「わわっ!」
「ひゃっ!」
二人が言ったどちらでもない、グラウンド側へと向かい歩き出す。
ついでに軽く腕を振り払おうとしたが、そこは両者譲らず引っ付いて。
「いいよ! 行こう行こう!」
「しょうがないわね。行きましょ」
意地でも俺に付いてくるつもりで、足並みをさっと揃えてきた。
この辺息ぴったりなの、元々仲のいい二人ならではな感じがして、ちょっと面白かった。
諦めの悪さに関しては、正直他人にとやかく言える立場にないしな。
(とにかく今は、捜査を優先だ)
どんな未来へ行くにしても、暗躍してる上位存在の連中は邪魔者だ。
ここらで尻尾をがっちり掴み、引きずり出して叩き潰そう。
「……あはっ」
「ふふっ」
両腕に感じる二人分の重さくらい支えるのは、今の俺にはなんてことない、気にする必要がないくらいのハンデだ。
むしろ、気にするべきは別にある。
(……どうか、めばえちゃんには見られませんように!)
今日も保健衛生管理室におこもり中の彼女のところは避けていこうと、こっそり決めて動く俺なのだった。
※ ※ ※
「終夜君終夜君っ! ここっ! ここ怪しくない!?」
「どこだ?」
「終夜、そこの木はそれなりの年数を生きた木よ。何かしらの残滓を絡め取っているかもしれないわ」
「お、そうなのか。どれどれ……?」
俺、帆乃花、巡パイセンの3人で周る、天2基地捜査線。
言葉のやり取りだけを見りゃ、ちゃんとしっかり調べてるように見えるが、実際は……。
「終夜君終夜君!」
帆乃花は犬耳しっぽブンッブンッと振り回してそうなくらいに無邪気に俺に抱き着いて。
「終夜、次はあそこを」
パイセンは事ある毎に、手を伸ばし、服の裾とか引っ張ってくる。
(アピールが、アピールが強い……!)
昨日の告白イベントを経て、二人の俺に対する好意攻勢が露骨に強くなっていた。
もともとワンコアタッカーな帆乃花はともかく、パイセンが開き直ってるのか帆乃花並の積極性で来るのがヤバい。こっちに対応する引き出しがない。
「終夜君終夜君。今日の調査が一区切りついたら、クレープ食べに行こっ!」
「わ、私も……! 私も連れて行きなさい……!」
「ええー?」
「あなたたちを二人きりにする理由が私にはないのよ。それに、決定権は終夜にあるのだから、彼次第よ?」
「そもそも宗教上の理由でそれを断るのは……」
「「それはダメ」」
「はい」
競ってるんだか仲がいいんだか、ところどころで息ぴったりの帆乃花と巡パイセンである。
俺のめばえちゃん一筋教の教えも、同じく俺一筋教の二人には通じない。
「もしもそれで断りたいのなら、あなたがこれからめばえをデートに誘うくらいはしてもらわないと」
「そーだそーだ」
「ぐっ」
放課後デート! 実際やりたい!! だが……!
(告白するって覚悟決めたら、なんかそういうの全部誘えなくなったんだよぉ!!)
すべての道は告白へ続く。
何かを仕掛けたらそのまま告白まで持って行かなきゃいけないような、そういう気持ち。
一歩進めば全部変わってしまいそうな、そういう漠然とした予感があって。
「……誘いに行っちゃう?」
「……行くの?」
「……………………行けねぇ、です、はい」
「「イェーイ!」」
二人と出掛けることが決定すれば、仲良くハイタッチする帆乃花たち。
恋のライバルのはずなのに、前よりさらに絆が深まっているように俺には見えた。
「あらあらまあまあ、これはすごいことになっておりますわね?」
「お嬢様。あれが緩やかな修羅場にございます」
「げっ」
変に目立ってしまったからか、通りすがりの天常さん主従に発見される。
「その様子ですと、恋の鞘当ては続行といったところでして?」
「うん、そうだよ」
ギュッ。
「……えぇ」
ギュッ。
「あらあらまあまあこーれはお可愛いことでしてよー!! オーッホッホッホ!」
見せつけるように再び俺の両腕がロックされ、それを見た天常さんが高笑い。
そうなったらもう、当然のように……。
「なっ! く、黒木! それは一体どういう状況だ!!」
次々と。
「カーッ、見なってタケぽん! あれがリア充って奴だよ!」
「黒木ほどの筋肉の持ち主だ。さもありなん」
「この情報、さすがに世間に公表はできないと思うけど……バレるのも早そうだねー?」
次々と。
「It’s amaizing!」
「見て見てダーリン。まぁやたちも負けてられないね☆」
「……黒木先輩。式には呼んでくれよな!」
「まー、ようやっと段階が進んだって感じッスかねぇ?」
次々とバレていった。
「節度は守ってね? 僕から言えるのはそれだけだから」
今までのあらゆる感情が込められたアルカイックスマイルでそう宣った六牧司令の満足げな顔が見える頃には、帆乃花と巡パイセンの想いは公然の秘密レベルで共有されて。
「えへへぇ……ちょっと照れるね」
「あら、もうここまで来たらなるようになれとしか思わないわ」
痕跡探しの調査一日目は。
実質、二人の“黒木終夜狙ってます宣言お披露目の日”になった。
「安心なさい。こういうアタックは今日だけよ。あなたの本命が部屋にこもってるのだって、ちゃんと確認済だから」
「その代わり、目立たない形でこれからは容赦なくいくからね? 覚悟、決めててねっ!」
恋愛における、ちゃんと告白だってした俺の大先輩方は。
「もちろん、調査もちゃんとやるわよ。明日からもよろしくお願いするわね?」
「世界を上から目線で操る奴なんて、とっとと見つけてやっつけちゃおうね!」
「……Oh」
今やすべてにおいて、俺の一歩も二歩も先を行っているように感じられるのだった。
恋愛技能レベルとかあったら、誰がレベル高めだろうか。なお現在の終夜を1とする。
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