第179話 謎の霊子回線
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収束が始まる。
オリーの錬金技能レベル4発覚に始まり“紫の思慕”騒動と帆乃花とパイセン……巡からの告白事案。
ある意味神子島戦線での大立ち回りよりも派手で忙しい濃密な2日間を過ごした、その翌日。
「……謎の霊子回線の使用痕、ですか?」
「そう。これは誰よりもまず、姫様と終夜ちゃんに教えとこうって思って」
朝っぱらからタマちゃんに、通信室へと緊急で呼びつけられて。
同じく呼ばれた姫様と一緒に、こんな突拍子もない妙な話を聞かされて、俺は。
「はぁー、マジかよ……」
息つく暇もないってのはこういうもんかと、深いため息を零した。
「朝からごめんねぇ? 姫様はともかく、終夜ちゃんは忙しかったもんねぇ?」
果たしてどこから情報が流れたのか。
ニヨニヨと笑いながら言うタマちゃんは、おそらく昨日の俺周りの諸々について、もう知っているのだろう。
「何か進展させようってときは、ぜひぜひわたしにも一枚噛ませてねぇ?」
面白いこと好きの彼女からしてみれば、ゴシップは生きるための水みたいなもんだ。
これもいつも通りの彼女らしい振る舞いといえたが、けれども今日の表情は、いつもより精彩を欠いているように思えた。
「タマちゃん。そういうのはいいから、とっとと本題を進めてくれ」
「……はーい」
普段ならもうちょっと粘ってきそうなところで、タマちゃんが折れる。
その様子にいつもなら止めに入る役割だった姫様も、ほんの僅かに表情を変えた。
元より侮るつもりはなかったが、自然と居住まいを正して気を引き締める。
「……あれ?」
据え置きPCを操作していたタマちゃんから突然、素っ頓狂な声が漏れた。
それからしきりにあれこれ動かして、その度に首をかしげて?マークを浮かべ始める。
思うに、何か異変が起こったらしい。
「タマちゃ」
「タマちゃん様」
「!?」
話しかけようとした俺を遮って、姫様が口を開く。
その表情はいつも通りに無感情で、けれど瞳には強い確信の色を浮かべて。
「……使用された痕跡が、なくなっているのですね?」
「……うん。なくなってる」
俺より一歩先の問いかけをした姫様に、タマちゃんは緊張の面持ちで頷く。
「……なるほどな」
姫様が俺を見たので、俺もわかってましたって顔で、厳かに頷いておいた。
天才たちの会話ってすげぇなって、改めて思った。
※ ※ ※
「……なるほど」
タマちゃんの代わりに姫様がPCの前に座り、それを確かめる。
「……確かに、何かがあったような気配があります」
曖昧な表現。
「終夜様、ここを注視していただけますか?」
「あいあい」
姫様が指さしたところを、幻視技能も活用して見つめる。
俺の目には正常な霊子波長が表示されているように見えてるが、同時にそこが、思ったよりも整っているような印象を受けた。
「……綺麗だな」
「はい、綺麗すぎます。乱れた部分を正したのでしょう。腕がいいからこそ、ですね」
「ひぇっ」
俺たちの会話に、タマちゃんが後ろで震え上がる。
無理もない。昨日の今日、どころか数時間前にチラッと気づいた異常が、綺麗さっぱり消されていたのだから。
「これってやっぱり……」
「あぁ、むしろこうやって消されてるってのが何よりの証拠だな」
「間違いなく……何かしらの異界技術を使っての非常に高度な……特殊な通信技術を使っての連絡が行われたものと考えられます。こんなことができるのは……」
「上位存在……おそらくは白衣の男かRR、か」
「み゛ゃー!!」
タマちゃんが布団に飛んでって隠れてしまった。
頭隠して尻隠さずなので、なんというかちょっとアレな感じになってしまっているが、ツッコまないだけの情けが俺にもあった。
「終夜様」
「あぁ、わかってる」
基地内で起こった異常事態。
であれば、もしかしたらまだ、この基地の中に手がかりが残っているかもしれない。
「とりあえず、司令には連絡しとかないとな。あとは……」
「輝等羅様と佐々様にも伝えておくべきかと思います。巡様の神通力と、帆乃花の行動力も役に立つかと」
「わかった。それじゃひとまずそこくらいまで話しておこう」
頑張ってくれたタマちゃんの代わりに、手早く次の行動の指針を立てる。
「しらみつぶしになるか?」
「わかりませんが、おそらくは。結界の残滓と触れてノイズが出たということですし……贄はそちら側から仕掛けてみようと思います」
「わかった」
こうして話はまとまった。
俺はさっそく司令室へと向かい、朝のルーティーンをこなす六牧司令に事の次第を説明する。
「…………わかった」
上位存在が絡む案件ともなれば、司令も昼行燈な面倒臭そうな顔をキリリとさせる。
やり取りを終えて司令室を出れば、基地内にどこか、緊張した雰囲気が漂い始めていた。
(これは、何か大きなことが起こりそうな予感がするぜ)
胸のざわめきが止まらない。
ゲーム終盤の大きな嵐の前の静けさのような、そんな不穏な気配がする。
「……気張っていこうぜ、黒木終夜!」
俺は自分に発破をかけて、意識して力強く一歩を踏み出す。
現れた謎を解決する糸口を求めて、基地内の調査を開始する。
(ここで尻尾を掴んでぶちのめせたら、いよいよマイエターナルグレートオンリーラブヒロイン黒川めばえちゃんの幸せな未来が、見えてくるんだからな!)
シリアスに行こう。
すべては、我が愛する推しのために!!
・
・
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と、まぁ。
なんというかシリアスな空気……だったはず、なのだが。
「えへへぇ、さ、いろいろ見て回ろうー!」
「えぇ。注意して、小さなことも見逃さないようにしましょう」
左腕に、帆乃花。
右腕に、巡パイセン。
「……Oh」
気がつけば、俺の左右の腕にはそれぞれ、昨日告白してきたガールズが抱き着いていて。
「終夜君、任務だよ! 気張っていこう!」
「気を抜いてはダメよ? 事は慎重に、けれど時には大胆に動きましょう」
さもそれが当然みたいな態度で、作戦開始を告げられる。
「……どうしてこうなった?」
明らかに意識して引っ付かれてるのを感じながら、俺は首を傾げるしかないのだった。
恋する少女は、強い。
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