第178話 秘密の逢瀬
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本章エピローグはめばえちゃんパート
夜。
天2基地隊員寮の明かりもほぼほぼ消えた、0時過ぎ。
「………」
闇にうごめく人影のように、私はこそこそと寮を出て、目的地へと向かう。
キィ……
小さな音を立てるのも厭いながら慎重にドアを開け、建物の中へ。
ドア横のプレートに書かれた文字は――“保健衛生管理室”。
「……ふぅ」
中へと侵入した人影の正体は――私、黒川めばえ。
「……ん、ん、準備よし」
私は部屋にいくつかの仕掛けを施してから、そっとソレを取り出す。
それは、平べったい手持ち型の端末。
液晶面をなぞれば画面を操作でき、多機能なアプリケーションを起動する霊子道具。
おじさまから託されたソレは、特殊な連絡機としての機能を有していて。
PuPuPu……
「………」
アプリを起動し専用の回線を通した霊子を飛ばす。
ほどなくして目的の人物と繋がれば、私は自然と体がこわばり、頬が上気するのを感じた。
見えてないってわかっていても、自然と髪を弄って整える。
『……もしもし? めばえちゃん?』
「あ、あ、うん……私、よ。一人君」
それは、2ヶ月くらい前から始まった、秘密の通話。
「えっと……元気?」
『うん。怪我も病気もしてないよ。ありがとう』
私と一人君の、大切な時間。
『そっちはどう? 何かあった?』
「あ、えっと……えっとね。聞いてくれる?」
『うん、もちろんだよ』
「……ありがとう」
秘密の逢瀬の、時間だった。
※ ※ ※
『……へぇ、大変だったんだね。天2って本当に、いつもいつもとんでもないことばかり起こるんだ』
「そう、そうなの……。誰も彼もが何かをしたがって、その度に派手なことになって大騒ぎ。巻き込まれる側は、驚かされてばっかりで」
真白一人君は、孤独だった。
彼を戦えるようにしたRRという人物と連絡が取れなくなり、孤立無援の状態になっていた。
だから私は、私にできる範囲で彼を支援することにした。
一人君は戦うための凡そのことは何でも一人でできる人だったから、私はこうして彼とお話をするのが主な役割。
孤独な彼の癒やし手になることが、今の私にできる精いっぱいだった。
『そういえばめばえちゃん。あれから怜王さんと連絡は……』
「ううん、おじさまとは変わらず……」
一人君と連絡を取り合うようになってから、おじさまとは連絡が取れていない。
けど、最後に連絡できたとき、おじさまは――。
『――実は私も今忙しくてね。今はその運命の出会いを大切に、彼の支えになってあげなさい』
って、言ってくれたから。
私は私にできることを、精いっぱい頑張るの。
『すごいな。天2は、僕もそこに行けたらよかったんだけどね……』
「一人君……」
彼は、天2に入隊希望だったらしい。
けれどそれを謎の白衣の男に邪魔され、RRさんに助けられ、今に至ったのだそう。
(もしも、その入隊届がちゃんと出せていたのなら……今頃は同期として、一人君と一緒に過ごせていたのに……)
こんな風にこそこそやらずに、毎日隣に並んで一緒に……。
『めぇばぁえぇーーーーーーーーーー!』
(……!?)
『……あれっ? めばえちゃん?』
「ぁっ……ごめん、なさい。聞いてなかった、わ」
なんで今、あの人の顔が……って、考えたら当たり前、ね。
二人きりって、難しそう……かも。
「えっと、何の、お話だった?」
『黒木終夜君についてだよ』
「ひゅぐっ!?」
『あれ? めばえちゃん? 大丈夫?』
びっくり、した。
まさかその名前が飛び出してくるとは思ってなくて。
『その“紫の思慕”って変なのから、めばえちゃんを助けてくれたのが、黒木君だったんだよね? さすがは緑の風、みんなの英雄だ』
「う、うん……そう、なの」
無邪気に喜んでいる一人君の声を聴きながら、私は思い出す。
ほんの半日も経ってない、まさにここで、黒木終夜にされたこと……。
『……大丈夫、大丈夫』
心からの慈しみを込めて、苦しむ私の髪を撫でてくれた優しい手。
縋る物を求めた私の意図を読み取って、支える止まり木のように振る舞ってくれたこと。
(黒木終夜……おじさまの言う世界に災厄をもたらす“ラスボス”となる存在……)
彼は強い。彼は恐ろしい。
彼が世界を滅ぼそうとするなら、一体誰がそれを止められるのかって、何度も思った。
それは私だけじゃなく、一人君も同じ意見で。
(数少ない、世界の真実を知る人たちだけが……その可能性を潰すべく戦える)
人類に協力的な白の一族、人類に敵対的な赤の一族。
その赤の一族が用意したのがラスボスで、白の一族が用意したのがヒーロー。
ヒロインは、そんなヒーローを助ける運命を持つ存在。
それが私に与えられた、この世界での役割だった。
(つまり私は、黒木終夜と戦う運命にある……そのはず、なのに)
一人君が言うには、彼は自らラスボスだと名乗ったって。
その上で、そんな運命には抗ってみせるのだと、そう言い切ったという。
彼らしい。私もそんな風に思った。
(少なくとも、私が知っている、黒木終夜は……)
強くて、明るくて、勢いがあって。
ぶっ飛んでいて、理解不能で、そして…………なぜか私を推している、変な人。
私と出会ったその時にはもう、ラスボスだって自覚してたのなら。
もしかしたら、私がヒロインだから、好いてくれているのかもしれない。
そこまで考えて、なぜだかちょっとだけ、残念な気がした。
『僕も、黒木君と同じ考えなんだ』
「一人君……」
『運命は、越えられる。僕たちの意志で、乗り越えることができるって』
「……うん」
一人君は、黒木君を助けようって言ってくれた。
おじさまは、RRさんは、彼を倒さないといけないって言ったけれど。
私たちならそんな運命だって乗り越えられるって、そうお互いに言い続けている。
『RRを見つけたら、僕は改めて問い質してみるつもりだよ。どうしてあの時、僕を転移させたのかって。ちゃんと理由を聞いて、また何度だって話し合いの機会を作れるように頑張る』
「うん……」
『めばえちゃんも、そっちで何かわかったら教えて。今、天2以上に情報が集まる場所ってないと思うから』
「うん……任せて」
『……ありがとう』
一人君からのお礼の言葉に、胸が温かくなる。
彼に頼ってもらえてるのが、たまらなく心地いい。
「一人君……」
『なに、めばえちゃん?』
「あなたには、その、わ、私が……いるわ」
『……えへへ。本当にありがとう。その言葉だけで、すごく元気が湧いてくるよ』
「っ! ……うん、うん」
『でも、無理だけはしないで。何よりも自分の身を大切にして』
「うん、うん……ありがとう、一人君」
一つひとつのやり取りが、彼と想いを通わせるのが、こんなにも魂を揺さぶってくる。
(これが、ヒーローとヒロインの、運命の絆……)
ずっと居場所がなかった私が見つけた、私だけの居場所。
この世界に私が存在できる理由。
彼と一緒なら、私は何にだってなれる。
彼と一緒なら、私は何だってできる。
私の運命の……導きの星。
「一緒に、世界を……救いましょう」
『うん。一緒に頑張ろう、めばえちゃん』
九洲を取り戻して、国内が平和を取り戻した今。
けれどもまだ、本当の意味で戦いが終わったわけじゃない。
(私と一人君で、本当の平和を手に入れる……!)
歴史の陰で繰り広げられる、上位存在たちによる真の決着。
その運命に挑み、乗り越えるために……私たちは生まれてきたのだから。
※ ※ ※
天2基地、通信室。
「ん、ん、んんー?」
天2小隊通信士、手果伸珠喜はモニターの一部を凝視し、首を傾げる。
「んー? これ、ここの霊子の乱れ……精霊たちの会話? や、それにしては長時間の……んん?」
それはほんの少しの、霊子通信内の違和感。
普通の人なら、あるいは熟達の人ですらも見落とすだろう、ほんの僅かな異変。
「……んにゃ。やっぱりこれ、誰かが回線使った痕跡だよね」
情報の天才だからこそ気づいた、異界レベルの技術を用いた干渉の痕。
今日の騒動、その最中に張られた結界の残滓が、微かに弾いた霊子の波紋。
「ふぅーん。さすがに捨て置けない、か」
ただ情報を追うだけでは、明かせない何物かがそこにはある。
「……うん、よし! 明日から頑張る!」
それを見つけたという痕跡を消してから、珠喜は持ち込んだマットレスにダイブした。
「餅は餅屋、わたしにできるのはここまでだよぉ~ん」
ここから先は別の部署、もっと頼れる誰かを頼ろうと、そう決めて。
(……今は寝ろ、わたし。これ、絶対ヤバい奴だから)
珠喜は胸の奥から湧き上がる言い様のない不安を必死に抑え込みながら、瞼を閉じた。
運命の時は、近い。
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