第167話 天2女子会クライマックス! 黒川めばえは恋してる?
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いよいよめばえちゃんの恋に追及の手が伸びる!
「――めばえさん。そろそろ心の準備はよろしくて?」
「!!」
お嬢に名前を呼ばれてビクッと身を震わせるめばめば。
陰キャっぽい性格がモロに出てる挙動不審っぷりでキョロキョロと周囲を見回して――。
じー……!
「あ、ぁ、ぁぅ……」
――もう逃げられない、って理解して。
「……ぅ、ん」
最近ちょくちょく見かけるめばめばのルーティーン。
胸に手を当て俯きながら、静かに、深く、呼吸を整え落ち着けて。
話す準備を整える。
「……わ、わかった……わ」
長くウェービーな黒髪を揺らし顔を上げ。
紫の瞳でみんなの顔をちらりと一度見回してから、頷いた。
(……うん。いいね! めばめば!)
たった、たったそれだけで。
今の彼女はこれまでよりもいい意味で見違えたなって、アタシは思えた。
だから、知りたい。
(めばめば。めばめばをそこまで変えてしまった原因は……一体、何だったのかなぁ?)
きっと、みんなもそう思ってる。
こと、ここにきて。
天2女子による女子会は、とってもとっても甘酸っぱい、女子会らしい雰囲気に変わり始めていた。
※ ※ ※
「大丈夫なようですわね。では、改めましてとお尋ね……いえ、問い質したいことがございましてよ!」
場の進行役を務めるお嬢が、その目にきらっきらの好奇心を剥き出しにしてめばめばに質問する。
「めばえさん。貴女……恋! していらっしゃいますわね!?」
ババーンッ!!
なんて効果音が背景から飛び出してそうなお嬢の言葉。
どストレートにもほどがある質問に、当然のように周囲はざわめいて。
「……!!」
それはめばめばだって例外じゃなくて、普段伏し目がちな目を、くりっくりに丸くする。
「最近のめばえさんは、以前とは比べ物にならないほど社交的でいらっしゃいましてよ。私たちがはしゃぎ回るだけの催しにもぼちぼち参加してくださいますし、以前はそこはかとなく他者を拒む気質がございましたが、その壁も今やほとんどお見受けいたしません。これはまさに、驚愕の事実ですわ!!」
「……って、待てーぃお嬢! 言い過ぎ! 言い過ぎ!!」
ズケズケ言いすぎ! アクセル踏みすぎ!!
相手のパーソナルな部分をドストレートに抉るのダメ! 絶対!!
親しき仲にも礼儀あり!
天2はその辺気にしない連中ばっかりだけど、めばめばはその辺気にする子なの!!
あ゛あ゛あ゛ー!
ほら! めばめばキョトーンってなってるじゃん!
思考がフリーズして動かな……くっ、ちょっと終夜君の気持ちわかるかわいい!
……じゃなくって!
「め、めばめばごめん! お嬢はこの辺効率重視でノンデリなところあるから!」
「……はっ!」
アタシのフォローに気を取り戻し、めばめばの目に光が戻る。
「も、申し訳ございません。めばえさん。私つい、最近の貴女の素敵さに興奮して……!」
「お嬢もこう言ってるから、その、ごめんね。許してあげてね?」
相手は一流の呪術師。
万が一にも不興を買って、裏でこっそり呪いとかかけられたら割とマズい!
友達感情とエージェントのプロ意識、どっちからしてもアウトだよって取り繕って。
「だい……じょうぶ。怒ってない、わ」
「……ホント?」
「……(こくこく)」
見つめる先。めばめばの視線が優しいのを確かめて。
「っはぁー……!」
アタシは胸を撫で下ろした。
・
・
・
「まったく、反省のしどころよ輝等羅。たとえ浮かれていたとしても……」
「この際ですお嬢様、そろそろ青春スイッチにブレーキを搭載しましょうか。まずは……」
「うぅぅ……面目次第もございませんわぁ……」
お嬢の躾はパイセンたちがやってくれるから問題なし。
っていうか、勢い任せのお嬢にこれ以上主導権握らせてたらヤバいって、周囲を見回しみんなでうんうん頷き合う。
天2女子sの中に、強い連帯感が芽生える。
(よし、あとはこの場を回すのに適した人が次の話を促せば……って、あれ?)
みんながアタシを見てる……って!?
(司会進行、アタシか?!)
自分を指さすと、みんながうんうん頷いた。
無理無理って首を横に振ったけど、みんなにこにこ「どうぞどうぞ」ってジェスチャーする。
……マジか~~~。
これはもう逃げらんない、ねぇ。
「………」
見れば、いつ話を振られるかって、めばめばはずっとソワソワしてる。
緊張して、それでもちゃんと答えようって、頑張ろうとしているのがわかる。
「……あー、こほん。めばめば、アタシからもいい?」
「っ! う、うん……大丈夫、よ……」
声をかけたらビクッとして。
それでもちゃんとアタシの方を見て、身構えて。
(うーん。普通。ここじゃ貴重な、本当の……普通って感じ)
そんな素朴な印象の、ちょっと暗くて弱々しい……頑張り屋さんに。
「……めばめば。お嬢も言ってたけどさ。もしかして最近……好きな人、できた?」
アタシは、ほんのちょっとだけ。
その応援をしてあげようって思った。
「………」
「答えられないならこう、頷くか首を振るだけでいいよ」
彼女のことを知ったから。
彼女との向き合い方を、前より少しだけ覚えたから。
「どう? 好きな人、できちゃった感じ?」
「………」
問いかけて、あとは待つ。
彼女は答えられないんじゃなくて、答えるまで時間がかかるだけだって、もう知ってるから。
「……ぁ、ぇと、その」
注目されて、緊張して。
病を疑いそうになるくらい白い肌が、ポッと赤く染まって。
それから、十数秒。
「……(こくっ)」
めばめばは、静かに、恥ずかしそうにしながら、頷いた。
すぐにたくさんの黄色い声が重なって、これまでで一番騒がしい音が、カラオケボックスに響き渡った。
※ ※ ※
黒川めばえは恋する乙女である。
アタシがそう決めた……ってワケじゃないけど、見てればまぁ、わかりやすい。
「うっひょー、めばえちゃーん。いつから、いつからにゃ!?」
「……ちょっと、前?」
まず、シンプルに見た目が良くなった。
今日着ている私服も薄い生地のモノを上手に重ね着してて、涼しさとオシャレさを両立させた上で、しっかりとした理論やイメージが見えるようになってる。
タマちゃんやオリーと、お昼時に服の話をしているところも何度か見た。
「めばえちゃんめばえちゃん。あのね、あの……好きな人の名前って聞いていい?」
「………………ひみつ」
「うひゃ~~~~~~~~!!! 気になるぅ!! もしかしてもしかしてなのかなっ!?」
「どうどう、落ち着くッスよ~」
話し方が柔らかくなった。
自分の話したいことを一方的に言い放つんじゃなく、それを聞いた相手がどう思うのか、それを踏まえたような言葉選びをするようになった気がする。
それこそ誰か、好かれたい人ができたみたいな変化だ。
「Excuse! 私も質問していい?」
「……大丈夫」
「あのね、好きな人が誰か……は答えなくてよくて、でもね、どんな人が好きなのかって、聞きたいの!」
「どんな人が、好きか……?」
「なるほど。相手の好みを把握することで、そこから誰が好きなのかを推察するのですね。流石はオリーです」
「Ouch! ヒメサマ! そうだけど! そうだけど~~!!」
「……ふふっ」
会話の輪の中に、ちゃんといる。
ちゃんと話を聞いている。
周りの言葉をちゃんと心で受け止めて、困難でも、時間がかかっても、自分の言葉を返せるように、一生懸命尽くしてる。
(いや、ホントホント。見違えるってこういうのだよねぇ……)
半年前のアタシにさ。
こちらの終夜君に謎に推されてる意味わかんない女の子、半年後には自分から会話の中心にいるよって伝えても信じないもん。
驚きの変化。
こりゃーもう、楽しむっきゃないね。
って、ことで!
「……めばめば! 直接質問されたら答えづらいよね。だからさ、今からYESかNOで答えられる質問をアタシたちがするから、それに答えてくれる?」
「ぇ? あ、うん……わかった、わ……」
「「おー」」
同じく天2の一般女子代表! 鏑木翼!
全力でめばめばの掘り下げ、やっちゃいまーす!!
(っていうか、ここまで来てヒミツはないでしょ!)
アタシは確かめねばならない。
めばえちゃんの好きな人が誰なのかを!
なぜならば!
その答え如何において、天2のこれからが大きく変わるの確定なのだから!!
わっはっは! 逃がさんぞ~、めばめば~~!
・
・
・
「……じゃあ質問の順番はお嬢、ナギちゃん、オリー、アタシ、タマちゃん、ひふみん、ほのちゃん、パイセン、姫様で。質問権は各々1回のみ、狙い打ちすぎる質問や人名出すのは禁止で。OK?」
「「「OK!」」」
「めばめばは?」
「ん、大丈夫……」
「よろしい! それじゃあさっそく、お嬢から質問~GO!」
さっくりサクサク。
なるべくフェアで、めばめばが答えやすい環境を整えてから、質問ゲーム……開始!
「質問ですわ! その方、天2基準で背は高い方でして?」
「…………い、いえす」
ほう。背は高い方。
つまりたけポン、駆ちゃん、司令、終夜君、にしのん、ケーマ君、千代麿君の中だと終夜君以上!
……やはり終夜君? 司令とタケぽんライン、ある?
「質問です。その方は戦士ですか?」
「! …………い、いえす」
うおーーー!! いい質問!
戦士って言われて該当するのはたけポン、駆ちゃん、終夜君、ケーマ君!
でもこれパイロットって聞くのは……あ、一人特定と同じか。
ナギちゃん気遣いできる従者だ。
「Excuse! その人は、優しい?」
「……イエス」
ほほう。優しい、ね。
そこでYESとなると、気遣いの鬼な千代麿君が一歩先に……でも戦士……いや、戦士技能持ってるかって解釈なら全然いけるじゃん。
ってか、お嬢がそわそわしてる。扇子開けたり閉じたりしてる。おもろ。
っとと、次アタシだ。
アタシの質問は……だいぶ攻めてるよ!
「はーい、質問! めばめばの好きな人って……黒髪?」
天2男子で黒髪なのはたけポン、終夜君、司令。
ケーマ君は黒髪を金髪に染めてるけど、まぁここはそもそも選択肢にないでしょ。
さぁ、どうだ?
「………」
およ、悩んでる?
「……の、のー?」
答えは首を傾げながらの……ノー。
え、どゆこと?
(……ハッ! まさか!?)
いわゆるひとつの“部分的にそう!”とか“部分的に違う!”って奴!?
だったら……まさかまさか、やっぱり!
(めばめばの好きな人って……終夜君!?)
黒髪に白いメッシュが入ってる、厳密には黒髪といえない髪色の彼なら……ありえるか!?
アタシの中でカチリと、そしてやっぱりかって、確信が来た!
周囲も似たような答えに至ったのか、驚いたり、頷いたり、震えてたりしてて。
あとはもう、確認作業だった。
「しつも~ん! その人は、たくさんの技能を持ってる万能さんかな~?」
「……イエス」
終夜君じゃん。
「んじゃ質問するッス。その人は、誰よりも強いッスか? それこそハベベ取っちゃうくらいに」
「イエス」
終夜君じゃん。
「あ、あのあのえっと……めばえちゃんの好きな人って……ムキムキ?」
「……ノー」
終夜君じゃん!
っていうかほのちゃん、ワンチャンたけポン説取りにいったな?
「もう、質問する意義はあるのかしら? えっと……その人は、あなたを必要としてくれている人?」
「……い、いえす」
「そう……そうよね。ありがとう……そう……」
自分で聞いといて自分で落ち込まないでよパイセン!?
どう考えても終夜君だけどさぁ!
ほとんど決め打ちみたいに重ねられる質問に、その意図を知ってか知らずか、めばめばは一生懸命に答えてくれている。
場の空気がざわめきに満ちている中、彼女は最後の質問者の方を向いて。
「めばえ様。質問をさせていただきます」
「んっ」
最後の質問者。黒木終夜強火勢……建岩の姫様が問いかける。
「その方は……めばえ様にとってどんな人ですか?」
「え?」
YESorNOを無視した質問。
フリーダム姫様が、最後に建前もへったくれもなくやらかしてくれた。
けど。
「ぇ、と……」
めばめばは、そんな突然の問いかけにも一生懸命考えて。
「……その人は、私にとっての……光。暗い闇の中にいた私を、ここまで引っ張り出してくれた……導きの星、なの……」
彼女の言葉で、答えてくれた。
「そう、ですか……ルールを無視した質問、大変失礼いたしました」
「ん、ん。いいえ、大丈夫、よ……」
静かに頭を下げた姫様に、めばめばも小さく頭を下げる。
これで、YESNO質問会は終わり。
「「………」」
誰もが黙ってしまったのは、きっと同じ理由。
最後に姫様が引き出した答えと、それを語るときのめばめばの――表情。
(柔らかくって、くすぐったそうで、温かな……微笑み)
まさしくそれは、恋する乙女の顔だったから。
※ ※ ※
「……はぁー! こりゃ、堪んないねぇ!!」
パァンッ!
「「!!?」」
ことさらに声を張って、アタシは両手で柏手を打つ。
意識して、場の空気を変える。
だって……これ以上は野暮だしね!
おしまいおしまい! おしまいでーす!
「さぁ! カラオケしよう! 歌を歌おう! めばめば! マイク持って!」
「ぇ? ぇ、あ、うん……?」
「ほらほらみんなも、これなら知ってるでしょ? 応援よろしく!」
手早く端末から入れた曲は、誰もが知ってる国民的アイドルのヒットソング。
「……って!? これ私の曲じゃない! 止めて! 止めなさい!!」
流れ始めた『マジ神☆まじかるーぷ』のイントロに、パイセンが吠える。
ここで恋バナ終わらせるんだから、このくらいは我慢して欲しい。
「3,2,1……GO!」
めばめばと二人、一緒に歌う。
オリーがタンバリンを打ち鳴らし、ひふみんとナギちゃんが手拍子してくれる。
みんなみんな、気持ちを切り替えていく。
(……っかし、やーっぱり終夜君かぁ。まぁー順当だけど、そっかー)
ノリノリで歌を歌いつつ、改めて突きつけられた現実を前にして、アタシは思う。
(これは……荒れるぞぉ!)
終夜君の推し活が、とうとう届いてしまった。
天2の火薬庫に松明が投げ込まれてしまったのだ。
戦いが落ち着いた今だから。
戦い好きな神様が、それじゃつまらないって言ったのかもしれない。
(さぁて、どうなることやら……頑張ってねぇ、終夜君っ!)
ごくごく一般的な天2隊員であるところのアタシは。
これからくる大嵐のど真ん中を駆け抜けることになるだろう、人類最強のエースオブエース君の、この先の武運長久を祈るのだった。
「…………よしっ」
まさか……事態がすぐにも動き出そうとしてただなんて、まったく考えていなかったのである。
青春の章は、もうちょっとだけ続くんじゃ。
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