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ハーベストハーベスター~踏み台型ラスボス少女と呼ばれた推しを、今世では幸せにしたい!~  作者: 夏目八尋
第24章 ハピハピギャル、オリヴィア・テイラーソン!
164/226

第164話 オリヴィア・テイラーソンの見た恩愛

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


今回はオリー視点です。


「ねぇ。パパ、ママ……」

「なんだい、可愛い可愛い私たちの(スウィーティ)?」


 あの頃。

 まだ、あまりに小さかった私は。



「……どうして私、()()()()()()って言ったらいけないの?」



 その言葉が今。

 周囲にどういう風に伝わるのかを、知らなかった。



「……オリー、それはね」

「絵本に出てくる妖精さん! 小さな羽の妖精さん! いるんだよ? ほら、あそ」

「オリー!!」

「ヒッ!? うぇぇぇ……!!」


 優しく諭そうとしてくれたママの気遣いも。

 とっさに()()()()()()パパの大声も。


「アナタ!」

「!? あぁ、あぁ、すまない。オリー」

「うぇぇぇん!!」


 泣きじゃくる私を優しく抱きしめてくれた二人の、その温もりだけを感じて。



「……えへへっ、えへへへっ」

「まったく、困ったレディだ」

「本当に。可愛い子ね」


 無邪気に喜ぶ私の……その周りで。


「「………」」


 どれだけ鋭く、冷たい視線が……二人に向けられていたのかなんて。



「ママ、パパ、だーいすき! えへへっ。アナタも好きよ」

『~♪』


 あの頃の私は。

 まだ、あまりにも小さかった私は。


   ・


   ・


   ・


「オリー。今からお前に(まじな)いをかけるよ。そのせいで、お前はこれからたくさんの辛いことと出会うだろう。でもね、よーくお聞き。お前は――」



 何も、知らなかったの。



      ※      ※      ※




「……そっかー。グランマが」

「そう。オリーの婆様がオリーの超常能力にロックかけてたから、あんだけ頑張っても習得できなかったってワケ」

「その呪いも解呪され、テイラーソン様の努力の結果が正しく反映されたのが……今の状態にございます」


 ヒメサマが言う、私の今。

 それを、左手首の結晶からモニターを開いて表示させる。


 ヴンッ!


 ----------


 Name:オリヴィア・テイラーソン


 【所持技能】


 同調3・幻視3・錬金4


 ----------



「……これって、スゴいんだよね?」

「すごいってもんじゃないぜ。同調も幻視もこれ以上ないってくらいで、な?」

「はい。何よりも、こちらの錬金技能……レベル4は、唯一無二と言ってよいかと」

「Wow...」


 あんまり現実感がないんだけど。

 終夜とヒメサマがすごく真剣な目で言っているから、ホントのホントにスゴいんだと思う。


(っていうか、レベル4だもん。スゴいに決まってるよね?)


 改めて見ても、私のことだって思えない。

 けど、心当たりは……ある。



(錬金技能――つまりは“錬金術”)


 それはかつて、偉大なる魔女たちが使ったとされる特別な魔法の力。

 たちどころに傷を癒すポーションや、空を飛ぶ臼や箒、人造生物(ホムンクルス)


 たくさんの不思議を生み出し世界を豊かに彩ったっていう、ウソみたいなホントの話。


(私、このお話が大好きだったのに忘れてた……ううん、封印されてたんだね)


 封が解かれて思い出した、懐かしい記憶。

 森の中の小さなお家で大きなお鍋をぐるぐる掻き混ぜる、とんがり帽子にローブを着た、わし鼻でシワシワな顔の――私の大好きなお祖母ちゃん。


 イザベラ・ウィリアムズ。

 私のお母さんのお母さんは……そんな、偉大なる魔女たちの一人だった。


「……私ね。小さい頃はよく、グランマのお家に遊びに行って、魔女のお仕事を見てたの。お鍋をぐるぐる回したり、近くで素材を集めたり。その時に、スニフとも出会ったんだよ」

『~♪』


 終夜たちに昔語りする私の周りで、楽しそうに舞っている小妖精(スニフ)

 ずっと忘れてたのに、アナタはずっと傍にいてくれたんだね。


 それって、お祖母ちゃんの言いつけだったのかな?


(でも……それでも。嬉しいな)


 ありがと、スニフ。

 って、そっと緑の髪を撫でたら、スニフは嬉しそうに羽を震わせていた。



「なるほどなー」

「興味深いお話ですね」


 今の私、普通の人が聞いたらびっくりするような話をしてる気がするんだけど、終夜とヒメサマはいつも通りの顔してる。

 まぁ、ハーベストハーベスターに比べたら、私の生まれなんて些細かもね?


 でもこの反応が、今はちょっとホッとする。



「まぁでも、今の話で大体わかったな」

「そうですね」

「?」


 頷き合う二人。

 二人には通じるものがあったみたいだけど、私にはわからなくて。


「どういうこと?」


 だから、教えてもらおうとして尋ねたら。

 二人は顔を見合わせてから、フッと、いつかのパパとママみたいに優しい笑顔を浮かべて。


 それ以上。

 何も答えてはくれなかった。



      ※      ※      ※



 結局。

 二人は私に答えをくれないまま。


「じゃ、俺は錬金技能用の最適道具集めてくるから!」

「でしたら贄は、百乃介に錬金技能研究室の増築を陳情してまいります」


 ヴォンッ! ヴォンッ!


 私の、錬金技能の可能性を広げるための準備をしに、文字通り“跳んで”行ってしまった。



「……なんていうか、なんていうかだね? スニフ?」

『~♪』


 肩でくつろぐスニフに声をかけながら、私も食堂をあとにする。

 時刻はまだお昼過ぎくらい、天2基地から見上げるお空で、太陽は白く輝いている。


「……女子会、今から合流できるかな?」


 今日は天2の女の子で集まって女子会する日だったけど、私は手紙が来るかもしれないからって参加を辞退しちゃったんだよね。


(確かメンバーは、ヒメサマ、タマちゃん、巡、帆乃花、ヒフミ、輝等羅、渚、ツバツバ、そして……めばえ)


 ヒメサマは、陳情したあと合流するのかな?

 私も行っていいのかな?


 ……迷惑じゃ、ないかな?



「私……どうしたらいいんだろう」


 呟きに重なるのは、二つの心。

 ()()()()を迷う心と、()()()()を悩む心の、二つ。


 ぼうっと、けれど深く……考える。



(私は、忘れてた過去を思い出した)


 思い出した記憶は……私が、たくさんの人に迷惑をかけたっていう事実だった。


(今ならわかる。あの頃の英国で“妖精がいる”なんて、口が裂けても言っちゃダメだったってこと)


 あの時の英国は“空泳ぐクジラ”の襲撃から辛くも生き延びた、そんなタイミングだった。

 あれは当時の新兵装“契約鎧コントラクテッド・アーマー”を開発した英国への、明らかな報復攻撃だった。


 “契約兵装コントラクテッド・ウェポン”を開発した印国、国連本部を移管した直後の米国に続く、狙い澄ましたかのような相手の動き。

 敵はこちらの動きを見てて、戦略をもって行動してるって、誰もが気づいて恐れていた。



(国中がピリピリしてた。西欧諸国を“偽りの妖精王”がめちゃくちゃにして回ってて、それがいつ英国にやってくるのか、誰もわからなかったから)


 私たちに馴染み深い妖精や精霊にそっくりな姿でやってきた侵略者たち。

 夢と希望をもって見ていられたのはほんの少しのあいだだけ。すぐさまそれは地獄絵図へと塗り替えられた。


 大人たちは誰もが終末の到来を肌で感じて。

 神に祈り、そして生きるために戦った。


 そんな時に。


「“(フェアリー)がいる”なんて、言っちゃダメだよね」

『っ! ……っ!!』


 とんだ風評被害だって、スニフも怒ってるみたい。


 でも、侵略者たちはあまりにもこの子たちに似てて。

 そして、多くの人たちにとってはあいつらこそが、初めて見たファンタジーだったから。


 気づけばその名は、奪われてしまっていた。

 そんな、目を向ければすぐにでもわかるような事実すら、幼い私は気づけないでいた。


 私が今、英国にいないワケを理解する。 



「パパとママは、無知な私をずっと守ってくれていたんだね」


 それは親としては当然のことかもしれない。

 でも、誰にでもできることじゃないと、私は思う。


(グランマが私の力を封印したのも、先に私だけが日ノ本に避難させられたのも、きっとどっちも、私を守るためだった)


 私が社会から刈り取られてしまわないように。

 私が私でいられるように。


 きっといっぱい悩んで、たくさん相談して、その上で決めてくれたんだと思う。


(私、自分一人が先に行かされたのはもしかして…………なんて思った時もあったけど、違ったんだね)


 だって、私はこんなにも――。



「――あ」


 そっか。

 終夜とヒメサマが笑ってたのは……そういうことか。



(私、愛されてたんだ。だから私は今、ここにこうして立ってるんだ)


 手提げバックから手紙を取り出して、改めて目を通す。


「……可愛い可愛い私たちの娘へ」


 わずかに口を動かしながら、ゆっくりと読み進めていく。


 手紙がもらえて嬉しいだとか、あちらの近況だとか。

 物資の調達と輸送を二人で頑張ってるだとか、私が天2に所属してると聞いて驚いただとか。


 いろいろなことを書いて送った私の手紙に負けないくらい、両親の手紙も長くって。


「……日ノ本の生活が楽しそうでよかったです。アナタはきっと、そこでは他の人よりハンデを背負っているけれど、それでも他のみんなと一緒に戦えているのなら、笑顔を交わしているのなら、これ以上の喜びはありません……このハンデって、超常技能のことだったんだね」


 言葉の一つひとつから感じる、温かさ。

 どこを切り抜いても伝わってくる、パパとママからの……めいいっぱいの愛情。



(パパ、ママ……会いたい。会いたいよ)


 手紙を握りしめ、胸に抱く。


 行けるなら、今すぐにでも会いに行きたい。

 これまでたくさん迷惑をかけたことを謝って、また一緒の食卓を囲みたい。


 もっともっとおしゃべりしたり、一緒に過ごして楽しいことをたくさん重ねて二人を……みんなを喜ばせたい。


 今まで気づかずにいたとっても深い愛情を……今度はちゃんと受け止めたい。


「……でも」


 それはきっと、今じゃない。

 パパとママは……ううん、グランパやグランマだって、きっと今。向こうで戦っている。


 私は手紙の締めの言葉に目を向ける。



『アナタは愛の子、奇跡の子。アナタの未来は、アナタの自由』



 これは、メッセージだ。

 私は愛されているって、私は奇跡を起こせるって。パパもママも信じてるって。


 そして私の未来が私の自由なら――。


(――未来を選ぶのは……ほかでもない、私自身!!)


 それは、いつかのお祖母ちゃんも言ってた言葉。


『よーくお聞き。お前は自由だ。たとえどんなに縛られようとも、厳しく困難な場所に立たされようとも、お前の心の中だけは、ほかならぬお前だけが好きにできるんだ。未来は、そんなお前の心から生まれる。お前自身が心のままに、欲しい未来を掴み取るんだよ』



 私はきっと、今も変わらず未熟で無知だ。

 この世界に上位存在がいて、ヒーローとラスボスがいて、おとぎ話みたいに決着するって話を聞いても、どこか遠いところのお話みたいに感じてた。


 でも、今は違う。


「終夜が、ヒメサマが、私をスゴいって言ってくれた。ヒーローたちがそう言ったなら、私もココで……スゴいことしなきゃ! ううん……スゴいこと、私もしたいっ!!」


 今、私に何ができるかはわからない。でも、私の中には本当の奇跡があった。

 他の誰も持ってない、スゴい才能があった。


 だったら――!



「――私……魔女になるよ!!」



 大好きなお祖母ちゃんと同じ、とっっっっても偉大な魔女に!

 私が持ってる力をフルパワーで使って、みんなのためにスゴいこと……たっくさん、する!


 ピロンッ!


「? あっ!」


 ちょうどいいタイミングで鳴った、着信を告げる端末の通知音。

 メッセージの送り主はタマちゃんと輝等羅、そしてツバツバ。


『やほやほ、こっちが結構盛り上がってるんだけど、今からでも来れないかにゃ?』

『ハイ、オリー。用事はもう済みまして? 貴女さえ良ければ、今からでも女子会に合流なさいません?』

『助けてオリー! アタシじゃこのメンバーまとめきれない!! もう無理!!』


「……あははっ!」


 ここに私が辿り着いたのはたまたまだったかもしれないけれど。

 ここで積み上げた新しい絆は、私に、ここにいていいよって言ってくれてる。


(私はそんなみんなのことが……パパたちと同じくらい、大大大大大好き!)


 ヴォンッ!


「テイラーソン様」

「Hiyaaa!? Wow...ヒメサマ!?」


 びっっっくりしたぁ!

 突然背後から現れるの、心臓に悪いよ!?


「……驚かせてしまったようで。申し訳ありません」

「Ah~……んーん、大丈夫だよ。それで、どうしたの?」

「ちょうど陳情を終えたところで帆乃花からメッセージを受け取りまして、女子会に戻ってくるよう言われました」

「そうなんだ。え、それじゃどうして私のところに?」

「はい。ですので折角ならばテイラーソン様も、ご一緒に参りませんかとお誘いに」

「一緒に……って、そんなことできるの?」

「これまではできませんでしたが、こちら、新たに開発しまして」


 ヒメサマが見せるのは見たことのない霊子端末用の拡張プログラム。


「“サイコセル”と“ハーモニーセル”を複合した超常能力拡張プログラム“ユナイトセル”です。これにより、精霊殻サイズでの“ゲートドライブ”の実現や、機動歩兵サイズの“ゲートドライブ”による複数人での移動が可能となりました」

「えぇーーーーー!?」


 またスゴいことしてる……!!


「ですので問題ございません。ともに参りませんか?」

「そ、そっかぁ……」


 わ、私。

 このレベルに追いつけるかなぁ……!?


 い、いやいや!

 追いつくんだよ! 追いついて、追い越すくらいの勢いで行かなきゃ!


 Don’t worry.Be happy!!



「……むんっ!」

「テイラーソン様?」

「ヒメサマ、その端末貸してくれる?」

「? 構いませんが……」

「私が“ゲートドライブ”するよ! そうしたら、()()()()()()よね?」

「! ……なるほど、サプライズですね」

「うん!」


 すぐに理解してくれたヒメサマから端末を借りて、装着する。

 今なら何をどうやったら“ゲートドライブ”を起動できるか、問題なくわかる。


 意識を集中して、ちゃんとみんなの前に出られるように……。


「……ヒメサマ。私、魔女になるって決めたよ」

「はい」

「私、これからもっともっとみんなのこと、喜ばせるって決めたよ」

「はい」

「だからね、ヒメサマ――」


 淀みなく力を伝えて、ゲートが開く。



「――これからは、私のことオリーって呼んでね!」

「……はい。わかりました、オリー」

「うん!」


 とりあえず、一歩前進。 


「さぁ、行こう! ヒメサマ!」

「参りましょう、オリー」


 二人一緒に、ゲートをくぐる。



「……え?」

「まぁ! どういうことですのっ!?」

「オリーちゃんと命ちゃんが一緒にって、そんなのできるの!?」

「え゛っ!? ちょっと待って、端末起動してるの……ウッソ、オリーそっち側なの!?!?」


 サプライズは成功!

 驚くみんなの顔を見ながら、私は。


「Hi! 未来の偉大なる魔女、オリヴィア・テイラーソンです!」


 満面の笑みで名乗りを上げる。

 みんなの顔がもう一回、大きな驚きに染まった。



(パパ、ママ、グランパ、グランマ……私も、こっちで頑張るよ! そして手紙や、いつかまた会えた時に、いっぱいいっぱいスゴいことしたって報告するね!!)


 私を守り育んでくれたその愛に、絶対応えてみせるから!


『恩愛』

1.他人を恵み、かわいがること。情け。

2.親子・夫婦などの間の愛情。


次回からは、意外なあの子の視点で新章です!


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
偽りの妖精王が暴れている中で妖精が見えるっていうのは確かにまずいですね。能力を封じて日本に避難させるのもやむなしですね。
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