第163話 魔女の呪いをぶっ飛ばせ!
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ワールドワイド・ファンタジー。
「お呼びでしょうか、終夜様?」
「おう、急にごめんな姫様。女子会の途中で」
昼過ぎの天2基地、その食堂兼調理場で。
「いいえ。はい。贄にとっての最優先事項は常に、終夜様に使っていただくこと、でございますので、喜びこそすれ謝られることなど何もございません」
うにょーんっとした縦長楕円のゲートを越えて。
いつもと違い私服な装いの俺とオリーの前に、いつもと同じ紅白巫装束の姫様が現れる。
霊木製の床に着地すると、ふわっと、エアインテークの長い赤髪が揺れた。
「Wow! ヒメサマもワープできるんだね!」
「はい。“ゲートドライブ”は、建岩秘伝の技術が使用されておりますので」
「いいな、いいなっ!」
超常能力“ゲートドライブ”で現れた姫様を、目を輝かせながら羨むオリー。
端末用アイテム“サイコセル”を装備することで使えるこの技術も、同調技能が使えない彼女では、装備したところで実行できない。
今では隊員たちが当たり前のようにあれこれと使う超常能力だが、そのほとんどをオリーは見ているだけなのが現状で。
「それで、ご要望はいかに?」
「あぁ、実はな……オリーについてなんだが」
だがそれも。
今日、解決できるかもしれない。
「ちょっと耳借りるぞ」
「終夜様にでしたら喜んで差し上げます」
妙に嬉しそうな姫様はスルーして、サッと耳打ちでこれまでの事情を伝える。
別にオリーに聞かれても困りゃしないが、またあの自動応対モードになられてもだしな。
「? 仲良しだね?」
ヒソヒソ話をする俺たちを見て、オリーは不思議そうに首を傾げていた。
「……テイラーソン様、少々失礼いたします」
「うん。なぁふみっ!?」
話を聞き終えた姫様が、突然オリーの両頬を左右の手で挟み込み、グッとその瞳を覗き込む。
「ほわっ!? わっ!?」
「ふむ、ふむ、なるほど、なるほど……」
見つめ合う日英美少女’s。
姫様の青い視線は、オリーの碧眼の奥にある何かを見通すように真っ直ぐ深く貫いて。
「……ふむ」
ホンの少しの思案。
それを経て、建岩の至宝、天才技能レベル3の真の天才様が出した答えは――。
「――間違いありません。テイラーソン様には特殊な“呪い”による制限がかけられております」
「よしっ! やっぱりか!」
「???」
俺の考えを補強する、心強いモノだった。
※ ※ ※
「テイラーソン様にかけられている呪いはおそらく“魔女の祝福”ではないかと思われます。西方の魔女たちが行なう特殊な儀式によって付与され、通常の呪いよりも強力な効果を発揮させられるのだそうです」
「ブレス……祝福? 呪いなのにか?」
「呪いと祝いは紙一重。時に幸せを願う思いが呪いとなることも、呪詛が相手の生きる希望となることもあるのです」
「へぇ……」
姫様の解説に感嘆しつつ、オリーを見る。
(魔女の祝福……ねぇ)
彼女の同調・幻視技能の取得を阻み続けた呪いが祝福だったとは、俄かには信じがたい。
「さっきから二人で何の話をしてるの?」
それらを手に入れようと、彼女が一生懸命頑張っていた日々を見てきた側としては、これは疑いようがなく厄介な呪いだ。
「オリーは“魔女の祝福”って知ってるか?」
「―――」
「おっ」
話に加わってきたオリーの質問に答えたら、また例の自動応対モードのスイッチが入る。
つまりはそれが、呪いの主の定めたブロックワードってことだ。
「――ん? 何か言った?」
「……いや、なんでも。それよりオリー。悪いが姫様の分のお茶、用意してくれないか?」
「All light! まかせて!」
普段と変わらぬ軽快な足取りで給湯器へ向かうオリーを見送ってから、俺は姫様と目を合わせた。
「姫様、アレは……」
「解除自体はできると思います。贄と、そして終夜様のお力添えがあれば」
「……そうか。なら話は早いな」
「はい」
建岩命は、“神秘の建岩”が誇る最強の術師だ。
彼女には天才技能や結界術など、本作のメインヒロインを務めるにあたって潤沢に与えられた非凡な能力があり、解呪の力もそのひとつである。
ゲーム版だと日常的に呪詛返しをする会話ログがあったり、小説版だと実際に呪いを受けた仲間の解呪をしたり…………と、そこそこ描写もされている。
その腕前については疑うべくもなく、そして、今の彼女はそのいずれの世界よりも能力値が高い。
となれば。
「本来ならば儀式の舞台を必要としますが、それは終夜様で代用しますので問題ございません」
「なるほど! よくわからないが、わかった!」
彼女に対して俺ができる協力を渋る理由は……ない!
・
・
・
「お茶持ってきたよー……って? どうしたの、二人とも。なんだか顔が怖い、よ?」
戻ってきたオリーに、二人で向き合う。
椅子に座った俺の両肩に、俺の背後に立った姫様が手を置き、二人でオリーを見つめる。
そして――。
「――オリー」
「なぁに?」
「オリーは、妖精とか妖怪とか、見たいか?」
「! 見たい……見たいよ!」
「オリーは、俺たちが使ってる超常能力、使いたいか?」
「使いたい!!」
「だったら、今から俺たちが……それ、出来るようにしてやる」
「ホント?!」
問いかけて。
返ってきたのは喜色と、期待だったから。
けれどもそこに、ほんの少しだけ……悲しみと諦めが混じっているのが見えたから。
「……任せろ! 姫様!」
「はい……!」
俺たちは一切の迷いなく。
オリーにかけられた“魔女の祝福”に向かって立ち向かう。
「解呪、開始します……!」
姫様が気迫を込めて宣言した、その瞬間。
「……おおっ!?」
俺の体から青い燐光が立ち上がり、物凄い勢いで気力が抜け始めた。
今の俺は電池……いや、姫様が言うところの儀式の舞台役をやっているってワケだな!
ドンと来い超常現象!
俺の気力は4122(OW)です!
「掛けまくも畏き建岩龍命……九洲見渡す火の山築きし大阿蘇の……禊ぎ祓へ給ひし時に……」
「―――」
姫様が呪文を唱え始めると、即座にオリーに変化が現れる。
瞳の光彩が失われ、ボーっとその場に立ち尽くし、普段の明るさが解け消えて。
「諸々の禍事、罪、穢、有らむをば……祓へ給ひ清め給へと、白すことを聞こし召せと……」
「――ッッ!」
次の瞬間には体を上下に小刻みに揺すり、ガクガクと震えだして。
「ぁ、a、ぁAh……!!」
「姫様!?」
「ご安心ください、終夜様。あの反応は呪いの抵抗ですが、あくまで一時的なもの。すぐに解呪し止めてみせます……!」
「わかった!」
「~~~~~~ッ!!」
今の季節にぴったりな、意識がないまま縦揺れする美少女なんていうホラーな絵面を前にして。
「っしゃあ! 俺も気合を入れるぞ!」
「え? あ、そんな一気に力を入れたら……!!」
そんなもん見てられっかと俺は、俺の魂を燃やして姫様に手を貸す。
「これは……?!」
「行けっ! 姫様!」
「! ……はいっ!!」
注ぐ火力は十分。
噴き上がる青い燐光が、オリーの周りを飛び回り。
「重ねて、祓へ給ひ清め給へと……恐み、恐み白す!!」
姫様の詠唱が完了すると同時。
その輝きを何倍にも増して、オリーを包み込み――!
『そこまでじゃ』
「「!?」」
弾かれ……!?
『っどぇ? えっ、なんじゃこれ、なんか無理矢理解除させられそうなんじゃが!? 神級の解呪? ちょちょちょ、どんだけじゃ!? どんだけ強い浄化の力を注いどるんじゃこれぇーーーぃ!?!?』
……って、ない!
「このまま強制的に解呪できそうです」
「お、じゃあやるか!」
『まーて! 待て待て待て!! ちょっと待つんじゃ! 待っとくれ!!』
っていうか、さっきから聞こえてる、このしゃがれた女の人の声は?
「……あ」
そこで俺は見た。
『ストップ! ストップ! もう解呪の力は十分見た! 見せてもらった! じゃからお願いじゃ! この婆に話をさせておくれーーーー!!』
声の主は、オリーの肩に乗っていた。
小妖精が口を開け、けれど、その子自身が声を出してたわけじゃなく……。
『ワシはオリーの祖母! イザベラ・ウィリアムズ! この呪いをかけた当人で、今、英国から契約精霊の口を借りて連絡しておる……魔女なんじゃぁぁ~~~!!』
オリーの家族……お祖母ちゃんが。
どうやら英国からここまで、長距離通信で喋っているようだった。
※ ※ ※
『ひぇ~、日ノ本の術師はどうなっとるんじゃ~?』
俺たちが解呪の儀式を止めると、オリーのお祖母ちゃん……イザベラさんからビビり散らかした声が出た。
最初に止めに入った声は威厳たっぷりだったのに、今や見事なカリスマブレイクである。
『これでもワシ、英国で1,2を争う大魔女なんじゃけど……』
「まぁまぁ、こっちも日ノ本で間違いなく現役最強術師な建岩の姫様だったし。どんまい」
「恐縮です」
『建岩の? なるほどのぅ……』
口パクやってる小妖精をスピーカーにして行なう会話の横で、オリーは眠るように目を閉じている。
何かしらの負荷がかかっている様子は見れないし、ひとまずは安心だろう。
『……愛孫のそばにそんなトンデモナイ子らがおったとは、運命とは数奇なモノじゃ』
「イザベラさん。あなたがオリーの能力に制限をかけてたってのは本当なのか?」
『おん? ほほう、呪いの内実がそこまで分かった上で解除しようとしておったのか』
「はい。テイラーソン様が、精霊を見たいと望んでいらっしゃったので」
『……そうか。お主らはそれを叶えてくれようと……であれば、心配はなさそうじゃな』
「「???」」
話してるとなんか勝手に納得されてしまって、俺と姫様は揃って首をかしげる。
当のイザベラさんは「そうか、そうか」と感慨深げに繰り返すばかり。
多分首を縦に振ってる。
「イザベラさん。話進めないとオリーが戻ってこれないぜ?」
『おおっ! そうじゃったそうじゃった。この子には悪いことをしてしまっておるからの……』
「悪いことってのは、制限かけたことか?」
『うむ。ざっくと言うてしまうが、その子には、魔女として類まれなる才能があるのじゃ。それが原因で、英国には置いておけんくてのう』
「え?」
ん? 才能?
『建岩の姫がおるということは、そこは天2小隊じゃな? であれば、その力の使い道もわかるし、悪いようにもせんじゃろう』
「あ、おいっ!」
『呪いは解く。あとのことはお主らに託そう……ワシはもう、オリーに伝えるべき言葉は伝えておるでな』
俺たちが何かを尋ねるより先に、イザベラさんは勝手に話を進めていく。
『じゃからな、お二人さん。これはただの、孫を可愛がる祖母からのお願いじゃ』
それを口にする小妖精が、優しく微笑んだ。
『オリーと、たっくさん仲良くしてやっとくれ』
それを最後に通信は途絶え、直後、オリーの瞳に光が灯った。
「……え? ん?」
何が起こったのかわかってないのだろう。
しばらくのあいだキョロキョロと辺りを見回して、オリーは目をシパシパさせて。
そして――。
「――あっ!!」
肩に乗っている小妖精と、目を合わせた。
『~♪』
さっきとは違う悪戯っぽい笑みを、小妖精が浮かべれば。
「スニフ!? スニフなの!? ~~~~~っ! Yeah~~~~~~!!」
オリーは感極まった声を上げ、知り合いらしい小妖精――スニフを大事に抱きしめた。
いつか彼女にかけられた魔女の祝福は、確かにこの瞬間、解呪されていた。
「……英国の大魔女の存在は、聞き及んでいました」
「なんか、とんでもない勢いの婆さんだったな」
感動の再会の舞台袖で、俺と姫様は語らう。
この場に天常さんか清白さんでもいたらきっと、もらい泣きとかしてそうだなーなんて、思ったりしながら。
「そんな魔女が制限せざるを得ないほどの能力とは……」
「そうだな。一体どんなちから……が――」
――あ?
「終夜様?」
「……え、マジで?」
魔女の才能、って……そういう!?
「……うははっ」
「いったい何をご覧に……!! こ、これは!」
「うはは! はは! はははは!!」
笑いが、笑いが止まらない!
「スニフーーーー!!」
『~~♪』
小妖精と仲良く小躍りしている、ハピハピハッピーギャル。
整備士としていつもみんなをサポートしている、元気で明るい縁の下の力持ちは……。
ヴンッ!
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Name:オリヴィア・テイラーソン
【所持技能】
同調3・幻視3・錬金4
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……天才・錬金術師様だった。
次回、オリー視点!
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