第162話 オリヴィア・テイラーソン
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序盤からいたのに掘り下げのなかったオリーの謎が、今!
オリヴィア・テイラーソン。
日ノ本に疎開してきた英国人の、ハピハピハッピーギャルだ。
(パパたちから……つまりは英国からの手紙か)
彼女の父は英国の豪商。
一度オリーを連れて日ノ本に来たが、残りの家族を迎えに英国に帰国。
その直後、折り悪く英国戦線が激化。
公式設定資料曰く“女王の覚悟”なる結界が作動し通信断絶。
オリーとそれ以外の家族は、完全に離れ離れになってしまった。
「神子島で“偽りの妖精王”を倒してから、緊急の潜水艦が出たでしょ? あの時に無理言って、お手紙を届けてもらってたの」
「あぁ、アレか」
契約輸送潜水艦“マーズ”。
英国と日ノ本が協力して作った大型の輸送潜水艦で、直接的な物資のやり取りを両国で行なうために造られた3隻の潜水艦のうちの1隻だ。
二国を直通できる航続力が利点で数年前までは両国を行き来していたのだが、英国戦線の本格化、女王の覚悟による通信断絶、不知火の壁崩壊と八津代平野の大敗北と、次々起こる戦いの激化によって航行プランを立てられなくなっていた。
それが九洲奪還とオーベロン討伐、および霊子通信技術のアップデートにより英国との再通信に成功。
先月には大量の物資を載せて出発し、確か一昨日だったか、戻ってきたと報告があった。
「本当は港で待ってたかったけど、現場を混乱させるだけだから、ね……」
「そうか……」
港で待っていたとしても、届けられた品は検閲される。
そこでしっかりとチェックされてから、輸送隊によって各所へ届けられるのだ。
(現場の忙しさは容易に想像できる。そこにオリーが私的な理由で割り込んだら、まぁ……あんまりいい結果にはならないだろうな)
オリーは周りがよく見えてるタイプだ。
だからこそ私情に流されず、こうやって大人しく待っていられるのだろう。
(それでも……神子島でオーベロンが出たときは、かなり取り乱したって聞いてるがな)
天2じゃ誰もが認める仲間思いのオリーだ。
祖国や家族に対する思いだってかなりのモノだったろう。
あの時の彼女の気持ちは、俺には推し量れない。
(結果として……あの日の清白さんと姫様が成し遂げたオーベロン討伐が、オリーを救った)
神子島戦線でより激しい戦いを望んだ白衣の男が仕込んだ手が、巡り巡って別の戦線を救ったってのは皮肉になるのかもしれないが、個人的にはざまぁみろだ。
「あっ、オリヴィア・テイラーソンさんですね!」
「! い、YES! 私だよ!!」
「よかった。これ、お届け物です!」
だって。
「……! ~~~~~~~~~~~~っ!!!」
こんなハッピーな景色が、見れたんだから。
※ ※ ※
天2基地、食堂兼調理場。
「ひぐっ、えぐっ……!」
「はい。ハンカチ」
「Thanks……」
受け取ったハンカチでチーンッと鼻をかむオリー。
俺は隣でそれを見ながら、置かれてたからし蓮根ポテトを一つ摘まんで口に放った。
(ぶっちゃけ、いい物は見れたから帰るかって思ってたんだが……)
クールに去ろうとしたそのタイミングで、オリーに袖をくいっとされた。
最近それをよくやられてたから思わず止まってしまって、あとは流れでこうなった。
「う、う、休みなのにごめんねぇ……」
「いいよいいよ」
てっきり一人で噛み締めるものかと思っていたら、誰かに居て欲しくなったらしい。
もしかして、普段から他人に絡みに行くのは寂しかったからなのかもしれない。
オリー、寂しがり屋説が俺の中に浮かんだ。
(寂しがりといえば、オリーの肩にいつも引っついてるこの子も……だな)
家族からの手紙を読み返しては泣くオリーを、ずーっと慰めている小妖精の精霊。
原作HVVで契約できる小妖精とちょっとだけ羽根のカラーリングが違うこの子は、初めて見た時からずっと、オリーにべったりだった。
(最初の頃は、見かけてもすぐに隠れて全然姿を見せてくれなかったんだよな)
オリーの体で延々とかくれんぼしてる感じ。
途中からはもう諦めたのか姿を見せてくれるようになったが、それはそれとして関わり合いにはなってくれないし契約もしてくれない。
……まぁ、それはいいんだ。大したことじゃない。
この件に関して、俺が今日までガッツリ触れなかったのにはワケがある。
(それは……この小妖精についてオリーに聞いた時の、彼女の変な反応)
マジのマジで変としか言いようがないやり取りを、俺は経験している。
それはまだ、俺がこの世界をゲーム感覚で過ごしていた頃の話。
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気になったから、オリーに直接聞いてみたことがある。
“肩に可愛い小妖精が乗ってるけど、なんか知らないか?”
って。
そうしたら――。
『――ん? 何か言った?』
聞こえなかった、ワケじゃないと思う。
だが、小妖精について聞くたびにオリーは少しだけ無言になって、同じ言葉を口にした。
パソコンがちょっとラグッた時みたいな、絶妙で嫌な間。
まるでそう答えるようプログラミングされてるみたいな、正確さと強制力。
(あー、これ。軽率に触れちゃいけない奴~!!)
得体の知れない違和感と嫌悪感に、俺は数回実験を繰り返してから聞くことを止めた。
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(あの頃は、ゲーム世界的なバグか何かだと思ってたが……今は違う)
この世界は現実で、オリーは確かに今、生きている。
どんな時に泣いて、笑って、怒って、安らぐのか、ある程度は知っている。
(ゲーム的なバグでないなら、彼女がそうなることには、必ず何かしらの原因がある)
英国という、精霊・妖精といった存在における聖地ともいえる国の出身者。
彼女の傍をついて離れない、通常とは少し違うビジュアルの小妖精。
(そして、今日まで彼女と付き合って、それなりに交流している上で、俺がずっと気になっていた、彼女だけの特徴……)
オリヴィア・テイラーソン。
彼女は――。
「? どうしたの終夜? 私の肩をじっと見つめて。もしかして、ここに何かいる?」
――同調・幻視技能を、どれだけ訓練しても習得できなかったのである。
※ ※ ※
(オリーは他者に対する共感力もあり、感応力も最初からBあった。同調技能1くらいは持ってても全然おかしくないのに……ゼロ)
超常系の技能を行使する、その基本となる技能である同調技能。
この世ならざるものを視認し、真の世界に触れる技能である幻視技能。
それを彼女は一切習得できなかった。
コツをどれだけ教えても、それを彼女がどれだけ実践しても、習得しない。
オリー本人はそういったファンタジーが好きで、訓練にも積極的だったが、結果は散々で。
『うーん。小さい頃は見えてたような気がするんだけど、昔のことだからね。気のせいだったのかも……』
そう言って佐々君たちから慰められていた彼女の姿は、少し寂しそうだった。
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(……これまでの話から、俺はオリーについて、一つの仮説を立てている)
言及すると会話がロックされる、ずっとオリーに寄り添う小妖精。
どれだけ頑張っても習得できない、同調技能と幻視技能。
反面、本人には確かに存在する習得意欲と、共感性。
これらを統合すると見えてくるモノ。
「?」
オリー。
何かしらの能力、封印されてね?
「なぁ、オリー」
「Umm...? なぁに、終夜?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ……」
俺の中にある原作知識を総動員しながら、問いかける。
「……オリーの親戚に、すっげぇオカルトに詳しい人、いたんじゃね? 魔法とか、そういうのに詳しい人」
「―――」
あ。
「――ん? 何か言った?」
ビンゴだ、これ。
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