第161話 黒木終夜、休日の流儀
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日常回という名のネタ回。
天2小隊の一斉休暇日。
すでに窓から差し込む光が昼前だって主張する頃。
「あー……」
俺は一人。
寮の自室のベッドでダラダラしていた。
(今頃めばえちゃんたちは、仲良く楽しく女子会やってんだろうなぁ……)
一手の遅れ。
その一手がここまで明暗を分けてしまうなんて、油断しすぎだった。
(ちょっと仲良くなれたってだけで浮かれて、速度を落としてしまってた!)
恋は戦争。
チャンスと見たらそこに全力叩き込むくらいの勢いが必要だったってのに!
おお、終夜よ。
日和ってしまうとは情けない……!
「……んでも、めばえちゃんが女子会か」
原作ゲーム版でも、正史小説版でも、めばえちゃんは孤立気味の人生を歩む。
そんな彼女が今、複数人と……それも、同性のお友達たちに囲まれている姿を想像したら、それだけでも気分は上向いてきて。
(……デートの誘いはまた今度ってことで、いっか)
惜しくは思うが絶望はない。
まだまだこれから。
原作や史実と違い世界は平和寄りで、俺たちには余裕がある。
むしろこれまで生き急ぎ気味だった俺たちに、ようやく与えられた平穏な日々だ。
天2のみんなも含めて、めばえちゃんがしたいと思うことをなんだってやっていって欲しい。
たとえ俺が、そこに関わることができないのだとしても。
「今、めばえちゃんが幸せならOKですっ!」
そう言いながら意識して、サムズアップを掲げる。
今世における俺の一番の望みは、俺自身の幸せよりも……推しの幸せ。
そのために今日まで頑張ってきて、ここまで来たんだもんな。
「んー! よしっ! 起きるか!!」
だらだらタイム終了!
すでに早朝自主練は終わってるし、ガチめに休日ってのを楽しむとすっかな!
「とりま着替えて、適当にブラつこう。昼メシは……なんか買い食いする感じで!」
そうと決まれば即行動!
俺は適当な上下を合わせてから、夏の上天久佐の日差しの元へと飛び出す。
胸に残る、解析しきれないもやっとしたモノに蓋をして。
※ ※ ※
「……ってことで、早速やって参りましたSUNぱーる上天久佐!」
とりま上天久佐をブラつくなら、ここ。
天久佐パールライン沿いにある道の駅のひとつで、いつもいい感じに人が集まってる場所だ。
「近くにゃ海岸に温泉、神イベデートスポットの教会だってある! テンション上がるなぁ~」
天2基地から目と鼻の先にあるのも相まって、よく利用させてもらっている。
戦局が安定したのもあって、最近は行動力の化身レベルな観光客もちらほら目につくようになった。
「え、あれって……!」
「わっ、本物……!?」
「ママ、見て。緑の風さん!」
ってなワケで、即バレである……が。
「うふふ、ダメよまーくん。今、緑の風さんはお休み中なの」
「お口にチャック……!」
「あー。声、かけちゃダメなんだっけ?」
「そうそう。あくまで見るだけ。声かけNG」
そこはさすがの戦時中リテラシー。
俺たちが普段、命を賭けてるって理解と実感がある人たちは配慮してくれる。
配慮してくれるんだが……。
「「じー……」」
熱視線。
それはもうすごい、熱視線が突き刺さる。
「……Oh」
一挙手一投足をつぶさに観察されているこの感覚、とてもむず痒い。
(なんともかんとも……これはちょっと、違うよなぁ?)
承認欲求の塊な天常さんなら高笑いでもしてそうなこのシチュエーション。
だが……こと俺の休日の過ごし方として、この状況はいかがなものか。
(休日ってのはもっとこう、自由で……なんというか救われてなきゃあダメなんだ)
確かに俺は有名人。その自覚はある。
そういった振る舞いを求められたら応える覚悟だってそれなりに持ち合わせている。
(でも、だ)
こうやって大勢から隈本市動植物園のキンシコウさんみたいにガン見されるってのは、俺の豊かな休日ライフには不要な気がする。
なんというか、こう……本っ当~~~~に、ムズムズする。
(目当ての存在を前にして思いっきり目線ビーム向けちゃう気持ちにはめちゃくちゃ共感できる! できるんだ、がっ! 今はプライベート! なう、休日!)
挨拶するか?
否。
微笑むか?
否。
ウィンクするか?
否。
べろべろばー?
否!
あれこれもっと上手くやれる立ち回りをイメージできても、今の俺にはそれをするモチベみたいなものが足りない。
(俺は天常さんや乃木坂君みたいな、愛嬌振りまくタイプじゃあないんだ)
あくまで俺が愛を捧げる相手は、いつだってめばえちゃんが第一であるべきで。
そう、我が心はいつでもエターナルティルナノーグめばえちゃんの元にある!
(……ここまで足を運んだキミたちの推し活魂、実に実に誉れ高い。が、俺がその想いに応えてやることはできないんだ、すまない!)
とりあえずの軽食として天久佐名産地鶏の串焼きを2本買ってから、俺はそそくさとSUNぱーる上天久佐を後にする。
直後、俺が買い物をした地鶏串焼き屋さんからガチめの悲鳴が上がったが、これはもう尊き犠牲と割り切ろう。
コラテラルコラテラル。
商売繁盛、せめて売り上げがいい感じに出ることを祈ってます!!
※ ※ ※
「うーむ……参ったなこれは」
しばらく近所をブラブラしたが。
人目を避けてを繰り返し、気づけば基地へと戻ってきてしまったぞ。
「さてもさても、こうなるともう基地周辺は、あんまり出歩けないかもなぁ」
こっから先、日ノ本に平穏が戻ってきたなら、俺たちはより世間の目を浴びるだろう。
それすなわち、良くも悪くもプライベートが侵されるってことだ。
有名税とはいえ素面であの視線に晒されまくるってのは、個人的にはちょっとご勘弁願いたい。
この辺の感覚はめばえちゃんも同じかそれ以上だろうし、最悪めばえちゃんに関する情報処理を建岩家……あるいは新姫様たちに依頼する必要があるかもしれないな。
改めて、天常さんたち外向きの大きな顔を持ってる人たちの苦労が偲ばれる。
俺は勢い道化にはなれても、広告塔になるのはまぁ~~無理だな!
(いつもありがとう! 天常さん! まじかるーぷ! 準霊師!)
近いうち、みんなの好物贈ります!!
「……んでも、このまま基地をブラブラするってのもなぁ」
せっかくの休日。
動き出してしまったからには何かしら休みらしい成果が欲しいところ。
具体的にはハッピーになりたいね!
ハッピー! ラッキー! 八〇亜紀!!
幸福をもたらす玉兎の精霊……は、なぜか俺と契約結んでくれないけど!
「って、あれ? オリーか?」
雑にハッピーになりたいとか言ってたせいだろうか。
俺は視線の先、寮の玄関口に英国出身のハピハピハッピーギャルの姿を見つけた。
「………」
玄関口に立つオリーは、そわそわハラハラといった様子で何かを待っている。
っていうか、女子会参加してなかったのか。
その手のイベント絶対逃さないタイプだと思ってたんだが。
「おーい、オリー!」
試しに声をかけてみる。
すると。
「!?!? あっ、なんだ終夜かぁ……」
「なんだとはなんだ」
「えへへー、Sorry~」
すごい勢いでこっちを見て、でもそれが俺だとわかるや否や、明らかに落胆した様子で肩を落とす。
彼女の肩に乗ってる小妖精の精霊が、慰めるように薄金色の髪を撫でていた。
……なるほど。
「何か、待ってるのか?」
「YE~S」
確信をもって問いかければ、彼女は力なく頷いて。
「早ければ今日、届くはずなの……パパたちからの、手紙が」
彼女が女子会に行かなかった納得の理由を……教えてくれた。
地味にイケメン、乃木坂駆。魅力1000(SS)越えの男。
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