第160話 天2小隊の今
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だらーっとした雰囲気。
「あ、終夜。おかえりなさい」
「ただいまっと、今いるのってパイセンだけ?」
「えぇ、私だけよ。輝等羅と渚がさっきまでいたけれど、会談があるとかでもう出かけたわ」
負荷有全力ダッシュで『天久佐の壁』まで行ってから“ゲートドライブ”で天2の食堂兼調理場まで戻ってきた俺を出迎えてくれたのは、丁度お茶のお代わりを準備してた九条巡パイセンだった。
「ってか、パイセンが隊服姿なの久しぶりだな?」
「いやいや、これでも毎日ちゃんと着てるのよ? 羽衣姿がもはやトレードマークみたいに言われてるけど……」
戦争の道具として造られた短命種……なんて厄ネタである“九條シリーズ”を救うべく神と契約した彼女は、普段は“精霊合神まじかるーぷ”として主に広告塔となる活動をしている。
その甲斐あって最新の妹さんが本土の研究機関に入ってからしばらく、この頃はその成果も出始めたようで、休眠状態で保存されてた耐用年数が近い九條シリーズが続々再起動され、彼女たちも備品ではなく人としての生活をし始めていると報告があった。
この裏には俺と協力関係にある“白の一族”新姫様とクスノキ女史の助力もあったとか。
彼女たちの寿命問題の解決は、もはや秒読み段階と言っていいだろう。
原作より早い解決は、その分彼女たちの生存数に直結する。実に僥倖である。エラい。
「現人神フォームももう慣れたものだろ? 霊子ネットの配信も順調そうだし。クマモノくんコラボ、面白かったぜ」
「どういたしまして。最近は田鶴原様が次はこれ着ろ、あれしろって夢枕に立つから迷惑してるわ。そのくせ目覚め爽やかなのが歯がゆいし」
「相変わらずのパッシブ自動回復。とんでもないな」
俺の分までお茶を用意してくれたパイセンからありがたくカップを頂戴しつつ、席について雑談する。
パイセンは、天常さんからの差し入れらしいお煎餅セット(隣のからし蓮根ポテトにはノータッチ)を大皿にざっくばらんに乗せてから、俺の対面に腰かけた。
「あなたはいつもの長距離走? 今日はどこまで行ってきたの?」
「天久佐の壁!」
「……そう」
元気に答えた俺に対して「ツッコまないわよ?」と眼力を向けたパイセンが、お煎餅をパリッと一口食べてお茶を啜った。
「ふぅー……。本当、気づけば私たち、遠いところまできたわね……」
どこか遠くへ目線を投げて、しみじみと呟くパイセン。
「私も、あなたも、必要に迫られていたとはいえ、もうほぼ完全に……人間を辞めてるわ」
「ホントなぁ。人間、鍛えたらここまで行けるもんなんだってなぁ」
「……それはあなただけからね? 自覚しなさいね?」
真顔でツッコまれた。
けれどその顔は、すぐにくしゃりとかわいい笑顔になる。
「……ふふっ」
今のパイセンには、随分と余裕ができたようだ。
出会ってすぐのすべてを諦めてた顔は、もうどこにもない。
※ ※ ※
「そう、人間を辞めたといえば」
再びお茶を啜ったパイセンが、はたと思い出した様子でその名を口にする。
「六牧司令も、ある意味で人間を辞めてしまったわね」
「あー、な」
我らが中間管理職六牧百乃介司令は今、天2の基地にいない。
英霊に列する準霊師という地位を得て、見事神子島地区奪還を成功へと導いた彼は、今や誰もが認める時の人である。
「今頃は本土のどの辺りかしらねぇ」
「各地での講演会、地獄のスケジュールだって聞いたな」
「……他人事じゃないのよねぇ」
無茶ばっかやる俺たち天2のケツ持ち担当。
その結果が“あの天2を導いた日ノ本史上最強最大の司令官”である。
近々“霊師”への昇格もあるのではと噂されるほどに、彼の戦果への評価は高かった。
歴史上4人目となる生きた霊師の誕生の可能性は、今も界隈を騒がせている。
成立したらハベベよりレアな人、爆誕だぜ!
「昼行燈大好きマンの司令からしてみりゃ「冗談ではない!」案件だよな」
「そうねぇ。可哀想だけど……私では彼を手伝えないから」
「おややん? 今日は終夜ちゃんとパイセンが揃ってた」
「タマちゃん」
ちょうど、六牧司令の疲労を軽減できそうな奴がやって来た。
着崩した制服で一部を揺らしながら、テキパキとした動きでコーヒーを淹れていく。
「二人で何の話してたの?」
「六牧司令が可哀想って話をしてた」
「あー。モモちゃん忙しそうだもんねー」
パイセンの隣に腰かけて、淹れたコーヒーを一口。
ぷはーっ! なんて、くたびれたサラリーマンみたいな声を出してから、机に頬杖を突く。
「珠喜、隊の中じゃあなたが一番フォローできそうなんだから、手伝ってあげたら?」
「えー? そんなのやる暇あったら霊子ネットに“防衛大臣に反省を促す六牧司令のダンス”MAD作って投稿するよん」
「また無駄に笑えそうな奴を……!」
「ニシシッ!」
天2が誇るスーパーハッカーこと手果伸珠喜。
彼女がすると言った面白そうなことはマジでやるので、これ以上は突っつかない。
代わりに俺は、このところ任せてたあの件について確認する。
「タマちゃん」
「ヒーロー君なら、まだ見つかってないよ」
「そうか……」
ピシャリと先回りして言い切られ、しょんぼりする。
(真白君。アレからどこにも姿を見せてないんだよな……)
桜花島で決闘して、取り逃がして。
そのあとは今日に至るまで、どこを探しても真白一人君らしき人物は見つかっていない。
「おそらくはRRが匿ってどっかに潜伏してるんだとは思うが、必ず見つけ出さないと」
「そだねぇ。わたしの情報網を掻い潜ってるっての、ちょ~~~っとだけ、癪だからさぁ」
タマちゃんもやる気だし、ここはこのまま任せていればいいだろう。
「ヒーローと言ったら、最近の帆乃花は前にも増して頑張っている……というか」
「「あー……」」
パイセンから言及された人物のこのところを思い出し、俺とタマちゃんが同時に声を上げる。
「帆乃花ちゃんは……弾けた、よね」
「だな」
元より、ちょっと中二なスタンスが滲んでいた清白さん。
それが神子島での戦いを超えてから、もう一段……いや、もう二段階ほど進んでしまった。
『私は帆乃花! 清白帆乃花っ! みんなのために戦う、ヒーローだよっ!』
天2の制服を改造しジャケットタイプへ変え、手には指貫グローブを装着。
前からしてた緑のスカーフは腕に巻き、眼帯は目に張り付けるシール型に変更されて。
スカート丈を短めにして、中にはスパッツを完全装備!
「いやまぁ、似合ってるんだよ。マジで」
「あのめちゃくちゃ可愛いビジュアルで、ヒーローっぽい衣装で、キャッチーだよね」
「実際、幼い子供たちからの人気は絶大よ」
なんていうか、完全体になったって感じ。
タロットな美少女格闘ゲームとかに出てそうな。
「隣に姫様が並ぶから余計になぁ……」
「変身前の特撮ヒーローと巫女さんの組み合わせとか、完全にそういう番組じゃん」
「今度コラボの打診でもしようかしら」
この頃ますますバディ感を増している姫様とのタッグで、マジモノのヒーローになりそうな勢いである。
事実この二人ともハベベ所持者で、うっすらと青の混じった白の短髪と深紅のように濃い赤の長髪でバランスもいいし。
「案外ヒーロー君の代わりを帆乃花ちゃんがやってくれちゃうんじゃないのー?」
「HAHAHA。カモシレナイナ?」
「ひぇっ、目が笑ってないにゃ」
マジモノのヒーローと言っても、いわゆるそれは物語のヒーロー的存在のことだ。
真白君のようにヒーロー因子を持ったヒーローになれるかは、そういった心意気とはまた違う要因である。
(っても、俺の知識の及ぶ範囲でヒーローだって言及されてるのは、真白君だけだったワケで)
あくまで俺は、真白君を、ヒーローを求めることを諦めない。
けれども同時に、清白さんみたいなヒーローを目指す存在を、無駄だとは断じない。
「どんな形であれ、あの子みたいに純粋に自分を高めていく子は、応援したくなるわね」
「だな」
パイセンの言葉に深く頷く。
彼女のような目に見える光は、これからの日ノ本に絶対に必要だと思うから。
※ ※ ※
(大きな戦いが終わって、日ノ本が落ち着いて、みんなの活動が新しい段階に入ったのを感じる)
佐々君や天常さん、姫様のような御三家はもちろん。
三羽烏のそれぞれや六牧司令、他の隊員たちに、教官のお歴々。
誰しもが、みんな。
(未だ、世界にはハーベストの脅威が残っている。亜神級だって“空泳ぐクジラ”が残ってる。けれど……)
確かに今。
ここに平和があるのだと信じて、動いている。
「………」
少しぬるくなったお茶を啜って、思うのは。
(めばえちゃん……)
マイフェイバリットエターナルラバー黒川めばえちゃんのこと。
(最近の彼女は、正直マジでびっくりするくらい……安定している)
これまでのどこか自信なさげな所作は鳴りを潜めて、弱々しくも、確かな自信と共に行動を起こすようになった。
一番の変化といえば、最近の彼女は、なんと天常さん主催の天2名物トンチキ青春イベントなどにもそこそこ……それも“自分から”参加するようになったのである。
『えっ、ゴールはあそこの山のてっぺんじゃなくて……その、向こう、なの?』
『エビを使った料理……私、そんなのしたことなくて……市販のエビチリ、なのだけど……』
『あわわわわわわっ!! こ、これが精霊殻の、豪風の動き……!?』
『ふふっ、買い食いなんて……悪いこと、してるかも』
この2ヵ月に起きたことを思い出し、俺の心のフォルダーがキラキラと輝きを放つ。
俺の青春は、今まさに灼熱の時を迎えていた!
(さすがに二人きりでどうのこうのってのはなかったが、集団行動の中でチームを組んだり、一緒に何かをしたりする機会がめちゃくちゃ増えた。っていうかこれまでにもう3回、3回も! めばえちゃんから俺を誘ってくれるタイミングすらあった!!!)
絶好調。
絶好調であるっっ!!
(今の俺なら“空泳ぐクジラ”だろうが白衣の男だろうがRRだろうがワンパンよ、ワンパン)
負ける気がしないというのはこういう状態をいうのだ。
絶対無敵・元気爆発・熱血最強!!
(完・全・勝・利!!)
今の俺はいつ出撃しても気力限界突破確実である。
(ぶっちゃけ。今の俺、だいぶんめばえちゃんに好かれているんじゃあないか?)
そんな浮かれた考えすら、今の俺は想定する!
それくらいにすべてが順風満帆、ハッピーエンド既定路線でバクシンガーなのである!
(これはもう、今度の休日に“遊びに誘う”を実行してもいいのでは?)
デートに行こうって言っても……いいのでは!?!?
ガタッ!
「どうしたの、終夜?」
「パイセン。俺、行くよ……」
「あ、これろくでもない奴にゃ」
聞かれたからには、素直に答える。
「……今度の一斉休暇日。俺、めばえちゃんをデートに誘う!」
「あ、ごめんなさい。その日は先に私たちが遊ぶ予定入れちゃった」
「うわあああああああーーーーーーーーー!!!!」
どうしてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!???
「ごめーん終夜ちゃん。女子会なんだけど……来る?」
「行けるかよぉーーーーーーー!!! 楽しんできてねぇーーーーーーーーーー!!!」
俺は泣いた。
寮の自室に戻って泣いた。
ユメに『絶望した?』って聞かれたから「大丈夫」って答えた。
天2は今日も平和だった。
予定を立てる必要がある約束はお早めに!
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