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第157話 交差する運命たち

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


本日は情報量過多でお送りいたします。


『可愛い可愛い私のめばえ。どうか、今すぐ私の指定した場所へ向かって欲しい』


 戦いの最中に突然届いた、おじさまからのメッセージ。

 同時に送られてきた指定ポイントに向かって、私はすぐさま駆け出した。


 なぜそこに?

 どうして今?


 いろいろな疑問は浮かぶけど。


(胸騒ぎがする……)


 おじさまからメッセージを受け取った、その瞬間から。


(予感がする……今、走らなきゃいけない……って)


 私は私の心を急き立てる情動のままに、走り続けた。



「はぁっ……はぁっ……!」


 今日の空は曇っていて、けれど少しずつ雲が薄くなっているのか青みを増していく。

 そんな天気とは裏腹に、私の心は少しずつ深く暗い闇に、いつか見た夢みたいに深い黒に染まっていく。


 あの時はあんなに嫌だったその闇が、今はこんなにも懐かしく、なぜだか……愛おしい。



「はぁっ……はぁっ……あっ!!」


 必死に駆けて、駆けて、辿り着いた森の中で。


「黒い……精霊殻?」


 いつか見た、久遠にも思えた闇。

 それをそのまま取り出したかのような塊を、そこに見た。



 プシューッ。


「!? 誰か、出てくる……っ」 


 至る所がショートしてボロボロで、仰向けに倒れた真っ黒な精霊殻。

 そのコックピットが開くと、そこから這い出るようにして、傷だらけの男の子が顔を出す。


 白く短い髪に、幼げだけど整った顔。

 黒く暗い闇の中に、小さく輝く……白い星。



『パイロットの名は真白一人。彼こそがこの世界を救う本物のヒーローだ』

「ぁ……!」



 それを目にした瞬間。

 私の心臓は、強く強く締めつけられた。



      ※      ※      ※



 桜花島。


「ざっっけんなぁーーーーーーーーーーーッッ!!!」


 黒木終夜が叫ぶ、その裏で。


「……くふっ、くふふふふぅぅっ!」


 その男は、自らのトレードマークである白衣をはためかせながら、せせら笑っていた。



「くふぅぁっ。あぁ、あぁ、堪らない! 堪らないっ!! 最高だ! 黒木終夜!」


 怒りに完全に支配された彼の咆哮を。

 それを引き出すことができた自らの手腕を。


 この世界(はこにわ)を今この瞬間も思うがまま掻き乱しているという実感を。


「ははっ! ははははっ!! ハァーハッハッハ! フゥゥーーーン!!」


 今こそ人生の絶頂期であるかのように受け止めて。

 自らその身を掻き抱き、恍惚のため息を吐く。



「あぁ、なんて日だ……!」


 蕩けるままに零した言葉。


「ではそれを手土産に……死ね」

「!?」


 そこに返ってきたのは、どこまでも冷めた純然たる殺意。



 チンッ!


 抜き打ち様に振るわれる超高速の斬撃が、白衣の男を切り裂く。


 両断される白衣の男。

 けれどその姿は即座にブレて、ノイズとともに消滅し。


「……おやおや」


 刃を振るった当人……RRの背後から、さも何事もなかったかのように変わらぬ調子で声をかける。


 その手に、赤いつば広の帽子とサングラスを持って。



「いやはや。よもやよもや、RRなるイレギュラーの正体が……あちらからの干渉者が、まさかまさかの貴女様でいらっしゃるとは……♪」


 白衣の男の前で、RRはその素顔を晒す。


「……えぇ、えぇ、えぇえぇ!! 誰かが来るとは思っていたのですよ! ですがこれは予想外! そして望外の人選っ! 一科学者をここまで高く評価していただき恐悦至極っ!!」


 帽子を失い、短くも艶やかな赤色の髪が、日の光を浴び煌めいた。

 サングラスを失い、鋭くも美しい澄んだ青色の瞳が、倒すべき敵をにらみつける。



「……仕留めそこないましたか、ルピタ・オ・レオル・ユビ」

「お初にお目にかかる……で、よろしいので? 建岩命様?」


 

 交差する視線。

 向け合うのは殺意と、好奇。



「今のわずかな超常行使でよくもまぁ見つけたものです。さすがは()()()()、白の一族の技術をこうも容易く扱ってしまわれるとは」

「………」

「ですが……少々()()()()()()()()なのでは?」

「……これ以上の狼藉は許しません。疾く散りなさい……不埒者め!」


 瞬間。

 二つの体は超常の光をまとい、共に世界の位相をズラす。


 時と空間を操る白の一族の御業は、世界と彼らを一時的に切り離した。



「はぁぁぁ……!」


 切れば必殺“写し・蛍丸”の斬撃が、雨あられと白衣の男に放たれる。

 その一太刀一太刀はすべからく、高い術理に基づいた研鑽の上に打ち出されたモノであれば、およそ常人……それ以上の者であっても回避困難な連撃であることは明らかで。


 けれど。


「ハーッハッハッハ!」


 そのことごとくが空を切り、白衣の男を捉えること叶わない。

 まるで切りつけたその場所こそが虚ろであると言うように、切った先からすり抜け、打撃として成立していない。


「まさか、自分自身に空間術式を? 一度でも制御失敗したら自滅する技を易々と……!」

「探求のためにはまず自分を賭ける(オールイン)、でなくば何も始まらない……!」


 天才の理解を超える、狂人の理論。


 なれど。



「なら、空間ごと押さえつけて……!」  

「んっ?!」


 それに即座に対応できるのもまた、天才が天才たる所以で。

 “精霊纏い”で彼女が取り出したのは一枚の鏡。古めかしいデザインのそれが宙を舞い、鏡面に白衣の男を捉えれば。


「ほう~! 虚ろを映す真実の鏡! これはまた洒落た玩具をお持ちで」

「消えなさい!」


 今度こそ。

 RR――建岩命の放った赤い斬撃が、白衣の男を捉える。


 そのはずだった。



「……ゴホッ」


 血を吐いたのは、建岩命の方で。

 その原因は、彼女の腰回りをガブリと噛み抜き、牙を突き立てていた。



「……うみ、わたる……おお、かみ?」

「グゥゥ……!」


 彼女に噛みついていたのは、全身に赤い拘束具を取りつけられた亜神級――“海渡るオオカミ”フェンリル。

 望まぬ動きをさせられているのか、突き立てた歯はしかし、引き抜こうとする方へ力が込められていて。


「なんという……こと、を……!」


 命の顔が、痛みではなく悲しみで歪む。


「グ、グルル……!」


 怒りに燃える餓狼の瞳は、自らを放った白衣の男をにらみつけて。

 けれどその口から洩れる氷の吐息は、否応なく喰らいついた相手を氷結させていく。



「実にちょうどいい。お役立ちですよ、フェンリル」


 向けられる殺意を、敵意を、それこそが心地良いものだとでもいうように。

 白衣の男は微笑みとともに、役目を果たした道具を褒めて、赤い結晶を構える。


「もどれ、フェンリル! でしたっけねぇ?」

「グゥゥァッ!!!」


 男の言葉に呼応して拘束具が輝けば、氷狼は抵抗むなしく囚われの獣へと舞い戻る。


「やれることはなんだってやる。私の推しから教わった、とても共感できる教えです」

「く、ぅ……」


 数多の尊厳を砕く無法の言葉に、返す口すら命は動かせない。

 凍えて白い息を吐く彼女は、それでも手にした刀を強く握り闘志を燃やす。


(是が非でも、ここで、この男を仕留めなければ……!)


 世界を守るため。

 未来を守るため。


 彼女はここにいるのだから。



「これ、なーんだ♪」

「!?」


 だが。

 そんな彼女であっても、白衣の男が新たに取り出した物を見た瞬間、目を見開き驚愕する。


 そこにあるのは赤い結晶。

 本来ならば、この世界に二つとないはずの品。


 何億という“血”を流すことで生み出せる、禁忌の封印結晶。



「フェンリルに使っているのは持ち込みですが、こちらは、改めてここで手に入れた物になります」

「……どこまで、どこまでこの世界を愚弄すれば貴方はっ!」

「おっと、それは貴女も同じでしょう? ()()()()()()()()()()()()()()のは、貴女自身とその刀が何よりの証拠でしょうに。雑な時間稼ぎ、やめてもらえます?」

「くっ」


 あがく。

 しかし氷狼から与えられた氷結は、ほぼほぼ生身に近いその身で弾くには時間が掛かる。


「たとえ、腕がもげようと……! たとえ、足が千切れようと……!」


 それでも、あがく。


「貴方のような存在を……許す道理は……な」



 ガチンッ。


「……ハハッ」


 まるでいたずらに成功した子供のように、白衣の男は笑う。

 覚悟の人の啖呵を打ち切り、ただ無情に結晶の中へと捕えれば。


「ハハハッ! ハァーッハッハッハ!」


 嗤う。

 ただ嗤う。


 自らの体に沸き上がった恐怖を、安堵を、愉悦を、すべて込めて……嗤う。



「ハァー、ハァー、ハァー……いやはや。さすがは天才、虹の姫君。一手間違えばこの楽しみが終わってしまうところでした。ですが、事に向かってしっかりと準備をするというのも、私の推しの教えなのでね?」


 結晶の中で暴れる命に、生殺与奪を握った男は意地悪く口角を吊り上げる。


「ご安心を。貴女の役割は今回の二人の戦いで十分に果たされましたが、そのお命まで奪うことはいたしません」


 ズレた位相が元に戻り、周囲の時が動き出す。


「もしもそこから脱出し、まだ足搔くというのでしたらぜひとも足掻いていただきたい」


 結晶を握りしめ、白衣の男はゆっくりとした動作で……野球の投球フォームへと移行する。


「貴女という存在の沙汰は……世界に選んでいただきますので」


 振りかぶり、勢いつけて放り投げる。



「ではさようなら。古きヒロイン、建岩命様」



 放たれた結晶はその勢いのまま、波荒れる神子島の外海へと呑み込まれていく。



(……あぁ、申し訳ありません)


 結晶の中で必死に抵抗しながら、建岩命は沈痛な面持ちを浮かべて。


(これでは、貴方との約束を果たせるか……どうか…………)


 深く、深く。


(諦めはしません。諦めはしません、が……世界の、未来は…………)


 彼女は暗い、海の底へと沈んでいった。




      ※      ※      ※



「ごめん。ありがとう」

「あ、その、気に……しないで……」


 あれからすぐ、黒い精霊殻から落ちてきた彼の元へと駆け寄って、治療する。

 仕事の途中で抜け出したから、ちょうどこの手に救急箱を持っていて幸運だった。


 応急手当を終えるころには、男の子は意識をハッキリと取り戻していて。


「……RRと連絡がつかない。これから僕はどうしたら」

「あ、その……」

「わっ!? あ、えと、なに?」

「あぅ、そ、その……」

「「………」」


 目を逸らし、二人して黙り込む。

 私の方は人見知りだけど、彼はきっと、そうじゃない。


(この人は、軍に所属しているワケじゃないから……)


 彼――真白一人君の事情は、事前に聞いて知っていたから。



「……貴方、真白一人君、です、よね?」

「えっ?」


 驚く彼に、慌てた私は捲し立てるように言葉を紡ぐ。


「えっと、その、貴方がヒーローだって、その、私聞いて、その、聞いてて。だから見つけた時にすぐ助けなきゃって、でもそれだけじゃなくて、私、その……!!」


 頭がぐるぐるする。

 もっとちゃんと、言うべき言葉があるはずなのに、出てこない。


「あっ、あっ、違うの。そうじゃなくて……えっと、その……私その……っ!」


 そんな自分が嫌になる。

 大嫌いな自分を思い出して、また何もできなくなっていく。


 そんな時。


『誰にだって、隠し事くらい、ある……!!』

『それを無駄に刺激する必要は、ない……!!』


 彼の言葉を、思い出した。



「……ん、んんっ」


 無理矢理に咳をして、気持ちを一度落ち着ける。

 胸に手を当て息を吸い、ちゃんと話をするために、彼の顔を真っ直ぐに見る。


「え、っと……」

(警戒と、困惑……)


 今なら、わかる。

 ちゃんと見たら、私にも少しはわかる。


『だから俺たちはいつだって、言葉を選び、相手を思いやるんだ……そうだろう?』


 するべきことが、ちゃんとわかる。



「……私の名前は、黒川めばえ。上天久佐第2独立機動小隊所属、保健衛生管理官、です」


 たどたどしくてもいい。

 ちゃんと聞こえるように、一音一音、意識して声に出す。


「貴方が、世界を救うヒーロー、真白一人君、ですか?」


 話せることの中から、話したいことを選ぶ。

 ちゃんと確かめる。段階を踏む。


「「………」」


 少しの沈黙。

 返す言葉を考える彼の目がキョロキョロしてて、ちょっとかわいい。



「……えっと」


 恐る恐る、そんな風に漏れた真白一人君の声が。


「はい。僕が真白一人、です。ヒーローかどうかは、さっき負けちゃって、ちょっと自信ない……です、けど」


 そうだと認めてくれた……その瞬間。


(~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!)


 私の心臓が、また。

 強く、強く締めつけられた。


 脳が揺れる。

 運命の瞬間を目の当たりにして、私はどこまでも舞い上がって――。



「――あのっ」

「う、うんっ!」

「わた、私……!」


 私はその言葉を、口に出す。



「私、貴方を助けるために存在する……ヒロイン、なんです!」



 三度、驚いた顔をする真白……一人君。

 彼は負けたって言ったけど、それは間違いだと、私は思う。


 だって。

 彼にはまだ、(ヒロイン)という要素が欠けていたのだから。



(ようやく、ようやく出会えた……私の導きの星(ポラリス)!)



 世界を救うヒーローとヒロインが揃った。

 私の中の運命の歯車が、大きく、大きく、動き出すのを感じていた。

次回、本章エピローグ!


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

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あーあ。斬る前に死ねなんて声をかけるから失敗するんですよ。
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