表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/226

第156話 ラスボスVSヒーロー

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


黒木終夜VS真白一人


 遠くで、爆発音がしている。

 花火なんか比べ物にならない数の、そして爆竹よりも激しく重い音が、けれどふんわりとお腹の奥を震わせている。


 揺れている。

 視界が揺れている。


 ぼんやりと見える景色は、いつかダチと一緒に騒ぎながらやった大好きなゲーセンの――。



『――動けないの?』

「?」


 声が、聞こえた。


『動けないの?』


 シンプルな問いかけは、幼い少女からのモノ。

 純黒のワンピースドレスを褐色の肌にまとう、金の目をした少女。


 流れる銀河のように綺麗な青紫の長髪に、夜空に浮かぶお月様みたいな丸い目をした女の子の――。



『――動けないなら、動いていい?』

「?」


 くいっ、くいっ。


 問いかけと一緒に引っ張られる、俺の服の袖。

 確か俺、今は契約鎧を着ていたような…………あれ?


『助けたいの』

「助け、たい……?」


 ぼんやりした視界の中で、どういうわけだかこの少女だけはクッキリと見えて。


『だから、借りるね?』


 知らないはずなのに知っている。

 そんな少女の言葉に、俺は――。



「――ダ~メッ!」

『………』



 咄嗟に一言そう言って、手のひらに力を込めた。


 指先に、確かな精霊殻の操作盤の感触が蘇る。

 それと同時に、何がどうなっているのかを、俺はなんとなく理解する。


 俺が今、どういう状態なのか。


『……むぅ』


 そしてこの少女の正体が、なんなのか。


(……マジかぁ)


 わかって、しまったのだ。



『………』


 今もぼーっとふわついた意識の中にいる俺を、じーっと覗き込んでる女の子――ユメ。


(……それは。絶望の寄り添い人、月夜とともにある乙女)


 その本質はただ、絶望に嘆く者を優しく包まんとする、慈しみの心を持った優しき闇の精霊だった。


(紫ロン毛に金の瞳。なるほど。うんうん、面影あるわぁ……)


 俺にとってはいつかのピンチをチャンスに変えてくれた、袖引き謎存在。


(あの時俺に引っついてきたのは、俺が死にかけで絶望しかけてたからってワケね)


 その正体は――。


(神にも近き力を持ち、けれど心が未熟だったがゆえ……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、悲しき闇の精霊“ナイトメア”)


 ――絶望しためばえちゃんと一体化して、ラスボス“夜を呼ぶ者”となるモノ。



(……いや、こんな子を素体にしてたとか。人の心とかないのか、製作スタッフぅ!!)



 この子もまた、運命の名のもとに踏み台にされる存在と呼べるモノ。

 めばえちゃんと同じ、運命に弄ばれる被害者と言える存在だった。



      ※      ※      ※



 ……いや、いやね?

 これについてもなんとな~~~~く、わかっちゃいたんだよ?


(死にかけたところで出会った謎の精霊。気分が落ち込んだところで沸いて出る黒いオーラ。この時点でかなり怪しかったんだわ)


 でもでも、まだあの段階じゃ相手の形がわからなかったのよ!!

 謎の袖くい精霊がラスボスの構成パーツだなんてわかるワケなくない!?


 俺もしかしたら妖怪すねこすりの精霊かもとか思ってたよ!



(んでも、一緒に戦ったり過ごしたりした成長の果てに今回お披露目されたお姿で、ほぼほぼ確定だよなぁ。俺はてっきりラスボスのビジュの美少女感はめばえちゃん要素だと思ってたんだが……そうかぁー)


 ……マジか。

 マジのマジでラスボスの素材……もとい、ナイトメアちゃんか。


 つまりアレか。

 俺がガチに絶望したら、同化してそのまま即ラスボスルート確定するってのか。


「………」


 あっっっっっぶねぇぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~!!!!

 今さっきので体貸してたら、多分そのまま同化してラスボス起動してたよな!?


 ガチのラスボスVSヒーロー始まってたよ! 

 最終決戦だよ! あれ、いいのか?



(このまま戦って俺が負けたら、それで世界はハッピーエンドでは?)


 いろいろな要素すっ飛ばして、赤と白の戦いが終わるのでは?

 あれ? このままユメに身を委ねて暴れてもらった方がいいのでは……?


 そうしたら……。



(……俺が、そこから先の推し活できないじゃん!)



 ダメよダメダメ。

 あくまで俺の命を懸けるのは最終手段。


 ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張った先で使う奥の手オブ奥の手よ。

 ってか万が一俺が勝って世界滅ぼしてめばえちゃんも手に掛けるとか、億が一でもその可能性は認められません!


 じゃあどうするの?

 そりゃ……いつも通りだろ。


「……ユメ」


 世界がこしらえた流れになんて、従ってやらない。

 俺は自らの意志で、運命を変えてやる……!



「……手を、貸してくれ」

『………』


 断られて拗ねた様子の彼女に、俺は呼びかける。


「守ろうとしてくれてありがとうな。助けようとしてくれてありがとうな。でも、これまで通りでいい」


 だって、俺は絶望なんかしちゃいない。

 これからだって、絶望する予定はない。


 だから、いつも通りでいい。 



「……一緒に、俺たちの明日を掴みに行こう!」

『!』


 俺は変わらず人類の希望で。

 彼女は変わらず俺と契約した闇の精霊で。


 それでいいんだ。



「準備はいいか? 俺はできてる」


 覚醒していく意識の中、俺はいつもの調子で声をかけ。


『……うんっ』


 幼い少女は、初めて見せるはにかんだ笑みで頷いた。



      ※      ※      ※



「………」


 状況確認。

 俺、ちょっと気を失ってた。

 呼朝、多分仰向けに倒れてる。

 ヨシノ、ダメージを肩代わりして重傷。


 ユメ、俺と精霊羽織りしてる。


「……ユメ!」

『なぁに?』

「重層同期メイン精霊チェンジ! 操作補佐してくれ」

『うんっ』


 返事と同時に操作開始!


(ダメージ確認、損傷から逆算! 相殺した分とブレをフワッと勘定! ステータスはSSとSSSを想定して……なるほど、なるほど。戦闘系技能はオール3、当たり方的に命中補正は+15%……美術2幻視1か幻視3、そこに真白君自前の幸運2。そんで明星の出した最大出力から割り出した機体補正値と武装補正をぶっ込めば……おうおうおうおう、最終判定の結果に対してほぼほぼ1.5倍の謎補正! 入ってるねぇ“ヒーロー補正”!? 覚醒済みだぜ真白君!!)


 ヨシノが残してくれた各部の損傷データをチラ見で確認、脳みそフル回転させつつ立ち上がる!

 相手は覚醒済みヒーロー(確信)! 文句なしの最強チートだ!!


 あ、ダメダメ。なんかここに来て笑顔が止まらん。

 全身ザワザワとした痺れにも似た感覚が駆け巡って……テンションがぶち上がる!


 今の俺、最っ高にハイって奴じゃん!!



「対象チェック! 発見! 突撃ぃぃ!!」

「!?」


 怪我の功名。

 こっちも痛い目を見たが、押し込んだことで相手もそれなりにダメージを負っている。

 脚部パーツに特にダメージを負ってる相手の鈍った動きに、ユメと同期し直して、軋みながらも元気いっぱい超過駆動の呼朝で再び飛びかかる!



「まぁ~~しぃろっくぅ~~~~~~~~ん!!」

「っ!!」


 オリジナル笑顔で叩き込むのは精霊拳!

 黒い燐光をまとっているのは、ユメと同期しているからだ。


「あぁぁぁぁ!!」

「そりゃま、打てるよなぁ!?」


 青い燐光を放ち、真白君もこちらへ精霊拳を放つ。


 カッ! ボッ!


 衝突、炸裂。

 衝撃と同時に互いのオーラがぶつかり合い、競り合いだす。


 激しい閃光に目を奪われそうになるが――。



「――こちとらもう、見慣れてるんだわ!!」


 姫様と、清白さんと!

 何度も何度もぶつかり合って、この反応には慣れている!


 迷うことなく、こぶしを押し込む!


「ど、っせぇぇ~~~~い!!」


 振り抜いたこぶしが新たな衝撃を生み出し、明星を打ち据える。

 地面が砕け、石が飛び、衝撃の波に爆ぜていく。


 目の前で、黒い巨人がくの字に曲がって吹っ飛んだ。



 ビー! ビー! ビー!


「お?」

『呼朝がぜんぶ痛いって言ってる』

「あー、悪い悪い。無理させてるな?」

『……大丈夫、だって』

「そっか。……ありがとう」


 多分、猶予時間はない。

 動けてあと2ターン分……通常20ステップのコマンド処理が限度ってところだ。


(ま、呼朝なら同じ時間で50ステップは行けるがな!)


 コード入力を再開する。

 並べるコマンドたちは、勝利への道筋だ!



「……くっ」


 各部チェックをしているあいだに、真白君の明星も立ち上がる。

 さすがは神様っぽいのが手を貸す超過駆動、こっちからのダメージはしっかりと吸われている。


「この超過駆動、僕たちの……奥の手だったんだけどな」

「悪いな。奥の手の数じゃそうそう負けないんだ」


 互いの機体が再び動き出す。

 左肩を大きく損傷している俺の呼朝と、脚部を故障させている真白君の明星。


 一見遠目に精霊空拳ブッパしたら勝てそうな状況だが。


(相手の防御をぶち抜くには、こっちの大技くらいしかねぇよな?)


 言ってしまえば相手のそれは、精霊殻版“神懸かり”。

 力を足してる相手が神様じゃ、出力も耐久力も段違いだ。


 だから……!



「呼朝! ユメ! 限界突破駆動(システム・オーバード)!」



 こっちの出せる最大火力で、超常防御もろともぶっ飛ばす!!



「回避……は、無理そうだ。迎え撃つ!」

「その意気やよし! 決着つけようぜ、真白君!」


 膝立ちになって構えを取る、真白君の明星。

 対して俺は、ローラーを展開し、無事な右腕を前へと突き出す。


 限界突破駆動中のみ使える、呼朝の必殺技!



「行くぜ、コマンドS・O・N・B!!」


 Spirit Of Night Break.


 夜を砕き朝を呼ぶ一撃!

 ユメにとってはあんまり縁起が良くない……ってか使わせてごめんな! OK? ありがとう!


「ぶっ放すぞ!」

『んっ!』


 不思議と、ユメと組んでるときはいつもそばに彼女を感じる。

 妖怪袖くい精霊ここにあり。



「僕は負けない! はぁぁぁぁぁっ!!」


 Spirit Of Fist.


 対抗して打ち出される、神に準ずる力が載せられた真白君の“精霊拳”!

 見た目にもわかる膨大な青い燐光を吹き散らしながら、突撃する俺たちを迎え撃つ!


「ユメ!」

『んっ!』


 世界を救う希望のこぶしに、ラスボス候補な俺たちは挑む!!



「くぅろぉきぃくぅーーーーーーーーーーん!!」

「まぁしぃろぉくぅーーーーーーーーーーん!!」


 紫を伴った黒と、白を伴った青が衝突する。


 周囲の地形が変わる。

 岩ほどのサイズがある石が、吹き飛んでいく。


 どこかで激しい爆発に爆発が重なる音がする。


 その音が、俺たちの背中を押した。



「でぇありゃぁぁーーーーーーーーーーーー!!!」

「!?」


 押し切る。

 目の前の塊を掬い上げ、弾き飛ばす!!


 宙に浮いたのは……真白君の明星だった。



「……俺の、俺たちの、勝ちだ!」

「……僕の、負けか」


 その時、確かに勝敗は決した。



      ※      ※      ※



 膝からガクリと地に伏せる呼朝のカメラが映す先で、吹き飛んだ明星が山肌に背中から衝突する。

 衝撃を請け負った青い輝きが吹き消えて、彼の精霊殻から受けきれなかったダメージを示す白煙がところどころから立ち上る。


 お互いの精霊殻は、もう限界いっぱいにボロボロだった。



『もう、無理』

「助かった。ありがとうな、ユメ。それにヨシノ、呼朝も」


 ヘバッたユメが離れて、呼朝の重層同期が切れる。

 だから俺はコックピットのハッチを開けて、直接彼の元へと向かおうとして――。


「「え?」」


 ――通信を繋いでいた真白君と同時に、声を漏らした。



「なっ……!?」


 驚愕に染まった真白君の声は、その途中で途切れ。


「お、い……! てめぇ!!!」


 俺の目の前では。



「ざっっけんなぁーーーーーーーーーーーッッ!!!」


 明星が。

 突如開いた空間の裂け目へと滑り落ち、いずこかへと転送されていた。


「お前かぁ!? アールツゥーーーーーーーーッッ!!!」


 怒りのままに声を張る。


 だが。

 そんな俺の咆哮に、返ってくる声は一つもありはしなかった。

次回、幾重にも運命は交差する……!


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
回収されてしまった真白くん「これは敗北ではない、仕切り直しだ」なんてRRは言いそうだなとちょっと思いました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ